2020年4月1日より、債権法部分が大幅に改正された新しい民法が適用されました。
この民法改正には多くの重要な変更点がありますが、特に、不動産売買契約で注意しなければならない改正が「瑕疵担保責任」についてのルールの変更です。売買対象物に瑕疵、欠陥があったときの責任についてのルールが、今回の民法改正で、大きく変更されることとなったからです。
土地、建物などの不動産の取引は、金額が高額となるため、対象物が約束とは違ったときには、その責任追及について厳格に考えなければなりません。そのため、これまで使用していた不動産売買契約書の書式例、ひな形を使いつづけると、民法の改正後は、予想外の損失を被るおそれがあります。
今回は、不動産売買契約書について、2020年4月1日施行の改正民法に適合させるため、契約書チェックと修正点のポイントを、企業法務にくわしい弁護士が解説します。
「不動産売買契約」とは?
売買契約とは、当事者の一方が、財産権を相手に移転することを約束し、相手方が、これに対して、その代金を支払うこと約束するという契約です。民法には、売買契約について、次の条文が定められています。
民法555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
民法(e-Gov法令検索)
民法に定めのある重要な契約類型を、「典型契約」といいます。売買契約は、日常生活でも最もよく行われる契約の1つであり、「典型契約」として民法に定められています。
そして、売買の目的物が不動産のケースを、不動産売買契約といいます。
不動産とは、動かすことの難しい財産のことであり、典型的には、土地、建物のことです。居住用の自宅やその敷地だけでなく、会社事務所用の貸しビル、オフィスビルや、田畑、山林、道路なども、広く「不動産」に含まれます。
【ポイント1】「契約不適合責任」への変更
2020年4月1日に施行の改正民法で、あらたに導入された考え方として、「契約不適合責任」があります。「契約不適合責任」とは、売主が買主に引き渡した目的物の性質、状態などが、契約の目的などから判断して契約内容に適合しないとき、売主が買主に対して負う責任です。
売買契約では、「売買の対象物に瑕疵や欠陥があったとき、どんな責任を追及できるか」が問題となります。なかでも、不動産売買契約は、対象となる不動産の価値が高く、代金が高額となることが多いため、万が一にも不備があったとき、トラブルはとても大きくなってしまいます。
このようなケースで、当事者の責任の取り方を決めるのが、改正前の民法で定められていた「瑕疵担保責任」であり、改正後の民法では「契約不適合責任」にあらためられました。
そして、契約不適合があったときの売主の責任について、改正民法では、
の3つが定められています。
【ポイント2】買主が知っている責任も追及できる?
民法改正にともなって、「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変更されたことに関連した重要なポイントは、「買主が知っている瑕疵についても、責任追及できる可能性がある」という点です。
というのも、従来の民法に定められていた「瑕疵担保責任」は、「隠れた」瑕疵についての売主の責任とされていました。これに対して「契約不適合責任」のルールは、「契約内容に適合しているかどうか」で決まっており、その瑕疵や欠陥が「隠れているかどうか」で決められているわけではありません。
したがって、改正民法にいう「契約不適合責任」では、不動産売買契約で、その対象物の欠陥が契約内容に適合していなければ、仮に契約時に、その瑕疵を買主が知っていたとしても、売主に責任追及できるケースが生じる可能性があります。
ただし、買主が欠陥をあらかじめ契約時に知っていたことは、損害額を減少させる方向にはたらく事情の1つとなります。また、当然ながら、その瑕疵を前提として不動産の価格交渉を行っていた、といったケースでの契約不適合責任の追及は難しいです。
【ポイント3】多様な責任追及手段の追加
改正前の民法では、瑕疵担保責任のルールで、目的物となる不動産に瑕疵があったときに、責任追及手段は、「解除」、「損害賠償請求」の2つに限定されていました。
しかし、契約解除、損害賠償請求という責任追及は、契約自体に大きな影響を与えるものであるため、瑕疵がそれほど大きくないケースなど、そこまで大事にする必要はないというケースもあり、より柔軟な解決策が望まれていました。
改正民法では、契約解除、損害賠償請求に加えて、「履行追完請求(修補、代替物の引渡しなど)」、「代金減額請求」があらたに法律に定められました(なお、損害賠償請求は、これらの新しい責任追及の方法と併用できます。)。
履行追完請求
民法562条は、契約不適合の責任追及の方法として「履行追完請求」を定めています。そして、追完の方法としては、「目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行」を挙げています。
ただし、買主が求める追完方法が、無制限に認められるわけではないことには注意しなければなりません。買主に「不相当な負担」を課すのでなければ、売主は、別の方法での追完することもできます。
また、契約不適合が「買主の責めに帰すべき事由」によるときは、買主は、そもそも追完請求ができません。
代金減額請求
代金は、売買目的物の対価として支払うものです。そのため、売買目的物に契約不適合がある場合には、等価交換の関係を維持するために、買主は代金減額請求をすることができることが、改正民法には明記されました。
ただし、代金減額請求は、売買契約の一部解除と同じ機能があるので、一定の要件を満たす場合に限り、請求が可能です。
その要件とは、次の3つです。
- 履行の追完の催告をしても相当期間されない場合
- 履行の追完方法がない場合
- 売主が履行の追完それ自体に対して明確な拒絶の意思表示をしている場合
【ポイント4】売主の責任期間が延長された
従来、売買契約の対象となる不動産に瑕疵があったときでも、「瑕疵担保責任」には、次のとおりの期間が定められていました。「隠れた瑕疵」についての責任ではあるものの、あまりに長期間経過した後で責任追及するのは妥当ではないと考えられるからです。
- 個人間の不動産売買
買主が瑕疵を知ったときから1年間(民法566条1項) - 会社間の不動産売買
引渡しから6ヶ月間(商法526条2項)
取引の安定の要請から、会社間の売買のケースでは、責任追及の期間が短めに設定されています。一方で、個人間の売買のケースでは、不動産売買になれていない個人を保護するため、責任追及の期間が長めに設定されています。2020年4月の改正民法施行後も、この期間に変更はありません。
しかし、改正民法では、売主が瑕疵を知っていたか、または、知らないことに重過失があった場合には、この期間制限は適用されないこととなりました(民法566条1項但書)。つまり、「悪意または重過失」のときは期間制限が適用されず、その結果、民法の一般的な消滅時効に合わせて「5年間」は責任追及できることとなります(なお、この消滅時効についても、改正前は10年とされていたものが、改正により5年に変更されました)。
なお、こちらの「悪意または重過失」の場合に期間制限が適用されないことを定めた民法566条1項ただし書は、「任意規定」であるため当事者の合意によって排除できます。この点についての契約書チェックのポイントは、後ほど解説します。
【ポイント5】手付のルールが明確化された
「手付金」とは、不動産売買契約のときに、買主から売主に交付される金銭で、その性質には、次の3つの意味があります。
- 証約手付
不動産売買が成立した証拠として、買主から売主に対して交付される手付 - 解約手付
解約権の留保を意味し、売主からは「手付金の倍額の返還」、買主からは「手付金の放棄」をすることで、理由を問わず、契約を解除できるという意味をもつ手付 - 違約手付
債務不履行があったときには、売主の違反に対しては「手付金の倍額の返還」、買主の違反に対しては「手付金の放棄」によって、損害賠償があったこととする意味をもつ手付
そして、一般的に授受される手付金のほとんどが、「解約手付」として授受されているのは周知のとおりです。
今回の民法改正において、手付についてのルールは、従来の実務どおりで変更はありませんが、法律の条文上、より明確にされた点があります。
手付による解約は、改正前の民法では「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と定められていましたが、従来の裁判例の実務でも、この意味は、「解約をされる相手方が契約の履行に着手するまで」であるとされていました。2020年4月に施行された改正民法では、この実務上の解釈が、法律の条文上も明確にされ、「相手方が契約の履行に着手するまで」と条文の文言が変更されました。
【ポイント6】危険負担のルールが明確化された
「危険負担」とは、特定の物を対象とした契約において、一方の債務が後発的な履行不能によって消滅した場合に、他方の債務がどんな影響を受けるかという問題です。
例えば、不動産の売買契約を締結した後、引渡前までに建物が地震等で滅失等した場合に、売主が買主に対して売買代金の支払いを請求できるのかというケースで、危険負担の問題が顕在化します。
従来の民法では、債務者の帰責事由なく商品の引き渡し義務が履行不能となった場合、債権者は、商品を受け取れないにもかかわらず代金を支払わなければならないというルール(債権者主義)を採用していました。
しかし、この「債権者主義」が不合理であることや実務上の運用を考慮し、今回の民法改正では債権者主義は廃止され、債権者は、反対給付を履行拒絶できることとなりました。つまり、目的物を渡せない場合、代金を支払う必要はないということです。
また、これまでかならずしも明らかではなかった目的物の滅失等に関する危険の移転時期については「引渡し」の時点をもって危険が移転することが明文化されました。
【ポイント7】帰責性(落ち度)なく解除できる
従来の民法では、債権者(解除する側)が契約を解除するには、債務者(解除される側)の帰責性(落ち度)が必要とされていました。
しかし、改正民法では、「解除」の意味は「責めること」にあるのではなく「契約の拘束力からの解放」にあると考えがあらためられました。その結果、帰責性(落ち度)と関係なく、解除できるようになりました。もっとも、債権者に帰責性があるときには解除が認められません。
また、改正民法においては、上記解除制度の趣旨から、解除が認められる場合を「重大な契約違反」のあるケースに限定しています。具体的には、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微である」場合には、契約を解除できません(民法541条ただし書)。
違反が軽微であるかどうかの判断は、契約書の文言だけではなく、取引上の社会通念も考慮して総合的に判断されます。
例えば、契約書で一定の事由を解除事由と規定していたとしても、当該事由に該当する不履行が、契約の性質、契約をした目的、契約締結の至る経緯などから軽微と判断された場合、解除は認められません。
【重要】「不動産売買契約書」の契約書チェックの修正点
では、ここまで解説してきた、「不動産売買契約書」に影響し得る民法の改正ポイントを理解していただいた上で、実際に、改正民法に適合した契約書を参考にしながら、契約書チェックで修正すべきポイントについて弁護士が解説します。
売買契約の目的物が不動産であると、すでに決まった書式やひな形を参考に契約するケースが少なくありません。不動産売買契約書では、このような書式を参考にしつつ、物件の個別性や当事者の事情を踏まえ、条項の修正や追加を行います。
売主〇〇(以下「甲」という。)と買主〇〇(以下「乙」という。)とは、甲の所有する不動産について、次の通り、契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的)
甲は、下記条件で、甲の所有する下記建物(以下「本件建物」という)について、第2条の代金で売り渡し、乙は、〇〇の目的でこれを買い受ける。 記
<建物の表示>
所在 東京都港区〇〇
家屋番号 〇番
構造 鉄筋3階建て
床面積 1階〇〇平方メートル
2階〇〇平方メートル
3階〇〇平方メートル
第2条(売買代金)
本件建物の売買代金は金〇〇円とする。
第3条(手付金等)
(省略)
第4条(支払方法)
乙は、甲に対し、第2条に定める売買代金を下記の通り支払う。
(省略)
第5条(登記手続き)
1 所有権移転登記は、令和〇年〇月〇日までに完了させるものとして、甲及び乙はその日までに本件不動産の所有権移転登記申請に必要な書類を準備するものとする。
2 所有権移転登記手続きに関する費用は全て乙の負担とする。
第6条(引渡し)
本件建物の引渡しは、令和〇年〇月〇日に〇〇(場所)において甲乙双方の立ち合いの下、第4条の支払いと引き換えに行う。
第7条(危険負担)
1 甲及び乙は、本件建物の引渡し完了前に天災地変、その他甲又は乙いずれの責に帰すことのできない事由により、本件建物が滅失又は毀損して本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面によりその相手方に通知して、本契約を解除することができる。
2 前項によって本契約が解除されたときには、甲は乙に対し、手付金及び売買代金等を含め受領済みの金員を無利息にて速やかに返却する。
第8条(公租公課の負担)
(省略)
第9条(保証)
(省略)
第10条(契約不適合責任)
引き渡された本件建物が、種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない(以下、「契約不適合」という。)場合、乙は甲に対して、本件建物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
ただし、甲は、乙に不相当な負担を課するものでないときは、乙が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
第11条(催告解除)
甲及び乙は、相手方がその債務の全部又は一部について本契約に従った履行をしない場合において、〇日間以上の期間を定めてその履行の催告を行ったが、その期間内に本契約に従った履行がないときは、当該債務の不履行が自らの責に帰すべき事由によるものであるか否かに関わらず、本契約を解除することができる。但し、不履行の態様が契約の目的等に照らし、軽微である場合には解除できない。
第12条(無催告解除)
甲及び乙は、相手方が次の各号の一に該当した場合には、自ら責に帰すべき事由によるものであるか否かに関わらず、前条の催告を行うことなく、直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1)債務の全部の履行が不能であるとき
(2)債務の一部の履行が不能である場合において、残存する部分のみでは本契約の目的が達成できないとき
(3)第三者から差押、仮差押、仮処分、強制執行、競売等の申立てがされたとき
(4)(省略)
第13条(反社排除条項)
(省略)
第14条(合意管轄)
(省略)
「契約不適合責任」について契約書文言の変更
「契約不適合責任」は、従来の民法にあった「瑕疵担保責任」の考え方と類似しており、その名称を変えた考え方です。つまり、売買対象となった不動産(土地または建物)に不備があったときに、当事者がどんな責任を負うか(どんな責任追及ができるか)を定めたルールです。
まず、すでにお使いの書式、ひな形に「瑕疵担保責任」の条項があるときは、すべて「契約不適合責任」に変更してください。そして、「瑕疵があったとき」の責任を定める文面を、「契約の内容に適合しないとき」の責任に修正します。ただし、「契約不適合」の考え方は、従来の「瑕疵」があるかどうかの考え方と同様と考えられているため、その部分についての細かい修正は不要なケースがほとんどです。
そして、契約内容に適合するか否かは、契約の目的や取引通念を総合して判断されますので契約書においては目的、動機などを詳細に規定しておき、責任追及のトラブルが拡大しにくいよう予防しておきます。
不動産売買契約書のリーガルチェックにおいて、後の紛争を予防するという観点から、目的規定を具体的に記載しておくべきことは、売主・買主のいずれの立場でも当てはまります。
「契約不適合責任」は任意規定
次に、不動産売買契約書チェックの2つ目のポイントは、改正された「契約不適合責任」は、従来の「瑕疵担保責任」と同様、「任意規定」だということです。
基本的な考え方を説明すると、法律の規定には「強行規定」と「任意規定」の2つの考え方があります。
「強行規定」は、当事者間で合意しても変更することのできない強制的なルールのことです。例えば、刑法のように違反すると影響の大きい法律は、当事者が合意したとしても違反することができません。
これに対して「任意規定」は、当事者が合意すれば、法律と異なるルールを定められる規定のことです。民法は基本的に任意規定ばかりの法律であり、特に、契約のルールについては、当事者間で民法と異なるルールを定めることができることがほとんどです。
以上のことから、「契約不適合責任」が任意規定であるため、不動産売買契約書のチェックの際に、この責任についてのルールを、民法上のルールとは異なるものとしたいときには、当事者で協議し、契約書に記載しておくことで変更可能であるということです。
ただし、当事者の一方が宅建業者の場合、宅建業者は不動産の専門家ですから、当事者間が対等ではなく、当事者間の協議と合意によってルールを変更できてしまうと、宅建業者に不当に有利になってしまいかねません。
そのため、宅建業法40条では、宅建業者が当事者の場合には、「契約不適合責任」のルールは当事者の同意によっても変更、修正できないと定められています。
そして、この定めは、2020年4月1日に改正民法が施行された後も変わりません。
「多様な責任追及」について契約書文言の修正
さきほど解説した通り、改正民法では、「契約不適合責任」を追及するにあたって、従来の民法にも定められていた「契約解除」、「損害賠償請求」に加えて、「履行追完請求」、「代金減額請求」が認められることとなりました。
そのため、不動産売買契約書においても、これらの責任追及を買主が選択できるようにしておく修正が考えられます。
例えば、「柱が折れている」といった重大な瑕疵の場合に、契約解除と損害賠償請求を選択される場合が多いでしょうが、「小さな雨漏りがある」といった軽微な瑕疵の場合には、契約解除までする必要はなく、修理をしてもらうか、修理費分の代金を減額してもらえば足りるケースも多いのです。
売主側からしても、このような軽微な瑕疵の場合に、「修補請求に応じれば、それ以上の損害賠償請求には応じない」ことを定める方法もあります。
責任追及の選択肢が増えたことにより、不動産売買契約書であらかじめ合意しておくことによって、より柔軟な責任追及を、当事者同士で協議、検討することが可能となりました。
「売主の責任期間の延長」について契約書文言の変更
改正民法にいう「契約不適合責任」を追及できる期間について、個人間売買について「瑕疵を知ったときから1年間」、会社間売買について「引渡しから6か月」であり、ただし、売主に故意または過失があった場合、民法の消滅時効にあわせて「5年間」となる、と解説しました。
そして、この条項は任意規定であり、契約書に定めることにより、これとは異なる期間を定めることも可能です。
実務上、不動産売買契約を交わした後、5年間もの長期間にわたって、「瑕疵が見つかったら責任追及をされる可能性がある」という不安定な状態に売主を置くことは不相当といわざるをえないケースが多いのではないかと思います。
そのため、この条項を契約書で明示的に排除し、契約時に売主が瑕疵を知っていた場合であっても、「1年間」の期間が経過すれば、契約不適合責任を追及することができなくなるよう、契約書の文言を修正しておくのがおすすめです。具体的には、契約不適合責任を定める条項の中に、「民法566条1項但書は適用を排除する」と記載しておいてください。
「手付ルールの明確化」について契約書文言の変更
現在お使いの不動産売買契約の書式・ひな形がおありの方は、「手付金」に関する条項についてチェックをしてください。
今回、民法改正によって、手付による解除をするときの期限について「当事者の一方が契約の履行に着手したとき」とする規定を、「相手方が契約の履行に着手したとき」に改正されました。
そのため、同様に、不動産売買契約の条文でも、「当事者の一方」とされている部分について「相手方」と明記していただく変更をしてください。このことは、従来の裁判例実務でも、解釈上そのように運用されていましたが、契約書の文言からも明確にわかるようにしておくべきです。
なお、この民法改正と契約書の修正の後であっても、「どの時点で、どの行為をもって『履行の着手』といえるのか」という争いが起こる可能性があります。
「危険負担の明確化」について契約書文言の変更
「危険負担」とは、どちらの責任でもない事情で、目的不動産が滅失してしまったときに、どのように処理するかについてのルールです。この場合に、「債権者主義」が廃止されたことから、目的不動産が滅失してしまったとき、どちらの責任でもない場合には、代金を支払う必要はなくなりました。
ただし、この場合でも、当然に契約が終了するわけではないとするのが改正民法のルールであることから、契約関係を終了するための解除の規定を契約書に明記しておく必要があります。
また、改正民法によって危険の移転時期が「(不動産の)引渡し時」であることが明文化されましたが、さらに「引き渡し時とはどの時点なのか」という争いが再燃することが予想されます。
そのため、不動産売買契約書では、どの時点のどのような行為をもって「引渡し」とするのかについて、争いを未然に防止するため、明確化しておく必要があります。売主側で契約書チェックをするのであれば「より早い時期」に、買主側であれば「より遅い時期」に危険が移転するほうが有利ですので、その点もふまえ契約書を再検討することが重要です。
「解除ルールの変更」について契約書文言の変更
債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるか否かは、文言が抽象的であるため、後日紛争が生じる可能性が高いです。そのため、契約書自体や別紙等によって軽微ではない事項を列挙することや、契約の目的を詳細に規定することも有効です。
改正民法は、債権者(解除する側)に帰責性がある場合には解除できないと規定されており(民法543条)、債権者と債務者双方に帰責性がある場合には債権者からの解除が認められない可能性がありますので、「債務不履行が自ら(=債権者)の責めに帰すべき事由によるときでも解除は妨げられない」旨の条項を定めて、仮に債権者に帰責性がある場合でも解除できるようにしておくことが大切です。
まとめ
今回は、不動産(土地、建物)の取引においてよく利用される不動産売買契約書について、2020年4月1日より施行された改正民法を踏まえた契約書リーガルチェックのポイントを、弁護士が解説しました。
不動産(土地、建物)の取引は、対象となる不動産の価値が高く、取引額が大きくなりがちであるため、1つのミスが、取り返しのつかない大きな損失、負担につながるおそれがあります。
特に、この度の改正民法では、責任追及の方法である「瑕疵担保責任」を「契約不適合責任」に変更したことにより、多くの契約書文言の修正が必要となる可能性があります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所は、企業法務に精通しており、契約書の修正、変更についてもスピーディに対応できます。
現在、不動産売買契約書について書式、ひな形を利用しているけれども、民法改正に未対応であるという方は、ぜひ一度、弁護士に法律相談くださいませ。