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錯誤とは?意味と要件、具体例や民法改正による変更点を解説

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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意思表示のミスや誤解に後から気付いたことで、トラブルに発展するケースがあります。

意思表示の瑕疵のうち、ミスや誤解に基づくものを「錯誤」と呼びます。「勘違いして契約してしまった」「実際の内容が思っていたのと違っていた」など、重要な認識の食い違いがあるとき、錯誤を理由として意思表示を取り消すことができます(民法95条)。

2020年4月施行の民法改正では、錯誤のルールにも重要な変更が加えられました。特に、錯誤の効果が従来の「無効」から「取消し」へ変更されたこと、錯誤の重要性や動機の錯誤の表示など、これまで判例で確立された法理が法律に明文化されたことが重要となります。

今回は、錯誤の意味や取消しが認められる要件について、具体例を交えてわかりやすく説明します。また、民法改正による変更点についても、弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 錯誤は意思表示に誤認やミスがある場合を指し、重要であれば取消しが可能
  • 表示の錯誤と動機の錯誤があり、動機の錯誤は相手に表示されている必要がある
  • 2020年民法改正で、錯誤の効果が「無効」から「取消し」に変更された

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目次(クリックで移動)

錯誤とは

はじめに、錯誤とはどのようなものか、基本的な知識を解説します。

錯誤とは、表意者の誤った認識や判断が原因となって、意思表示と内心の真意の間に不一致が生じている状態のことを指します。錯誤があると、その意思表示の有効性が問題となります。民法95条では、以下の通り、錯誤に基づく意思表示について、一定の要件を満たす場合には、取り消すことができると定められています。

民法95条(錯誤)

1. 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2. 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3. 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4. 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

民法(e-Gov法令検索)

例えば、錯誤が問題となる具体的なケースには、次のものがあります。

  • 価格の表示に誤記があった契約
    売買契約で「1,000万円」で売却するつもりが契約書に「100万円」と記載した場合、「1万円」で売るつもりが「1万ドル」と記載した場合など。
  • 取引の対象を取り違えた契約
    本来は「土地A」を購入したかったのに、物件名を誤認して書類上「土地B」を購入する契約を締結した場合など。
  • 契約動機に誤解があった場合
    「将来、新駅の開発計画があるので価値が上がる」と期待して不動産を購入したが、後日噂に過ぎないことが判明した場合(動機の錯誤であり、後述の通り、それが相手にも表明された場合に限って取り消すことができます)。
  • 商品の品質に関する思い違い
    新商品が「自分の期待した性能を備えている」と誤信して契約した場合など。

錯誤の種類には、大きく分けて「表示の錯誤」「動機の錯誤」の2種類があります。

表示の錯誤

表示の錯誤とは、当事者が内心で意図した内容と、実際の意思表示が一致しない状態です。

民法95条1項1号の「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」が、表示の錯誤です。つまり、表示行為は存在するものの、その表示に対応した意思がない場合をいい、書き間違いや記載ミス、言い間違い、表示内容の誤解、意図しない電子的な申込みなどが該当します。

表示の錯誤がある場合、その錯誤が法律行為の目的や取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、取り消すことが可能です。

動機の錯誤

動機の錯誤とは、契約締結の動機や基礎となる事情について誤った認識がある状態です。

民法95条1項2号の「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」が、動機の錯誤です。つまり、契約締結時点において、法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反していることが必要とされます。例えば、不動産の将来価値に関する誤信、商品の性質についての誤った期待などが該当します。これに対し、契約締結後に事情が変化して履行できなくなっただけでは、契約締結時の意思決定に錯誤があるとは言えません。

動機の錯誤がある場合、その錯誤が重要なものであることに加え、相手方に表示されていた場合に限って取り消すことが可能です。

錯誤による取消しが認められる要件

次に、錯誤による取消しが認められる要件について解説します。つまり、どのようなケースで、錯誤を理由として意思表示を取り消すことができるのかという点です。

錯誤に基づく意思表示であること

錯誤による取消しが認められるには、意思表示が錯誤に基づくものであることが必要です。つまり、錯誤がなければ、表意者がその意思表示をしなかったであろうという主観的な因果関係が必要です。この点は、取消しを主張する表意者が立証責任(証明責任)を負います。

錯誤が重要なものであること

錯誤による取消しが認められるには、その錯誤が重要なものでなければなりません。

具体的には、民法95条に定められている通り、法律行為の目的や取引上の社会通念に照らして重要なものであることが必要とされます。

従来の裁判例では、法律行為の要素の錯誤が必要とされていました。要素の錯誤とは、目的や条件、価格、対象物といった契約の根幹に関わる事項に誤認があることを指します。

これは、些細な誤解や、訂正が可能な誤記などでは、錯誤が成立しないことを示す要件です。少なくとも、その誤認がなければ表意者が意思表示をしなかった(契約を締結しなかった)と言えるほど、重大な影響を及ぼすものでなければなりません。錯誤の重要性について、具体的には、①錯誤がなければ表意者は意思表示をしなかったであろうという主観面と、②通常人であっても錯誤がなければ意思表示をしなかったであろうという客観面の双方から判断されます。

動機の錯誤の場合は表示されていること

動機の錯誤の場合、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限って取消しが可能とされています(民法95条2項)。

ただし、表示があるかどうかは、個別の事情に応じた慎重な判断が必要です。

表示は、明示ではなく黙示のものでも足りるとされている一方で、事情が表示されていても、当事者の意思解釈からして、それが法律行為の内容とされていない場合は、法律行為の重要な錯誤とはならないと判断されるケースもあります。

表意者に重大な過失がないこと

錯誤が表意者の重大な過失による場合、取消しを主張することはできません。

明らかな不注意や調査不足が典型例であり、例えば、契約締結前に確認すれば容易に誤りに気付けたにもかかわらず、確認を怠って契約した場合、重大な過失による錯誤と言えます。

ただし、表意者に重大な過失があっても、相手方が表意者に錯誤があることを知り、または重大な過失によって知らなかった場合、相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていた場合には、この制限が適用されず、錯誤による取消しが認められます。

錯誤による取消しの効果

錯誤による効果は「取消し」であり、表意者による取消しの意思表示が必要です。

錯誤により意思表示が取り消されると、その法律行為は初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。そのため、既に履行された部分について、原状回復を請求できます。

ただし、取消権は、追認をすることができる時から5年間、または行為の時から20年間行使しないと消滅します(民法126条)。また、錯誤によって取り消すことができる取消権者は、瑕疵ある意思表示をした者、その代理人または承継人に限られています(民法120条2項)。

民法95条4項は、錯誤による意思表示の取消しを、善意かつ過失がない第三者に対抗できないと定めています。「第三者」とは、錯誤による意思表示の当事者とその包括承継人以外の者で、錯誤による法律関係を基礎に、新たに独立した法律上の利害関係を取得した者を指します。

例えば、表意者が錯誤によって物を相手方に売却した後、その物を第三者に転売して引き渡した場合、第三者が錯誤を知らず、かつ知らないことに過失がなければ、表意者は取消しの効果を第三者に対抗できず、物を取り戻すことができません(この場合、相手方に対する損害賠償請求などで対応することとなるのが通常です)。

錯誤と他の意思表示の瑕疵の違い

意思表示の瑕疵には、錯誤と似た考え方として、他に「詐欺」「強迫」があります。いずれも、当事者の意思決定の自由を損なう理由となりますが、法律上の扱いが異なります。

  • 詐欺(民法96条)
    他人に騙され、誤信して意思表示をすることを指し、取消しが可能です。錯誤が「本人の勘違い」であるのに対し、詐欺は「相手の故意による欺き」である点が異なります。相手の欺罔行為という違法があるため、表意者に過失がある場合であっても取消しは制限されず、加害者への損害賠償請求も可能です。
  • 強迫(民法96条)
    相手に脅されて意思表示をすることを指し、取消しが可能です。相手の不法な圧力によって、「誤って」というよりは「脅威によって意思表示が歪められた」状態を指すため、救済する必要性が高いと考えられます。

共通点は、錯誤・詐欺・強迫はいずれも「意思表示の瑕疵」と呼ばれ、被害を受けた当事者が「取消し」によって遡って意思表示をなかったことにできる点です。​

ただし、錯誤は表意者に重大な過失があると原則取消し不可という制限があるのに対し、詐欺・強迫にはそのような制限がありません。錯誤は「不注意」「勘違い」という側面があるため、自らにも落ち度がある場合は救済されないと考えられています。

なお、詐欺による取消しは、錯誤と同じく、善意無過失の第三者に対抗することができませんが(民法96条3項)、強迫による取消しにはこの制限がなく、善意無過失の第三者に対しても取消しの効果を対抗することができます。強迫による意思決定の自由の侵害は錯誤や詐欺よりも重大であり、被害者保護の必要性が高いと考えられているためです。

民法改正による「錯誤」の変更点

最後に、2020年4月施行の民法改正における、錯誤に関する変更点を解説します。契約書の書式・ひな型が古いとき、法改正を反映して修正することがリスク管理のために非常に重要です。

なお、改正の全体像は「民法改正(2020年4月施行)」を参照してください。

錯誤の効果が変更された

最も重要な変更は、錯誤の効果が「無効」から「取消し」に変更されたことです。

錯誤があった場合の効果について、改正前は「無効」とされ、表意者の意思にかかわらず自動的に効力を失うものとされていました。これに対し、改正後は「取消し」とされ、表意者が自ら取消しの意思表示をしない限り、契約は有効に存続することとなりました。これは、単なる用語の変更にとどまらず、実務上、次のような影響があります。

  • 取消権者が限定される
    取消しを主張できる者(取消権者)は、瑕疵ある意思表示をした者(表意者)とその代理人、承継人(相続人など)に限定されます(民法120条2項)。
  • 追認の規定が適用される
    取消しには追認の規定が適用される結果、追認した後は取り消すことができません(民法122条)。ただし、取消しの原因となった状況が消滅し(表意者が錯誤の影響下から脱し、真実を認識した状態になり)、かつ、取消権を有することを知った後でなければ、追認は効力を生じません(民法124条1項)。

動機の錯誤が明文化され要件が整理された

動機の錯誤について、改正前は法律に規定がなく、裁判例で、動機が明示されて契約の基礎となっている場合に限って認められると判断されてきました。改正後はこの点が民法に明文化されました。具体的には、「前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる」(民法95条2項)とされました。

これにより、動機の錯誤の扱いが明らかにされ、その基準も明確化されたため、紛争を防止する効果が高まったということができます。

表意者の重大な過失の例外が明記された

錯誤が表意者の重大な過失による場合には取消権が制限されますが、この制限には例外がありました。改正前は、具体的な基準は裁判例に委ねられてきましたが、改正後は、前述の通り、相手方が表意者に錯誤があることを知り、または重大な過失によって知らなかった場合、相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていた場合といった要件が具体化されています(民法95条3項)。

取消時の第三者保護が明確化された

錯誤の効果が「無効」から「取消し」に変更されたことで、権利を取得した第三者が、「取り消されるかどうか」によって不安定な地位に置かれかねない状況が生まれます。そのため、善意無過失の第三者が権利を取得した場合に、保護すべきであるという考え方もあわせて明文化されました。

改正民法では「第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」として、第三者の保護が図られています(民法95条4項)。

【まとめ】錯誤について

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、錯誤に関する基本的な法律知識について解説しました。

錯誤とは、意思表示をした人の認識と実際の事実などの間に食い違いがあることをいいます。契約などの意思表示に錯誤があり、その錯誤が法律行為の目的や取引上の社会通念に照らして重要なものであるなど、民法上の要件を満たす場合、意思表示を取り消すことが可能です。

ただし、表意者に重大な過失がある場合、錯誤による取消しは認められません。また、取消しの可否を判断するには、錯誤の内容や契約締結の経緯、相手とのやり取りを検討する必要があります。

2020年4月に施行された改正民法では、錯誤の効果が「無効」から「取消し」へ変更されるなど、従来のルールが大きく整理されたため、錯誤を理由に取り消したい方も、相手から錯誤による取消しを主張された方も、早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。

この解説のポイント
  • 錯誤は意思表示に誤認やミスがある場合を指し、重要であれば取消しが可能
  • 表示の錯誤と動機の錯誤があり、動機の錯誤は相手に表示されている必要がある
  • 2020年民法改正で、錯誤の効果が「無効」から「取消し」に変更された

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