人事労務

成果の上がらない社員の賃金を減額することは違法?【企業側】

2021年6月27日

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野英之(第一東京弁護士会所属)です。当事務所は「人事労務」に注力し、豊富な実績を有しています。社内の労務問題は会社経営に直結します。

自社内での解決が難しいとき、法律の専門知識を活用することで速やかに解決できることがあります。ぜひ一度当事務所へご相談ください。

成果の上がらない社員の賃金減額

会社側から「成果の上がらない社員がいるのですが、賃金を減額してもよいですか?」という相談を受けることがあります。今回はこのような会社側からの人事労務の相談への回答です。

結論から申し上げると、成果が上がらない社員の賃金を下げることは可能です。ただし、合理的な理由がなかったり賃金カットの根拠がなかったり、あまりに大幅に下げてしまったりしたとき、違法となるおそれがあります。労働者側から労働審判・訴訟などで争われてしまった結果、減額分の給与をまとめて請求されてしまうおそれがあります。

成果の上がらない社員の賃金を減額したいときは、就業規則の作成・変更をし、適切な手続きを踏むといった準備が必要です。

今回の解説では、

  • 成果の上がらない社員への対応方法
  • 成果の上がらない社員の賃金を減額するときに行うべき手続き
  • 許される賃金の減額の範囲

といった労務管理の知識について、人事労務に詳しい弁護士が解説します。

成果の上がらない社員とは

成果の上がらない社員の賃金減額

会社組織では、成果を上げて活躍する社員もいれば、残念ながら成果の上がらない社員も一定数存在します。「成果を上げない社員がいると、他の社員の士気が下がるので、賃金を減額したい」と考えている経営者も多いのではないでしょうか。

実際、年功序列・長期雇用という日本的な慣習が薄れて、成果主義が浸透しつつある中で「成果を上げないのであれば、当然賃金を下げるべき」という考え方自体は理解できます。

問題となるのは、成果の上がらない程度に対して減給額が大きすぎたり、減給の根拠もなく社長の気分によって給与を上げ下げしていたりといった点です。このようなことは、「ワンマン」、「理不尽」というイメージを生み、むしろ社員の士気を下げることになります。

成果の上がらない問題社員への対応を考えるとき、初めに考えておくべきは「成果の上がらない理由」です。例えば、次のような理由が考えられます。

  • なんとなくやる気が出ない
  • 会社の制度や上司が、成果が上がるのを邪魔している
  • 外的な要因(景気後退、業種の流行が去ったなど)で成果があがりづらい
  • 能力が不足している
  • 会社に対して敵対的な感情を抱いている

ある社員の成果が出ないとき、理由を細かく分析してから対応を考えなければなりません。理由ごとに対応を検討すべきであり、必ずしも賃金の減額が有効な場合ばかりではないからです。

能力は十分にあるのにやる気を出さない社員には、少しばかり賃金を減額することが起爆剤としてはたらきます。しかし、成果が上がらない理由が外的な環境要因にあったり、上司が邪魔していたり、そもそも能力が不足していたりといった場合、その責任を社員に押し付けるような賃金減額は、成果が上がらない状況をますます後押しすることになります。

成果の上がらない社員の賃金を減額する方法

前章で分析した「成果の上がらない理由」が、やる気の不足、勤務態度の不良のように社員自身にあるとき、ある程度の賃金を減額して奮起をうながすことは効果的な手法です。

ただし、賃金の減額は、社員側にとってはメリットがないことから、合理的な手続きを踏んで行わなければかえって反発を招くこととなるため注意が必要です。

ここでは、社員の同意があるかどうかで場合分けをして、賃金を減額するための適切な方法を3つ解説します。

社員の同意をとって賃金減額する方法

成果を上げない社員がいるとき、まずは理由の分析が重要と解説しました。理由の分析をするときには、面談を行って本人に聴取をし、その内容に応じて注意したり指導したりすることからはじめてください。

このような面談を丁寧に行っていくと、成果を上げない社員の問題点が明らかになり、社員自身も問題点を自覚することにつながり、その結果、賃金減額について本人も同意をすることも少なくありません。自覚ある社員であれば、次期以降、問題点を改善して活躍することも見込めます。

社員の同意をとって賃金減額をし、その際に社員が同意したことについて「同意書」、「承諾書」などの書面化しておけば、後のトラブルを避けることができます。そのため、賃金を減額するときは、まずは社員個別の同意をとる努力をすべきです。

社員と面談するとき、できるだけ賃金減額に同意してもらうためには、次のことに注意して話すと効果的です。

  • 「成果が上がらない」という問題点だけでなく、良い点もあわせて伝える
  • 成果主義賃金体系をとっている場合、その賃金体系の趣旨を説明する
  • 理由を分析し、改善点を具体的に伝える
  • 成果主義賃金体系にしたがい、問題点が改善されたときの昇給について説明する

大切なことは、「嫌がらせや辞めてもらうことを目的として賃金減額するわけではない」ということを社員に理解してもらうことです。あくまでも、今回解説するような成果の上がらない社員の賃金減額は、社員の活力を引き出し、良い成果を上げてもらうことを目的にしなければなりません。

就業規則に基づいて賃金減額する方法

会社が就業規則に、「勤務成績に応じて給与を減額することがある」などと賃金減額について定めているとき、就業規則の規定に基づいて、成果の上がらない社員の賃金を減額することができます。このことは、労働契約法でも次のとおり定められています。

労働契約法7条

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

ただし、社員の同意なく、一方的に賃金を減額するためには、賃金減額規定が存在することに加えて、その内容と手続きが合理的なものであることが必要です。そのため、規定が存在するからといってどのように減額してもよいわけではありません。

規定の定めでは、どのような場合にどれくらい減額されるかが不明確であり、会社が恣意的に賃金減額をしたのではないかと疑われるようなケースでは、違法となるおそれがあります。また、あまりに大幅な賃金減額も違法の可能性があるため、徐々に下げるか、場合によっては激変緩和措置が必要となることがあります。

異動に際して賃金を減額する方法

役職や部署、支店などによって異なる賃金を設定しているときには、異動を命じることによって賃金を減額する方法があります。

例えば、成果が上がらないため役職を降格とした結果として役職手当をカットする例、成果が上がらないために部署異動をして異なる職務に従事させた結果として基本給が変わる例などがこれにあたります。

このように異動に際して賃金を変更しようとするときには、そもそも、役職や部署、支店などによって異なる賃金を就業規則で定め、これを社員全体に周知しておかなければなりません。また、前章の解説と同様、あまりに大幅な賃金減額や、無関係な職種への異動は、違法となるおそれがあるため注意が必要です。

賃金減額が違法となるケース

成果の上がらない社員の賃金減額

成果主義の考え方からすれば、成果が上がらなければ賃金を減額すべきこととなりますが、一方で、雇用の安定への配慮も必要です。そのため、いかに成果の上がらない社員だったとしても、賃金減額が違法となるケースがあります。

そこで次に、成果の上がらない社員に対する賃金減額が違法と判断されるおそれのあるケースと、その対策について解説します。

減額手続きに合理性がない

成果の上がらない社員の賃金を減額するのは、あくまでも、成果を上げて活躍をうながすためです。そのため、なぜ減額されたのか、どのような場合にどれくらい減額されるのかが社員からはわからないという場合、減額手続きに合理性がなく、違法、無効と判断されるおそれがあります。

この点は、裁判例にも次のように言及されています。

東京地裁平成16年3月31日判決

労働契約の内容として,成果主義による基本給の降給が定められていても,使用者が恣意的に基本給の降給を決することが許されないのであり,降給が許容されるのは,就業規則等による労働契約に,降給が規定されているだけでなく,降給が決定される過程に合理性があること,その過程が従業員に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続が存することが必要であり,降給の仕組み自体に合理性と公正さが認められ,その仕組みに沿った降給の措置が採られた場合には,個々の従業員の評価の過程に,特に不合理ないし不公正な事情が認められない限り,当該降給の措置は,当該仕組みに沿って行われたものとして許容されると解するのが相当である。

就業規則・賃金規程は社員に周知しなければなりません。そして、就業規則・賃金規程には「賃金を減額することがある」とだけ書かれていて、その基準や要件については内規やマニュアルに書いて社員には公開していないというときにも、賃金減額が無効となるおそれがあります。

減額をするときの手続きだけでなく、評価のしかたや評価される事情などについても定めておきます。

賃金の減額幅が大きすぎる

賃金の減額幅が大きすぎるときにも、その賃金減額は違法となるおそれがあります。

どの程度(何パーセント)の減額幅が妥当というきまりはありませんが、重要なことは、前章でも解説したとおり「成果が上がらない」ことの理由を分析した上で、その理由に対して妥当な減額幅を検討する必要があるということです。その内容や社員側の責任の程度にもよりますが、おおむね1%~7%程度で検討することが多いです。

一般論として、社員の生活を脅かすほどの賃金減額はすべきではありません。減額幅が大きいときは、1か月ごとに少しずつ減額するという「激変緩和措置」をとることも有効です。

不当な動機・目的がある

たとえ成果の上がらない社員がいたとしても、その賃金を減額するにあたり、不当な動機・目的があってはなりません。賃金減額が違法となってしまうような不当な動機・目的の典型例が、「社員を退職に追い込みたい」というものです。

  • 社員に嫌がらせをしたい
  • 自主的に会社を辞めてもらいたい
  • セクハラ・パワハラ目的

このような不当な動機・目的があるとき、賃金減額は違法、無効です。ただし、動機・目的を明示して賃金減額を行うことは少ないでしょうから、重要なことは、これらの「不当」といわれるようなものではない、正当な動機・目的をきちんと準備しておくことです。

そのためには、賃金減額の程度が、その目的を達成するにあたって相当な手段であるかどうかの検討が必要となります。

成果主義の導入は不利益変更となる可能性あり

冒頭で、「成果の上がらない社員の賃金を減額したい」という発想が、成果主義的な考え方に基づくことを解説しました。

日本の労働慣習の伝統的な考え方は、長期雇用・年功序列です。つまり、同じ会社で長期間働き、勤続年数が長くなればなるほど給与が上がる、というものです。この根底には「成果は、長期勤続すれば上がる」という発想があり、成果に応じて賃金を決めるという考え方ではありませんでした。

そのため、社歴の長い会社など、伝統的な価値観から、成果主義を取り入れた考え方に転換したいと考えている会社から相談を受けることがあります。

年功序列型から成果主義型への転換は、就業規則・賃金規程を変更することによって行うのが実務ですが、「成果の上がらない社員」にとっては賃金が下がることを意味するため、成果主義を導入するという変更は、就業規則の不利益変更としての適切な対応が必要となります。

日本の労働法では、労働者保護の観点から、就業規則を不利益に変更するときには、その内容及び変更の合理性が必要であるといった厳しい要件が課されているからです。

参考解説

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成果の上がらない社員の賃金減額

成果主義的な考え方が浸透し、成果の上がらない社員に対しては、賃金の減額を含めた対処をする会社が増えています。

しかし、賃金減額は、たとえ成果の上がらないという問題を抱えた社員に対してであっても、無制限に許されるものではありません。要件効果をきちんと定め、予測可能性を担保した上で、適正な手続きに基づいて行わなければ、労働者側から争われることにより、その賃金減額は違法、無効と判断されてしまうおそれがあります。

大切なことは、労働者ごと、会社ごとに問題点が異なることを理解し、成果の上がらない理由を分析し、賃金減額の手法をとるとしても、その問題点の解消にとって適切な範囲で行うことです。

会社内の人事労務についてお困りのときは、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

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