
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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浅野英之
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借金や売掛金といった債権には、消滅時効があります。
消滅時効とは、一定の期間にわたって権利を行使しない状態が続いた場合に、その権利を消滅させる制度です。時効が完成し、債務者が援用すると、裁判上は請求が認められなくなります。つまり、本来は支払義務のあったはずのお金でも、強制的な回収ができなくなってしまいます。
債権の時効は「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間(生命・身体の侵害の場合は20年間)」です。2020年4月施行の民法改正で消滅時効のルールが見直されたため、現在のルールを正しく理解することが大切です。
今回は、消滅時効とはどのような制度か、債権の時効は何年なのかについて、民法改正の内容も踏まえ、弁護士が解説します。
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はじめに、消滅時効とはどのようなものか、基本的な意味について解説します。
消滅時効とは、権利を行使しない状態が一定期間続いた場合に、その権利を消滅させる制度です。債権者が長期にわたり債権を行使せずにいると、消滅時効が完成し、債務者が時効を援用することで、裁判では債権を行使できなくなります。
債権を回収する側にとって、長期間放置すると回収できなくなるリスクがあるため、消滅時効の期間や起算点を正確に把握しておくことが重要です。
民法166条では、債権の消滅時効について定められています。
具体的には、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」「権利を行使することができる時から10年間(生命・身体の侵害の場合は20年間)」のいずれかが経過すると、債権は時効により消滅します。債権とは例えば、貸金返還請求権、売掛金請求権などが含まれます。
債権の時効が完成し、債務者が援用すると、裁判では請求が認められなくなります。

消滅時効を裁判で認めてもらうには、時効期間の経過に加え、「援用」が必要となります。
民法145条では、「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」と定められています。
時効の援用とは、時効によって利益を受ける者が、「消滅時効を主張する」という意思を表示することです。例えば、借金について時効期間が経過した場合、債務者が裁判などで消滅時効を援用すれば、債権者は原則としてその債権を行使できなくなります。一方で、債務者が時効を援用しない場合、任意に支払いをすることも可能です。
「本来支払うべき債務なのに、時間が経っただけで請求できなくなるのはおかしい」と感じる方もいるかもしれません。しかし、消滅時効には、法律関係を安定させる重要な役割があります。
消滅時効が設けられているのは、主に次のような理由があります。
次に、債権の消滅時効について、より詳しく解説します。
債権の消滅時効は、前述の通り、原則として「5年」または「10年」です。民法166条では、債権について「権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間」のいずれか早い方の期間が満了すると、消滅時効が完成すると定めています。また、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については「20年間」とされています。
前者の5年間は債権者の認識を基準とするため「主観的起算点」、後者の10年間は客観的に権利を行使できるようになった時を基準とするため「客観的起算点」と呼ばれます。いずれかを選択できるわけではなく、早い方の期間が満了した時点で消滅時効が完成する点に注意が必要です。
債権者が、権利を行使できる状態を認識した時点から5年で時効が完成します。
例えば、返済期限を決めてお金を貸し、債権者もその返済期限を把握している場合、通常は返済期限が到来した時点で「権利を行使することができることを知った」と考えられます。そのため、時効の完成猶予や更新がなければ、返済期限の到来から5年が経過することで時効が完成します。
債権が発生した時点と時効の起算点は、必ずしも一致するわけではなく、上記の例のように返済期限を定めていた場合は、その期限の到来が基準となります。また、債権者が権利を行使できる状態であることを認識していない場合、主観的起算点による時効は進行しません。
権利を行使できる時から10年が経過した場合にも、時効が完成します。
こちらの期間は、債権者が実際に権利を行使できることを知っていたかどうかにかかわらず、客観的に権利を行使できるようになった時が基準とされます。権利を行使できる状態になったにもかかわらず債権者がそのことを知らなかったとき、「権利を行使できる時から10年間」という客観的起算点による時効が先に到来することがあります。
この場合、10年の時効期間の経過によって、債権は時効消滅します。債権者の認識の有無にかかわらず、法律関係がいつまでも不安定な状態になることを防ぐ役割があります。
以上の原則に対し、債権の種類によって異なる時効期間が適用されることがあります。
判決などで確定した権利について、時効期間は10年間となります(民法169条)。
例えば、時効期間が5年の債権について訴訟を提起し、債権者の請求を認める判決が確定した場合、判決の確定時から新たに10年間の時効期間が進行します。
人の生命または身体を害することによる損害賠償請求権については、被害者保護の観点から、一般的な債権よりも長い時効期間が設けられています。この場合、「権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から20年間」のいずれか早い方が経過したときに時効が完成します。
不法行為の損害賠償請求権は、債権の時効とは異なる期間が定められています。
不法行為とは、交通事故のように契約関係にない当事者間で起こるトラブルであり、損害賠償請求の根拠となります。民法724条では、不法行為による損害賠償請求権について、被害者またはその法定代理人が「損害及び加害者を知った時から3年間」「不法行為の時から20年間」が経過すると時効が完成することが定められています。
また、不法行為によって人の生命または身体が害された場合には、民法724条の2により、「損害及び加害者を知った時から5年間」に延長されています。
したがって、物損事故などであれば原則として3年または20年、交通事故によるケガや死亡など、生命・身体への侵害があれば5年または20年が時効期間となります。

次に、2020年4月施行の民法改正により、債権の消滅時効がどう変わったかを解説します。
従来は、債権の種類によって複数の短期消滅時効があったり、時効の中断・停止に関する複雑なルールがあったりしましたが、法改正で整理されました。
経過措置として、2020年4月1日以降に発生した債権には改正法のルールが適用され、2020年3月31日以前に発生した債権には改正前の古いルールが適用される点に注意してください。なお、2020年4月施行の民法改正は、「民法改正(2020年4月施行)」で詳しく解説します。
旧民法の消滅時効は、債権者の認識の有無にかかわらず進行しました。
しかし、改正により「主観的起算点」の考え方が導入され、債権者の認識の有無によって時効期間が異なる仕組みとなりました。
主観的起算点から時効が進行するには、債権者が、債務者や権利の発生、履行期の到来などを認識している必要があります。主観的起算点の導入で、改正前より短期間で時効が完成するケースがある一方、権利行使の機会に気付かないまま時効期間が経過する事態は回避できます。
旧民法は、原則的な消滅時効(権利行使可能時から10年)に加え、一定の職業について、より短い期間で時効が成立する「短期消滅時効」を定めていました。
しかし、民法改正によって職業ごとの短期消滅時効は廃止され、債権の発生原因を問わず、消滅時効の期間が統一されることとなりました。
改正前の民法では、商取引により生じる債権には商事消滅時効が適用されていました。
商事消滅時効は、改正前の民法の消滅時効(10年間)より短い5年間に設定されていました。個人より企業の方が法律に精通し、短期間での権利行使が求められるという考えに基づくものでした。
しかし、改正により民法上の時効期間について「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」に統一されたことで、特別なルールであった商事消滅時効は廃止され、今後は企業間の取引でも、民法の消滅時効のルールが適用されることとなりました。
なお、企業間の取引では「権利行使できることを知らなかった」という事態が少なく、主観的起算点と客観的起算点が一致することが多いため、商取引により生じる債権は改正前後を問わず「5年」という時効期間を気にする必要があり、実務上の影響は小さいと考えられます。
改正前の民法には、時効の停止・中断という考え方がありました。
時効の停止は、時効の進行が止まり、停止事由がなくなると再度進行すること、時効の中断は、時効期間がリセットされることを意味していましたが、「停止」「中断」という用語の一般的な用法とは異なり、誤解を招くという指摘がありました。
改正民法では、これらの考え方が「完成猶予」「更新」という用語に置き換えられ、それぞれの事由が整理されました。詳細は次章「時効の完成猶予と更新について」で解説します。
2020年4月施行の民法改正で、従来の「中断」「停止」に代わり、「完成猶予」「更新」という制度が導入されました。いずれも、時効の成立を阻害する重要なものです。債権者側では、対応が遅れて時効期間が過ぎてしまわないよう、債務者側でも債務の承認などで時効の完成が遅れることを防ぐためにも、細心の注意を払わなければなりません。
時効の完成猶予とは、一定の事由が生じた場合に、一定の期間、時効の完成が猶予される制度です。時効の完成猶予の事由は、次の通りです。
なお、催告によって時効の完成が猶予がされている間にされた協議を行う旨の合意は完成猶予の効力を有せず、逆に協議を行う旨の合意による完成猶予中にされた催告も完成猶予の効力を有しません。つまり、催告と合意による完成猶予は、重複して適用できない点に注意が必要です。
時効の更新とは、それまで進行してきた時効期間をリセットし、新たな期間を進行させる制度です。確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したことが時効の更新事由とされます(民法147条2項)。具体的には、次の通りとなります。
以上の時点から、新たに時効期間が進行することとなります。また、債務者が債務を承認した場合にも、その時点から新たに時効期間が進行します(民法152条)。
なお、強制執行または担保権の実行の申立てが取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合、更新の効力は生じません。この場合は、前述の通り、終了時から6ヶ月間の完成猶予にとどまります。

最後に、債権者・債務者それぞれの立場から、消滅時効に関する注意点を解説します。消滅時効は、債権者と債務者の双方に大きな影響を与えます。
債権者側は、必要な対応をしないまま時効期間が経過すると、債権を回収できなくなるおそれがあります。一方、債務者側も、時効期間が経過したにもかかわらず債務を承認したり、一部を支払ったりすると、その後に消滅時効を援用できなくなるリスクがあります。
そのため、債権者・債務者それぞれの立場から、適切に対応することが重要です。
債権者側では、消滅時効がいつ完成するかを正確に把握することが重要です。
契約書や請求書、入金履歴などを確認し、債権の種類や支払期限、時効の起算点を把握しましょう。また、裁判上の請求や債務の承認など、時効の完成猶予や更新に該当し得る事情があるかも確認が必要です。そして、時効の完成が迫っている場合、速やかに請求に着手すべきです。
具体的には、請求の第一歩として、速やかに「催告」を行う必要があります。催告を行うと、その時点から6ヶ月間、時効の完成が猶予されます。催告をした事実や時期を証明するため、実務上、内容証明を送付するのが通常です。ただし、催告による完成猶予中に再度催告しても延長はされず、あくまで訴訟などの法的措置を講じるまでの準備期間を確保するに過ぎません。内容証明送付後は、速やかに訴訟提起の準備を進めてください。

また、債務者が債務の存在を認めたり、一部を支払ったりした場合は「権利の承認」として時効が更新されるため、債務者との交渉のやり取りも記録しておく必要があります。
催告から6ヶ月が経過する前に、訴訟をはじめとした法的措置を講じる必要があります。法的手続きには、通常訴訟のほか、支払督促や少額訴訟などの種類があります。どの手段を選択すべきかは、債権の内容や金額、債務者の対応などでも異なるため、時効完成までの期間に余裕をもって弁護士へ相談することが大切です。
「債権回収の裁判の流れ」の解説

債務者側でも、時効について正確に把握しておくことが、トラブル回避のために重要です。
長期間支払っていなかった債務について突然請求を受けた場合、すぐに支払いに応じるのではなく、まずは「消滅時効が完成していないかどうか」を確認する必要があります。具体的には、債務の内容や支払期限、最後に返済した時期などを確認し、どの時点から時効期間が進行しているかを調べます。また、過去に債務を承認したり、裁判上の請求を受けたりしていないかなど、時効の完成猶予・更新に関わる事情についても確認してください。
時効による利益を受けるには「援用」の意思表示が必要です。時効を援用する際、後のトラブルを防ぐためにも、その旨を記載した書面を内容証明で送付して証拠を残す方法が適切です。
特に注意すべきは、安易に債務の存在を認めたり、一部を支払ったりしないことです。これらの行為は、時効の完成前であれば「権利の承認」として時効の更新事由となり、時効完成後であっても、その後の消滅時効の援用が信義則上認められないと判断されるおそれがあるためです。
消滅時効が完成しているかどうかは、本解説のように専門的な知識が必要となるため、一人では判断が難しい場合、支払いや債務承認をしてしまう前に弁護士へ相談してください。

今回は、消滅時効について、2020年4月施行の民法改正を踏まえて詳しく解説しました。
消滅時効は、一定期間が経過すると債権の請求ができなくなるという重要な制度です。債権の消滅時効は、「権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使することができる時から10年(生命・身体の侵害の場合は20年)」で完成します。2020年4月施行の民法改正では従来のルールが大きく見直され、ケースによっては以前より権利消滅が早まるおそれがあります。
また、裁判上の請求や債務の承認などにより、時効の完成が猶予されたり、時効が更新されたりすることもあります(中断・停止の考え方は、完成猶予・更新という形に改められました)。
債権者側では、対応が遅れると時効が完成し、債権を回収できなくなるおそれがあるため、内容証明による請求(催告)や訴訟提起といった手続きを速やかに講じることが必要となります。債務者側も、一部弁済や債務の承認によって時効が更新されたり、時効の援用が信義則上許されなくなったりするおそれがあるため、時効期間の正確な把握を怠らないようにしてください。
消滅時効の判断を誤ると、債権の回収や支払義務の有無に大きな影響を及ぼします。時効の完成が迫っている場合や、既に時効が完成している可能性がある場合、自己判断で対応せず、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
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