労働問題

出向命令は拒否できる?違法な出向命令への対応方法【弁護士解説】

2020年7月2日

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出向命令拒否

会社が、労働者に対して、雇用関係を維持しながら他の会社で働くことを命じることを「出向」といい、その命令のことを「出向命令」といいます。

出向命令は、労働者の能力向上や経験値の蓄積、会社間の交流関係の維持など、会社側の様々な目的にもとづいて命じられます。労働者側にとっても、自分のキャリアアップに役立つこともありますが、一方で、遠方への転勤や賃金引き下げ、労働条件や待遇の低下などの不利益をともなう出向命令など、労働者側としてはどうしても拒否したいことも少なくありません。

そのため、出向命令を機に、会社との関係が悪くなり、労働トラブルの火種となってしまうことがあります。

そこで今回は、違法な出向命令の拒否など、出向命令の対象となったときの適切な対応方法について、弁護士が解説します。

「労働問題」弁護士解説まとめ

出向命令とは

出向命令拒否

出向命令とは、労働者が、自身の雇用先の企業との雇用関係を存続させ、在籍したまま、他の会社において相当長期間にわたって業務に従事することをいいます。

出向の目的はケースによって様々ですが、子会社や関連会社への経営指導、技術指導、労働者の能力開発やキャリア形成、雇用調整、中高年齢者への処遇(ポスト不足の改善など)といった目的が挙げられます。

特に、終身雇用を慣行としていた旧来の日本の労働慣行では、1つの会社に生涯勤務することのデメリットを補うため、他社との人材交流を活発にして能力や経験を蓄積したり、1社だけでは硬直的になりがちな人事管理に動きを持たせたりするため、出向は活発に行われてきました。

出向時の法律関係

出向は、出向元との労働契約を解消することなく、出向先の業務に従事することとなる上、出向元と出向先は別法人であるため、出向時の法律関係は複雑になることがあります。

出向中は、出向元との労働契約は解消されないものの、出向先で就労することとなるため、服務規律などの勤務に関するルールについては、出向先の就業規則などが適用されることとなります。あわせて、労働契約は解消されていないため、勤務を前提としないルールについては、出向元の就業規則の適用も受けます。

賃金や賞与については、労務提供を受ける出向先が労働者に直接支払い、出向元が出向先に対して一定の金銭を補償するという方法と、出向元が支払い続け、出向先がその分担額について出向元に支払うという方法のいずれかがとられることが多いですが、最終的には出向元と出向先との合意により決めることとなります。

出向を解消することは、出向規程などの会社規程類に基づき、出向元が判断することが通常です。

出向と転籍の違い

出向と似た手続きに「転籍」があります。転籍は、現在の雇用先企業との雇用契約を終了して、新たに他社との労働関係を結んで他社の業務に従事することです。

出向と転籍の違いは「現在の雇用先企業との雇用契約を維持するか、終了するか」という点にあり、この点を明らかにするために、転籍のことを「転籍出向」、出向のことを「在籍出向」と呼ぶことがあります。

出向と異動・配転の違い

出向と似た手続きに、他には「異動」「配転」があります。異動も配転も、就労場所や所属先が変更されることがあるという点では出向と同じです。

出向と異動・配転との違いは、どの会社の業務に従事するかが変わるかどうか、という点です。出向の対象となると、他社の業務に従事するのに対して、異動・配転はあくまでも雇用先企業内の問題であり、その会社の業務に従事し続けることに変わりはありません。

出向命令を拒否することができる5つのケース

出向命令拒否

出向命令は、日本の労働慣行において一般的によく行われている人材交流の方法であり、出向命令権限が雇用契約上認められる限り、労働者が正当な理由なくこれを拒否することはできません。

しかし一方で、現在の雇用契約を終了して他社に移す「転籍」は、労働者の個別の同意がない限り行うことができず、つまり、労働者側として転籍を拒否できることとされています。出向もまた、転籍と同程度に長期間戻ってこれないことが予想されることもあり、労働条件の不利益な変更を伴うこともあります。

そのため、出向命令も、全く拒否することが許されていないわけではなく、違法、不当な出向命令の場合には、労働者は出向を拒否することができます。

そこで次に、出向命令を拒否することができるケースについて弁護士が解説します。

出向命令権限がない出向

出向命令を行う権限は、雇用契約によって当然に生じるものではなく、命令権限を与える根拠が必要です。就業規則や雇用契約書などに出向について記載された規定があれば、出向命令権限の根拠となります。

そのため、出向命令の対象となったら、まずは会社規程類や入社時の書面などを確認し、出向命令権限の根拠があるかどうかチェックすることが必要です。

働き方の多様化にともない、たとえ正社員であっても、就労場所や職種を限定して契約をする「限定正社員」も増加しています。就労場所や職種を限定されている場合、出向についても対象とはならない旨の合意をしていることがあり、このような場合には、出向を拒否することができます。

労働者の承諾がない出向

出向は、労務提供の相手方を変更するものであるため、会社が出向を命じるためには原則として労働者の承諾が必要であるとされています。民法625条1項にも、次のとおり、労働者の承諾なく雇用契約上の権利を譲渡できないことが定められています。

民法625条(使用者の権利の譲渡の制限等) 1. 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。
2. 労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。
3. 労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は、契約の解除をすることができる。

一方で、裁判例においても、出向へ労働者の承諾は、個別・具体的な承諾でなくても、出向の時期や期間について包括的な事前の承諾や、それと同視し得る場合にも、出向への承諾があったものとすることができるとされています。

ただし、民法625条1項が、労働者の権利保護のために労務の提供先が変更される場合には労働者の承諾を必要としていることから、この趣旨を没却するような無限定な事前同意は違法とされる可能性があります。

新日本製鐵(日鐵運輸)事件(福岡高裁平成12年11月28日判決)

しかして、出向(在籍出向、以下同じ)は労務提供の相手方の変更、すなわち、使用者の権利の全部ないし一部の出向先への譲渡を意味するから、使用者がこれを命じるためには、原則として、労働者の承諾を要するものというべきである。そして、右承諾は、労働者の不利益防止を目的とするものであることからすると、事前の無限定の包括的同意のような労働力の処分を使用者に委ねてしまうような承諾は、右規定の趣旨に沿った承諾とは言い難いと評すべきである。逆に、個別の承諾がない場合においても、出向が実質的に労働者の給付義務の内容に大きな変更を加えるものではない場合は、右規定の趣旨に抵触せず、承諾と同視し得る程度の実質を有する特段の根拠がある場合には、形式的に承諾がないからといって、全ての出向を違法と解するのも相当ではない。

つまり、単に雇用契約書や就業規則に「出向を命じることがある」と定めるだけでは労働者の承諾があったということはできず、少なくとも、出向後の地位や役職、賃金などの労働条件が明らかにされていなければ十分とはいえません。

その上で、上記裁判例は、次のような場合には、個別の承諾までは不要であると判断しました。

逆にいうと、個別の承諾をしておらず、かつ、下記のような場合にもあたらず不利益が大きいと考える場合には、労働者が出向を拒否することが許される場合があると考えることができます。

  • 就業規則に出向規定があり、労働者がこれを遵守する旨の誓約書を提出していること
  • 社外勤務協定が締結され、労働協約にも出向規定があること
  • 実際に出向が活発に行われている現状があること
  • 出向後の労働条件への配慮があること

権利濫用となる出向

以上の点により、就業規則や雇用契約書などに出向規定が定められており、かつ、この規定が適切なものであって労働者の承諾が得られていると考えられる場合であっても、会社側は出向命令権限を濫用することは許されません。

労働契約法では、次のとおり、権利濫用となる出向命令が違法、無効となることを定めています。

労働契約法14条(出向)

使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

必要性のない出向

権利濫用となる出向の1つ目は、出向の必要性のない出向です。

出向の目的は、さきほど解説した通り、技術援助や経営支援、労働者のキャリア形成、能力開発、人材交流の活発化やポスト不足の解消など様々ですが、全く必要性のない出向、言い換えると、具体的な目的の説明できない出向は、権利濫用として違法、無効となる可能性が高いといえます。

むしろ、全く必要性がなく、会社側も理由の説明ができない出向は、ひるがえって、不当な動機、目的による出向である可能性もあります。

不当な動機・目的による出向

権利濫用となる出向の2つ目は、不当な動機、目的による出向です。

労働者に不利益を課し、これにより出向対象となった労働者を辞めさせようとするなど、不当な動機、目的に基づく出向は違法であり、権利濫用として無効となります。セクハラ、パワハラなどの内部告発をした社員、労働組合に加入した社員への報復として行う出向も同様に違法、無効です。

加えて、そのような違法な出向はパワハラ行為と評価され、慰謝料請求を行うことができます。

人選の合理性のない出向

権利濫用となる出向の3つ目は、人選の合理性のない出向です。

会社側として、出向を行う必要性が十分にあったとしても、その目的に即した出向対象者の適切な選定を行わなければ、出向目的を実現することができません。この点で、人選の合理性のない出向は、権利濫用となる可能性があります。

特に、他に適任者がいるにもかかわらず、育児や介護など家庭内の深刻な事情を有する労働者に、あえて単身赴任などの不利益を課す出向は、違法の可能性が高いといえます。

違法な出向命令への対応方法

出向命令拒否

最後に、万が一、違法な出向命令の対象となってしまったとき、労働者側が行うべき適切な対応について弁護士が解説します。

出向命令は、会社側にとっても組織上の重要な理由、目的を持つことが多く、これを拒否する社員に対しては、懲戒処分や解雇を含めた厳しい対応をすることがあります。出向拒否を許してしまうと、他の社員も出向命令に従わなくなることが予想されるからです。

そのため、出向を拒否するときには、懲戒処分や解雇の違法性といったより大きな労働問題に発展したり、労働審判、訴訟などの法的手続きに移行せざるをえなくなる可能性を見すえ、慎重な対応が必要となります。

出向命令の根拠を確認し、承諾はしない

違法の疑いのある出向命令を受けたとき、まずは出向命令の根拠を確認するようにしてください。入社時に作成した雇用契約書や誓約書を確認し、合わせて、就業規則、出向規則といった会社規程類が存在するかどうか、確認してください。

就業規則などの会社規程類は、労働者への周知が義務付けられていますので、会社に問い合わせ、必ず内容を確認するようにしてください。

合わせて、人選の基準や、出向対象となるにあたって受けられる配慮措置などがあるかどうか、確認します。

出向命令への異議を書面で明示する

状況の確認が済んだら、出向命令を拒否する旨の意思表示を、書面によって明示します。

労働者の個別の同意は必要ないとする裁判例があることを解説しましたが、出向に関する事前のルールが詳細に定められていない場合、労働者の同意がなければ出向命令が違法となる可能性があります。納得をしないまま安易に出向命令に同意しないようにすることが大切です。

出向命令への異議は、口頭で伝えるのでは、将来の紛争を防止することができません。必ず、書面やメールなど、証拠に残る形で伝えるようにすることがお勧めです。

出向命令の違法性を労働審判で争う

出向命令に対する拒否を明確にした場合、会社から、懲戒処分や解雇といった厳しい措置がとられることがあります。

出向を命じる会社側としては、たとえ適法に出向命令を行えるケースであったとしても、労働者の納得を得るため、誠意をもって丁寧に説明を尽くすべきです。

そうであるにもかかわらず、出向命令への異議を示した途端、更なる厳しい処分が下されてしまう場合、それ以上の交渉、話し合いによる解決は困難と考えられます。このような場合には、受けた不利益な取扱いについて、労働審判、訴訟などの法的手続きにより、その違法性を問うこととなります。

「労働問題」は浅野総合法律事務所にお任せください!

出向命令拒否

今回は、長期雇用慣行の根強い日本においてよく行われる、出向命令について弁護士が解説しました。

出向命令は、会社組織における必要性が強く、文句があっても我慢して従ってしまいがちです。しかし、近年では、働き方改革に代表される変革にともない、多様な働き方が推奨され、終身雇用の崩壊も叫ばれています。違法な出向に対しては、拒否の意思表示をすることも検討すべきです。

違法な出向命令にお悩みの方は、ぜひ一度当事務所へ法律相談をご依頼ください。

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