人事労務

未払残業代について社員と合意・和解するときの会社側の注意点

2021年4月8日

お問い合わせはこちら

法律問題にお悩みのすべての方へ。
弁護士法人浅野総合法律事務所まで、まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約は、24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

残業代の支払は、労働基準法に定められた会社側の義務です。所定労働時間を超えて働かせた時間について残業代を支払っていないと、社員や元社員から、残業代請求をされてしまうことがあります。

突如、社員や元社員、その代理人となる弁護士から、残業代を請求するという内容証明郵便が届いたとき、対応に戸惑うかもしれません。そして、平時からきちんと残業代時間の管理、残業代の支払をしていないと、労働者側に対して一定の未払残業代を清算することとなってしまいます。労働者側との交渉の結果、未払残業代を認めて一定の金額を支払うこととなったとき、最も重要なのが合意書の作成です。

昨今では、オフィスでの残業について残業代を支払っていないといった典型的なケース以外にも、早出時間の残業代、休憩中の労働についての残業代、リモートワーク中の残業代など、さまざまな未払残業代について労使間の争いが起こっています。

今回は、未払残業代をめぐるトラブルを将来の禍根なく終わらせるために、会社側において注意しておいていただきたいポイントを弁護士が解説します。

「人事労務」弁護士解説まとめ

未払残業代の争いと、労働者側との合意・和解について

労働基準法上の基本的なルールとして、次のそれぞれの時間については残業代を支払わなければなりません。

  • 時間外残業
    :「1日8時間、1週40時間」という所定労働時間を超えて働かせた時間
  • 休日残業
    :「1週1日もしくは4週4日」という法定休日に働かせた時間
  • 深夜残業
    :「午後10時~午前5時」という深夜に働かせた時間

「長く働かせたら残業代が必要となる」ということは、もはや周知の事実となっています。しかし一方で、未払残業代が争いとなるケースの多くは、「残業が必要となったかどうか」「残業が許されていたかどうか」という点について、使用者側と労働者側の認識が大きく違ってしまっていることがよくあります。

例えば、会社としては残業を許可制としており、許可のない労働に対して残業代を支払う必要はないと考えていたものの、労働者側としては残業をしなければ終わらないほどの職務を押し付けられ、特に残業は止められておらず、残業が黙示に指示されていた、と主張するケースです。

このように、残業時間の有無について労使間に争いのあるケースでは、会社側では把握していなかった労働時間について、労働者側から次のような証拠提出がなされ、未払残業代の請求をされてしまうことがあります。

  • パソコンのログ履歴
  • chatwork、Slackなどのチャットツールの履歴
  • 出退勤時刻のメモ
  • オフィス内にいたことを証明する写真
  • GPSの位置情報
  • 会議メモ
  • 業務スケジュール、週報、日報

これに対して、会社が、残業を要するような職務を命じていないと反論しても、その業務量や社員の能力からすれば残業をせざるを得ないと判断された場合、残業代の請求が認められてしまう可能性があります。残業許可制を採用していたとしても、事実上許可を得ないでの残業が横行していた場合、会社が暗黙に了解していたと評価されてしまいます。

加えて、残業代の計算方法は複雑であり、正しく計算できていない可能性もあります。

このように、労働者側(社員や元社員)から、労働審判、訴訟といった裁判所での手続きにおいて未払残業代の請求を起こされてしまったとき、会社側での平時からの準備が不十分であると、不必要な残業代を払わされることともなりかねません。そして、その残業代がどれほど高額化するかは、平時にどれほどきちんと労働者の管理を行っているかによって異なります。

未払残業代について、労働者側と合意、和解をすれば、一定額の支払を条件として、このように労働審判や訴訟になった場合により高額化してしまうおそれがあるというリスクをおさえることができます。そのためにも、紛争の一回的な解決をするために行う合意、和解では、合意書、和解書などの書面が重要となるのです。

平時からしっかりと準備をしておくために理解したい、正しい残業代の考え方は、下記をご覧ください。

「残業代請求」弁護士解説まとめ

未払残業代の合意をするときの注意点【会社側】

次に、会社側で、未払残業代請求を受け、労働者側と合意する際の注意点について解説します。

労働者からの通知書を無視しない

未払残業代の紛争が起こるとき、社員や元社員、その代理人となる弁護士から、内容証明郵便の形式で「通知書」「請求書」といった書面が届くことが通常です。

冒頭で解説した通り、未払残業代については、労使間で事実認識に大きなギャップがあったり、法律の理解に差があったりする場合が多く、顧問弁護士、顧問社労士に依頼して十分なチェックを行うなどの対策を行っていない場合、残念ながら一定の金銭支払を覚悟せざるを得ない場合も多くあります。

紛争を一回的に解決できないと、労働審判や訴訟に発展して更に大きな金額を請求されたり、他の社員にも波及し、全社的な問題となってしまったりするリスクもあります。

そのため、「自分の会社はしっかりと残業代を支払っている」と考えている場合でも、労働者側からの通知書は無視しないようにし、反論がある場合にはきちんと書面で反論をするようにしてください。

会社がきちんと交渉をする意思を示し、かつ、会社側の反論を基礎づける証拠資料が十分に提出されている場合には、減額交渉が可能な場合も多くあります。

合意書を必ず作成する

未払残業代を請求してきた労働者側に対し、一定の金銭の支払をするときには、合意書を必ず作成するようにしてください。

合意書を作成することは、後述する通り、守秘義務や清算条項などを定めて労働者側に義務を負わせ、残業代に関する紛争を一回的に解決するためにとても有益です。

書面化せずに金銭の支払をしてしまうと、追加で更に金銭の請求をされてしまったり、他の社員にも伝えられて、全社的な問題となってしまったりするおそれもあります。

「解決金」として支払う

未払残業代を請求され、合意書を作成して一定の金銭を支払うときには、その金銭の名目は「解決金」と書くことが実務では一般的です。

労働審判や訴訟になってしまう場合の将来的なリスク、その場合に支払わなければならない弁護士費用、裁判費用などのコストを考え、労働者側と合意・和解をする場合であっても、会社としては残業の事実を認めることはできないというケースが多くあるためです。

会社として残業の事実を認めたくないけれども、法的な観点からみて戦って勝てるほどの証拠の準備が会社側にないという場合に、一定の金銭を支払う和解をするのであれば、支払う金銭の名目は「未払残業代」ではなく「解決金」とするほうが納得感があります。

実務でよく使われる「解決金」とは、「紛争を解決するためにやむを得ないコスト」という意味合いがあります。決して、残業代についての会社側の非を認める趣旨は含まれていません。

「解決金」として支払う場合には、未払残業代であることを認めるわけではないため、社会保険料、所得税、住民税などの源泉徴収は行わないことが一般的です。

「解決金」として支払うことにより、会社としては「未払残業代が存在することを認めたわけではない」ことを意味し、これまでも法令を遵守していたことを示せます。また、他の社員が同様の請求をしてきた場合にも、「未払残業代が存在することを認めたわけではない」と反論して改めて争うことができます。

労働者の退職について定める

まだ退職をしていない社員から残業代請求をされた場合、未払残業代の有無はともかくとして、その社員には今後、会社に居続けてほしくないという場合もあるでしょう。

もちろん、適正な残業代請求を行ったことを理由に退職勧奨や解雇などをすることは許されないのは当然です。しかし一方で、労働者側でも、もはや退職をすることを当然に想定して、残業代請求の争いを起こしているケースも少なくありません。

このような場合に、労働者と使用者との間の紛争を一回的に解決するために、未払残業代請求の紛争を解決するとともに、労働契約関係についても終了することがあります。

このように、残業代の解決とともに労働者が退職をする場合には、そのこともまた、合意書に定めておく必要があります。具体的には、次の事項のうち必要な内容を、合意書に記載することが実務では一般的です。

  • 退職日
  • 退職理由(自己都合か、会社都合か)
  • 最終出社日

今後の法令遵守を約束する

残業代請求をした社員が、今後も退職をしないという場合には、労働者側からの要望として、「今後は残業代をきちんと支払ってほしい」と主張されることがあります。そのため、合意書を作成するときに、今後の法令遵守を約束する必要がある場合があります。

特に、36協定を締結していない、就業規則の作成義務があるのに就業規則を作成していない、労働時間の適切な把握を行っていないといった、基本的な法令遵守に欠ける部分がある場合には、会社側としても、今後の紛争回避のために十分な努力が必要となります。

このように労務管理を徹底することを約束することは、社員の健康を守り、生産性を向上させることにもつながる建設的な合意です。なお、会社として未払残業代の存在を認めたくない場合には、「今後も引き続き、法令遵守を約束する」という形の合意をし、過去の非については言及しないという方法もあります。

また、「会社としては残業代を支払っていたつもりだったが、社員が残業をしていた結果、一定の金銭を支払うこととなってしまった。」というケースでは、今後会社が法令遵守を徹底することを条件に、従業員側においても「残業許可制をきちんと遵守すること」「無用な残業を控えること」などを定めておくことも有益です。

守秘義務条項を定める

残業代請求をされ、会社が一定の金銭支払をしたことは、会社にとって最重要の秘密にあたります。残業代を請求してきた社員が在職中である場合でも、退職後である場合でも、まだ在職中の社員に対してこの事実が伝われば、残業代請求が全社的に波及してしまいかねないからです。

特に、1人の社員だけにとどまる問題ではなく、会社の制度として残業代の未払いが発生してしまっていた場合、全社員から残業代請求を受けてしまうと、その合計額は相当高額となることが容易に予想されます。

未払残業代請求について社員と合意・和解するときの合意書に定める守秘義務条項は、このような事態を回避するため、この紛争に関することの一切について、口外を禁止することを内容とするものです。

清算条項を定める

清算条項とは、労使間の一切の債権債務関係を、合意書の締結によってすべて清算するための条項です。清算条項は、労使間の紛争の一回的解決のために、必ず定めておく必要があります。

清算条項を定めていないと、せっかく紛争解決のためのコストとして解決金を支払っても、あとから追加請求をされてしまうおそれがあります。

もちろん、全く理由なく追加請求をすることはできませんが、あとから追加請求をされてしまう例としては例えば次のようなものがあります。

  • 解決金として支払われた金額が、残業代を正確に計算した金額に達していなかった。
  • 労使間に、未払残業代以外の債務(パワハラ・セクハラを理由とする損害賠償債務、安全配慮義務違反を理由とする慰謝料債務など)が存在する。
  • 意に沿わない理由により退職を余儀なくされたため、退職後の補償がほしい。

これらの理由はいずれも、必ずしも労働審判、訴訟などで認められるとは限りません。しかし、未払残業代請求を機に、その他に労働問題が存在するのであれば、一回的解決をしたいというのが会社側の意向であるのは当然でしょう。そして、そうだからこそ、未払残業代の有無について、裁判所で争うことまではせずに解決金を支払うことによって解決するメリットがあるのです。

したがって、合意書を作成する際に清算条項を定めることは最重要であるといえます。

未払残業代に関する合意書【書式・ひな形】

最後に、未払残業代請求の争いにおいて、労働者側との間で締結しておくべき合意書の書式・ひな形を示しておきます。

なお、書式・ひな形は一般的な例として参考にして頂けるものではありますが、個別具体的な紛争の内容に応じて、追記・修正が必要となる場合があります。ご不安な場合には、将来のリスクを回避するため、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

社員が解決金支払後に退職する場合

未払残業代を請求した社員が、解決金支払後に退職するケースで、合意書の書式・ひな形は次のようなものです。

この場合には、労使間の紛争の一回的な解決のため、解決金を支払う旨を定めるとともに、退職に関する事項についても合意書で定めておくことが重要です。

合意書

株式会社XXXX(以下「甲」という。)とYYYY(以下「乙」という。)は、次の通り合意した。

1. 甲及び乙は、乙が20XX年XX月XX日付けで、甲を自己都合退職したことを相互に確認する。

2. 甲は乙に対し、本件解決金としてXXXX円の支払義務があることを認め、同金員を20XX年XX月XX日限り、乙の指定する金融機関口座へ振込送金する方法によって支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。

3. 甲及び乙は、本合意書の成立に至った経緯及び内容に関する一切の事項について、正当な理由なく第三者に開示、漏洩せず、互いに誹謗中傷しないことを相互に確認する。

4. 甲及び乙は、甲と乙との間には、本合意書に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。

以上の合意が成立した証として、本合意書2通を作成し、署名捺印もしくは記名押印の上、甲乙1通ずつを保管する。

20XX年XX月XX日

【甲】

【乙】

元社員からの未払残業代請求の場合

退職済の元社員から未払残業代を請求された場合、合意書の書式・ひな形は次のようなものです。

この場合には、退職に関する事項を定める必要はなく、解決金の支払い、守秘義務条項及び清算条項を定めた合意書で足ります。

合意書

株式会社XXXX(以下「甲」という。)とYYYY(以下「乙」という。)は、次の通り合意した。

1. 甲は乙に対し、本件解決金としてXXXX円の支払義務があることを認め、同金員を20XX年XX月XX日限り、乙の指定する金融機関口座へ振込送金する方法によって支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。

2. 甲及び乙は、本合意書の成立に至った経緯及び内容に関する一切の事項について、正当な理由なく第三者に開示、漏洩せず、互いに誹謗中傷しないことを相互に確認する。

3. 甲及び乙は、甲と乙との間には、本合意書に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。

以上の合意が成立した証として、本合意書2通を作成し、署名捺印もしくは記名押印の上、甲乙1通ずつを保管する。

20XX年XX月XX日

【甲】

【乙】

社員が解決金支払後も在職する場合

未払残業代を請求した社員が、解決金支払後も在職する場合には、合意書を作成する際に、将来の遵守事項について慎重に定めておくことが必要となります。

会社側に法令違反の事情があったことが明らかになった場合には、その点を是正することを約束する必要があります。一方で、社員側に、会社の想定していなかった残業の事実などが存在した場合には、将来的に社員に臨む行動規範について、合意書に定めておくことが有益です。

また、社員が今後も在職する場合には、今後も続く労使間の雇用関係上発生する債権債務について、清算条項の対象外としておくことが必要です。

合意書

株式会社XXXX(以下「甲」という。)とYYYY(以下「乙」という。)は、次の通り合意した。

1. 甲は乙に対し、本件解決金としてXXXX円の支払義務があることを認め、同金員を20XX年XX月XX日限り、乙の指定する金融機関口座へ振込送金する方法によって支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。

2. 甲は、労働法規に従って36協定を締結し、今後も労働時間を適正に把握し、時間外労働が発生した場合には労働基準法所定の割増賃金の支払を行うことを確約する。

3. 甲及び乙は、本合意書の成立に至った経緯及び内容に関する一切の事項について、正当な理由なく第三者に開示、漏洩せず、互いに誹謗中傷しないことを相互に確認する。

4. 甲及び乙は、甲と乙との間には、労働契約関係が成立していることを除いて、本合意書に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。

以上の合意が成立した証として、本合意書2通を作成し、署名捺印もしくは記名押印の上、甲乙1通ずつを保管する。

20XX年XX月XX日

【甲】

【乙】

「人事労務」は浅野総合法律事務所にお任せください!

今回は、未払残業代請求を労働者から受けた場合に、会社側で注意しておくべきポイントについて弁護士が解説しました。

特に、昨今増えているリモートワーク下においては、オフィスで働く場合に比べて労務管理が難しくなります。しかし、リモートワークだからといって残業代の支払義務がなくなるわけではありません。

タイムカードだけでなく、ウェブ勤怠システムの導入など、労働時間を適切に把握する仕組みを、会社側が率先して取り入れていき、会社の実態に即した労務管理ルールを作っていく必要があります。争いが起こる前に、会社側が十分な労務管理を実施していれば、未払残業代請求をすることがそもそも難しくなります。

労務管理のルールをあらかじめ定め、徹底して実践すれば、「社員が実は残業していた」といった未払残業代請求の問題が起こりづらくすることができます。

会社内の労務管理、その他の人事労務の問題についてお悩みの会社は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。

「人事労務」弁護士解説まとめ

お問い合わせはこちら

法律問題にお悩みのすべての方へ。
弁護士法人浅野総合法律事務所まで、まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約は、24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

お問い合わせ

法律問題にお悩みのすべての方へ。

弁護士法人浅野総合法律事務所まで、
まずはお気軽にご相談くださいませ。

法律相談のご予約は、
24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

-人事労務
-,

法律相談のご予約は、
 24時間お受付しております。 

03-6274-8370

お問い合わせ

© 2021 弁護士法人浅野総合法律事務所