人事労務

同業他社に転職した社員の退職金を減額すると違法?【弁護士解説】

2020年7月13日

お問い合わせはこちら

法律問題にお悩みのすべての方へ。
弁護士法人浅野総合法律事務所まで、まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約は、24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

同業他社転職退職金減額

会社経営において、会社内の重要な秘密やノウハウを守るためには、同業他社への転職をできる限り制限したいと考えることが多いのではないでしょうか。

この目的を果たすために、退職後の競業避止義務を定める誓約書を労働者に締結させたり、退職金を増額したりするという方法が有効です。しかし、競業避止義務を負わせる代償として退職金を増額したにもかかわらず、同業他社に転職されてしまうことがあります。

このような取り扱いは、労働者の退職の自由を一定程度制限するものの、退職金規程などで適切に定めれば、適法に運用することが可能です。

そこで今回は、退職後に同業他社に就職した社員に対して、退職金を減額したり、既に支払い済みの退職金の返還を請求したりすることが可能かどうかについて、弁護士が解説します。

「人事労務」弁護士解説まとめ

退職金減額の性格

同業他社転職退職金減額

退職金には、一般的に、「賃金の後払い的性格」と「功労報償的性格」の2つの性格があるとされています。

そして、退職金を減額・不支給とすることができるかどうかや、また、どのような理由で退職金を減らせるのかといったことについては、この退職金のいずれの性格を重視するかによって、考え方が異なります。

  • 賃金の後払い的性格
    :在職中の賃金の一部について、退職後に退職金として支払うこととし、長期勤続を促す性格。この考え方によると、退職金は、在籍期間の要件を満たす限り、減額することは難しいこととなります。
  • 功労報償的性格
    :退職金を支払うことによって社員ごとの功労に対する報償を与えるという性格。この考え方によると、労働者の企業秩序違反など、問題行為によって功労が減じられる場合には、退職金が減額されることとなります。

賃金の後払い的性格を重視すると、退職金は、在職中に既に発生していた賃金の一部未払いを意味することとなり、退職金を減額することは、未払いであった賃金を減額することとなります。このことは、賃金全額払いの原則など、賃金の原則に反する結果となるおそれがあります。

加えて、労働基準法は、労働契約においてあらかじめ違約金や損害賠償額の予定をすることを禁止しています。

これに対して、退職金の功労報償的性格を重視すると、退職金規程に基づいて、懲戒解雇事由など労働者に問題のある場合には、退職金の減額・不支給処分とすることが可能であると考えることとなります。

退職金減額規定の合理性

同業他社転職退職金減額

会社経営において、雇用する社員、特に地位・役職の高い社員に退職してほしくないと希望するのは当然です。労働力の流出は、単に人手不足となるだけでなく、顧客情報、取引先情報、取引条件、製造方法やマニュアルなど、企業秘密が外部に漏れるおそれにつながるからです。

そこで、同業他社に転職した退職社員について、退職金を減額・不支給とするという定めをおくことが検討されるわけですが、この規定が労働基準法などの法律に違反せず、公序良俗に反していないかが問題となります。

退職金規程とは

退職金請求権は、労働法上必ず認められているものではありません。月額賃金は、最低賃金法によって、最低賃金以下の額とすることができないこととされていますが、一定金額の退職金の支払義務を定める法律はありません。

そのため、労働者が退職金を請求するためには、就業規則や退職金規程、雇用契約書などに定めて労働契約の内容としなければなりません。

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成して、労働基準監督署に届け出る必要があるものとされています。そして、退職金の定めは、就業規則に規定しなければ効力が生じない「相対的必要的記載事項」であるとされています。

退職金の金額の計算方法、退職金の不支給・減額の基準など、退職金に関連するルールが複雑になる場合には、就業規則とは別に退職金規程として詳しく定めることが一般的です。

同業他社への転職時に退職金減額規定は有効?

退職金には、功労報償的な性格があるため、会社に損失があるような一定の要件を満たす場合に退職金を減額することは合理的であると判断されます。

同業他社への転職をしたときに退職金を減額することを定める場合には、判断が具体的に容易になるよう、禁止される転職先の範囲などをできる限り具体的に特定することがお勧めです。あわせて、従業員の引き抜き行為など、禁止すべき行為についても退職金の減額事由として定めておきます。

ただし、同業他社への転職を禁止したいという企業側の意図はよく理解できますが、同業他社へ転職した場合に退職金の全額を支給しないとする退職金減額規定は、退職金に賃金の後払い的な性格があることを考慮すると、違法となる可能性が高いといえます。

特に、在職中に蓄積したポイントをもとに一定の乗率を積算して算出する「ポイント制退職金」など、賃金の後払い的な性格が強いと考えられる退職金の場合、減額できる割合はその分だけ少なくなると考えるべきです。

退職金規程の不利益変更の合理性

既に存在する退職金規程を変更する場合には、労働者側にとって不利益に変更する場合には、その不利益変更について合理性がない限り、変更は違法、無効となります。

不利益変更が合理的かどうかは、次の事情を総合考慮して判断されます。

  • 退職金規程の不利益変更により、労働者側の被る不利益の程度
  • 会社側の不利益変更の必要性の内容、程度
  • 不利益変更後の退職金規程の内容自体の相当性
  • 代償措置、その他の関連する他の労働条件の改善状況
  • 過半数労働組合または過半数代表との交渉の経緯
  • 不利益変更内容についての同業他社の状況

また、退職金規程の不利益変更が合理性を有する場合であって、変更により減額・不支給規定を定めることができた場合であっても、変更前に退職をした社員に対しては、これを適用することができません。

変更前に退職した社員については、変更後の減額・不支給規定は、労働契約の内容とはなっていないからです。

特に、退職金をはじめとした賃金は、労働者の生活の糧となる重要な権利であり、その不利益変更にはより高度の合理性が必要です。このことは、最高裁判例(大曲市農業協同組合事件:最高裁昭和63年2月15日判決)でも示されています。

大曲市農業協同組合事件(最高裁昭和63年2月15日判決)

特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項がそのような不利益を労働者に法的に受任させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

参 考
就業規則により労働条件を不利益変更する方法と、適法に行うポイント

企業の人事労務において、労働者の待遇を変更したり、賃金体系を変更したりする必要があるときがあります。労働者の労働条件を、労働者自身の同意なく不利益に変更することを、「労働条件の不利益変更」といいます。 ...

続きを見る

同業他社に転職した社員の退職金減額を適法とした最高裁判例

同業他社転職退職金減額

退職金に功労報償的性格があることを考慮して、同業他社に転職した社員に対して行う退職金の減額は、労働者の不利益に配慮した一定の金額であれば、有効と判断される余地があります。

なお、退職金の減額を行うためには、その旨を定めた退職金規程が存在することが前提となります。

同業他社に転職した社員の退職金減額を適法と判断した最高裁判例に、三晃社事件(最高裁昭和52年8月9日判決)があります。この最高裁判例では、次のとおり、会社側の処分を適法であると判断しました。

三晃社事件(最高裁昭和52年8月9日判決)

X社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的性格を併せ有することにかんがえみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。

すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の程度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法3条、16条、24条および民法90条等の規定にはなんら違反するものではない。

「人事労務」は浅野総合法律事務所にお任せください!

同業他社転職退職金減額

今回は、同業他社に転職した際、競業避止義務違反を理由として退職金を減額することの適法性について弁護士が解説しました。

企業経営において企業秘密の流出、ノウハウの流出を回避するため、退職後の競業を禁止したいことはやまやまです。しかし、退職後の競業避止は、労働者の経済的自由と相対するものであり、一定の制約がなされることは仕方ありません。

退職金の減額を交渉材料に、企業利益を維持、保護するため、十分な内容の退職金規程をあらかじめ作成しておくという準備が必要です。

社員の退職にともなう労働問題にお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。

「人事労務」弁護士解説まとめ

お問い合わせはこちら

法律問題にお悩みのすべての方へ。
弁護士法人浅野総合法律事務所まで、まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約は、24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

お問い合わせ

法律問題にお悩みのすべての方へ。

弁護士法人浅野総合法律事務所まで、
まずはお気軽にご相談くださいませ。

法律相談のご予約は、
24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

-人事労務
-, ,

法律相談のご予約は、
 24時間お受付しております。 

03-6274-8370

お問い合わせ

© 2020 弁護士法人浅野総合法律事務所