労働問題

退職するなら留学費用・資格取得費用は会社に返さなければならない?

2020年6月24日

お問い合わせはこちら

法律問題にお悩みのすべての方へ。
弁護士法人浅野総合法律事務所まで、まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約は、24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

留学費用資格取得費用返還

人材育成策の一環として、会社の費用で留学に行ったり資格を取得したりすることが認められている会社があります。会社が留学費用、資格取得費用、研修費用などを負担してくれて学びに専念できることは、メリットが大きい反面、デメリットもあります。

次のキャリアアップを目指そうとしたとき、会社からの費用援助を受けていると、退職をする際に返還を求められたり、強い圧力をかけられて退職をさせてもらえなかったりしてトラブルに発展することがあるからです。

長期間会社に貢献する場合には返済の必要がないものの、留学からの帰国や資格取得から短期間で退職する場合には返済を求める旨の厳しい契約書、誓約書、覚書などを結ばされているケースもあります。

労働問題の専門用語でいう「賠償予定の禁止」という問題です。

そこで今回は、退職するなら会社負担で実施された留学費用、資格取得費用を会社に返還しなければならないのかについて、弁護士が解説します。

「労働問題」弁護士解説まとめ

賠償予定の禁止とは

留学費用資格取得費用返還

会社が負担してくれた留学費用、資格取得費用などを、退職時に返済しなければならないのかについて、労働法において問題となるのが「賠償予定の禁止」です。

労働基準法では次のとおり、労使関係において労働者が弱い立場に置かれていることを考慮して、あらかじめ違約金を定めたり、損害賠償の額を決めておいたりする契約を禁止しています。あらかじめ決めておくことが許されるとすると、「給与が支払われない」「不利益な扱いを受けるかもしれない」というプレッシャーのもと、会社の言うなりになってしまうおそれがあるからです。

労働基準法16条(賠償予定の禁止)

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

この賠償予定の禁止は、「退職するのであれば金銭請求を行う」という脅しによって退職を拒否する「在職強要」の問題や、留学費用、研修費用などの返還契約に違約金が定められていることで退職をしづらくなったり、資格取得をした後一定期間は退職を禁止される「お礼奉公」の問題を未然に防ぐ労働者保護のためのルールです。

お金のプレッシャーによって命令を聞かざるを得ないこととなると、奴隷労働にもつながりかねず、現代の就労慣行に合わない時代錯誤なものとなりかねません。

留学・研修費用などの返還は必要?

留学費用資格取得費用返還

留学費用、研修費用などの返還が必要であるかどうかは、その留学や研修が、会社の業務であるのか、それともその労働者の私的なものであるのかが重要な判断基準となります。

というのも、留学や研修が純粋に指摘なものであれば、会社からお金を出してもらうことは、労働契約とは別に消費貸借契約が結ばれたと考えられ、返還する必要があります。

これに対して、留学や研修が会社の業務によるものであれば、その費用をあらかじめ、労働契約の不履行(定められた期限前の退職)による違約金として定めたり、損害賠償を定めたりすることは、さきほど解説した労働基準法16条違反となり無効となるからです。

留学・研修費用を返還するかどうかの判断基準

留学や研修、資格取得などの費用を返還しなければならないのかどうかを判断するにあたって、重要な判断基準は、「業務との関連性」です。

考慮すべき判断基準は、次のとおりです。

  • 留学、研修、資格取得などの目的
    :留学、研修、資格取得などの目的に業務性がある場合には労働契約の一部となり、賠償予定の禁止違反となるおそれがあります。一方で、その目的に業務性がないか業務性が低い場合には、労働契約とは別の消費貸借契約が結ばれたものと評価することができます。
  • 応募が労働者の自由意思によるものか、会社の命令によるものか
    :留学、研修、資格取得などの応募が会社の命令による場合には業務性が高いとみることができ、一方で、労働者の自由意思に任されている場合には業務性が低いとみることができます。ただし、形式的には労働者の自由意思であっても、実際には一定の年次に達した場合には応募する慣行となっている場合には業務性があるとみるべき場合もあります。
  • 留学先などの選択が、労働者の選択によるものか、会社の指定によるものか
    :業務性が低く、労働者の私的な目的によるものであれば、留学先や研修先、取得する資格などは労働者が自由に選択することができるはずです。逆に、これらを会社が指定し、労働者が選択することができない場合には、業務性が高いものと評価することとなります。
  • 留学、研修などの内容が、会社における担当業務との関連性があるかどうか
    :留学や研修、資格取得などの中には、会社における担当業務に役立つものと、労働者の個人的なメリットしかないものがあります。留学、研修などの実施後、会社においてその経験を生かした仕事をすることが予定されている場合には、業務性が高いものと評価されやすくなります。
  • 労働者個人にとっても有益な資格が得られるなどのメリットがあるかどうか
    :一方で、労働者個人にとっても留学や研修、資格取得などの経験に個人的なメリットがある場合には、業務性はその分だけ薄まります。

留学や研修、資格取得の費用の全部または一部を会社負担とする会社の中には、留学規程、研修規程などの会社規程類が用意されていたり、これらの留学や研修に先立って契約書を締結したり、誓約書にサインをさせたりする例が多くみられます。

これらの場合には、その規程類や契約書、誓約書の文言が労働基準法16条に違反する無効なものではないかどうかが争いとなります。

この点の判断は、契約条項や誓約書条項の文言だけを形式的に判断するのではなく、その留学、研修、資格取得などの性質を実質的に判断をして、文言のみにとらわれることなく合意内容の適法性を評価する必要があります。

返還が必要なケースの典型例

上記に解説した複数の考慮要素を総合して、業務性がなく会社の業務とは関係ないと考えられるのであれば、労働契約とは別の契約ということとなります。労働契約とは別の契約で、会社が労働者に対して資金を援助し、後からの返済を予定しているとすれば、それは消費貸借契約が結ばれたことを意味します。

労働契約とは別に消費貸借契約を結んだのであれば、その条件には「契約の自由」が働くことになりますから、労働基準法16条に定められた賠償予定の禁止は適用されません。

希望者に対して選択的に受けてもらう自己啓発セミナー、会社業務とはそれほど関連性のない一般的な資格(簿記、英検、TOEICなど)のための学習について、社員の自由意思が尊重されている限り、会社の定める条件に応じて返還が必要なケースがあります。

なお、返還が必要なケースであったとしても、会社としてはできる限り社員のモチベーションを向上させるため、費用を補助したり、資格取得者への昇給や賞与などによって費用をまかなえるように配慮したりすることがお勧めです。

返還が不要なケースの典型例

一方で、上記要素の考慮の結果、業務性が強く、会社の業務との関連性が強いと考えられるのであれば、労働契約と一連の契約であると考えられます。すると、「退職する場合には一括して返済させる」もしくは「早期退職の場合にのみ違約金を課す」などの特約は、賠償予定の禁止に違反しており、無効となります。

会社側としては、社員に留学させたり、研修を受けさせたりするとき、会社の業務に役立つ研修を受けさせたいと思うのが通常です。管理職向けの管理職研修、セクハラ・パワハラ研修、営業職向けの営業実務研修などがその典型例です。

そして、これらの会社の業務に役立つ研修の費用は、どれほど高額であろうとも、また、どれほど直後に早期退職しようとも、業務命令で受けたものである限り費用の返還請求は認められません。

なお、どのような場合でも、会社を退職することは労働者の自由であり、この「退職の自由」を妨害することは許されません。

留学・研修費用などに関する裁判例・法律など

留学費用資格取得費用返還

留学・研修費用などを返還する必要があるのかどうかについて、その判断基準を理解していただいたところで、実際の裁判例でどのように判断されているのかについて、弁護士が解説します。

個別具体的なケースにおいては、個別事情に即して、会社から労働者に対する返還請求を認める裁判例、認めなかった裁判例のいずれも存在します。

長谷工コーポレーション事件(東京地裁平成9年5月26日判決)

長谷工コーポレーション事件(東京地裁平成9年5月26日判決)では、社員留学制度について、人材育成施策の1つであるとしながら、業務命令に基づくものではなく社員の自由意思によるものであり、留学先大学院や学部の選択が本人の意思に任されていること、留学経験などが会社の業務に直接役立つわけではなく、一方で社員個人にとって有益な経験となることなどから、労働契約とは別に、費用分担についての契約を定めていると判断しました。

その上で、社員が留学前に署名した誓約書において、一定期間を経ずに退職した場合には留学について会社が負担した金額の全額を返済すると記載されていたことから、一定期間勤務した場合には返還債務を免除する旨の特約付きの金銭消費貸借契約が成立していると評価しました。

そして、労働契約とは別の消費貸借契約による定めであることから、労働基準法16条が禁止する違約金の定め、損害賠償額の予定には違反しないと判断し、会社側の返還請求を認めました。

富士重工業事件(東京地裁平成10年3月17日判決)

富士重工業事件(東京地裁平成10年3月17日判決)では、研修への応募は社員の自由意思に委ねられていたものの、研修の参加によって業務遂行に役立つ語学力や、海外での業務遂行能力を向上させる点で、研修は社員教育の一部であると判断しました。

その上で、その研修期間中に、会社の業務にも従事していたことから、その研修費用は会社が負担すべきもので、社員が負担すべきものではないとしています。

したがって、以上のことから、約束した期限前に退職したからといって違約金を課すことか労働基準法16条の「賠償予定の禁止」に違反するとして、会社から社員に対する費用返還請求を認めませんでした。

新日本証券事件(東京地裁平成10年9月25日判決)

新日本証券事件(東京地裁平成10年9月25日判決)では、留学への応募は社員の自由意思に委ねられているものの、職場外研修の1つと位置付けられており、留学が決まった場合には学科の選考や内容は会社が決めること、留学期間中も社員と同様の待遇をすることなどから、留学は業務の一環であると評価されました。

そのため、留学終了後5年以内に自己都合退職したときに留学費用を全額返還させる旨の留学規程もまた、業務命令として留学させた社員の早期退職を防ぐものと認定されました。

したがって、以上のことから、たとえ応募が自由であっても、選考科目の指定があるなど業務との関連性があることから、会社から労働者に対する費用返還の請求を認めませんでした。

野村證券事件(東京地裁平成14年4月16日判決)

野村證券事件(東京地裁平成14年4月16日判決)では、海外留学が労働者個人にとっても会社にとってもメリットがあるものでありながら、一切の返還請求を認めないとするならば、会社が費用負担をすることによって海外留学をさせるという制度をとることに消極的とならざるを得なくなってしまうという問題点を指摘しました。

その上で、労働者としても、一定の条件の下に返還請求がありうることを理解して留学をしたのであれば、一定期間勤務を継続しなければ費用返還が必要であるとしたとしても、労働者の意思を不当に拘束することとはならないとして、留学費用のうち一部について、会社の費用返還請求を認めました。

具体的には、留学費用のうち、債務免除までの期間が5年間と定められていたところ、留学からの帰任後退職までの1年10カ月を案文計算した費用を返還するよう命じました。

国家公務員の留学費用の償還に関する法律

国家公務員については、平成18年6月19日、「国家公務員の留学費用の償還に関する法律」が施行されました。

この法律は、上記の野村證券事件の判示の影響を受けており、留学期間満了後5年以内の退職について在籍期間を按分した金額の返還を認めるという内容となっています。したがって、一方で、条件を満たさなかったからといってすぐに全額の返還をしなければならないわけではない反面、労働基準法違反として全く返還しなくてもよいわけでもありません。

この法律は、国家公務員に適用されるものであり、民間企業の留学などに適用されるわけではないものの、裁判における判断では一定の参考とされる可能性が高いものです。

「労働問題」は浅野総合法律事務所にお任せください!

留学費用資格取得費用返還

今回は、会社負担によって留学、研修、セミナーや資格取得などを行った後で、早期退職をした場合に、これらの会社負担の費用について返還をする必要があるのかどうかを、弁護士が解説しました。

業務との関連性が強く、会社の命令で受けた研修などの費用は返還の必要はありませんが、社員個人のメリットともなる留学などは、費用の一部を返還する必要がある場合もあります。「業務との関連性がどの程度か」は、個別具体的なケースに応じて慎重に判断しなければなりません。

会社から、費用の返還請求を受けてしまったり、退職にともなって損害賠償請求を受けてしまったりしたときは、ぜひ一度当事務所へ法律相談ください。

「労働問題」弁護士解説まとめ

お問い合わせはこちら

法律問題にお悩みのすべての方へ。
弁護士法人浅野総合法律事務所まで、まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約は、24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

お問い合わせ

法律問題にお悩みのすべての方へ。

弁護士法人浅野総合法律事務所まで、
まずはお気軽にご相談くださいませ。

法律相談のご予約は、
24時間受付しております。

03-6274-8370

お問い合わせ

-労働問題
-

法律相談のご予約は、
 24時間お受付しております。 

03-6274-8370

お問い合わせ

© 2020 弁護士法人浅野総合法律事務所