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民法改正で贈与契約書はどう変わる?【民法改正と契約書 第15回】

今回は、民法に定められた典型契約のうち、贈与契約と、その契約書である贈与契約書について、改正民法に応じて変更すべきポイントを弁護士が解説します。

民法の債権法を改正する法律が成立し、2020年4月1日より施行されました。そのため、改正された民法に適合するよう、契約書の書式・ひな形を修正する必要があります。

この度の民法改正で、贈与契約について改正が行われた点はありませんでしたが、その他の契約類型にも適用される解除ルールの変更、契約不適合責任の考え方などが、贈与契約書の文面にも影響を与え、変更の必要が生じるケースがあります。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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贈与契約とは

ハート

まず、贈与契約についての基本的な知識を解説します。

贈与契約は、当事者の一方が、ある財産を、相手方に無償で与えるという意思を示して、その財産を受け取る側がこれに応じることで成立する契約です。贈与契約があったことを証明する書面が、贈与契約書です。

贈与契約とは
贈与契約とは

民法には、贈与契約について、次の条文が定められています。

民法549条(贈与)

当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる。

民法(e-Gov法令検索)

贈与をする側が、贈与の対象となる財産を「無償で」相手方に与えるという意思を表示する点が、贈与契約の最大の特徴です。

当事者間に財産を無償で与える合意が成立した時点で、財産を与える贈与者(義務者)には財産を移転させる義務が生じ、その財産を受け取る者(受贈者)は財産を引受ける権利について、それぞれ発生します。

贈与者の義務・責任についての民法改正

次に、贈与者の義務と責任について解説します。

さきほど解説したとおり、贈与契約を結ぶと、贈与者には一定の義務が生じ、一定の責任を負います。贈与契約は無償とはいえ、双方の合意によって成立する「契約」なため、贈与者に義務が生じるのは当然です。

そして、この贈与者の義務について、2020年4月1日より施行された民法改正の影響を受けた注意点があります。

対象財産の引渡し義務

贈与者には、贈与契約の対象となる財産を相手方当事者に引き渡す義務があります。

そして、「どのような財産が贈与者の引渡し義務の対象となるのか」という点について、改正後の民法では、あらたに次のような条文が定められました。

民法551条1項(贈与者の担保責任)

贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。

民法(e-Gov法令検索)

改正民法の大きな趣旨の一つとして、典型契約の責任は「個別の契約」の趣旨に照らして決めることとされました。

したがって、贈与者の引渡し義務もまた、贈与契約の当事者間の合意によって特定した財産を、合意の成立した時点の状態で引き渡せばよいこととなります。無償で贈与するのですから「そのままの状態で引き渡せば、それでよい」ということです。

逆に言うと、贈与契約時に特定した財産に、隠れた瑕疵(キズ、へこみなど)があったとしても、その瑕疵について贈与者は責任(担保責任)を負いません。これは、他の典型契約とは異なり、贈与契約の「無償性」が理由です。

「不特定で、どの物を渡してもよい」ということを「種類物」、この物を渡さなければならないということを「特定物」といいます。上記の条文では「特定した時の状態」で引き渡すことを義務としています。

そして、上記引渡し義務は、「推定する」という規定になっています。その意味は、「反対のことが証明されたら覆される」という意味です。つまり、贈与契約で「キズやへこみなどの瑕疵が対象財産にあったことがわかったら贈与者がその責任を負う」と明示されていたら、民法の条文よりも重い引渡し義務を負うということです。

負担付贈与の責任

「無償」を原則とする典型的な贈与契約に対して、特殊な贈与契約として「負担付贈与」があります。

負担付贈与は、贈与を受ける人(受贈者)に負担を課すことを内容とする贈与です。負担付贈与は完全に無償ではないことから、贈与者には、その負担の限度において売買契約の売主と同様の責任を負わせることとなっています。

負担付贈与とは
負担付贈与とは

負担付贈与の贈与者の責任は、改正前の民法では「担保責任(法定責任)」と呼ばれていました。つまり、対象財産に瑕疵があった場合には「契約」によるのではなく「法律」により一定の責任を負うということです。

一方、改正後の民法では、負担付贈与の贈与者の責任の名称は「契約不適合責任」と改められ、その考え方は「契約責任」であるとされました。つまり、「契約で定めている場合に、これに不適合の場合には契約上の責任を負う」という意味です。

今回の民法改正で負担付贈与の責任が「契約不適合責任」にあらためられたことで、負担付贈与契約を交わす場合には、あらかじめ財産に瑕疵がある場合の取扱いについても、贈与契約書に明記しておくのが重要なポイントです。

他人物の贈与についての民法改正

はてな

他人の財産を売買契約の対象とすることを「他人物売買」といいます。将来の売買までにその財産を入手しておけば売買の実行が可能であるため、他人の財産を対象として売買契約を結ぶこと自体は可能です。

しかし、改正前の民法では、贈与の対象については「自己の財産」と規定されていましたので、他人物の贈与が可能であるかどうか、そして、他人物の贈与をおこなったときに贈与者がどんな義務を負うのかは法律上明らかではなく、議論がなされてきました。

この点について、改正後の民法では、贈与についても「自己の財産」という限定がなくなりました。そのため、他人の所有する財産であっても贈与契約の対象となることが、明文上も明らかにされました。つまり「他人物売買」と同じく、「他人物贈与」が可能だということです。

ただし、改正後の民法では、契約で定めた責任が重視される考え方をとっていることから、他人物の贈与契約を結ぶときには、贈与契約書において贈与者の義務や、義務違反の場合の責任などを明記しておく必要があります。

贈与契約の解除についての民法改正

贈与契約は、無償でおこなわれるため、売買契約、委任契約などの有償でおこなわれる契約とは違って、契約が突然解除されたとしても、当事者に、ただちに不利益が生ずるわけではありません。

とはいえ、無償の贈与契約とはいってお、契約を締結しているわけですから、無制限に解除を許しては、安定性を欠いてしまいます。そのため、贈与契約の解除については、次のとおり民法に定められています。

民法550条(書面によらない贈与の撤回)

書面によらない贈与は、各当事者が解除することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りではない。

民法(e-Gov法令検索)

したがって、贈与契約を一方的に解除することができるケースとは、次の2つの条件をいずれも満たす場合です。

  1. 書面によらない贈与契約である
  2. 贈与の履行が終わっていない

逆をいえば、書面による贈与契約は、一方当事者が勝手に撤回することはできませんし、書面によらない贈与契約でもすでに贈与の履行が終わっていれば、撤回することはできません。

つまり、無償の贈与契約といえども、書面化することは、軽率な約束を防ぎ、かつ、権利関係を明確化して後日の紛争を防止するということを意味します。わざわざ贈与契約を書面化していれば、当事者には、簡単には贈与契約を解除してほしくないという意図があるのが通常と考えられるからです。

あわせて、上記の条文は、改正前の民法では「贈与契約の撤回」とされていたところ、改正後の民法では「贈与契約の解除」とされました。そのため、改正民法で変更のあった解除一般のルールが適用されることとなります。

改正後の民法でも、債務の不履行が発生したときは、債権者から催告をした上で契約解除する流れとなるのは従来と変わりありません。しかし、改正後は、契約の解除について、契約が当事者間に一定の拘束力を生ぜしめる以上、債務不履行の態様が社会通念に照らして「軽微」であるならば解除は制限されます(民法541条)。

そのため、債務不履行の態様がどんなとき「軽微」といえるのか争いとなるおそれがあります。紛争を防止するためにも、解除に値する事情があらかじめ想定できるときは、契約書に列挙しておくのが重要です。

このことは、贈与契約書でも同じです。

無催告での突然の解除について、改正後の民法では次のとおり解除事項が列挙されました(民法542条)。

  • 一 債務の全部の履行が不能であるとき。
  • 二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
  • 三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
  • 四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
  • 五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

贈与契約書の作成時のポイント

メモ

贈与契約は無償が原則なため、たとえ贈与契約書を作成していても、贈与の意思表示自体が軽率におこなわれてしまいがちです。しかし、贈与を受ける側にとっては、その利益に相当な興味関心があることが多く、軽々しく贈与契約書を作ってしまうと、おもわぬトラブルに巻き込まれるおそれがあります。

これまで解説してきた贈与契約の特殊性を理解した上で、法的リスクの少ない適切な贈与契約書を作るのが重要です。

贈与契約書の書式・ひな形

贈与契約書の作成と契約書チェックのポイントを解説するにあたり、まずは、民法改正を踏まえた贈与契約書の書式・ひな形をご紹介します。

民法改正において、贈与契約自体の改正・変更は少ないですが、しかしながら、契約不適合責任や解除など、他の典型契約にもあてはまる一般的な改正内容の影響を大きく受けます。このため、この度の改正民法に沿って新たに契約書を作成することが重要となってきます。

贈与契約書(例)

贈与者〇〇〇〇を甲とし、受贈者〇〇〇〇を乙として、甲乙間において次の通り贈与契約(以下「本契約」という。)を締結した。

第1条
甲は、乙への慰労を目的として、下記の土地(以下「本件土地」という。)を乙に贈与することを約し、乙はこれを承諾した。

所在:東京都中央区〇丁目
地番:〇番〇
地目:宅地
地積:〇〇〇㎡ 以上

以上

第2条
甲及び乙は、本件土地について乙の為所有権移転請求権保全の仮登記手続きを行うものとする。甲は、乙が上記仮登記申請手続きをすることを承諾した。

第3条

  1. 乙は、甲が本件土地の引渡し又は前条の手続を行わない場合は、催告をした上で本契約を解除することができる。
  2. 乙は、本件土地が甲以外の他人の所有に帰属していた場合、催告をした上で本契約を解除することができる。
  3. 前二項に掲げる場合のほか、甲及び乙は、本契約の目的、本契約に至った経緯、本契約締結後の当事者の態様等、本契約の趣旨に照らし、一方当事者に本契約に適合しない事情が生じた場合、催告をした上で本契約を解除することができる。

第4条
本契約において、乙が甲に対して負担すべき事由はない。

(以下省略)

民法改正を踏まえた記載を行う

民法改正に伴い、契約責任を基本とする考え方となったことは解説した通りです。

このため、今回の贈与契約書のひな形はあくまで一例ではあるものの、本贈与契約の目的を記載し、解除事由を具体的に明記することが肝要です。これによって、契約不適合の責任を課すことが可能となるからです。

そのほか、贈与契約は受贈者の負担があるかどうかによって、担保責任に大きな違いが生じるため、負担がない場合にはあらかじめそれを明記しておくことも贈与者にはメリットがあります。

贈与契約書チェックの注意点

「タダよりこわいものはない」という言葉があります。

当事者間で交わした契約、合意内容が、真に無償性を前提とするのか、あるいは、いずれその財産を返還することを前提とする貸借型の契約だったのか、裁判で争われることは少なくありません。その判断の分かれ目は、当事者の人的関係、交付の対象となった財産価値と交付者の資力との関係性がポイントとなります。

例えば、交付する財産の価値が大きいのにもかかわらず、交付者の資力が極めて小さい場合には、交付者にはそもそも対象財産を無償で譲渡するメリットがないと考えられます。ただし、当事者の関係性が非常に密接であれば、恩恵的に譲渡することも考えられます。

このように、上記2点のポイントは重要ですので、契約書には必ず特定できる記載をしましょう。

まとめ

今回は、財産を無償で譲渡するときに利用される「贈与契約書」について、2020年4月1日に施行された改正民法を踏まえ、契約書チェックのポイントを弁護士が解説しました。

贈与契約は、書面によらない場合には簡単に解除できます。そのため、会社間でビジネスとして行う贈与契約、家族間で相続が問題となる贈与契約など、重要な贈与契約を結ぶ際には、適切な贈与契約書を作成するのがとても重要になります。

特に、贈与を受けることとなる方にとっては、簡単に贈与契約が解除されないよう、また、贈与契約を締結した後に思わぬ負担を課せらないよう、慎重に贈与契約書を作成する必要があります。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業法務に精通しており、多数の契約書作成・チェックを担当してきた事例の蓄積があります。

民法改正に未対応の贈与契約書の使用を考えていた方は、ぜひ一度、弁護士に法律相談くださいませ。

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