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就職時の身元保証人とは?必要な理由と責任、民法改正の変更点を解説

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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就職の際、会社から「身元保証書」の提出を求められることがあります。

身元保証人には親などの親族を立てる方が多いですが、そもそもなぜ身元保証人が必要なのか、どのような契約か、どの程度の責任を負うかなどを理解していないことが少なくありません。

就職時の身元保証は、単に身元を確認するだけでなく、労働者の不正や業務上のミスによって会社に損害が生じた場合に、一定の範囲で身元保証人が賠償責任を負うことを内容とします。一方で、身元保証人の責任も無制限ではなく、「身元保証ニ関スル法律」という法律によって契約期間や責任の範囲などについての制限が設けられています。

さらに、2020年4月施行の民法改正では、身元保証契約について極度額(上限額)の設定が義務付けられ、この定めがない身元保証契約は無効となります。

今回は、身元保証とはどのようなものか、会社が身元保証人を求める理由、身元保証人の責任やリスク、2020年の民法改正の変更点などを、弁護士が解説します。身元保証書の提出を求められた方や、家族から身元保証人を頼まれた方は、ぜひ参考にしてください。

目次(クリックで移動)

就職時の身元保証とは

ポイント

はじめに、就職時の身元保証とはどのようなものか、基本的な意味を解説します。

就職時の身元保証とは、不正や業務上のミスなど、労働者の行為によって会社が受けた損害を第三者(身元保証人)が賠償することを内容とする契約です。会社は、雇用する労働者に対し、採用時や入社時に身元保証人を立て、身元保証書を提出するよう求めます。

身元保証は、素性に問題がないことを担保するにとどまらず、労働者が会社に損害を与えた場合、身元保証人が本人とともに損害賠償責任を負うことを内容とします。企業にとって、労働者の行動による将来のリスクに備えた「保険」の役割を果たします。

ただし、身元保証人の責任は無制限ではなく、「身元保証ニ関スル法律」で、契約期間や責任について一定のルールが設けられています。また、後述の通り、2020年4月施行の民法改正により、極度額(上限額)の設定が義務付けられました。

身元保証書に記載される主な内容

身元保証書は、会社と身元保証人の間で、身元保証契約を締結する際に作成される書面です。

ただし、通常の契約書と異なり、多くの場合は身元保証人となる人が単独で署名・押印して会社に提出します。書式や記載内容は会社により異なりますが、一般に次の項目が記載されます。

  • 労働者本人の氏名・住所
  • 身元保証人の氏名・住所と、本人との関係
  • 身元保証の対象となる事項
  • 身元保証人が負う責任の内容
  • 身元保証契約の期間
  • 損害賠償に関する事項
  • 保証する金額の上限(極度額)
  • 契約日
  • 署名・押印欄

特に確認すべきは、身元保証人がどのような場合に責任を負うか、保証期間はいつまでか、損害賠償責任の上限はいくらなのかといった点です。後述「極度額(上限額)の設定義務」の通り、2020年4月施行の民法改正により、極度額(上限額)の定めがない身元保証契約は無効となります。

身元保証契約の法規制

身元保証契約には、「身元保証ニ関スル法律」が適用されます。

同法は、身元保証契約における保証期間や保証人の責任の範囲、通知義務などを定め、身元保証人が過大な責任を負わないように法規制を定めています。主な規制内容については「身元保証人が負う責任」「身元保証契約の有効期間」をご参照ください。

労使の力関係には差があり、身元保証を断るのは現実的に困難であるため、会社が負った損失を全て労働者や身元保証人に転嫁するなどの不当な扱いを避けるため、法規制があるのです。また、後述「極度額(上限額)の設定義務」の通り、身元保証人の責任について極度額(上限額)を定める義務があり、この定めがない身元保証契約は無効となります。

身元保証人のリスクを軽減するための責任制限は、たとえ労働者や身元保証人の同意があっても違反することはできません。

身元保証人になれる人

身元保証人は、親や兄弟姉妹などの親族がなるケースが多いです。

法律上の要件はなく、親族以外の友人・知人が身元保証人になることも可能ですが、保証の実効性を確保するために条件を設ける会社もあります。例えば、「本人と独立して生計を営む成人」「一定の収入がある人」といった条件の例があるため、勤務先に確認しておきましょう。

身元保証人を頼める人がいない場合でも、放置したり、虚偽の内容を記載したり、偽造したりしてはいけません。社長や人事に正直に相談すれば、身元保証人の条件を緩和したり、別の方法で対応してくれたりすることもあります。

身元保証人と連帯保証人の違い

身元保証人と連帯保証人は、いずれも他人の債務や損害について責任を負う点では共通しますが、保証する対象や責任の性質が異なります。

連帯保証人は、主債務者が負う債務について連帯して履行する責任を負います。これに対し、就職時の身元保証は、労働者が会社に損害を与えた場合に、一定の範囲で責任を負うことを目的とします。身元保証契約の締結時点では、損害の有無や金額が確定していない点が特徴です。

また、身元保証人の責任には、前述の「身元保証ニ関スル法律」による特別な制限があります。さらに、責任の有無や金額が問題になった場合に、会社の監督責任や安全配慮義務違反といった労働問題の側面から争われることが少なくありません。

就職時に身元保証人が必要とされる理由

次に、就職時に身元保証人が必要とされる理由について解説します。

就職時の身元保証人は、法律に決められたことではなく、あくまで企業側が求める実務的な対応です。そのため、企業がなぜ身元保証人を求めるかを知る必要があります。企業が身元保証人を求める背景には、「リスク管理」と「信用確認」があります。単なる手続きにとどまらず、今後の労使の信頼関係を築く上でも重要な役割を果たします。

従業員による損害に備えるため

身元保証は、損害賠償請求の担保を得て、企業のリスクを軽減する意味合いがあります。

労働者の不正やミスで損害が生じた場合、被害回復が必要です。ただ、企業の損害の大きさに比べ、労働者の資力が十分でないことも多く、その担保を得る目的で身元保証契約を締結し、賠償の請求先を増やしてリスクを分散する狙いがあります。特に、労働者の故意による横領や情報漏洩といった深刻なトラブルが起こると、企業側の損失は甚大となることがあります。

従業員の身元や経歴を確認するため

身元保証人を求めることは、労働者の信用を確認する意味があります。履歴書や採用面接では見抜けない人物評価を聞き、信用に値する人物かを確認できます。不正やミスを起こした場合には身元保証人に影響が及ぶという心理的な圧力を加え、不適切な言動を抑制する効果もあります。

緊急時の連絡先を確保するため

労働者本人と連絡が取れない場合に備え、緊急時の連絡先を確保する目的もあります。

事故や急病に遭った場合や、無断欠勤が続いた場合、家族などへの連絡が必要となります。このとき、身元保証人が親族であれば、緊急連絡先として機能します。ただし、身元保証人と緊急連絡先は異なるものです。緊急連絡先は連絡を受ける役割しかないのに対し、身元保証人は損害賠償を受けるという重大な責任を負う点に注意してください。

身元保証人が負う責任

次に、身元保証人が負う責任について詳しく解説します。

身元保証人は、労働者が会社に損害を与えた場合、身元保証契約の内容に応じて損害賠償責任を負います。ただし、会社の負った全損害を賠償するとは限りません。

身元保証ニ関スル法律5条では、裁判所が身元保証人の損害賠償責任やその金額を判断するにあたり、使用者の監督上の過失の有無、身元保証人が保証を引き受けた理由やその際に払った注意の程度、従業員の職務や身上の変化など、一切の事情を考慮することとされています。そのため、具体的な事情によっては、身元保証人が負担する賠償額は限定されます。

また、後述「極度額(上限額)の設定義務」の通り、身元保証書上の極度額(上限額)の範囲でしか責任を負いません。さらに、企業は、労働者を雇用して利益を上げる以上、損失も労使間で公平に分担すべきであり、故意のあるケースなどでない限り、全額を労働者に負担させることには問題があります。実際の裁判例でも、労働者に故意・重過失がない場合、たとえ過失があっても、その責任を2割〜3割程度に限定した事例が多くあります(この場合、身元保証人の責任も限定されます)。

なお、身元保証ニ関スル法律3条により、会社には一定の場合に身元保証人への通知義務があります。業務上不適任・不誠実な事情があり、身元保証人の責任が生じるおそれがあることを会社が知った場合や、労働者の職務・勤務地を変更したことで身元保証人の責任が重くなったり、監督が困難になったりする場合にも、身元保証人に伝えなければなりません。そして、通知を受けた身元保証人は、将来に向かって身元保証契約を解除できます。

したがって、身元保証人の責任は決して無制限ではなく、契約内容だけでなく、身元保証ニ関スル法律による保護も踏まえて判断される点を理解しておいてください。

身元保証契約の有効期間

身元保証契約の有効期間も、身元保証ニ関スル法律に上限が定められています。

契約で期間を定めなかった場合、身元保証契約の有効期間は原則として契約成立の日から3年間です。一方、契約で期間を定める場合でも、最長5年間とされ、5年を超える期間を定めた場合は、その期間は5年に短縮されます。身元保証契約の更新も可能ですが、更新後の契約期間についても、更新時から最長5年間に制限されます。

したがって、入社時に身元保証書を提出しても、身元保証人の責任が永遠に続くわけではありません。会社から身元保証契約の更新を求められた場合、改めて保証期間や責任の範囲、極度額などの契約内容を確認し、慎重に判断すべきです。

2020年の民法改正では身元保証はどう変わった?

2020年4月施行の民法改正では、身元保証についても大きな変更がありました。特に、身元保証人の責任について極度額(上限額)の設定が義務化された点が重要です。改正民法は、2020年4月1日以降に締結された契約に適用され、それ以前に取得した身元保証書には適用されません。

なお、民法改正の全体については「民法改正(2020年4月施行)」で解説しています。

極度額(上限額)の設定義務

過大なリスクを回避するため、個人根保証契約について極度額の定めが義務となりました。

2020年4月施行の民法改正で、個人が保証人となり、将来発生する不特定の債務を包括的に保証する「個人根保証契約」では、極度額(上限額)を定めなければ効力を生じないこととされました(民法465条の2)。就職時の身元保証契約も、この個人根保証契約に該当するのが通常であるため、極度額の定めがなければ無効となります。

この規定により、身元保証人は、最大いくらまでの責任を負う可能性があるかを、身元保証書を確認することで事前に把握できるようになりました。

極度額については、法律上の相場や増減があるわけではないものの、労働者の地位・役職、担当業務などによって、通常生じる可能性のある損害が目安とされます。

企業の通知義務の強化

企業は、労働者の状況に変化が生じ、身元保証人の責任に影響する可能性のあるときは、速やかに身元保証人に通知することが義務付けられました。また、身元保証人は、この通知を受け、将来にわたって身元保証契約を解約することができます。具体的には、社員の役職変更、業務内容の大幅な変更、懲戒処分など、身元保証人のリスクとなる事項が生じる場面が典型例です。

この改正によって、企業と身元保証人の双方が契約内容やリスクを正確に理解し、互いに適切な判断を下せるようになることが期待されています。

保証契約の基本」の解説

身元保証契約を締結する際の注意点

就職時の身元保証は、労働者だけでなく、身元保証人や企業にとっても将来のリスクになり得る重要な契約です。身元保証人を頼まれた人にとっては、損害賠償責任が生じる可能性があるため、特に注意を要します。それぞれの立場でリスクを十分に確認しておく必要があります。

以下では、労働者・身元保証人・企業それぞれが注意すべきポイントを解説します。

労働者側の注意点

第一に、労働者側の注意点は、次の通りです。

労働者は、まず会社が定める条件を確認し、適任者を選定しなければなりません。労働者にとっては、企業との信頼関係を構築するという意味があるため、親や兄弟姉妹などの親族に依頼することが通常です。また、経済的に自立しており、責任を負う能力があることが望ましいです。

身元保証人には損害賠償責任が生じる可能性があるため、依頼する際には単に署名・押印を頼むだけでなく、将来どのような責任が生じる可能性があるか、保証期間や極度額はどれほどかなどを身元保証書の内容で確認し、身元保証人にも丁寧に説明しましょう。あわせて、自身が仕事に向かう誠実な姿勢や覚悟を伝えることで、身元保証書にサインをもらいやすくなります。

身元保証人を頼める人がいない場合は、自分で書いたり偽造したりせず、早めに会社へ相談しましょう。会社によっては、保証人の条件を緩和したり、誓約書や緊急連絡先の提出、身元保証人の代行サービスといった別の方法を認めたりすることがあります。

身元保証人側の注意点

身元保証人を頼まれた場合は、安易に署名・押印せず、自分が負う可能性のある責任を確認した上で、引き受けるかどうかを慎重に判断してください。

特に確認しておきたいのは、どのような場合に損害賠償責任が生じるのか、責任の対象となる範囲、保証期間、極度額です。あわせて、労働者がどのような会社に就職し、どのような業務を担当するかを確認しておけば、自身が負うリスクを判断しやすくなります。不明確な条項がある場合には、署名する前に労働者本人や会社へ説明を求めることが重要です。

また、契約締結後でも解除できる場合があります。「身元保証人が負う責任」で前述した通り、労働者に業務上不適任・不誠実な事情があり、身元保証人に責任が生じるおそれがあるといった事情を会社から通知された場合に、将来に向かって契約を解除できます。

企業側の注意点

企業側は、契約内容が法令に適合しているかを確認する必要があります。

特に、身元保証契約は「個人根保証契約」に該当することが多いため、極度額を定めなければ効力を生じません。古い書式を使い続けている企業は、法改正に合わせた改訂が必要です。

極度額の金額について法律上のルールはないものの、「高額にするほど有利である」といった考えは誤りであり、業種・業態や担当業務、想定される損害などを踏まえ、合理的な金額にすべきです。高額過ぎる極度額の設定では、身元保証人を探すのが難しくなったり、労働者の会社に対する信頼を損なったりするおそれがあります。最悪の場合、公序良俗違反(民法90条)として無効になる危険もあります。一方で、少額過ぎると、悪質な行為によって多大な損害を被ったときに十分な被害回復ができなくなってしまいます。

少なくとも、労働者に質問されたときに、「なぜその金額が合理的か」を説明できるようにしておきましょう。また、契約締結後も、「身元保証人が負う責任」で前述した通り、身元保証人への通知が必要となる場面があるため注意してください。

なお、身元保証人を用意できない労働者については、保証人がいないことだけで画一的に判断するのではなく、身元保証を求める目的を踏まえて対応を検討するのがよいでしょう。例えば、本人から誓約書を取得する、緊急連絡先を別途確認するといった代替策も考えられます。

【まとめ】就職時の身元保証人について

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、就職時の身元保証人について詳しく解説しました。

身元保証は、企業が労働者を雇用する際のリスク軽減に用いられます。具体的には、身元保証人は、労働者が会社に損害を与えた場合に、一定の範囲で賠償責任を負うこととなります。

一方で、身元保証人の責任は無制限ではありません。身元保証ニ関スル法律により、保証期間や責任について一定の制限が設けられているほか、2020年4月施行の民法改正により、個人根保証契約の一種として、保証する上限額である「極度額」を定める必要があります。

就職や転職の際に、身元保証書への署名・押印を求められた場合、保証の対象となる範囲や期間、極度額について、書面の内容をよく確認することが大切です。身元保証人を依頼する側も、引き受ける側も、どのような場合にどこまで責任が生じるかを理解して進めなければなりません。不当な書面を締結させられそうなときは、弁護士に事前のチェックを依頼してください。

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