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タバコ休憩は労働時間になる?多すぎるときはクビにできる?

近年、職場内の受動喫煙対策が注目されています。一方で、喫煙者の立場からは、業務の効率を保つために「タバコ休憩」が必須だと訴える声もあるでしょう。

受動喫煙対策として、オフィス全体を禁煙とする、喫煙室を設けるといった措置が法律上必要とされますが、その分だけ、タバコを吸うための休憩時間はますます長くなってしまいます。この点で、人事労務の観点で問題なのが、「タバコ休憩を『労働時間』として扱うべきか」という点です。非喫煙者から、「喫煙者はタバコ休憩ばかりで仕事をしていない」「不公平だ」という不満が生じることもあり、企業としては従業員間の公平性を保つための工夫を求められます。

今回は、タバコ休憩が「労働時間」に該当するのか、タバコ休憩が多く業務に支障をきたす社員への対応といった喫煙に関連する法律問題について、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • タバコ休憩も、使用者の指揮命令下に置かれるなら「労働時間」に該当する
  • タバコ休憩の多すぎる社員には、注意指導し、改善がなければ懲戒処分する
  • タバコ休憩が社員の公平感を損なわぬよう、非喫煙者の優遇措置を検討する

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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喫煙休憩と労働基準法の「労働時間」の問題

時間

喫煙者にとって、タバコを吸う時間は日常生活に必要不可欠でしょう。

しかし、プライベートでは自由でも、会社で勤務している間は一定の制約を受けます。特に、タバコ休憩の頻度が高かったり、その時間が長かったりすると、職場では次の問題が生じます。

  • 業務が中断され、仕事の効率が落ちる。
  • 非喫煙者との間で、業務上必要なコミュニケーションが不足する。
  • タバコ休憩中にスマホをいじったりコーヒーを飲んだりなど、実質的な「サボり」に繋がる。
  • 長時間の離席によって残業が増え、不必要な残業代が発生する。

対策せず放置すれば、非喫煙者の社員からは「タバコ休憩の時間は仕事をしていないのだから、公平に扱ってほしい」という不満が生じると予想されます。そこでまずは、タバコ休憩が労働基準法上の「労働時間」に該当するかについて、裁判例をもとに解説します。

労働時間とは

労働基準法における「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことです。「労働時間」について判断した「三菱重工業長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)」は、次のように判示しています。

労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

三菱重工業長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)

指揮命令下に置かれているかどうかは客観的に決められるもので、就業規則や雇用契約書などの定めによって決まるものではありません。つまり、たとえ会社が「喫煙している時間は労働時間とはしない」と決めても、実質的に指揮命令下に置かれていれば「労働時間」となります。

これに対し、「休憩時間」とは、労働者が業務から完全に離れ、自由に利用することが保証された時間です。業務に関与する義務がなく、使用者の指揮命令も及ばないことが前提です。

タバコ休憩は労働時間にあたるか

したがって、「タバコ休憩は労働時間にあたるか」という質問は、その時間が使用者の指揮命令下にあるかどうかで判断することになります。

具体的には、次のような事情を総合的に考慮して判断されます。

  • タバコ休憩の回数や頻度
  • 1回あたりのタバコ休憩の時間
  • タバコ休憩中に業務指示が行われた回数や頻度
  • 喫煙場所が職場から近いか遠いか

なお、労働時間に該当するかどうかで、よく問題となる「手待ち時間」の判断も参考になります。手待ち時間とは、実際の作業はしていないものの、作業再開に備えて待機している合間の時間です。この間に使用者の指示を受ける状態にあれば、やはり「労働時間」として扱われます。タバコ休憩についても、これと同様の視点で検討することができます。

労働時間に該当することで何が変わるか

タバコ時間が「労働時間」に該当するかどうかによって、企業の労務管理に大きな影響が生じます。というのも、労働時間にあたるときには、労働基準法による以下の規制が適用されるからです。

これらの労働時間について定められた規制は、長時間労働を抑止し、労働者の健康を守るためのものです。例えば、タバコ休憩が、1日あたり合計1時間程度あるような場合、休憩時間なのか、労働時間なのかによって、労働時間規制についての管理のしかたが大幅に変わってしまいます。

タバコ休憩に関する裁判例

次に、タバコ休憩が「労働時間」に該当するかどうか、判断した裁判例を紹介します。

タバコ休憩が「労働時間」に該当すると判断した裁判例

タバコ休憩が、労働基準法にいう「労働時間」にあたるかどうかは、裁判例に照らせば、使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるかが重要だと解説しました。しかし、個別の事情によっては、タバコ休憩が労働時間にあたる場合もあれば、あたらない場合もあります。

タバコ休憩を労働時間であると判断した裁判例に、東京地裁平成30年3月9日判決があります。

原告が作業と作業との間に休息したり、喫煙したりできても、当座従事すべき作業がないために過ぎず、作業の必要が生じれば直ちに作業を再開すべき手待時間に当たるときは、原告は依然として被告の指揮命令下に置かれており、労働から離れることが保障されているとはいえないから、労働時間に当たる…(略)

東京地裁平成30年3月9日判決

タバコ休憩は「労働時間」でないと判断した裁判例

これに対し、他の裁判例では、喫煙休憩を労働時間にはあたらないと判断したものもあります。つまり、裁判例も、喫煙休憩について一律の判断はしていないということです。

労働時間とは認めなかった裁判例には、大阪地裁令和1年12月20日決定などがあります。

…(略)…休憩時間がなかったとするものであるが、喫煙という行動の性質上、これらの日程のみ喫煙をしなかったということはおよそ想定し難いところであり、休憩時間がなかったとする日程については、原告の主張時間を基準として、被告事務所での在室時間が4時間未満(ただし,30分以下の日程を除く。)のものについては30分、それを超える在室時間のものについては1時間の休憩時間があったと認めることが相当である。

大阪地裁令和1年12月20日決定

会社側で人事労務管理を行うにあたって重要なのは、これらの裁判における肯定例、否定例を比較し、自社のケースがどちらに近いかを判断し、結論を予測して対策を講じることです。

タバコ休憩ばかりで仕事をしない社員への対応

受動喫煙対策の一環として、社内を全面禁煙とする企業が増えた結果、喫煙者は屋外や指定の喫煙場所に移動する必要があり、更に多くの時間をタバコ休憩に費やすこととなります。

企業秩序を維持するため、タバコ休憩ばかりで業務に支障をきたす社員には、企業として適切に指導を行う必要があります。対応が不公平だと、非喫煙者からの不満が高まり、職場全体の士気や生産性に悪影響を及ぼすおそれがあります。

給与を控除する

タバコ休憩の時間が、使用者の指揮命令下にない、つまり「労働時間」に該当しないと判断できるときは、その時間は業務に従事していない「休憩時間」として扱われるので、給与を控除することができます。喫煙のために休憩した時間分の賃金をカットするという対策です。

非喫煙者からすれば、「離席せず真面目に働くことが報われる」という公正な評価になります。喫煙者にとっても、「仕事をしていない」という自覚があれば、納得感を得やすい対応でしょう。

一方で、喫煙している時間を「休憩時間」として扱うと、その間、喫煙者が使用者の指揮命令から解放されることを保証することになります。喫煙者としては、給与が減る代わりに大手を振ってタバコを吸いに出ることができ、この間、会社は業務上の指示を行うことができなくなります。

注意指導を行う

給与の控除だけでは、かえって喫煙者が「給与は減っても構わない」と開き直り、頻繁にタバコ休憩を取るようになるおそれがあります。喫煙による業務の中断が頻発すると、給与の支払いが減ったとしても、仕事に悪影響が出てしまいます。

そこで、タバコ休憩の回数や時間についてルールを定め、それに違反した場合には注意指導を行うことが重要です。特に、タバコ休憩を「労働時間」として扱う場合、非喫煙者との公平性を確保するために、次の点について社内でルール化することが重要です。

  • タバコ休憩の頻度、1日あたりの上限回数
  • 休憩を取ってよい時間帯
  • タバコ休憩の際の報告義務
  • 使用できる喫煙場所の指定
  • 残業時間の制限や残業許可制の導入

定めたルールは、就業規則や社内規程に明記し、社員に周知徹底することが不可欠です。そして、厳しい注意指導によってそのルールを運用すべき責任が会社にはあります。残業許可制をはじめ、労働者にとって不利益の大きい制度を定めたときは、運用を徹底しなければ、裁判所で無効だと判断されるリスクがあります。

懲戒処分を検討する

タバコ休憩に関するルールを定め、注意指導によって遵守させる方法は、その喫煙者の行為の問題性と、注意指導の程度が釣り合っている必要があります。

常識的な範囲のタバコ休憩には、重度の処罰は適切ではありません。他方で、あまりにも常識外れなタバコ休憩があり、注意指導しても改善されない問題社員には、懲戒処分を検討する必要があります。社員は、会社の業務を集中して行う「職務専念義務」を負っており、不適切なタバコ休憩はこの義務に違反すると考えられるからです。

懲戒処分は、必ず就業規則に定められた手続きに従って行うことが必要です。また、処分の種類には段階があり、以下のように軽重があります。

  • 軽度の懲戒処分:譴責・戒告
  • 中度の懲戒処分:減給・降格・出勤停止
  • 重度の懲戒処分:諭旨解雇・懲戒解雇

初回のルール違反であれば、譴責や戒告といった軽度の処分から始めるのが妥当です。いきなり懲戒解雇などの重い処分を行うと、処分の重さが不相当であるとして無効と判断されるおそれがあるので、慎重な対応が求められます。

なお、休憩時間も含めて一切の喫煙を禁止することを命じるのは、「休憩の自由利用」という原則に反し、行動の制限が過度となって人権侵害にあたるおそれもあります。

喫煙問題について会社が検討すべき対策

積み木

最後に、喫煙問題に関して、会社側が検討すべきその他の対策を解説します。

これまでの解説の通り、タバコ休憩が労働時間に該当するかどうかは、具体的な状況に応じて判断すべき問題です。また、いずれの場合でも、業務に支障を及ぼすような問題ある喫煙行動に対しては、会社として適切に対応し、是正を図る必要があります。

非喫煙者にメリットを与える

喫煙者に処分や制限を課す方法とは別に、非喫煙者にメリットを与える方法もあります。非喫煙者が感じる不公平感は、「喫煙者だけが頻繁に仕事を離れることを許されている」という点にあります。そこで、非喫煙者にも相応のメリットを与え、社内のバランスを取る考え方です。

具体的な施策としては、以下の例が挙げられます。

  • 非喫煙者に対して、1日に10分×2回の自由利用できる休憩を付与する。
  • 非喫煙者に対して、年間数日の追加の有給休暇を与える。
  • 非喫煙者に「非喫煙手当」を支給する。

重要なことは、「給与アップ」のように過度な優遇をすると、逆に喫煙者への不利益が過度になり、別の不公平を生み出すおそれがあります。そのため、メリットを与える際は、喫煙休憩による労働時間の差に見合った、適度な範囲に留めることが重要です。

また、有給休暇を追加で付与するにしても、そもそも通常の有給休暇が消化されていない状況では実質的なメリットを感じにくくなります。特別休暇の付与は、あわせて有給休暇の取得促進にも配慮しなければなりません。

喫煙者は採用しない

喫煙は個人の自由であり、企業が社員に禁煙を強要することは基本的にはできません。

しかし一方で、企業には「採用の自由」が認められており、どのような人材をどのような基準で採用するかを自由に決めることができます。したがって、企業の方針として「喫煙者は採用しない」と決断することも、法的には許容されます。

例えば、社内に非喫煙者が多い、過去にタバコ休憩を巡ってトラブルになったといった事情がある場合、喫煙者を新たに採用すれば、再び労務管理上の問題が発生する危険もあります。そのリスクを回避する手段として、「喫煙者は採用しない」という方針を検討することも選択肢の一つです。

採用の自由」の解説

受動喫煙の対策について

労働安全衛生法の改正により、2020年4月1日より、事業者に対して労働者の受動喫煙を防止するための措置を講じるよう努力義務が定められました。

労働安全衛生法68条の2(受動喫煙の防止)

事業者は、室内又はこれに準ずる環境における労働者の受動喫煙(健康増進法(平成十四年法律第百三号)第二十八条第三号に規定する受動喫煙をいう。第七十一条第一項において同じ。)を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。

労働安全衛生法(e-Gov法令検索)

2020年4月1日からは、多数の者が利用する施設(第二種施設)では屋内禁煙が原則となりました(健康増進法30条)。そのため、オフィス内は原則として禁煙となります。努力義務であり、違反しても罰則はありませんが、都道府県知事からの勧告・命令を受けるおそれがあり、命令に違反した場合には50万円以下の過料の制裁があります。

非喫煙者にとって、受動喫煙をせずに済むというメリットがある一方で、屋内の喫煙スペースが廃止されることに伴い、喫煙者の仕事の能率が悪くなるという仕事への支障が心配されています。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、タバコ休憩に関する労務管理のポイントについて解説しました。

タバコ休憩が労働基準法上の「労働時間」に該当するかは、従業員が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかといった事情を踏まえ、個別に判断する必要があります。

もっとも、タバコ休憩を労働時間とみなす場合であっても、休憩時間と位置づける場合であっても、非喫煙者との間に生じる不公平感を払拭するために、企業として適切な対策を講じることが求められます。また、喫煙者の中に「問題社員」がいる場合は、あらかじめ明確なルールを定め、それに基づいて注意・指導を行っていなければ、厳しい懲戒処分を行うことは難しくなります。

タバコ休憩をはじめ、労務管理に疑問があるときは、ぜひ弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • タバコ休憩も、使用者の指揮命令下に置かれるなら「労働時間」に該当する
  • タバコ休憩の多すぎる社員には、注意指導し、改善がなければ懲戒処分する
  • タバコ休憩が社員の公平感を損なわぬよう、非喫煙者の優遇措置を検討する

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