
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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浅野英之
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仕事中に交通事故に遭ったとき、労災保険が使えるのかと疑問に思う方も多いでしょう。
業務中や通勤中の交通事故では、一定の要件を満たせば労災保険が適用される可能性があります。しかし、事故の状況によっては適用されないケースがあり、交通事故の自賠責保険や任意保険との関係も理解しておく必要があります。当事務所でも、次のような相談例があります。
仕事中の交通事故では、労災保険と自動車保険のいずれも利用することができます。各保険は一長一短なので、ケースに応じて使い分ける必要があります。なお、仕事中の交通事故について会社の責任を追及できる場合もあります。
今回は、仕事中の交通事故における労災保険の適用条件や補償内容、労災保険と自動車保険の違い、申請手続きの流れ、注意点などを、弁護士が解説します。
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仕事中に交通事故に遭った場合、一定の要件を満たせば労災保険が適用されます。
交通事故において「保険」と言うと、自動車保険(自賠責保険・任意保険)をイメージする人が多いでしょう。これに対し、労災保険は、労働者が業務中または通勤中に負傷・疾病・障害・死亡した場合に保険給付を行う制度ですが、交通事故であっても適用されます。
交通事故でも、その事故が業務中に発生した「業務災害」や、通勤中に発生した「通勤災害」に該当すれば、治療費や休業補償などの給付を受けられます。ただし、全ての交通事故が労災保険の対象となるわけではなく、業務や通勤との関連性などの要件から判断されます。
業務災害とは、業務に起因して負傷や病気、死亡する場合を指します。
交通事故の中でも、例えば、営業先への移動中や配送業務中など、会社の指示に従って車両を運転している最中に発生した事故は、業務災害に該当する典型例です。業務災害と認められるには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件を満たす必要があります。
取引先に向かう途中の交通事故などは、業務遂行性と業務起因性が認められやすい事例です。特に出張中は、移動中や宿泊先での滞在も含めて広く業務遂行性が肯定される傾向にあります。これに対し、私用での立ち寄りや業務を逸脱する私的行為、労働者が故意に発生させた災害、個人的な恨みによる第三者からの暴行などが原因である場合は、業務災害とは認められません。
通勤災害とは、労働者が住居と就業場所の間を合理的な経路・方法で往復中に発生した災害などをいいます。通勤中の交通事故は、「通勤災害」に該当すれば労災保険の適用を受けられます。
例えば、自宅から勤務先へ向かう途中や、勤務先から自宅へ帰宅する途中の交通事故は、通勤災害として認められる可能性があります。
ただし、通勤災害と認められるには、合理的な経路・方法での移動であることが重要です。移動の経路を逸脱・中断した場合、その間やその後の移動は「通勤」とならず、通勤災害の対象外です。一方で、日用品の購入など、日常生活上必要な行為のために一定の範囲で経路を変更した場合、その後合理的な通勤経路へ戻れば、通勤災害として認められるケースもあります。
仕事に関連する交通事故でも、全てのケースで労災保険が適用されるわけではありません。事故の状況や経緯によっては、業務災害や通勤災害に該当しないと判断される場合があります。
勤務時間中でも、業務とは無関係な私用で外出していた場合や、会社の指示とは関係なく個人的な目的で移動していた場合は、業務災害とは認められない可能性があります。
仕事中や通勤中の交通事故で労災保険が適用されるかどうかは、事故の発生状況や業務との関連性などを総合的に判断して決まります。適用の可否に迷う場合は、勤務先や労働基準監督署、交通事故や労災問題に詳しい弁護士へ相談するとよいでしょう。
友人と食事をしたり、就業後に遊びに行ったりするなど、私的な目的で通勤経路を大きく外れた場合、その後の事故は通勤災害の対象外です。ただし、前述の通り、日常生活上必要な行為の場合、その時間を除いて通勤災害の対象となる例外もあります。
仕事中の交通事故被害者が受けられる補償の内容は複数あります。
労災保険だけでなく、自賠責保険や任意保険などの自動車保険による補償を受けることができます。また、事故の原因や理由によっては使用者(会社)の責任を追及するケースもあります。ただし、いずれの補償内容も重複して受けられるわけではなく、「支給調整」が必要となります。
労災保険では、業務災害や通勤災害と認められた場合、主に次のような給付が行われます。
療養(補償)等給付は、労災によるケガや病気の治療に必要な費用を補償する制度です。主な給付内容として、診察料、検査費、手術費、入院費、薬代などがあります。労災指定医療機関で治療を受ける場合、原則として自己負担なく進めることができます。
労災によるケガで働けず、賃金の支払いを受けられない場合、休業(補償)等給付が支給されます。待期期間(3日間)経過後、4日目以降から、給付基礎日額の60%の休業(補償)等給付に加え、給付基礎日額の20%の休業特別支給金が支給されます。
治療を続けても症状が改善せず、障害が残った場合、障害等級に応じた障害(補償)等給付を受けられます。障害等級は第1級から第14級まで定められており、重い障害が残るほど給付額も大きくなります。
労災により死亡した場合、遺族に対して遺族(補償)等給付が支給されます。また、葬祭料(葬祭給付)が支給され、葬儀費用の負担軽減が図られています。
交通事故では、自賠責保険や任意保険などの自動車保険による補償も受けられます。
人身事故では、主に以下の損害について補償を受けられます。
特に、自賠責保険は人身損害のみを補償する制度であり、補償額に上限があります。不足する分については、加害者側の任意保険に請求することとなります。
自動車保険では、人身損害だけでなく物的損害についても補償されます。
これらの物的損害は労災保険では補償対象外であるため、自動車保険によって補償を受けることになります。
交通事故では、労災保険と自動車保険の両方を利用できますが、同一の損害について二重に補償は受けられません。例えば、治療費は労災の「療養(補償)等給付」と自動車保険の治療費、休業中の補償は労災の「休業(補償)等給付」と休業損害が重複するため、支給調整が行われます。
支給調整について、具体的には、先に労災保険が給付を行った場合、政府がその給付額の範囲で加害者に対する損害賠償請求権を取得(求償)します。一方、先に加害者側から損害賠償を受けた場合、その限度で労災保険からの給付は行われません。
ただし、慰謝料や自動車の修理費用など、労災保険の給付対象ではない損害は支給調整の対象外であり、加害者側に請求する必要があります。また、労災保険の特別支給金や労災就学援護費は、支給調整の対象とならないため、労災保険を利用するメリットの一つといえます。
交通事故が業務中に発生した場合、使用者(会社)の責任を追及できる場合もあります。
民法715条は、事業のために他人を使用する者は、被用者が「事業の執行について」第三者に与えた損害について賠償責任を負うと定めます。「事業の執行について」とは、業務そのものだけでなく、それと関連性を有する行為も含まれると考えられています。
自動車損害賠償保障法第3条では、自動車を自己のために運行の用に供する者(運行供用者)は、その運行によって他人の生命または身体に損害を与えた場合、原則として損害賠償責任を負うとされています。営業車や社用車による事故では、会社が運行供用者として責任を負い、労働者や第三者は損害賠償を請求できる可能性があります。
なお、この責任は人身損害を対象とするものであり、自動車の修理費などの物的損害には適用されません。
使用者には、労働者が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)があります。
例えば、長時間労働を強いたために居眠り運転が発生したケース、整備不良の社用車が事故の原因となったケースなどは、安全配慮義務違反が認められます。安全配慮義務違反が認められれば、被災した労働者は、労災保険給付とは別に、会社に対して民法上の債務不履行責任に基づく損害賠償請求を行うことができます。

次に、仕事中の交通事故における労災保険と自動車保険の使い分けを解説します。
仕事中や通勤中の交通事故には、労災保険と自動車保険の双方が適用されますが、それぞれメリット・デメリットがあるので、どちらを使うべきケースかを慎重に見極めるべきです。ただし、前述の通り、重複する損害については支給調整が行われ、二重取りはできません。
仕事中の交通事故について労災保険を利用するメリットを解説します。
以下の通り、労災保険には、支給の安定性や後遺障害認定などの点でメリットが多く、業務中や通勤中の事故では積極的に活用すべき制度です。
労災保険では、後遺障害等級の認定を受けた場合や死亡した場合に、年金形式で保険金を受け取ることができます。具体的には、後遺障害等級7級以上に認定されると「障害(補償)年金」が支給され、死亡した場合には「遺族(補償)年金」が支払われます。
一方、自動車保険(自賠責保険・任意保険)は原則として一時金のみの支給となります(なお、将来介護費など、継続的に発生する損害については、被害の実態に応じて「定期金賠償」を認めたケースがあります)。
労災保険では、治療費や休業補償、後遺障害に関する補償について、支払限度額が設けられていません。そのため、上限なく被害回復を実現することができます。
これに対し、自動車保険の場合、自賠責保険には限度額が設けられ、補償額が不足する場合は加害者本人や任意保険会社に追加請求を行う必要があります。そして、加害者本人や任意保険会社に対する請求は、事故態様や治療の必要性、過失割合などに争いがあると長期化し、十分な被害回復が実現できないことがあります。
自動車保険では、公平性の観点から、被害者に重大な過失がある場合には「重過失減額」によって保険金が減額されます(自賠責保険では被害者の過失が7割以上の場合に支給額が減額されます)。これに対し、労災保険ではこのような減額調整がないため、被害者側に落ち度があったとしても、保険金が減ることはありません。
一方で、自動車保険を利用するメリットもあります。必要に応じて使い分けることで、より充実した補償を受けることができます。
自動車保険(自賠責保険・任意保険)は、交通事故被害者の救済を目的とします。そのため、労災保険にはない、交通事故被害を想定した救済が多く設けられています。
例えば、「仮渡金制度」の仕組みがあり、保険金の支給に時間がかかる場合に、事故直後の医療費などの前払いを受けることができます。支給額は、次の通りです。
自動車保険では、慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)を受け取れます。これに対し、労災保険では慰謝料は対象外であり、加害者に対する損害賠償請求や、会社の安全配慮義務違反を理由とした請求を行う必要があります。
ただし、自動車保険で支払われる慰謝料の支給額には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。保険会社の提示する慰謝料額が低い場合、弁護士に依頼して示談交渉を行うことで、より高額な賠償を目指すのが適切です。
交通事故により仕事を休むことになった場合、給与の損失を「休業損害」として請求できます。休業損害の扱いは、労災保険と自動車保険とで次のように異なります。
このように、自動車保険を利用すれば、休業による損害をより手厚くカバーできる点がメリットとなります。
自動車保険は、会社の協力がなくても利用できる利点があります。
労災保険は、労働者本人でも申請は可能ですが、会社の協力を得て進めることが多いです。メリット制による保険料の上昇や、労働者からの責任追及を恐れ、協力を渋ったり隠蔽したりする会社も少なくなく、労災申請の支障となりかねません。
自動車保険の利用には会社の関与は不要なので、会社が不誠実な場合でもスムーズに進められます。ただし、加害者が事故の責任を争う場合には示談交渉が必要となるため、状況に応じて適切な手続きを選択する必要があります。
次に、仕事中の交通事故で労災保険を利用する流れについて解説します。
労災保険では、会社に報告し、協力を得ることから始めます。労災保険でも自動車保険でも、事故状況が争いになる場合に備え、事故状況から証拠収集を進めることが必須となります。
交通事故の直後は、まずは自身や周囲の安全を確保し、救急車や警察に連絡します。
警察への通報・連絡は、事故による被害の大小にかかわらず、交通事故証明書の作成につながる事故処理を行ってもらうために必要となります。安全を確保した後は、事故状況の証拠をできる限り残しましょう。例えば、次のような資料が役立ちます。
事故直後の記録が、その後の労災認定や過失割合の判断に影響することもあるため、可能な範囲で証拠を確保してください。
事故後は、できるだけ早く事業主(会社)へ報告し、指示を仰ぎましょう。
労災保険の申請では、会社が証明欄を記入する書類があるほか、事故状況の確認や必要資料の準備などについて会社の協力を得られると、手続きを円滑に進められます。直属の上司や担当部署など、社内の報告体制に従って必要な事故情報を共有してください。
報告の際には、次のような内容を伝えるとよいでしょう。
会社の就業規則や事故報告制度がある場合は、その手続きにも従うことが大切です。
交通事故が、業務災害や通勤災害に該当する場合、労災保険の申請を行います。
会社が労災事故であることを認める場合、その協力のもとで申請書類を作成し、労働基準監督署へ提出するのが通常です。交通事故証明書や診断書などの資料も提出します。
一方、会社が「労災ではない」と主張するなど、労災該当性に争いがある場合でも、労働者自身が直接労働基準監督署へ申請することができます。労災であると認定してもらうためには、事故状況や業務との関連性について具体的に説明する資料が重要になるため、事故当時の状況を整理しておくとよいでしょう。
なお、交通事故のように、加害者が「使用者」ではなく「第三者」であるときは、第三者行為災害届を提出します。この届出を行うことで、労災保険が先に被害者へ給付を行った場合、その後に加害者へ求償請求を行うこととなります。
事故の状況が複雑な場合、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談すべきポイントには、次の3つがあります。交通事故としてのトラブルと、労使紛争としての問題が、いずれも起こり得ます。
弁護士に相談すれば、労災認定の可能性を高め、会社や加害者に対する請求も含めて、適正な補償を受けるためのサポートを得られます。

最後に、仕事中の交通事故に対応する際、注意すべきポイントについて解説します。適切な補償を受けるためには、事故後の対応や示談の進め方に注意しなければなりません。
本解説の通り、仕事中の交通事故では、労災保険と自動車保険の両方が利用できます。同じ損害について二重に補償を受けられるわけではなく、重複する部分については支給調整が行われます。そのため、どの部分について重複するか、示談前に整理しておく必要があります。
先に加害者との間で示談を成立させると、その後は加害者への追加請求は難しくなります。示談書や承諾書に署名押印する前に、労災保険との関係や請求できる損害を十分に確認すべきです。
交通事故では、加害者側の任意保険会社から示談金の提示を受けることがあります。
しかし、提示された金額が必ずしも適正とは限りません。保険会社は、自賠責基準や任意保険会社独自の基準をもとに示談金を算定するのが通常で、裁判になった場合に認められる水準(いわゆる裁判基準・弁護士基準)よりも低額となるケースが少なくないからです。
特に、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料の金額、治療の必要性、休業損害の額といった点は、被害者と加害者の認識が異なり、争いになりやすいです。提示された示談金をすぐに受け入れるのではなく、補償内容が適切かどうかを確認し、慎重に判断することが大切です。
仕事中の交通事故によって後遺症が残った場合、後遺障害等級の認定を得れば、後遺障害慰謝料や逸失利益の補償を受けることができます。後遺障害等級認定の手続きは、自賠責保険か労災保険か、いずれの方法で行うことも可能です。
そのため、後遺障害を負ったときは、どちらか一方ではなく、両方の制度で申請することで、より充実した被害回復を実現できる可能性が高まります。
特に、重度の後遺障害等級の認定が予想されるケースでは、労災保険から障害(補償)年金や遺族(補償)年金が支給されるので、労災保険側での申請も忘れずに行うことが重要です。
「後遺障害慰謝料の請求方法」の解説


今回は、仕事中に交通事故被害に遭った際に利用すべき保険を解説しました。
仕事中の交通事故では、労災保険と自動車保険(自賠責保険・任意保険)の2つの保険制度が適用されます。併用できますが、同じ損害の補償が重複する場合は「支給調整」が行われるため、それぞれの制度の仕組みやメリット・デメリットを理解し、状況に応じて使い分けが必要です。
また、いずれの保険を利用するにせよ、適正な被害回復を実現するには、事故状況や被害の程度について、客観的な証拠で証明することが重要なポイントです。
仕事中に起きた交通事故の補償について不利益を受けないために、状況に応じた最善の対応が必要です。お困りの方は、ぜひ一度弁護士に相談してください。
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