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交通事故加害者から債務不存在確認訴訟を提起されたときの注意点

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

交通事故トラブルでは、被害者側から、慰謝料をはじめとした損害賠償を請求するのが通常の流れです。

しかし、これとは逆に、交通事故の加害者側から、債務不存在確認訴訟を提起されることがあります。債務不存在確認訴訟は、被害者が請求をする前に、あらかじめ、慰謝料をはじめとした損害賠償をする義務がないことを加害者側が確認を求める裁判手続きです。

自分が交通事故の被害者なのに裁判に訴えられると、突然のことにびっくりしてしまうかもしれません。あまりの理不尽さに、加害者の保険会社と口論してしまう方もいますが、裁判手続きにはきちんと対応する必要があります。

交通事故のケースで利用される訴訟手続きという点は同じでも、債務不存在確認訴訟には、請求訴訟とは異なる特有の注意点があります。

今回の解説では、

  • 債務不存在確認訴訟の問題点
  • 加害者側から債務不存在確認訴訟を起こされてしまう理由
  • 債務不存在確認訴訟を起こされたときの対応方法

といった交通事故の被害者側の法律知識について、弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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債務不存在確認訴訟とは

債務不存在確認訴訟とは、その名のとおり「債務が存在しないことを確認する」という判決を求める訴訟です。交通事故においては、加害者側から「交通事故で賠償すべき損害が存在しないことの確認を求める」という形で、債務不存在確認訴訟が提起されます。

交通事故における裁判では、被害者が加害者に対して、治療費、休業損害、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益などの損害を請求するのが通常であり、加害者から逆に裁判を起こされてしまうと、さぞ驚くことでしょう。

しかし、裁判を受ける権利は、国民全員に与えられており、請求する側から起こす裁判(請求訴訟)はもちろんのこと、債務を負担する側から起こす裁判(債務不存在確認訴訟)も、法的に認められた訴訟類型の1つです。そのため、交通事故の被害者といえども、債務不存在確認訴訟を起こされてしまったときの適切な対応を知る必要があります。

なお、債務不存在確認訴訟は、加害者が「損害を賠償する責任が一切ない」と主張する場合だけでなく、一定の責任は認めるというときにも提起することができます。

この場合には「一定の金額は負担するが、それ以上の債務は存在しない」という確認を求め、債務不存在確認訴訟を起こします。

被害者からの請求訴訟とは異なる点

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

交通事故についての債務不存在確認訴訟では、その争点など、多くの点では、被害者からの請求訴訟と共通します。例えば、次のような点は、被害者からの請求訴訟と変わりありません。

  • 債務不存在確認も、請求訴訟と同様「被害者の加害者に対する損害賠償請求が認められるかどうか」が争点となる
  • 裁判で損害賠償請求を認めてもらうためには証拠による立証が必要
  • 損害賠償請求についての立証責任は、被害者側が負担する

しかし、加害者が起こす債務不存在確認では、被害者が起こす請求訴訟とは異なる特有の問題点があります。

なお、債務不存在確認では、交通事故の被害者が被告、加害者が原告となり、請求訴訟とは逆ですが、このことは責任の有無には影響しません。

治療が継続中であり、損害が確定していない

1つ目のポイントは、債務不存在確認訴訟が起こされるとき、被害者がまだ治療中のことがほとんどだという点です。通院を続けながら裁判することは、被害者にとって大きな負担となります。

債務不存在確認訴訟は、加害者が「もうこれ以上治療の必要性はないはずだ」と主張して提起されることがあります。「治療の必要がない」とは、「完治」という意味ではなく「これ以上治療しても改善しない」(症状固定)という意味です。

症状固定をできるだけ早めることには、加害者の立場で次のようなメリットがあります。

  • 症状固定後は、治療費・休業損害を請求できない
  • 症状固定が早く、治療期間が短いと、入通院慰謝料が低額となる
  • 後遺障害等級の認定が受けづらく、後遺障害慰謝料・後遺障害の逸失利益が認められづらくなる

そのため、債務不存在確認を起こされた被害者側では、まずは治療の必要性を積極的に主張しなければなりません。

このとき、被害者の主張としては、まだこれから治療費がかかり、症状固定後には後遺障害慰謝料、後遺障害の逸失利益などの損害が生じるため、まだ損害は確定していないということになります。

被害者が、損害賠償請求訴訟を起こすときは、損害が確定してから訴えるのが通常ですが、加害者による債務不存在確認訴訟では、損害の確定を待たずに提起されてしまうということです。

参考解説

示談交渉が十分になされていない

2つ目のポイントは、示談交渉が十分になされていないという点です。

交通事故の被害者による請求訴訟は、事前に示談交渉を行い、合意ができないときに起こされます。しかし、これに対して債務不存在確認訴訟を起こすタイミングは加害者が決めるため、通常の請求訴訟よりも早めに起こされることが多いです。そのため、示談交渉が十分になされていないことがあります。

交通事故の損害額は、過去の裁判例をもとにいわゆる「赤い本」(正式名称:「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」日弁連交通事故センター東京支部)を相場とするのが実務であり、十分な示談交渉を行えば、訴訟に至るころにはある程度重要な争点を限定することができます。

しかし、十分な示談交渉がなされていない債務不存在確認訴訟のケースでは、裁判で決めなければならない争点が多く積み残されていて、争いが長期化するおそれがあります。

債務不存在確認訴訟を起こされる原因と理由

交通事故被害にあってしまったのに、加害者側から債務不存在確認訴訟を起こされることには原因と理由があります。原因と理由を知ることで、債務不存在確認訴訟を起こされてしまう事態をできるだけ回避することができます。

以下では、債務不存在確認訴訟を起こされてしまう被害者側の原因と、加害者側の理由にわけて解説します。

被害者側の原因

債務不存在確認を起こされてしまう、被害者側の原因は、次のとおりです。

  • 被害者の交渉態度が悪質
    感情的に怒鳴ったり、強い口調で主張を伝えたり、執拗に電話したり、法的義務のない行動を求めたりといった言動は、悪質な交渉態度と評価されるおそれがあります。
  • 被害者の請求額が過大
    交通事故の賠償額には、過去の裁判例をもとに一定の相場があり、被害者の請求がこれより明らかに過大なとき、債務不存在確認訴訟を起こされる理由となります。
  • 被害者の治療の必要性が疑わしい
    事故態様が軽微なのに長期間治療しているなど、治療の必要性が疑わしいとき、債務不存在確認訴訟を起こされる理由となります。治療の必要性が争いとなるときには、医師の協力にもとづく医学的な証拠が重要となります。

被害者側の原因はいずれも、被害者が法律知識を知らないことや、被害感情が大きいことから来ています。

また、いずれの原因も、当事者間の主張に大きな開きがあるときに起こりがちですが、そのようなときには交渉で強引に解決しようとするのではなく、症状固定を待って被害者側から訴訟提起するほうが、被害者側にとって有利な解決につながります。

これらの被害者側の原因によって起こされてしまう債務不存在確認訴訟は、交通事故の示談交渉を弁護士に依頼することによって、あらかじめ避けることができます。

加害者側の理由

債務不存在確認を起こされてしまう、加害者側の理由は、次のとおりです。

  • 治療を終了させたい
  • 治療期間が長期になるほど賠償額が増額する傾向にあるため、早く治療を終了させようして、債務不存在確認訴訟を起こすことがあります。

  • 損害の拡大を防ぎたい
    交通事故による示談交渉が長引くと、損害が拡大する傾向にあります。そのため、損害の拡大を防ごうとすることが、債務不存在確認訴訟を起こす理由となります。
  • 被害者からの請求をあきらめさせたい
    多くの人にとって訴訟は未知の世界です。債務不存在確認請求訴訟を起こされると、驚いて正当な主張すらあきらめてしまう方も少なくありません。

加害者側の理由は、加害者本人の意向というより、保険会社や弁護士のアドバイスによるものでしょう。

しかし、被害者の治療や交渉態度に問題がないにもかかわらず、治療を中止させたり請求をあきらめさせたりしようとして債務不存在確認請求訴訟を起こすことは、被害者の権利を不当に奪うことを意味します。

加害者側の保険会社や弁護士からみて、債務不存在確認訴訟を要すると思われてしまわないためにも、被害者が弁護士を窓口として適切な交渉をする方法が有効です。

債務不存在確認訴訟への被害者側の適切な対応

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

以上で解説したとおり、債務不存在確認訴訟は、加害者側にとっては起こす理由が十分にある一方、被害者側にとってはデメリットが大きく、できれば起こされたくない手続きです。

一方で、実際に債務不存在確認訴訟を起こされてしまったとき、不満だからといって放置しておくと、適切に対応せずに判決となってしまえば、債務がないことが確定してしまうおそれがあります。

そこで、債務不存在確認訴訟を起こされてしまった被害者側の適切な対応について、弁護士が解説します。

弁護士に依頼する

債務不存在確認訴訟を提起されてしまったときには、今後の対応について弁護士に依頼することを検討してください。弁護士費用特約に加入しているときは、弁護士費用の実質的な負担は0です。

加害者から債務不存在確認訴訟を起こされたケースでは、被害者が感情にまかせて不適切な交渉態度をとってしまっていた例があります。そのつもりがなくても、加害者の保険会社からモンスタークレーマー扱いされているかもしれません。

交通事故被害にあい辛い状況であり、保険会社の態度に腹を立てる気持ちはとてもよくわかります。しかし、債務不存在確認訴訟を起こされてしまうと、ますます立場が悪くなってしまいます。

弁護士に依頼することで、加害者や保険会社、裁判所との直接の連絡をせずに済み、感情的な対立やストレスを減らすことができます。

なお、正当な治療、正当な請求をあきらめさせようとして債務不存在確認請求訴訟を提起してくる加害者に対しては、被害者が譲歩する理由はありません(そのため、債務不存在確認請求の内容についても精査が必要です)。

まだ裁判する時期ではないと主張する

債務不存在確認は、まだ治療が継続しているうちに加害者側から起こされることがよくあります。

治療の必要性があり、損害がまだ確定していないなど、紛争が成熟していないタイミングで行われる訴訟提起は、裁判所でも不当なものと判断される可能性があります。実際、治療継続中に加害者から起こされた債務不存在確認について、訴えを却下した裁判例(横浜地裁小田原支部平成28年5月25日判決)があります。

横浜地裁小田原支部平成28年5月25日判決

交通事故における債務不存在確認の訴えには、被害者である被告に損害賠償請求訴訟を提起させることを強いる機能がある。ところで、被告においては、これから脳脊髄液減少症の診療を受けるものとしているが、現段階で被告に損害賠償請求訴訟を提起させたとしても、同訴訟は、被告主張における症状が固定し、損害が確定するまで継続し…(略)…後遺障害による損害を除く一部請求となり後遺障害についての最終的な紛争解決に至らないことになり得る。そのため、本件訴えは、成熟性に欠け、現存する原告の法的地位の不安や危険を解消するために適切であるとはいえない。

このように、「まだ裁判する時期ではない」ということを、専門用語で「確認の利益がない」といいます。確認の利益がないのに起こされた債務不存在確認訴訟は、権利濫用として不適法となり、却下されます。

そのため、上記裁判例のように、まだ症状が固定しておらず、相当長期間の治療継続が予想されるようなときに起こされた債務不存在確認訴訟では、「確認の利益がない」ことを主張して訴えの却下を目指すようにしてください。

反訴を提起する

加害者から債務不存在確認訴訟を起こされたとき、既に確定している損害があるのであれば、その損害について反訴を提起します。

反訴とは、現在起こっている裁判に関連する請求について被告が原告を逆に訴える手続きであり、本訴と同じ手続内で審理してもらうことができます。反訴の請求内容、争点や注意点は、被害者からの請求訴訟と全く同じです。

まだすべての損害が確定しているわけではないものの、債務不存在確認訴訟の審理中には確定する可能性が高いときは、裁判所に対して「後に反訴を予定している」と伝えて審理を進めてもらうこともできます。

債務不存在確認訴訟が起こされた後も治療を継続するときには、裁判官の心証に特に注意して進めなければなりません。

症状固定の判断は、医学的な判断を参考にはするものの、最終的な判断は裁判所が下します。そのため、裁判所が症状固定したという心証を抱いていたときは、早めに反訴をして後遺障害についての損害を請求しておかなければ、後遺障害についての主張が裁判で認められなくなってしまうおそれがあります。

症状固定していないことを主張する

債務不存在確認請求訴訟を起こされたとき、まだ治療中であり、症状固定していないと主張すべきケースが多くあります。

交通事故によって負った傷害が症状固定しているかどうかを判断するにあたっては、医師による医学的判断が重視されます。そのため、被害者側の適切な対応として、症状固定していないことの証拠を裁判所に提出することが重要です。

症状固定とは「これ以上治療しても改善が見込めない」という意味であることから、その逆に「治療経過を見れば、症状の改善が継続的に見込めている」ことを主張するようにします。

カルテ・診断書、主治医の意見書といった重要な医療記録を精査し、次のようなポイントを検討するようにしてください。

  • 画像診断(レントゲン、CT、MRI)に症状の改善が見られるか
  • 治療内容に変更があったか
  • 処方される薬に変更があったか
  • 主観的な症状の訴えの内容に継続的な変化があったかどうか

参考解説

裁判を起こされても治療費は請求し続ける

債務不存在確認訴訟を起こされてしまったときであっても、その後も治療費の請求をし続けるようにします。

症状固定後にかかった治療費は被害者の負担とされ、あとは後遺症の問題が残るのみとするのが原則です。

しかし、債務不存在確認訴訟を起こすタイミングは、加害者の判断で決められています。また、裁判例でも、症状固定を認めながら、症状固定後の治療費の一部を加害者に請求できると認めた例もあります。

裁判を起こされた後も治療費を負担してもらうよう交渉するためには、後遺障害等級認定の手続きで、できるだけ高度な等級が認められる可能性があることを主張立証することが大切です。なお、自己負担となってしまう可能性があることを考え、健康保険を利用することも可能です。

最終的な解決に注意する

被害者としては不本意なタイミングで訴訟になってしまったとしても、裁判所が審理を進めるときは、その手続き内で交通事故トラブルが最終解決に至ってしまうおそれがあります。そのため、自身にとって有利な主張立証はきちんと行っておかなければなりません。

債務不存在確認訴訟の結果、裁判上の和解をするときには、和解条項には清算条項(当事者間に債権債務がないことを確認する条項)がつけられるのが通常です。そのため、清算条項によって、将来行おうと考えていた請求権が消滅しないかの確認が必要です。

交通事故被害は浅野総合法律事務所にお任せください!

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

今回は、交通事故の被害者が、加害者側から債務不存在確認訴訟を起こされてしまったときにとるべき適切な対応について弁護士が解説しました。

被害にあってしまったにもかかわらず、加害者側から裁判を起こされると、突然のことに驚き、かつ、理不尽な対応だと腹を立てるのも無理はありません。しかし、債務不存在確認訴訟においても、交通事故の被害者側に有利な判断をした裁判例は多く存在するため、粘り強く交渉することを止めてはいけません。

一方で、交渉段階における被害者側の交渉態度、交渉手法や、主張している内容のまずさが、債務不存在確認訴訟という手間のかかるトラブルを招いてしまっているケースもあるため、弁護士が介入する良いタイミングともいえます。

交通事故被害にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

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