交通事故

交通事故加害者から債務不存在確認訴訟を提起されたときの注意点

2020年6月16日

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

交通事故被害を受けたとき、被害者側から慰謝料をはじめとした損害賠償を請求することが一般的です。

しかし、逆に、交通事故の加害者側から、債務不存在確認訴訟を提起されることがあります。つまり、被害者側が請求をする前に、あらかじめ、慰謝料や損害賠償などを行う義務がないことを加害者側が確認を求めるという裁判手続きです。

自分が交通事故の被害者なのに裁判に訴えられると、突然のことにびっくりしてしまうかもしれません。あまりの理不尽に、加害者側の保険会社と口論になってしまう方もいますが、裁判手続きにはきちんと対応する必要があります。

交通事故のケースで利用される訴訟手続きという点は同じでも、債務不存在確認訴訟には、請求訴訟とは異なる特有の注意点があります。

そこで今回は、加害者側から突然起こされてしまった債務不存在確認訴訟に対応する際の注意点について弁護士が解説します。

「交通事故」弁護士解説まとめ

債務不存在確認訴訟とは

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

債務不存在確認訴訟とは、その名のとおり、「債務が存在しないことを確認する」という判決を請求する訴訟です。交通事故事件ですと、加害者側から、「交通事故で賠償すべき損害が存在しないことを確認してほしい」という形で、債務不存在確認訴訟が提起されます。

交通事故の被害にあってしまったのに、自分から損害賠償を請求するのではなく、加害者から逆に裁判を提起されてしまって、さぞ驚くことでしょう。

交通事故で訴訟・裁判というと、慰謝料や治療費、逸失利益、休業損害などを、被害者が加害者に対して請求する訴訟が一般的です。

しかし、裁判を受ける権利は、国民全員に与えられており、債権を請求する側から起こす請求訴訟はもちろん、債務を負担する側から起こす債務不存在確認訴訟も、法的に認められた訴訟の1つです。交通事故の被害者といえども、債務不存在確認訴訟に対して、適切な対応を行う必要があります。

債務不存在確認訴訟は、加害者が、損害を賠償する責任が一切ないと考える場合だけでなく、「一定の金額は負担するが、それ以上の債務は存在しない」という確認を求めて提起する場合もあります。

被害者側からの訴訟と異なる点

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

債務不存在確認訴訟では、交通事故の被害者側が「被告」、交通事故の加害者側が「原告」となります。通常の請求訴訟とは、当事者の関係が逆になるということです。

一方で、債務不存在確認訴訟の中で争われることは、結局は「被害者から加害者への損害賠償の請求が認められるかどうか」ということが争点となりますから、この点では請求訴訟と同様です。そして、請求訴訟と同様に、「後遺障害等級の認定がなされるかどうか」「具体的な事故状況によってどのような過失割合が認められるか」といったことが重要な論点となります。

しかし、債務不存在確認訴訟には、請求訴訟とは異なる特有の問題点があります。

まだ治療中である

債務不存在確認訴訟が、請求訴訟と異なる点の1つ目は、債務不存在確認訴訟が起こされるとき、被害者はまだ交通事故で負った傷害の治療中であることがほとんどだということです。

債務不存在確認訴訟は、交通事故の加害者側が、「もう治療の必要性はないだろう」と考えることによって提起されます。「治療の必要がない」とは「完治した」という意味ではなく「これ以上治療をしても回復が見込めない」ということも意味しています。このことを「症状固定」といいます。

そして、症状固定と判断されてしまうと、その後は、後遺障害等級の認定と後遺障害慰謝料が問題となるのであって、症状固定後の治療費は、被害者自身が負担しなければなりません。

また、治療中に訴訟を起こされてしまうと、交通事故被害の回復のために通院を継続しながら、裁判でも戦わなければならず、重症な事故の場合、被害者側にとって大きな負担となります。

損害が確定していない

債務不存在確認訴訟が、請求訴訟と異なる点の2つ目は、債務不存在確認訴訟では損害が確定していないことが多いということです。少なくとも、被害者側の主張では、まだ損害が確定していないと主張することとなりそうです。

というのも、被害者側から、交通事故で負った損害の請求訴訟を起こすときには、一般的には、損害が確定してから訴えを提起します。しかし、債務不存在確認訴訟は、損害の確定を待たずに加害者側から提起されます。

特に、被害者側としてはまだ治療の必要性があり、継続的に治療費が生じている状況であっても、既に加害者側としては治療の必要性はないと考えている場合に、債務不存在確認訴訟を起こされやすいです。この場合、被害者側としてはまだ将来の治療費を請求する必要があり、また、将来症状固定すればその時の状況に応じて後遺障害慰謝料、逸失利益を請求しようと考えていることが通常であり、損害は確定していません。

主要な争点が異なる

債務不存在確認訴訟が、請求訴訟と異なる点の3つ目は、主要な争点が異なるケースが多いということです。これは、債務不存在確認訴訟が起こされるタイミングが、一般的な請求訴訟とは異なるからです。

交通事故の被害者から加害者への請求訴訟では、既に被害者側の請求すべき損害は確定しており、裁判所での主要な争点は、具体的な事故態様や、それに基づく過失割合の分担の問題と、後遺障害等級の認定の問題の2つにあることが多くあります。

交通事故の損害賠償額は、交通事故の過去の裁判例をもとにした公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が作成する「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」、いわゆる「赤い本」に記載された表をもとに算出されることが一般的であるため、さきほど説明した過失割合の問題、後遺障害等級の認定の問題に争いがない限り、損害額は交渉段階で一定の合意が得られていることが少なくないからです。

そして、このように考えた結果、債務不存在確認訴訟のほうが、交渉によって合意に至っている争点が少なく、逆に言えば、裁判で決着をつけなければならない争点が多く残されているということを意味しています。

債務不存在確認訴訟を起こされる理由

交通事故被害にあってしまったのに、加害者側から債務不存在確認訴訟を起こされるには、理由があります。理由は、大きくわけて、加害者側の理由と被害者側の理由とがあります。

被害者側の理由によって、債務不存在確認訴訟に対応せざるをえなくなってしまうことは、交通事故を多く取り扱う弁護士に交渉を依頼することによって、あらかじめ避けることができます。被害者側の理由によって債務不存在確認訴訟を起こされるケースは、例えば次のとおりです。

  • 被害者側の交渉態度が悪質である
    :つい感情的になって、保険会社の担当者に怒鳴ってしまったことはないでしょうか。強い口調で主張を話し続けたり、連続して何度も執拗に電話したり、法的義務のない行動を求めたりといった対応も、あまり褒められるものではありません。当事者間で主張が大きく異なる場合には、交渉で強引に解決するのでなく、症状の固定を待って被害者側から訴訟提起することがお勧めです。
  • 被害者側の請求額が裁判例に比して過大である
    :交通事故の裁判における賠償額の基準には一定の相場が形成されていることから、被害者側の請求額がこれに比して明らかに過大である場合、債務不存在確認訴訟を提起される理由となります。ただし、上記と同様に、請求額の主張に乖離がある理由が、争点についての考え方の違いにある場合には、症状固定後に、被害者側から提起する裁判で決着をつけることがお勧めです。
  • 被害者側の治療の必要性が疑わしい
    :事故状況、事故態様などに比してあまりに長期の治療期間が経過している場合にも、債務不存在確認訴訟を提起される理由となります。ただし、治療の必要性は事故の一般的な類型だけでなく、被害者の健康状況や具体的な事故態様によっても異なるため、治療継続の必要性がある場合には、債務不存在確認訴訟を提起されたとしても医師による医学的判断を示して治療を継続すべきです。

これに対して、加害者側の理由によって提起される債務不存在確認訴訟もあります。加害者側の理由による場合、加害者本人の意向というよりは、加害者側の保険会社や、代理人となる弁護士のアドバイスによって方針決定されていることが少なくありません。

加害者側の理由は、例えば次のとおりです。総じて、加害者側の保険会社からして、「交渉での加害者有利の解決が難しい」「厄介な相手だ」と思われるほど、債務不存在確認訴訟を起こされる可能性が高まります。

  • 被害者の損害の拡大を防ぐ
    :交通事故による被害額は、治療期間が長期になるほど大きくなる傾向にあります。まず治療費が増額していきますし、治療の期間に応じて算出される入通院慰謝料も増額されます。あわせて、後遺障害の認定も得やすくなり後遺障害慰謝料・逸失利益も増額され、治療による休業が長引けば休業損害も加算されます。そのため、治療を早めに中止させ、損害の拡大を防ぐために、加害者側から債務不存在確認訴訟を提起して早期の裁判所での判断を求めることがあります。しかし、被害者の治療を中止させようと訴訟提起することは、被害者の治療を受ける権利を損なう悪質な行為です。
  • 被害者からの正当な請求行為を諦めさせる
    :症状固定しておらず、まだ治療中に加害者側から事を大きくすることによって、被害者からの正当な請求行為を諦めさせることもまた、加害者側から債務不存在確認訴訟を起こす理由の1つです。裁判は、保険会社にとっては日常茶飯事でも、一般の人にとっては未知の世界であり、裁判を起こされてしまうと驚いてしまい、正当な主張を諦めてしまう方もいます。

債務不存在確認訴訟への被害者側の適切な対応

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

債務不存在確認訴訟を加害者側から提起されてしまったとき、被害者側ではまだ治療が終了しておらず、損害が確定しておらず、したがって、今後も治療を継続したいと考えていることがほとんどです。逆に、加害者側では治療費の立替払いを止めることが、債務不存在確認訴訟を提起する大きな理由となっています。

これは、症状固定前の治療費は加害者への損害賠償請求の対象となる一方で、症状固定後の治療費は自己負担とされているためです。

そこで最後に、債務不存在確認訴訟を提起されてしまった被害者側で、どのような対応をしたらよいかについて弁護士が解説します。

弁護士に交渉窓口を依頼する

つい怒りに任せて、加害者側の保険会社の担当者に怒鳴ってしまったことはありませんか。交通事故の被害に遭い、治療をしてもなかなか治らないと焦っているとき、保険会社から治療費の終了を予告されるなどの事態となれば、お怒りになるのももっともです。

しかし、加害者側から債務不存在確認訴訟を提起されてしまった被害者の多くが、その場の感情に左右されて不適切な交渉態度をとってしまっていることがあります。被害者側はそのつもりでなくても、加害者側からるととんでもないモンスタークレーマーだと写っていることもあります。

感情的な対立を減らし、適切な解決へと導くためにも、債務不存在確認訴訟を提起されてしまったときには、今後の交渉窓口を弁護士に依頼することを検討してください。

正当な治療、正当な請求をあきらめさせようと訴訟提起をしてくる加害者(やその保険会社、弁護士)に対して、被害者側が譲歩する理由はありません。損害保険の弁護士費用特約(いわゆる「弁特」)に加入している場合には、訴訟の代理を依頼した場合の弁護士費用についても、損害保険の保険金によって負担をしてもらうことができます。

紛争が成熟していないことを主張する

一般的には、交通事故被害は被害者側からの訴訟提起が多いのに対して、治療が長期化していたり不相当な請求があったりといったさまざまな理由で、加害者側からの債務不存在確認訴訟が起こることがあります。

しかし、加害者側からの訴訟提起が不当であるという場合もあります。治療の必要性が明らかにあり損害が確定していないなど、紛争が成熟していないと判断される場合には、債務不存在確認の訴えを却下した裁判例もあります。このような判断を専門用語で「確認の利益がない」といいます。

確認の利益がないのに行われた確認訴訟は、権利濫用として不適法となり、却下されることとなります。特に、まだ症状が固定しておらず、相当長期間の治療継続が予想されるような時期に債務不存在確認訴訟を起こされたときは、「確認の利益がない」ことを主張し、訴えの却下という判断を勝ち取ることを目指します。

裁判例(横浜地裁小田原支部平成28年5月25日判決)では、次のように述べて、治療継続中に加害者側から提起された債務不存在確認訴訟について訴えを却下しています。

横浜地裁小田原支部平成28年5月25日判決

交通事故における債務不存在確認の訴えには、被害者である被告に損害賠償請求訴訟を提起させることを強いる機能がある。ところで、被告においては、これから脳脊髄液減少症の診療を受けるものとしているが、現段階で被告に損害賠償請求訴訟を提起させたとしても、同訴訟は、被告主張における症状が固定し、損害が確定するまで継続し(なお、原告が被告の脳脊髄液減少症の主張を積極的に否定する訴訟活動をするにしても、脳脊髄液減少症の診療をした病院の診療録等の検討が必要となり、いずれにしても長期の審理が必要となる。)、又は後遺障害による損害を除く一部請求となり後遺障害についての最終的な紛争解決に至らないことになり得る。そのため、本件訴えは、成熟性に欠け、現存する原告の法的地位の不安や危険を解消するために適切であるとはいえない。

反訴を提起する

加害者側から債務不存在確認訴訟を起こされた時点で、既に確定している損害がある場合には、その損害について反訴を提起します。「反訴」とは、現在起こされている裁判に関連する請求について被告側から原告を逆に訴える手続きのことで、本訴と同じ手続き内で審理を進めてもらうことができます。

まだ交通事故による損害がすべて確定しているわけではないけれども、債務不存在確認訴訟の審理をしている最中には確定する可能性が高い場合には、のちに反訴を提起する予定があることを裁判所に伝えて審理を進めてもらうことができます。

加害者側から債務不存在確認訴訟を起こされたとき、被害者側としてはまだ治療を継続する必要があり、症状は固定しないと主張することが多いです。しかし、被害者側の主張にもかかわらず、裁判所が「症状は固定している」という心証を抱いたときには、審理の進め方に注意が必要です。

というのも、最終的な判断は、医学的判断は参考とはするものの、裁判所が下すものです。

そのため、裁判所が症状固定に至っているという心証を抱いているにもかかわらず、反訴を提起せずに治療を続けていると、被害者側が症状固定に至ったと考えるタイミングにおいて、後遺障害を裁判で認めてもらうことができないおそれがあるためです。

症状固定していないことを主張する

交通事故によって負った傷害について、症状固定に至っているかどうかは、純粋は法的判断のみではなく、医師による医学的判断とその証拠を参考にして、最終的には裁判所が決定するものです。

最終的な判断は裁判所が行うものの、医師による医学的判断が大いに参考にされるものであり、債務不存在確認訴訟を提起してきたということは、一般的なケースと比べて治療期間が長期化していたり、症状固定していることを示す医学的な根拠が加害者側にもあったりといったことが考えられます。

そのため、被害者側としての適切な対応の1つ目として、まずは「症状固定していない」ことを主張し、その証拠を裁判所に提出することが重要です。主治医の意見を聞くことはもちろん、カルテや診断書などの医療記録を収集、精査し、「治療経過において症状の改善が継続的に見込めているか」という観点からの検討が必要となります。

債務不存在確認訴訟において、交通事故の被害者側が特に医療記録の検討をしたいポイントは次の点です。

  • MRI・CT・レントゲンなどの画像記録により症状の改善が見られるか
  • 治療内容に変更があったか
  • 処方内容に変更があったか
  • 主観的な症状の訴えの内容に継続的な変化があったか
  • 主治医による今後の治療見込みに関する意見

症状固定後の治療費を請求する

症状固定を裏付けるような加害者側に有利な証拠があったとしても、あきらめてはいけません。被害者側で、債務不存在確認訴訟を争うための適切な方法の2つ目は、症状固定後の治療費を請求することです。

今回解説しているとおり、原則としては、症状固定後は後遺障害等級の認定、後遺障害慰謝料、逸失利益などの請求が問題となるのであり、治療費がかかったとしても被害者の負担となることが通常です。ただし一方で、裁判例でも、症状固定を認めながら、症状固定後の治療費を一定の割合で加害者に請求することを認めたケースもあります。

加害者側に、症状固定後の治療費を負担してもらうよう交渉をするためには、後遺障害診断書をはじめとした医療記録により、後遺障害についてより高度な等級の認定を得られる可能性があることを、債務不存在確認訴訟においても主張、立証することが大切です。

なお、債務不存在確認訴訟を起こされた後の治療費は、被害者側の負担となるおそれのあることを考え、保険診療に切り替える対応がお勧めです。

最終的な解決に注意する

被害者側として不本意なタイミングで債務不存在確認訴訟を起こされたとき、最終的な解決に注意が必要となります。

例えば、債務不存在確認訴訟について「確認の利益がない」と主張したけれども訴えの却下には至らず、裁判所による一定の判断が下されることとなったケースでは、被害者側として訴訟提起の時期が不本意であったとしても、自身にとって有利な主張を行わなければなりません。

また、債務不存在確認訴訟の結果、裁判上の和解によって交通事故被害の問題を解決する場合には、和解条項に記載された清算条項(この和解によって当事者間の債権債務がないことを確認する条項)によって、将来行おうと考えていた請求権が消滅しないかどうか確認が必要です。

「交通事故被害」は浅野総合法律事務所にお任せください!

交通事故被害者債務不存在確認訴訟

今回は、交通事故の被害者側が、加害者側から債務不存在確認訴訟を起こされてしまったときにとるべき適切な対応について弁護士が解説しました。

被害にあってしまったにもかかわらず、加害者側から裁判を起こされると、突然のことに驚き、かつ、理不尽な対応だと腹を立てるのも無理はありません。しかし、債務不存在確認訴訟においても、交通事故の被害者側に有利な判断をした裁判例は多く存在するため、粘り強く交渉することを止めてはいけません。

一方で、交渉段階における被害者側の交渉態度、交渉手法や、主張している内容のまずさが、債務不存在確認訴訟という手間のかかるトラブルを招いてしまっていることもあり、弁護士が介入する良いタイミングともいえます。

交通事故被害にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へ法律相談ください。

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