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損害賠償命令制度とは?犯罪の被害者の立場でメリット・方法を解説!

犯罪の被害者になったとき、身体的にも精神的にも、大きなダメージを負います。何より納得いかないのは、被害者であるにもかかわらず金銭的な負担を受けてしまうことでしょう。

例えば、暴行事件の被害者になると、心身が傷つくのはもちろん、被害者であるにもかかわらず治療費を払わなければならず、「加害者に請求したい」と考えるのは当然です。犯罪の被害者が負ってしまう金銭的な損失は、治療費だけにとどまらず、通院交通費、入院費用、破損した持ち物の修理費、休業損害などさまざまあります。加えて、精神的苦痛を負ったとき、慰謝料請求ができます。

これらの犯罪によって受けた被害を回復するためには、加害者に損害賠償請求する必要があります。この際、被害者保護のため、加害者への請求をしやすくするための制度が、今回解説する「損害賠償命令」の制度です。

今回は、刑事事件の被害者が知っておくべき損害賠償命令制度の知識と、利用方法、解決までの流れについて、刑事事件にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 損害賠償命令制度は、刑事被害者保護のため、刑事事件の審理の後に、民事の審理を行う制度
  • 損害賠償命令制度を利用すれば、刑事被害者による責任追及をスピーディに行えるメリットあり
  • 制度利用のためには、起訴から審理終結までの間に申立てを行う
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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損害賠償命令制度とは?

損害賠償命令制度とは、特定の犯罪の被害者となってしまった方が、刑事事件の審理をしている裁判所に対して、判決の言渡し後につづいて、損害賠償請求(民事事件)の審理を求めることができる制度です。

損害賠償命令とは
損害賠償命令とは

「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」(犯罪被害者保護法)という法律で、特別に認められた制度です。

対象となる犯罪

損害賠償命令制度を利用できるのは、法律に定められた対象犯罪のみです。そのため、すべての犯罪被害者が利用できるわけではありません。

損害賠償命令制度を利用できる対象犯罪は、次のとおり犯罪被害者保護法23条1項に定められています(被害者参加制度の対象犯罪とおおむね同じですが、過失犯は除かれます)。

  1. 殺人罪、傷害罪など、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪
  2. 不同意わいせつ、不同意性交等などの罪
  3. 逮捕、監禁などの罪
  4. 略取、誘拐などの罪
  5. 2〜4までの犯罪行為を含む罪
  6. 以上の罪の未遂罪

損害賠償命令制度の対象犯罪が指定されているのは、一定の重大犯罪であり、有罪判決が下されれば、被害者に損害が発生しているであろう犯罪に限定する必要があるためです。また、損害賠償命令制度は、4回までの期日で損害賠償責任について判断しなければならないので、過失犯は、過失の態様や程度が争いとなって審理が長期化するおそれがあるとして対象から除かれています。

なお、損害賠償命令制度を利用できるのは、被害者本人、もしくはその一般承継人(相続人など)と定められています。

損害賠償命令制度の目的

本来、損害賠償請求は民事事件ですから、刑事事件と同じ手続きで審理することはできません。裁判所では、民事事件は「民事部」、刑事事件は「刑事部」で担当するのが原則だからです。

しかし、刑事事件の被害者となり、損害を被ってしまったのに、被害者がわざわざ訴訟を起こさなければ被害回復ができないというのでは、費用や時間が多くかかり、泣き寝入りとなってしまうおそれがあります。

そこで、犯罪の被害者が、少しでも早く、手間なく、かつ、有利に被害回復を実現できるようにすることを目的に、被害者救済のために用意されたのが、損害賠償命令制度なのです。

損害賠償命令制度を利用することで、刑事事件に続いて、4回までの期日で被害回復についての裁判所の判断を得られるため、通常の民事事件に比べて、早急に被害回復を実現することができます。

損害賠償命令の申立てから解決までの流れ

計算

では実際に、損害賠償命令制度を利用するとき、どのような手続き、方法となるのかについて、弁護士が解説します。

損害賠償命令制度を利用するときには、次の手順にしたがって、刑事裁判の公訴提起後に、損害賠償命令の申立を行います。

なお、損害賠償命令の手続きは、刑事裁判の審理・判決の後、その続きとして行われますが、刑事裁判自体は検察官の起訴によって始まるものであり、犯罪の被害者といえども刑事裁判を自ら起こすことはできません。

したがって、検察官が不起訴処分とするなど、刑事裁判が行われないと、損害賠償命令制度を利用することもできません。

損害賠償命令の申立て

損害賠償命令制度を利用するときには、対象となる犯罪の刑事事件のうち、起訴時点から弁論の終結時までの間に申し立てを行う必要があります。申立期限を過ぎてしまうと、損害賠償命令制度を利用できなくなるため注意が必要です。

論告求刑(検察官側の最終意見)、最終弁論(弁護側の最終意見)が行われる期日に弁論が終結されますので、その期日までには申立書を提出しておかなければなりません。

損害賠償命令の申立て
損害賠償命令の申立て

損害賠償命令の申立をした後、有罪判決が下されたときには、そのまま、刑事事件を審理した裁判官が、損害賠償命令の審理を行います。

損害賠償命令の申立について、弁護士を代理人として進めることができます。弁護士に依頼することによって、申立書の記載にもれなく、証拠資料などを的確に準備することができます。

なお、申立後に、無罪判決が下されたときは、損害賠償命令の申立は却下されます。このときでも、別の手続きで、民事の損害賠償請求をすることができます。

審尋手続

損害賠償命令制度の審理は、多くの場合、非公開で行われます。

損害賠償命令の申立がされているとき、刑事裁判の判決が言い渡された法廷で、そのまま損害賠償についての第1回期日が継続して行われるのが通常です(刑事裁判は公開の法廷で行われますが、損害賠償命令の審理に移行すると傍聴人は退廷を命じられます)。

損害賠償命令の審尋手続は、原則として4回までの審理で行われます。審尋手続は、通常の民事訴訟と同じように進行することが多く、当事者から主張・立証がなされたり、裁判官から和解が提案されたりすることもあります。

決定

損害賠償命令制度の審理が終了すると、裁判所は、申立に対する「決定」を下します。決定には、民事訴訟の判決と同じ効力があるため、確定すれば、強制執行(財産の差押え)ができます。

損害賠償命令の決定は、決定書の交付によって行われるほか、口頭告知によって行うこともできるとされています。

異議申立てと民事訴訟への移行

損害賠償命令の決定について不服のある当事者が2週間以内に異議申立てをした場合をはじめ、次のようなときには、民事訴訟に自動的に移行することとなっています。

  • 決定から2週間以内に異議申立てがなされたとき
  • 4回以内の審理で終結の見込みがないとき
  • 被害者側からの申立があったとき
  • 加害者側が民事訴訟への移行の申立をし、被害者側が同意したとき

損害賠償命令から移行した民事訴訟では、被害者の負担を減らすため、あらためて証拠を提出しなくても、刑事裁判で提出された証拠を利用することができます。

刑事事件と民事事件とで証拠が共有されてしまうことで、被害者や関係者のプライバシーが侵害されてしまわないよう、注意が必要となります。

刑事事件や、それに続いて行われる損害賠償命令制度では、当事者または利害関係人しか事件記録の閲覧・謄写をすることができませんが、民事訴訟では、原則として誰でも記録の閲覧・謄写ができてしまうからです。

特に、性犯罪のようにプライバシーに深く関わる事件では、二次被害の発生を防ぐため、事件記録の閲覧制限の申立を行うなどの対策が必要です。

損害賠償命令制度のメリット

メリット

損害賠償命令制度は、被害者救済のために設けられた制度であるため、犯罪の被害者になってしまった方にとって、多くのメリットがあります。

損害賠償命令制度を積極的に活用していただけるよう、制度を利用することの5つのメリットについて弁護士が解説します。

損害賠償請求にかかる費用が安く済む

損害賠償命令制度のメリットの1つ目は、損害賠償請求にかかる費用が安く済む点です。

損害賠償命令の申立費用は、請求する損害額にかかわらず、2000円(1訴因あたり)とされています。これに対して、通常の民事訴訟で損害賠償請求をするとき、請求額が高額なほど、裁判所に納める申立手数料(収入印紙代)は多額になります。

被害者が死亡し、遺族が損害賠償請求をするケースなどでは、億単位の損害額となり、申立手数料(収入印紙代)も何十万円もかかることもあり、印紙代の負担を理由として訴訟を躊躇してしまうことともなりかねません。

損害賠償命令制度を利用すれば、「申立手数料(収入印紙代)が払いきれない」という理由で訴訟をあきらめて泣き寝入りしなければならない事態を回避でき、被害回復をより安価に進められるメリットがあるのです。

なお、損害賠償命令に対して、異議申立てをして民事訴訟に移行するときには、通常の民事訴訟に必要となる申立手数料(収入印紙代)と2000円との差額を支払う必要があります。

そのため、損害賠償命令での決定を得た後、その結果に納得いかないとき、異議申立てをするかどうかを判断する際には、かかる申立手数料(収入印紙代)を計算に入れておく必要があります。

民事訴訟よりも早く解決できる

損害賠償命令制度のメリットの2つ目は、通常の民事訴訟によって損害賠償請求するよりも、早く解決できる点です。

犯罪の被害者となり、不当な金銭的負担を負わされてしまったとき、その被害回復に年単位の時間を要することは妥当ではなく、損害賠償命令制度を利用して迅速な解決を図ることには、大きなメリットがあります。

損害賠償命令がすみやかに終わる理由
損害賠償命令がすみやかに終わる理由

損害賠償命令制度は、原則として4回以内の期日で終了することとされています。また、刑事裁判で提出された証拠を利用でき、口頭弁論を行わなくても判断を下してもらうことができます。

これに対して、通常の民事事件は、主張の整理、証拠調べから判決に至るまで、半年以上、長いときには1年以上かかることも少なくありません。通常の民事事件は、損害賠償命令制度のように期日回数に上限がなく、複雑な事件であったり当事者の対応が遅かったりすると、更に多くの時間がかかります。

また、民事訴訟の期日は、通常、1ヶ月に1回程度の頻度でしか指定がなされません。

終局的な解決を得ることができる

損害賠償命令制度のメリットの3つ目は、終局的な解決を得られる点です。

簡易迅速に、被害回復を図ることができる損害賠償命令ですが、その決定には、民事訴訟における判決と同一の効力があり、事件を終局的に解決することができます。

民事訴訟における判決と同一の効力があることから、決定が確定したときには、強制執行をして、不動産や預貯金、給与などの差押えをすることができ、被害回復を実効的に行うことができます。

損害賠償請求を有利に解決できる

損害賠償命令制度のメリットの4つ目は、被害者にとって有利な判断が下されることが期待できる点です。

刑事事件に引き続いて行われる損害賠償命令制度では、刑事事件に有罪判決を下した裁判官が、刑事事件で提出された証拠を用いて判断します。つまり、刑事事件の審理で裁判官が得た心証を引き継いで進めるため、はじめから有利な心証で損害賠償の審理を進めることができるわけです。

これに対して、民事事件をあらためて起こすこととなれば、刑事事件で有罪との判断が下っていたとしても、一旦心証はリセットされ、証拠も新たに出し直さなければなりません。

時効を中断できる

損害賠償命令制度のメリットの5つ目は、時効を中断する効果がある点です。

犯罪の被害にあってしまったとき、その被害回復は、不法行為(民法709条)の損害賠償請求によって行うのが通常です。このとき、不法行為の時効は、「損害及び加害者を知った時」から3年間(人の生命・身体に関する損害は5年間)か、不法行為時から20年です(民法724条、724条の2)。

不法行為の消滅時効
不法行為の消滅時効

損害賠償命令制度の対象となるような重大犯罪では、その損害が人の生命・身体に関するものであることが多く、時効は5年間となるケースが多いと考えられます。

損害賠償命令の申立には、民事訴訟の提起と同様の効力があるため、損害賠償命令の申立をしておけば、時効を中断することができます。そして、決定が出たときには、民事裁判の判決と同様に、あらたに10年間は時効が完成しません。

損害賠償命令制度を利用する時の注意点

最後に、損害賠償命令制度を利用するとき、注意しておきたいポイントについて弁護士が解説します。

「予断排除」に注意して申立書を作る

損害賠償命令の申立は、刑事事件の判決よりも前にすることになります。そのため、この申立が、刑事事件に影響しないよう配慮しておく必要があります。

このように、刑事事件の審理において、直接の関係のない損害賠償についての情報を刑事裁判官に知らせないようにすることで、刑事事件の判決に影響を及ぼさないようにする必要があることを、法律用語で「予断排除」といいます。

予断排除とは
予断排除とは

損害賠償命令制度を利用するときには、「予断排除」の考え方から、申立書には損害の費目しか記載せず、損害の具体的な内容、損害の証拠などは書いてはならないこととされています。具体的な主張や証拠は、申立書に書くのではなく、損害賠償命令制度が開始されてから、申立人があらためて追加の主張・立証を行うようにします。

申立時に裁判地を指定する

損害賠償命令制度では、刑事事件の審理の後、そのまま引き続いて損害賠償命令の審理を行います。しかし、命令に対して異議申立てがされると通常の民事訴訟に移行します。

損害賠償命令を申し立てるときに、申立人が民事裁判に移行したときの裁判地を指定しているときには、その指定された裁判地で民事訴訟を行うことができますが、指定のない場合には被告人の普通裁判籍で行うこととされています。

つまり、損害賠償命令の申立時に、万が一異議申立てされたときの裁判地を指定しておかないと、異議申立て後の通常訴訟については、被告人の便宜にしたがって行われてしまうということなのです。

まとめ

今回は、刑事事件の被害者が、被害回復のために積極的に利用すべき損害賠償命令制度について、弁護士が解説しました。

損害賠償命令制度は、通常の損害賠償請求訴訟と比べて、被害者保護のために有利な点が数多くあります。そのため、犯罪被害を受けてしまい、加害者に対する損害賠償請求を検討しているときには、積極的に利用するのがおすすめです。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、損害賠償命令制度の利用をはじめ、犯罪被害にお悩みの方から、多くのご相談をいただいています。

損害賠償命令制度は比較的新しい手続きであり、かつ、裁判手続きの一種であるため、申立書作成や証拠提出など、裁判についての知識・経験が必要となります。ぜひ一度ご相談ください。

刑事被害のよくある質問

損害賠償命令制度とは、どんな制度ですか?

損害賠償命令制度は、刑事事件の被害者保護のために、刑事事件の審理が終わった後、引き続いて、民事の損害賠償請求についての審理を行う制度です。原則として4回以内の期日で終了することとされており、刑事事件の証拠を利用できるなど、被害者保護に資する制度です。もっと詳しく知りたい方は「損害賠償命令制度とは?」をご覧ください。

損害賠償命令制度を利用したいとき、どのようにしたらよいですか?

損害賠償命令制度を利用したいときには、刑事事件の弁論が終結するまでに、申立書を提出することで申立てを行います。申立てがされると、刑事事件の判決が行われた後、引き続いて民事の審理がスタートします。もっと詳しく知りたい方は「損害賠償命令の申立てから解決までの流れ」をご覧ください。

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