交通事故被害にあってしまったとき、被害者側で準備しておきたいのが、医療記録の取り寄せです。準備が必要となる医療記録のうち、診断書とカルテが特に重要ですが、その他、入手可能なあらゆる医療記録を入手しておくべきです。
人身被害が生じてしまった交通事故のケースでは、被害者の損害が大きく、請求すべき慰謝料額、損害賠償額も多額になりがちです。適切な証拠を早めに入手しておくことで、回復できる被害額を増やすことができます。
しかし、被害者が死亡していたり意識不明となっていたり、加害者が事故態様を争っていて非協力的だったりして、遺族や家族だけでは医療記録の入手が難しいケースもあります。弁護士に依頼いただけば、病院など医療機関の任意の協力を求めやすくなるのはもちろん、証拠保全、文書送付嘱託、文書提出命令などの法的手続きも利用できます。
今回は、被害者やそのご家族の立場から、取り寄せておくべき医療記録と、その入手方法について、交通事故にくわしい弁護士が解説します。
- 医療記録は、人身被害のある交通事故で、重要な証拠となる
- 診断書とカルテを入手しておけば、後遺障害の慰謝料を増やすのに役立つ
- 医療記録の入手方法では、本人が直接取り寄せるほか、弁護士が代理で開示を求めるのも有効
なお、交通事故によって後遺障害を負ってしまったときに知っておきたい知識は、次のまとめ解説をご覧ください。
まとめ 交通事故の後遺症で、後遺障害慰謝料を請求するための全知識
交通事故被害者が医療記録を入手すべき理由
交通事故の人身被害を受けたときには、まずは治療を行うのが重要です。しかし、ただ漫然と治療を受けるのではなく、治療を受けた経過を記録に残しておき、のちに裁判などの争いとなるとき、証拠として活用することが必要となります。
交通事故の裁判では、医療機関の作成した医療記録が特に重要視されます。当事者が作った資料よりも、専門家である医師が作成している点で、医学的な専門知識にもとづいて症状の正しい分析がされているからです。
そして、交通事故被害者にとっては、以下の理由から医療記録をすみやかに取り寄せる必要があります。
医療記録は重要な証拠となる
交通事故においては、事故の態様や損害の程度、内容などが争いになるケースが多く、裁判に至った時には、それらについて客観的な証拠によって証明する必要があります。
医療記録を証拠として提出すれば、被害にあった交通事故がどのような事故であり、被害者が被った損害がどの程度であるかを、医学的な見地から客観的に証明することが可能となります。また、医療記録は、医学的な知識・経験のある医師が作成しているため、内容の信用性も高く、証拠として重要な価値を持ちます。
後遺障害等級の認定を受け、慰謝料を増額できる
これ以上治療しても完全には治らない時点を「症状固定」といい、症状固定時に障害が残ってしまうことを「後遺障害」といいます。交通事故によって後遺障害を負ってしまったときには、後遺障害によって精神的な苦痛が生じたときには慰謝料請求、収入が減少するなど得られなかった利益については逸失利益の請求を、加害者に対して行う必要があります。
後遺障害による損害額を決めるにあたっては、事故による後遺症がどれほど重いか、「後遺障害等級認定手続」で判定してもらう必要があります。後遺障害等級は1級から14級まであり、後遺障害等級が高いほど、後遺障害慰謝料は高額になります。また、後遺障害の逸失利益も、等級が高いほどになります。
後遺障害等級認定手続においては、交通事故から症状固定までの治療や回復の経過が重要視されるため、これを証する医療記録は必須の証拠です。治療状況を記録したカルテ等の医療記録を添付することで、交通事故被害者に有利な後遺障害認定を獲得できれば、慰謝料を増額することができます。
取り寄せるべき医療記録の種類と内容
ひとことで「医療記録」といっても、その内容はさまざまで、交通事故の態様などによって必要となる資料は変わってきます。そのため、交通事故の当事者はまず、医療記録の種類と内容について、正確に把握する必要があります。
交通事故の被害者が取り寄せるべき医療記録の種類と内容には、次のようなものがあります。
- 診断書
医師が患者の症状について診断した結果を記録した書類。むちうちや捻挫といった具体的な症状、治療期間、原因、作成日付、及び医師名などが記載される。診断書のなかでも、後遺障害等級認定を申請するとき必要となる「後遺障害診断書」が、慰謝料請求のとき最重要の証拠となる。 - カルテ(診療記録・診療録)
医師が患者の診療内容や経過などを記録・保存する文書。電磁的記録で管理されるものを「電子カルテ」という。 医師は、診療したときには、遅滞なく記録し、病院又は診療所において5年間保存しならない(医師法24条1項、2項)。 診療記録(診療録)には、以下で説明する看護記録・検査記録・手術記録・各種画像などが含まれる。 - 看護記録
病院などで看護師によって記入される看護上の諸事項の記録。一般的に、治療における資料としたり、管理運営上の作業効率を上げることが目的で作成される。 - 検査記録
患者の検査結果を記録した資料の総称。CT、レントゲン写真、MRI画像などが含まれる。 - 手術記録
手術の内容、手術方法、手術時間などを記載した記録。外科系の診療録のなかで、重要性が高い診療記録となる。 - 診療情報提供書(紹介状)
医師が他の医師、あるいは医療機関へ患者を紹介するときに発行する書類。一般には紹介状と呼ばれ、診断・治療など、現在までの診療の総括や紹介をする目的などが記載される。 - 診療報酬明細書(レセプト)
患者が受けた保険診療について、医療機関が市町村や健康保険組合などに請求する報酬の明細書。患者の氏名、保険番号、病名、診療報酬点数などが記載される。患者が領収書とともに受領する書面は、診療明細書といい、医療機関によって様式が異なるが、記載内容は基本的に診療報酬明細書と同じ。
交通事故被害者が医療記録を入手する方法
次に、医療記録の入手方法について弁護士が解説します。
医療記録は、医療機関が作成するものですので、医療機関に申請して入手することが原則です。しかし、その交通事故が法的トラブルに発展しているときや、医療機関が非協力的なときには、弁護士に依頼して法的手続きによるサポートを受けたほうがよいケースもあります。
なお、医療記録を入手できたら、ただちに、検討・精査するのが重要です。損害の程度や後遺症の症状を第三者に正確に伝えるために、医療記録をきちんと検討しなければなりません。
もっとも、カルテなどの診療記録は、電子化される前であれば、判読しづらいことも少なくなく、医学的な専門用語が多く記載されています。医療記録の精査には、交通事故に関する専門的な法律知識とともに、診療記録や医療に関する基礎的な知識が必要となります。
本人が直接病院に開示を申請する方法
患者本人であれば、医療機関に直接申請することによって、医療記録を開示してもらうことができます。交通事故の被害者自身が死亡してしまったとき、その遺族もまた同様に医療記録を入手できます。
本人からの申請のみを受け付けている医療機関も少なくありませんので、事前に確認する必要があります。交通事故はもちろんのこと、多くの医療記録の開示申請を受けている医療機関であれば、所定の申請手続きを教えてもらえます。
弁護士が代理で開示を申請する方法
交通事故被害の状況によっては、被害者が自ら開示申請することが難しい場合もあります。そのような場合には、交通事故問題に詳しい弁護士に依頼し、代理で医療記録の開示申請をしてもらうことが可能です。
代理申請の場合には、委任する弁護士に同意書、委任状などを渡すことで、弁護士が代わりに申請すると医療機関に伝えておきます。この場合、交通事故の被害者本人がわざわざ病院で手続きする必要がなく、手間を省けます。
また、医療機関が法律に詳しくなく、カルテなど医療記録の開示に非協力的なとき、弁護士から通知を送ってもらうことで速やかに取り寄せることができます。
第三者が法令に基づき取得する方法
例えば、被害者に意識がない場合など、被害者本人の同意が得られない場合には、当然ながら本人から申請することはできませんし、本人の委任を受けて代理で申請することもできません。このような場合でも医療記録の重要性、必要性は変わりません。第三者が法令に基づいて医療記録を請求することを検討することになります。
また、医療機関の中には、医療記録の提出を拒否したり、不当に高額な金銭を要求したりする機関も残念ながら存在します。このような場合も同様に、強制的に医療記録を入手することのできる法的手続きの利用を検討してください。
法的な手続きとして、交通事故被害のサポートでよく利用されるのは弁護士会照会、証拠保全、文書送付嘱託、文書提出命令です。
- 弁護士会照会
弁護士会が弁護士法23条の2に基づいて、公務所や公私の団体に照会をし、証拠・資料の収集や事実の調査を行う制度。弁護士が弁護士会に申請して行う。事件を弁護士に依頼すれば、弁護士会照会によって医療記録を収集できる。 - 証拠保全
裁判所があらかじめ証拠調べをしなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認める時に利用できる(民事訴訟法234条)。 医療機関から情報開示がされない可能性が高い場合には、弁護士に依頼し、証拠保全の手続きを利用するのが有効。 - 文書送付嘱託
裁判所が、当事者からの申立てによって、文書の所持者に対して、文書の送付を依頼する手続き(民事訴訟法226条)。 文書送付嘱託によって、医療機関が保持している医療記録を入手することができる。 - 文書提出命令
相手方や第三者が文書を所持する場合で、その文書を提出する義務があるときに限り、裁判所がその所持者に対して当該文書の提出を命じる手続き(民事訴訟法220条)。相手方と事故態様が真っ向から対立するようなケースで、文書提出命令の申立てをし、ドライブレコーダー等の証拠を収集することができる。
医療記録を保険会社に請求する方法
ここまでの方法は、医療記録の第一次的な作成者である医療機関から入手する方法でした。
一方で、交通事故のケースの中で、当事者間の争いがそれほどないケースでは、加害者側の保険会社が、医療機関に対して治療費を立替払いしているケースがあります。加害者側の保険会社は、治療費を立替払いするときには、被害者の症状や治療経過を知るために、医療記録の提出についての同意書を取得し、医療記録を収集しています。
このようなケースでは、交通事故に関する法的問題がそれほど多くないことを前提に、加害者側の保険会社に請求して医療記録の提出を求めることもできます。
弁護士に依頼している場合には、弁護士が保険会社に連絡をし、必要な医療記録を入手しますので、被害者自ら手続きを行う必要はありません。
まとめ
今回は、交通事故被害者の立場で、医療記録の重要性と、どのような医療記録をどのような方法で収集したらよいかについて解説しました。
交通事故の相手方が事故態様や損害額などを争っているケースでは、専門的な知識に基づいて適切なタイミングで医療記録を集めておくこと、医療記録を精査することが、十分な慰謝料を得るためにとても重要です。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、交通事故被害に関する数多くの解決実績があります。
事故直後に、被害者が自ら医療記録を収集したり、交渉するのは、精神的にも辛いことでしょう。このとき、交通事故案件に精通した弁護士に依頼して解決するのがおすすめです。交通事故被害でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
交通事故のよくある質問
- 交通事故被害にあったとき、なぜ医療記録を入手する必要があるのですか?
-
交通事故の被害を証明するとき、医療記録はとても重要な証拠となります。そのため、被害者側では、医療記録をすみやかに入手しておかなければなりません。特に、後遺症を負ってしまったとき、医療記録を入手することが、後遺障害認定を受け、後遺障害慰謝料を請求するといった有利な解決に繋がります。詳しくは「交通事故被害者が医療記録を入手すべき理由」をご覧ください。
- 交通事故の被害者が入手すべき医療記録には、どんなものがありますか?
-
交通事故の被害者が、集めておくべき医療記録で、最も重要なのが診断書とカルテです。被害状況について、医師が記載した最も証明力の高い資料だからです。その他に、看護記録や検査結果、画像記録なども役立ちますので、集められるかぎりの資料を入手しておいてください。もっと詳しく知りたい方は「取り寄せるべき医療記録の種類と内容」をご覧ください。