少年犯罪の被害にあってしまったとき、犯人(被疑者・被告人)が「少年」であるがゆえに手厚い保護を受けており、「むしろ被害者であるはずの自分たちの権利が不当に害されているのではないか」と感じる方も多くおられます。
- 「娘が、高校生の少年にからだを触られ、肉体関係を強要された」
- 「親が、少年の運転する自動車にはねられて死亡した」
といった少年犯罪の被害者や、被害者遺族からの法律相談をお聞きすることがよくあります。
たしかに、少年審判が原則非公開であるなど少年の保護が図られており、たとえ被害者やその遺族でも、犯人の少年や犯罪行為の詳細が十分つかめず、もどかしい気持ちとなることがよくあります。「嫌な過去を早く忘れたいし、多少の不利益は仕方ない」とあきらめてしまう方もいます。
しかし、弁護士に依頼し、被害者側の権利をしっかりと主張することは、少年による犯罪被害でも重要です。また、通常の事件と同じく、示談、損害賠償請求といった救済手段をとることで、納得のいく解決へと進めていく必要があります。
今回は、少年犯罪の被害者がとるべき権利保護の手続きと、示談や損害賠償請求の対応について、刑事事件にくわしい弁護士が解説します。
少年犯罪の被害者側の基本的な考え方
少年犯罪と「保護優先主義」
少年が被疑者の刑事事件のことを「少年事件」もしくは「少年犯罪」といいます。
少年犯罪(少年事件)では、「保護優先主義」という特別な考え方がとられています。「保護優先主義」は、少年は未成熟で、悪に染まりやすいけれど、一方で更生の機会を与えることでやり直しできる可能性が高いことから、刑事処分(処罰)よりも、更生・教育を優先すべき、という考え方です。
この「保護優先主義」の考え方から、少年犯罪(少年事件)では、少年への保護が手厚く、被害者側としてとることのできる対応が、通常の刑事事件に比べて限定されてしまうことがあります。
少年犯罪でも、被害者側の対応は通常の事件と変わらない
「保護優先主義」により少年犯罪(少年事件)における少年の保護が図られるとしても、被害者側にとっては、犯人(被疑者・被告人)が少年であるか、成人しているかということはまったく関係のないことです。
被害者の負ってしまった犯罪被害は、加害者が少年であるからといって決して軽くなるものではありません。
したがって、いかに少年の保護が大切だとしても、被害者側の権利は通常の事件と同様に守られるべきです。そのため、少年犯罪(少年事件)の特殊性を理解しながら、被害者として取りうる適切な手段を選択し、被害回復を図るのが重要です。
少年犯罪事件の被害者がとるべき適切な対応
次に、少年犯罪(少年事件)の被害者側となってしまった人が理解しておくべき、被害者の取るべき適切な対応について弁護士が解説します。これらの基本的な事後対応は、示談、損害賠償請求といった被害回復の準備としても重要になってきます。
少年犯罪(少年事件)では、少年の保護、教育、更生に光があてられがちですが、一方で、被害者を支援するための多くの制度や手続きが設けられています。
被害者は、少年犯罪(少年事件)に用意された制度にしたがい事件の詳細を知り、気持ちや意見を述べて手続きに反映してもらったり、被害回復を受けたりできます。
少年事件の記録の閲覧・謄写
少年犯罪(少年事件)の被害者や、その遺族となってしまったとき、「まずは事件の内容についてくわしく知りたい」という要望が真っ先にわくことでしょう。
この点については、少年のプライバシーについて配慮がなされている少年犯罪(少年事件)といえども、被害者やその遺族であれば、少年審判の開始決定があったときには、少年事件の記録の閲覧・謄写ができます。
少年法によれば、少年事件の記録を閲覧・謄写する権限があるのは、次の者です(少年法5条の2第1項)。
- 被害者
- 被害者の法定代理人(未成年者の親など)
- (被害者の心身に重大な故障がある場合)配偶者、直径の親族、兄弟姉妹
- 被害者からの委任を受けた弁護士
なお、少年を犯人(被疑者・被告人)とする刑事事件では、事件記録は「法律記録」と「社会記録」にわけられています。そして、少年保護の観点から、閲覧・謄写の対象となるのは「法律記録」のみとされており、「社会記録」についての閲覧・謄写は認められていません。
「法律記録」とは、少年の非行事実が書かれた記録のことで、通常の刑事事件でも作成される供述調書、実況見分調書などが含まれます。これに対して、「社会記録」は、少年事件に特有のもので、家庭裁判所調査官が作成した少年の生活状況の調査報告、少年鑑別所の鑑別結果などが記載されています。
「法律記録」が、犯罪行為について書かれたものであるのに対して、「社会記録」は、「なぜ少年犯罪(少年事件)が起きてしまったのか」といった背景事情を基礎づけるものです。
被害者の心情・意見の陳述
少年犯罪(少年事件)の被害者は、希望するときには、家庭裁判所で行われる少年審判で、意見を述べる機会を得られます。心情・意見の陳述は、少年審判の期日で行うこともできますし、少年審判の期日外で、裁判官や家庭裁判所調査官に対して伝えることもできます。
そして、被害者が希望するときには、家庭裁判所は原則としてその意見を聴取しなければなりません。
被害者の述べることができる心情・意見は「被害に関する心情その他の事件に関する意見」(少年法9条の2)と幅広く認められています。少年犯罪(少年事件)で、被害者の意見陳述を有効に活用できるケースは、例えば次のとおりです。
- 被害者や遺族の現在の状況について意見を述べる
- 少年事件によって負った被害の程度が大きいことを伝える
- 少年事件によって負った心の傷(トラウマ)が消えないことを伝える
- 被害者や遺族の日常生活が、少年犯罪(少年事件)によってどのように害されたかを具体的に伝える
- 少年の処罰を望むかどうか、どのような処罰を希望するかについて意見を伝える
心情・意見の陳述をすることに被害者側のデメリットはないため、手続きへの参加を希望するときには積極的に検討するようにしてください。
少年審判の傍聴
少年審判は、原則として非公開ですが、事件の種類によっては被害者や遺族であれば、少年審判を傍聴することができます。
少年審判の傍聴は、被害者や遺族の申出によって、「少年の年齢及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を考慮して、少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるとき」(少年法22条の4第1項)に認められます。傍聴が認められる対象事件は、次のとおりです。
- 犯罪少年または12歳以上の触法少年が被疑者であること
- 次の犯罪類型にあたる事件であり、生命に重大な危険を生じさせた場合
① 故意の犯罪行為により被害者を死傷させた罪
② 刑法211条(業務上過失致死傷等)の罪
③ 過失運転致死傷等の罪
傍聴の申出をするときには、あわせて被害者代理人の付添を求めることによって、被害者とともに代理人弁護士も同席を認めてもらうこともできます。ただし、少年への影響に配慮する必要があるときは、遮蔽措置がとられることがあります。
審判状況や結果の通知
少年犯罪(少年事件)の被害者や遺族は、少年審判の状況について説明を受けたり、少年審判の結果について通知を受けたりすることができます。
審判状況や結果の通知は、被害者や遺族の申出により、少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるときに、家庭裁判所から説明が行われます。ただし、申出は少年事件の終局決定が確定してから3年以内にする必要があるため、できるだけ早めに対応するのが重要なポイントです。
あわせて、少年審判において少年が保護処分を受けたときは、少年院における処遇状況、保護観察中の処遇状況について、説明・通知をしてもらうことができます。
弁護士への相談
刑事事件で「弁護士」というと、被疑者側が処罰を軽くするために相談・依頼するイメージが強いですが、刑事事件の被害者となってしまった側にとっても弁護士のサポートを受けるメリットがあります。被害者側が弁護士に依頼するメリットは、次のとおりです。
- 被害者側を保護する制度について詳しい説明を受け、活用できる
- 適切な被害回復(示談・損害賠償請求)を図ることができる
- 加害者側や裁判所とのやりとりについて、直接おこなう必要がなく、精神的負担を軽減できる
少年犯罪(少年事件)では、逮捕・交流から少年審判・処分までの流れが、通常の刑事事件とは異なるため、少年事件についての経験が豊富な弁護士に相談・依頼することで、その流れをよく理解しておく必要があります。
また、弁護士に被害者側の代理人としてサポートしてもらい、少年審判の傍聴、意見陳述などの手続きに同席してもらおうことで、被害者側の心情と意向に配慮した、納得感のある解決の手助けとなります。
少年犯罪の被害回復について
加害者が少年であっても、被害者にとってその被害の程度は通常の刑事事件とまったく変わりません。そのため、少年犯罪(少年事件)の被害者となってしまったとき、適切な被害回復を求める必要があります。
犯罪の被害者側が、被害回復のために行うべき方法には、示談、損害賠償請求などがあります。これらの手続きについて弁護士に依頼することで、直接加害者とやりとりをする必要がなく、また、法的に適切な、損のない解決を得ることができます。
示談
刑事事件では、被害者と加害者の間の話し合いの結果、示談をすることがあります。示談では、加害者に一定の示談金を支払ってもらうことで、その被害について許し、処罰を求めないという取り決めをします。
少年犯罪(少年事件)でも、通常の刑事事件と同様に、被害者としては、加害者となる少年との間での示談を目指すことで、最もスムーズに被害回復を得ることができます。
少年犯罪(少年事件)で加害者の少年と示談をしようとするとき、捜査機関(警察・検察)に問い合わせをし、連絡先を教えてもらう必要があります。また、犯罪の再発防止や精神的ストレスの軽減のためには、被害者側でも弁護士に依頼し、示談交渉を任せることが有効です。
少年犯罪(少年事件)では、通常の刑事事件と違って、示談したからといって不起訴にはなりません。示談が成立しても家庭裁判所に送致されるのが通常です。そのため、少年側からすれば、示談したからとて軽くすむわけでなく、示談に消極的なこともあります。
ただし、少年が反省の態度を示したり、謝罪したりしているかどうか、今後の更生が可能かどうか、といった事情の判断において、示談が成立しているかどうかを家庭裁判所は考慮します。そのため、少年犯罪(少年事件)でも、示談についての話し合いが行われることが一般的です。
損害賠償請求(被害回復請求)
少年犯罪(少年事件)の被害を受けてしまった人にとって、少年の処遇とともに重要なこととして、受けてしまった被害の回復があります。
少年側から示談の申出があり、被害回復に十分な程度の示談金が支払われればよいのですが、少年の養育環境や親の収入状況によっては、示談の提案が十分になされないおそれもあります。このようなとき、被害者側から、民事上の損害賠償請求をすることで、受けた被害の回復を求める必要があります。
刑事事件の被害者代理人として弁護士に相談・依頼しているときは、あわせて、損害賠償請求についても弁護士に任せることができます。
なお、加害者の少年の年齢によっては、「責任能力」に欠けるとして民事上の責任が認められないおそれがあります。民法には次のような定めがあり、非行事実を認識し、判断することのできない年齢の場合には、責任能力が認められません。
民法712条(責任能力)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
民法(e-Gov法令検索)
また、仮に責任能力が認められたとしても、未成年者の多くはまだ学生であり仕事をしておらず、十分な収入と資力がないことがほとんどです。
以上のことから、損害賠償請求による被害回復を実現するためには、加害者である少年本人への請求とあわせて、保護者である両親への請求もしておく必要があります。加害者である少年が責任無能力者なときには、両親が、監督義務者としての責任を負うこととなります(民法714条)。また、監督懈怠の程度が深刻なときは、両親は民法709条により直接の不法行為者としての責任を負うこともあります。
民法714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
1. 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2. 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
民法(e-Gov法令検索)
まとめ
今回は、少年犯罪(少年事件)の被害者となってしまった方や、その遺族が、少年犯罪(少年事件)によって受けた被害を少しでも回復するために行うべき適切な対応について、弁護士が解説しました。
少年への配慮と保護が図られる少年犯罪(少年事件)では、被害者側が十分な被害回復を得るためには、少年事件の進行の特殊性を知っておく必要があります。
少年の保護が叫ばれるニュース報道などを見ると、少年による犯罪事件の被害者になってしまうと「被害者側は何もできず我慢しなければならないのか」と感じるかもしれません。しかし、少年犯罪(少年事件)における「保護優先主義」の考え方のもとでも、被害者の心情に配慮するための制度があり、これらを活用し、納得いく解決へと進める必要があります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、刑事事件に力をいれており、被害者側・加害者側を問わず、サポートを提供しております。
少年犯罪(少年事件)をはじめ、犯罪被害にあってしまった方は、その後の対応や被害回復について、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
刑事被害のよくある質問
- 少年犯罪で、少年の保護が強いのはなぜですか?
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少年犯罪(少年事件)では「保護優先主義」という考え方がとられているため、少年の保護が強くはたらきます。これは、少年は未熟であり、更生・教育の機会を与えるべきだとする考えです。もっと詳しく知りたい方は「少年犯罪の被害者側の基本的な考え方」をご覧ください。
- 少年事件の被害者になってしまったとき、どのような対応が適切ですか?
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被害者側にとっては、その被害が深刻なことは、相手が少年だろうとそうでなかろうと同じことです。少年犯罪(少年事件)でも、記録の閲覧・謄写をし、少年審判を傍聴したり、被害者の意見・心情を述べたりする機会を活用できます。詳しくは「少年犯罪事件の被害者がとるべき適切な対応」をご覧ください。