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私生活上の非違行為を理由に懲戒処分や解雇は可能?

従業員による私生活上のトラブルや不祥事が、企業の信用や業務に悪影響を及ぼすことがあります。リスクが顕在化した際、企業として、私生活上の非違行為にどのように対処すべきでしょうか。懲戒処分や解雇といった対応が可能なのか、頭を悩ませる場面もあるでしょう。

原則として、労使の雇用関係は、あくまで業務時間中の監督が可能であるに過ぎず、私生活(プライベート)は自由なので、企業は関与できません。しかし、非違行為の内容や社会的な影響の大きさによっては、懲戒処分や解雇といった対応も正当であると認められるケースもあります。

例えば、痴漢や公然わいせつなどの性犯罪、飲酒運転など、社会問題となるような犯罪で逮捕されたり、メディア報道されたりすれば、会社の信用を毀損するのは当然です。

今回は、私生活上の非違行為への企業側の適切な対応と、懲戒処分や解雇とする際の注意点について、弁護士が詳しく解説します。

この解説のポイント
  • 懲戒処分を行う際は、就業規則上の根拠と手続きに従う必要がある
  • 私生活上の非違行為でも、会社の業務や信用に影響する場合は懲戒処分が可能
  • 痴漢や飲酒運転など、重大な非違行為があるときは解雇すべき場合がある

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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私生活上の非違行為とは

非違行為とは、法令や社会的な規範への違反を広く指す言葉です。

企業の労務で「非違行為」というとき、法令のほか、社会通念上不相当とされる言動や就業規則違反などを含むことが多いです。刑法に違反する犯罪行為(窃盗や暴行、痴漢など)が違法なのは当然ですが、法に触れなくても企業の信用を毀損したり、職場の秩序を乱したりといった不適切な行為もまた、企業にとって看過できません。

私生活上の非違行為と業務の関係

私生活上の非違行為は、業務時間外に、従業員が私的に行った問題行動のことです。

労使関係は業務時間中のみの拘束に留まるので、社員の私生活(プライベート)は個人の自由として尊重されるのが原則で、企業が過度に干渉すると違法の可能性もあります。しかし、私生活上のことでも、不適切な非違行為が行われると、その非行の影響は企業の業務や信用に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。

企業の信用を失墜させたり、顧客や取引先を失うことに繋がったり、職場の秩序や規律を乱したりするときには、私生活上の非違行為といえども業務に密接に関連しており、企業として懲戒処分や解雇といった制裁を検討すべき場合があります。

私生活上の非違行為の具体例

実際に、よく問題視される私生活上の非違行為には、次の具体例があります。

  • 痴漢・盗撮・暴行などの犯罪行為
    私生活でも、犯罪を起こして逮捕されたり、メディアで会社名が報道されたりすると、企業の信用やイメージに悪影響を及ぼします。
  • 交通事故
    ミスによる事故やもらい事故は仕方ない面もありますが、飲酒運転や居眠り運転など、刑事事件化したり社会的に問題視されたりすると、企業の信用に影響します。
  • 不貞(不倫や浮気)
    業務に関連しない男女関係は個人の自由ですが、部下に性交渉を強要していた、取引先社員との不倫で商談が失敗したなど、職場の秩序に影響するケースもあります。
  • SNSにおける不適切な投稿
    勤務先が特定できるアカウントで差別的発言をしたり、不用意な発信で炎上を招いたりすると、企業の信用に直結するおそれがあります。

企業側としては、社員の私生活上の行為について、過度な干渉は許されませんが、業務に影響するような問題行動がないかどうかは、最低限把握しておく必要があります。そして、業務に関連する場合には、私生活上の非違行為といえども、その行為の性質や社会的影響、業務との関連性の程度などに応じて、懲戒処分や解雇を検討する必要があります。

私生活上の非違行為で懲戒処分や解雇は可能?

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次に、私生活上の非違行為で、懲戒処分や解雇が可能かについて解説します。

懲戒処分とは、社員の企業秩序違反行為に対して、制裁の意味を持つ不利益な処分のこと、解雇とは、会社からの一方的な都合による労働契約の解約のことです。いずれも、労働者に不利益な処分なので、法律によって制限されており、正当な理由がなければ無効となる可能性があります。

私生活は処分理由にならないのが原則

原則は、私生活上の行為を理由として、直ちに懲戒処分や解雇とすることは認められません。

労働者として雇用されていても、私生活は、憲法上の人格権(プライバシー権や自己決定権)により保護されており、自由が保障されています。使用者の管理や処分も、私生活には及びません。

企業が懲戒処分を下すには、就業規則上に根拠があることに加え、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます(労働契約法15条)。私生活上の非違行為は、処分を正当化する「客観的に合理的な理由」とは言えないのが原則です。

会社の信用や業務に重大な影響を及ぼす場合は例外

ただし、非違行為が私生活上のものでも、会社の信用や業務に重大な影響を及ぼす場合には、例外的に懲戒処分や解雇が可能なケースがあります。

例えば、次のようなケースでは、処分を検討する余地があります。

  • 社会的に大きな批判を受け、企業の信用を著しく損なった場合
  • 報道などで企業名が取り上げられ、イメージが毀損された場合
  • 職場の秩序を乱し、業務に支障がある場合(例:社内不倫、暴力事件など)
  • 顧客や取引先との関係を悪化させた場合

このようなケースでは、私生活上の非違行為でも、業務に密接に関連する結果、処分をする「客観的に合理的な理由」に該当すると考えられます。

処分できるとしても権利濫用は許されない

以上の検討から、「私生活上の非違行為だが、業務に密接に関連するので懲戒処分や解雇とすべき」と判断されるケースでも、懲戒権・解雇権の濫用は、法律で厳しく規制されます。懲戒処分は労働契約法15条、解雇については労働契約法16条が、それぞれ、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に、処分を無効とすることを定めています。

労働契約法15条(懲戒)

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法(e-Gov法令検索)

つまり、企業側には一定の懲戒権・解雇権が認められるものの、処分に合理性、相当性がなければ、権利濫用として無効になるわけです。

懲戒処分には、軽度の譴責・戒告から、中程度の出勤停止・減給・降格、重度の懲戒処分・諭旨解雇まで、様々な処分内容があります。「相当性」の観点からして、私生活上の非違行為が懲戒処分の対象となる場合でも、非行の内容と処分のバランスを失すれば、無効となる可能性が高いです。

特に、私生活上の非違行為に基づく処分は、「業務に生じた具体的な悪影響」と「社会的な評価」について、証拠と共に説明できるよう準備する必要があります。処分後に労使紛争に発展するリスクも高いので、処分前に弁護士のアドバイスを受けるのが賢明です。

懲戒処分は、その要件(どのようなときに、懲戒処分にすることができるか)と効果(どのような懲戒処分を選択できるか)を、就業規則に定めておかなければ、下すことができません。つまり、就業規則を作成するときには、懲戒処分の制度を会社に設けたいなら、そのことを定める必要があるということです。

私生活上の非違行為に関する裁判例の判断基準

次に、私生活上の非違行為に対する懲戒処分や解雇について、裁判例における判断基準を解説します。具体例を知ることは、どのような非行があれば懲戒処分や解雇が有効と判断されやすいのかを理解する助けとなります。

裁判例における判断基準

雇用契約に基づく拘束は業務時間内に限られ、私生活への干渉は許されないのが原則、しかし、私生活上の非違行為も、企業の信用や業務に重大な影響がある場合は、懲戒処分の対象となります。この点について、関西電力事件(最高裁昭和58年9月8日判決)は次のように判示しています。

労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができるものであるところ、右企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職場遂行に関係のある行為を規制することにより維持し得るのであるが、職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許されるのであり、右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。

関西電力事件(最高裁昭和58年9月8日判決)

そして、私生活上の言動が、どの程度の処分の対象となるかは、その言動の内容や企業秩序への影響の程度によって、個別に検討すべきです。この点に関し、日本鋼管事件(最高裁昭和49年3月15日判決)は、次のような判断基準を示しています。

  • 行為の性質や内容、情状
  • 会社の事業の種類、態様、規模
  • 会社の経済会に占める地位
  • 経営方針
  • 従業員の会社における地位・職種

これらを踏まえて、私生活上の行為が「会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に限り、懲戒処分が正当とされると判断しました。

飲酒運転を理由とする懲戒解雇の場合

飲酒運転は社会的非難が非常に強く、厳罰化も進んでいます。

飲酒運転は、スピード違反や無免許運転、ひき逃げなど、他の重大な交通ルール違反に結びつくことも多く、極めて悪質とされます。そのため、私生活上の行為でも、社員の飲酒運転が発覚すれば、企業の名誉や信用を失墜させるのは明らかです。特に、顧客や取引先との関係に悪影響を及ぼす場合は、懲戒事由に該当する可能性があります。

更に、バス会社やタクシー会社など、運転を業務とする職種では、その影響はより深刻であり、懲戒解雇を含めた重大な処分を検討する余地が大いにあります。

私用メールを理由とする懲戒解雇の場合

就業時間中の私用メールは、労働者の「職務専念義務」に反する可能性があります。ただし、業務に支障がない範囲での最小限の私的行為までも一律に禁止するのは不適切です。

したがって、私用メールが懲戒処分の対象となるのは、頻度や内容が常識の範囲を超えて業務に著しい支障を及ぼす場合に限られます。また、このようなケースでも、まずは譴責や戒告といった軽微な懲戒処分が相当とされるのが一般的です。

ただし、私用メールの内容が、会社への誹謗中傷や取引先への暴言など、誠実義務に違反するような問題行動がある場合、減給や降格といったより重い処分も検討すべきです。

犯罪行為を理由とする懲戒解雇の場合

社員が私生活において犯罪行為をした場合、会社の名誉や信用を著しく傷つけることは明らかです。特に重大な犯罪や、報道で勤務先が明らかになった場合、その影響は甚大です。もっとも、私生活上の犯罪が直ちに懲戒解雇の理由になるとは限りません。懲戒解雇が有効となるには、その犯罪が社会的に強く非難され、会社に著しい損害や影響を及ぼすものである必要があります。

この点に関連する裁判例として、横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日判決)は、深夜に他人宅へ侵入し、住居侵入罪で罰金刑を受けた社員に対する懲戒解雇の有効性が争われました。裁判所は、以下のように述べ、解雇は無効であると判断しました。

右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y会社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、Xの右行為が、Y会社の体面を著しく怪我したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。

横浜ゴム事件(最高裁45年7月28日判決)

私生活上の非違行為に対して懲戒処分を下す方法と手順

ポイント

最後に、私生活上の非違行為を理由に、懲戒処分や解雇という処分を下す際、会社が取るべき方法や手順について解説します。手続きに不備があったり、就業規則に従っていなかったりすると、労働者から不当であると争われ、敗訴するおそれがあるので注意を要します。

特に、「不当解雇」と判断されて無効になると、問題社員であると評価した社員の復職を認めなければならず、解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払い義務を負うこととなります。

STEP

就業規則の整備が前提となる

懲戒処分を有効に行うには、あらかじめ就業規則に懲戒処分に関する規定を整備しておくことが前提です。特に、私生活上の非違行為を懲戒処分の対象とする場合、具体的に想定される行為を明記しておくべきです。

懲戒処分に関する規定では、処分の種類や対象となる事由をできる限り網羅的に、かつ具体的に記載しておくのが望ましいです。

問題行為が発生した時点で就業規則を整備しても、遡って適用することはできないので、日常から、定期的に規程類を見直しておくことが重要です。

STEP

懲戒権の濫用とならないよう証拠を収集する

就業規則に該当する懲戒事由がある場合でも、実際の処分が客観的に合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないと判断されると、懲戒権の濫用として処分が無効となるリスクがあります(労働契約法15条)。

特に懲戒解雇の場合、退職金の不支給や失業保険への影響、再就職のハードルとなるなど、労働者の不利益が大きいので、裁判所でも厳格に審査されます。そのため、処分の正当性を裏付けるために、証拠の収集が不可欠です。後に労働審判や訴訟となった場合に備え、事実関係の調査や記録化は丁寧に行っておくべきです。

STEP

処分前に弁明を聴取する

懲戒処分を決定する前に、対象となる社員本人に弁明の機会を与えることが必要です。

本人の言い分を聴かずに処分を下した場合、手続きの公正性を欠くとして、後に処分が無効とされる可能性があります。特に、懲戒解雇は重大な不利益があるため、手続きが適切でないと、それだけで無効と判断されるリスクがあります。

弁明の機会の付与方法としては、期日を指定して対面で聴取する形式や、期限を定めて書面を提出させる方法などがあります。特に懲戒解雇の場合、懲戒委員会や懲罰委員会を開催するなど、対面による手続きを就業規則で定めている企業もあります。

STEP

退職金の支給・不支給を検討する

懲戒解雇を行う際、退職金を不支給や一部減額とすることを退職金規程に定めている会社が多くあります。しかし、裁判例では、退職金の功労報償的な性格からして、退職金の不支給が認められるのは、その社員の勤続の功労を抹消するほど著しく信義に反する行為がある場合に限られると判断されています。

そのため、たとえ懲戒解雇が許されるケースでも、その内容や程度を踏まえ、退職金の全額を不支給とするか、一部減額に留めるかは慎重に判断すべきです。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、従業員の私生活上の非違行為に対する企業の対応について解説しました。

私生活上の非違行為であっても、その非行が企業の社会的信用や職場秩序に深刻な影響を及ぼす場合には、懲戒処分や解雇といった厳しい処分が認められることがあります。一方で、業務に直接関係しないときは、私生活上の行為は基本的に自由であり、処分が無効とされるリスクもあります。

企業側では、私生活上の非違行為がどのような場合に処分の対象となるのか、就業規則に明記し、処分の前には弁明の機会を適切に与え、調査を徹底することが重要です。また、処分の内容が、非違行為の重大さとバランスの取れた相当なものであるかどうかもチェックしてください。

懲戒処分や解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、不当な処分として無効となります。法的リスクを回避するためにも、厳しく処分するケースほど、弁護士のアドバイスを得ながら進めるのが賢明です。

この解説のポイント
  • 懲戒処分を行う際は、就業規則上の根拠と手続きに従う必要がある
  • 私生活上の非違行為でも、会社の業務や信用に影響する場合は懲戒処分が可能
  • 痴漢や飲酒運転など、重大な非違行為があるときは解雇すべき場合がある

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