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痴漢は何罪?痴漢の定義と痴漢行為により成立する犯罪の種類

痴漢行為は、その態様に応じて、各都道府県の迷惑防止条例違反または不同意わいせつ罪のいずれかに該当します。どちらの犯罪になるかは、痴漢行為の悪質性や手口によって判断されます。

一般に、衣服の上から身体に触れる行為は迷惑防止条例違反となり、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(常習の場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」)に処せられます。一方で、不同意わいせつ罪は、暴行や脅迫を伴うほど執拗に触れる行為や、衣服の中に手を入れる行為など、より重大な痴漢に適用され、「6月以上10年以下の懲役」という重い刑罰が科されます。

なお、実際は、行為の悪質性や具体的な状況によって判断されるので、必ずしもこの基準通りとは限りません。

今回は、「痴漢は何罪なのか」という疑問と、痴漢行為によって成立する迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の違いについて、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 痴漢は、迷惑防止条例違反か不同意わいせつ罪のいずれかに該当する犯罪
  • 行為態様の重大さ、悪質さによって、痴漢が何罪になるかが判断される
  • どちらの罪に該当するにせよ痴漢は犯罪であり、弁護活動を速やかにすべき

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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痴漢の定義

はてな

はじめに、痴漢の定義と、成立する犯罪について解説します。

痴漢は、被害者に身体的・精神的な苦痛を与えるため社会的に許される行為ではなく、重大な犯罪と位置付けられ、厳しい制裁が下されます。

痴漢とは

痴漢とは、公共の場において他人に対して性的な接触やわいせつな行為をすることです。

典型例が、電車内で、男性が女性に触れる、押し付ける、着衣に手を入れるといった行為ですが、これに限らず人が密集する場所でよく発生します。いずれも不適切な接触行為であって、被害者の意思に反したものであることは明らかです。痴漢は、加害者が性的な興奮を得るために行われる自分勝手な行いです。

痴漢は、隠れてこっそりと触ったり、偶然を装って触れたりなど、証拠が残らないように行われることが多いです。違法であることには変わりなく、様々な証拠から犯人が特定され、逮捕されたり、起訴されて前科がついたりするリスクは高いです。

迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の違い

痴漢行為は、程度によって迷惑防止条例違反、または不同意わいせつ罪に該当します。

いずれの犯罪になるのかは、痴漢行為の悪質性の程度によって判断されます(具体的には、検察官が起訴する罪名を決め、その後に裁判官が判決を下す際にどの犯罪とするかを決定します)。法律上は、痴漢の態様が迷惑防止条例と不同意わいせつ罪のどちらの「構成要件」(各犯罪ごとに定められた犯罪成立の条件)を満たすかが検討され、より重大な行為にはより重い罪が適用されます。

不同意わいせつ罪は、迷惑防止条例違反よりも重大な犯罪なので、逃亡や証拠隠滅のおそれが高いと判断されて逮捕される可能性が高く、勾留されて身柄拘束も長引きやすいです。刑事弁護の観点からも、不同意わいせつ罪となる痴漢の方が、示談金の相場も高額になる傾向があります。

各犯罪の違いについては、次章以降で説明します。

迷惑防止条例違反となる痴漢」「不同意わいせつ罪となる痴漢とは」参照。

迷惑防止条例違反となる痴漢とは

逮捕

まず、迷惑防止条例違反に該当する痴漢行為について解説します。

迷惑防止条例違反の構成要件

迷惑防止条例違反の構成要件は、各都道府県の条例によって定められています。

迷惑防止条例は、各地方自治体が独自に制定するため、都道府県ごとに規定に若干の違いはありますが、基本的には「人を著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような行為」を禁止しています。以下では、一都三県(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)の条例から、痴漢行為に関する規定を抜粋して紹介します。

東京都迷惑防止条例5条1項

1. 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(・・・以下略・・・)

東京都迷惑防止条例

埼玉県迷惑防止条例2条の2第2項

2. 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞
恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはなら
ない。
(1) 衣服等の上から又は直接人の身体に触れること。
(2) 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること(前項に該当するものを除く。)。

埼玉県迷惑防止条例

神奈川県迷惑防止条例3条1項

1. 何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接に人の身体に触れること。

神奈川県迷惑防止条例

千葉県迷惑防止条例3条の2

何人も、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次の各号に掲げるものをしてはならない。
一 (略)
二 公共の場所又は公共の乗物において、人の胸部、臀部、陰部、大腿部その他の身体の一部に直接又は衣服その他の身に着ける物の上から触れること。
三 前各号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

いずれの条例も、「羞恥」させ、「不安を覚えさせる」行為であることを要件としており、そのような衣服の上から身体をさわる行為や、卑猥な行為を禁止しています。

迷惑防止条例違反の刑事罰

多くの都道府県では、迷惑防止条例違反の刑事罰は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。ただし、例外的に、神奈川県の条例は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と定めるなど、痴漢の厳罰化に向けた改正が進んでいる地域もあります。

痴漢は「どの都道府県の迷惑防止条例が適用されるのか」が問題になることがあります。移動する電車内で痴漢が行われたとき、実際に行為が発生した場所の条例が適用されるからです。

迷惑防止条例違反となる痴漢行為の具体例

迷惑防止条例違反に該当する痴漢には、次のような例があります。

  • 混雑した電車内で、着衣の上から身体に触れた。
  • 電車の揺れに乗じて体を触った。
  • 偶然とは言えないほど繰り返し触れた。
  • 不必要なほど近づき、パーソナルスペースに無理に侵入した。

迷惑防止条例は、痴漢の中でも、行為態様が比較的軽微なものに適用されます。着衣の上から触るのが典型例ですが、軽度とはいえ、不快感を与え、被害者の意思に反していると判断できるなら、迷惑防止条例違反として処罰される可能性があります。

不同意わいせつ罪となる痴漢とは

悩む女性

次に、不同意わいせつ罪に該当する痴漢行為について解説します。

不同意わいせつ罪は、同意なくわいせつな行為を行うことで成立する犯罪です。以前は「強制わいせつ罪」「準強制わいせつ罪」と呼ばれていた行為も、現在は不同意わいせつ罪で処罰されます。

不同意わいせつ罪の構成要件

不同意わいせつ罪の構成要件は、暴行や脅迫、その他の不同意の状態に置かれたことを利用してわいせつな行為を行うことです。刑法176条では、以下のように規定されています。

刑法176条(不同意わいせつ)

1. 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。

一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

2. 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

3. 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

刑法(e-Gov法令検索)

16歳以上の被害者に対して不同意わいせつ罪が成立するには、暴行や脅迫その他の要件を満たす必要があります。ただし、痴漢における暴行や脅迫の解釈は広く、殴る・蹴るといった明らかな暴力行為がなくても、被害者が恐怖を感じて抵抗できない状態であれば成立しうるとされています。

不同意性交等罪(刑法177条)の暴行・脅迫が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」であることが必要とされるに対して、不同意わいせつ罪ではより軽いものでも足りることとなっています。

不同意わいせつ罪となる痴漢行為の典型例は、暴行や脅迫によるものですが、電車内で酔っ払って倒れている人や眠っている人に対する痴漢も、不同意わいせつ罪に該当します。これは、加害者自身が被害者を抵抗不能な状態にしたわけではなくても、「その状態にあることに乗じて」行った行為も処罰の対象とされているからです。

不同意わいせつ罪の刑事罰

不同意わいせつ罪の法定刑は、「6月以上10年以内の懲役」です。

刑法の不同意わいせつ罪に該当する痴漢は、迷惑防止条例に比べてはるかに重い刑罰が科されます。また、不同意わいせつ罪には罰金刑の規定がないので、略式起訴となることはなく、起訴された場合には必ず正式な裁判(公判)を経ることとなります。

つまり、刑事処分のプロセスにおいて、次のような特徴があります。

  • 不起訴処分とならない限り、必ず公判が開かれる
  • 起訴後は、保釈が認められない限り身柄拘束が続く(起訴後勾留)

迷惑防止条例違反であれば、略式命令で罰金刑となり、比較的早く釈放される可能性もありますが、不同意わいせつ罪となるような重度の痴漢では、簡易な手続きは適用されません。

不同意わいせつ罪となる痴漢行為の具体例

不同意わいせつ罪に該当する痴漢には、次のような例があります。

  • 下着の中に手を入れて性器を触る。
  • 被害者の逃げ道を塞いで執拗に触り続ける。
  • 計画的に痴漢行為を繰り返す。

不同意わいせつ罪は、痴漢の中でも、行為態様が悪質なケースに適用されます。電車内ではなく路上で行われる痴漢では、突然抱きつくといった行為は被害者の抵抗が難しく、着衣の上からでも不同意わいせつ罪として立件される例が多いです。

不同意わいせつ罪に問われる痴漢行為は、迷惑防止条例違反よりも厳しく処罰されるため、被害者の証言や状況証拠によっては、重い刑罰が科される可能性があります。

痴漢事件の弁護活動について

最後に、痴漢事件で行うべき弁護活動について解説します。

迷惑防止条例、不同意わいせつ罪のいずれでも、「犯罪」に違いありません。痴漢行為を疑われたら、状況に応じた弁護活動を速やかに実施しなければ、取り返しのつかない不利益を負います。

逮捕された場合の弁護活動

痴漢事件で逮捕されると、まず警察の取り調べが行われます。

現行犯逮捕の場合、現場で採取された繊維やDNA、指紋といった証拠、被害者や居合わせた目撃者の証言をもとに逮捕されます。また、証拠が解析されて後日逮捕に至るケースもあります。

弁護人は、事件発生の直後から被疑者の権利を守るためのアドバイスを行ったり、警察署への自首や出頭に同行したり、身柄拘束されたときは速やかに接見するなどして、早期釈放に向けた必要な弁護活動を行います。

痴漢を認める場合の弁護活動

痴漢行為を認める場合、被害者と示談して不起訴を勝ち取るという弁護方針となります。

日本の刑事司法では、起訴された場合の有罪率は99.9%と言われますが、不起訴であれば処罰されることはなく、前科も付きません。自白し、自らの犯罪を認めることで、情状酌量の余地を求め、量刑が軽減される効果を期待できます。

被害者との直接交渉は不適切なので、弁護人が被疑者の意向を受けて交渉する必要があります。具体的には、証拠を集めて事実関係を確認し、謝罪文を交付することで反省の意思を伝えると共に、示談が成立した際には示談書を作成し、検察に対して不起訴処分を求めます。

なお、自白した後は、痴漢行為を否定することはできず、無罪を求めるのは難しくなります。

痴漢の示談金の相場」の解説

痴漢を否認する場合の弁護活動

痴漢を疑われたが「触っていない」と冤罪を主張するなら、否認することとなります。

痴漢の冤罪ケースでも、被害者や目撃者の証言によって犯人であると特定され、処罰される危険があるため、弁護活動の必要性が特に大きい場面です。否認する場合、弁護人は、捜査機関の収集した証拠や証言の信用性を吟味したり、弁護側に有利な証拠を入手したりなどの弁護活動を行います。

否認する場合は早期解決が難しく、裁判に発展することを覚悟しなければなりません。裁判になると、検察側から開示された証拠を検討することができます。特に、痴漢事件では「証拠は被害者の証言のみ」という場合もあるので、その証拠が自然か、具体性・迫真性があるかといった観点から、信用できるものかを慎重に分析しなければなりません。

なお、自白の強要に負けず、否認を継続することが重要なポイントです。「早く釈放されたい」という思いに負けて嘘の自白をすれば、公判段階で覆すのは困難です。

痴漢を疑われたら?」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、痴漢行為に該当する犯罪として、迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の2つがあること、それぞれの構成要件や刑事罰の違いについて解説しました。

痴漢行為をしてしまい、処罰されるおそれがある状況に陥ると、「どの罪に該当するのか」「どのような刑事罰が科されるのか」と不安に感じる方も多いでしょう。適用される法律や条例の内容を正しく理解することで、状況に応じた適切な対応をとることが可能になります。

また、どの罪に該当する場合であっても、痴漢のように被害者がいる犯罪では、示談の成立が重要な情状となります。示談に成功すれば、逮捕や勾留を避けて早期に釈放される可能性が高まるほか、不起訴処分となり前科がつかないといったメリットも期待できます。

速やかに刑事弁護を開始するために、ぜひ弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • 痴漢は、迷惑防止条例違反か不同意わいせつ罪のいずれかに該当する犯罪
  • 行為態様の重大さ、悪質さによって、痴漢が何罪になるかが判断される
  • どちらの罪に該当するにせよ痴漢は犯罪であり、弁護活動を速やかにすべき

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参考解説

性犯罪の事件では、その重大性や社会的な影響を理解し、適切な対応をする必要があります。被疑者・被告人側、被害者側のいずれであっても、決して軽んじることなく慎重に対応しなければなりません。

性犯罪に関する以下の解説を参考に、正しい対処法を理解してください。

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