2020年4月より施行された改正民法(債権法改正)では、法定利率・法定利息について重要な変更がされました。
法定利率・法定利息とは、人からお金や物を借りる「消費貸借契約」などの契約で適用される、利息の利率を決めるため基本となる考え方です。あわせて、消費貸借、使用貸借についての民法のルールも改正されました。消費貸借では諾成化が認められ、使用貸借は諾成契約になります。
今回の改正で、法定利率・法定利息について重要なポイントは変動性となったことです。
今回は、法定利率・法定利息と、これに関連する契約である消費貸借契約、使用貸借契約について、民法改正の基本的な内容を、企業法務にくわしい弁護士が解説します。
法定利息・法定利率とは
「法定利率」は、法律によって定められている利率のことです。法定利率による利息のことを「法定利息」といいます。
法定利率には、さまざまな種類があります。民法に定められた基本的な法定利率以外にも、元となる債権の種類によって特別な法定利率があります。例えば、2020年4月以前は、商取引により発生した債権の利率は6%(商事法定利率)と定められていました(民法改正に伴い、商事法定利率は廃止されました)。
一方、当事者間で、契約などによって定めた利率のことを、「約定利率」といいます。当事者間の合意によって利率を定めるときには、貸主が暴利をむさぼる危険を防止するために、利息制限法などの法律によって、「約定利率」は一定の割合までに制限されています。
法定利息・法定利率についての民法改正の内容
さきほど解説した法定利息・法定利率について、2020年4月に施行された民法改正(債権法改正)で、重要な改正がされることとなりました。
改正の内容、契約書への影響などについて弁護士が解説します。
民法改正の経緯
法定利息・法定利率が、民法改正によって変更される経緯は、従来の民法で定められていた法定利率(年5%)が、現代における市場金利に比べて高すぎることが理由です。もともと、従来の法定利率(年5%)も、市場金利を前提に定められていましたが、現代では市場金利が低金利化していたため、実態と合致しない法定利率を変更する必要があると考えられていました。
改正前の民法の法定利率である年5%は、現在、銀行預金につく利息をイメージしていただければ、一般的な市場金利より明らかに高いとは容易に理解していただけるのではないでしょうか。
改正前の民法の「法定利率」(~2020年3月)
改正前の民法に定められた法定利率は「年5%(年5分)」とされていました(改正前民法404条)。また、改正前の商法では、商行為によって生じた債権については「年6%(年6分)」とされていました(商事法定利率。商法514条)。
金銭債務の不履行による損害賠償額は、原則として法定利率によって定められます。そのため、遅延損害金もまた、別段の合意がないかぎり、年5%の割合で算定されていました。改正前の民法は、中間利息の控除(将来得られたであろう利益を現時点の金額に換算すること)の利率についての規定はなかったものの、判例はこれもまた法定利率の割合(年5%)で控除することとしていました。
改正後の民法の「法定利率」(2020年4月~)
改正後の民法では、法定利息・法定利率について、次のような内容の変動性が採用されました。
- 法定利率は年3%から始まります(民法404条2項)。
- 法務省令に定める方法で、3年ごとに法定利率を見直します(同条3項)。
- 見直し時点の短期貸付の平均利率を「基準割合」とし、法定利率に変動があった期のうち直近の基準割合から1%以上変動があった場合、当該基準割合の変動分(1%未満は切捨)が、法定利率に加減されます(同条5項)。
- 「基準割合」は、法務省令の定めに従い、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における銀行の短期貸付け(貸付期間1年未満)の平均利率をさらに平均化したものとして法務大臣が告示するものを用います(同条5項)。
以上の通り、1%以上の増減があった場合には1%刻みで反映させることで、比較的安定的な変動ルールとなっています。
民事法定利率が、変動制となり、現在よりも低率に調整されることになります。また、これと並行して、商事法定利率は廃止されることとなりました。
改正後の利息・利率の適用はいつから?(適用利率の基準時)
法定利息・法定利率が変更されたのにともなって、2020年4月1日施行の改正民法に定められた利率が適用されるのはいつからか、という問題があります。これを「適用利率の基準時」の問題といいます。
特に、改正の前後をまたいで契約を結んでいたり、契約上の債務が改正前後で発生していたりするときに、改正前後のいずれの法定利率で利息を計算したらよいかが重要な論点となります。
この問題について、当事者間で別段の意思表示がないときには、「利息が生じた最初の時点における法定利率」が適用されるというルールになっています(民法404条1項)。つまり、利息がはじめて発生するのが、民法改正が施行された2020年4月1日より前か後かによって、適用される利率が決まります。
これに対して、契約上、利息について法定利率と異なる合意をしている場合には、その利率が利息制限法などの法律に反しない限り、契約書に書いてある約定利率が優先します。
遅延損害金は、遅滞責任が生じた時点における法定利率が適用されます。
なお、契約によって別段の定めを設けることのできない「不法行為」の場合、「不法行為時に遅滞に陥る」こととされているため、法定利率は「不法行為時」の法律にしたがって適用されます。
「消費貸借契約」の改正内容
消費貸借契約とは、契約当事者が、お金や物を貸す契約のことをいいます。
法律的にいうと、「当事者の一方が種類、品質及び数量が同じ物をもって返還することを約して相手方より金銭その他の物を受け取ることを内容とする契約」です。
消費貸借契約のうち、金銭を貸すことを目的とする契約を、金銭消費貸借と呼びます。
金銭消費貸借契約を結ぶとき、利息を契約書に定めるのが一般的なので、法定利息・法定利率についての改正と、大きく関連してきます。
【改正①】消費貸借契約の「諾成化」
改正前の民法では、消費貸借契約は「要物契約」とされています。「要物契約」とは、物やお金など、消費貸借の対象となる物を相手方に交付してはじめて契約が成立するということです。言いかえると、対象となる物を相手方に交付するまでは、消費貸借契約は成立しないということです。
改正後の民法では、書面(電磁的記録を含みます)でする消費貸借契約については、「要物契約」ではなく「諾成契約」とされました。つまり、対象となる物を交付しなくても、「受け取った物と同じ種類、品質、数量の物を返す」と約束して、書面で合意をすれば、その時点で、消費貸借契約が成立することとなりました。
また、改正後の民法では、借主は目的物を受取るまでは契約を解除でき、貸主はその解除によって損害を被った場合には損害賠償請求ができるとしています(民法587条の2第2項)。
【改正②】期限前返還の貸主の損害賠償請求権
改正前の民法は、借主が弁済期前に貸金を返還した場合は「相手方の利益を害することができない」と規定されていました。
しかし、改正後の民法では「利益を害することができない」だけでなく、害した場合にどんな責任を追及できるか、という点について、明確に定められました。つまり、借主による期限前の返還によって貸主に損害が生じた場合には、貸主が借主に対して損害賠償を請求することができることとされています(民法591条3項)。
この場合に貸主に生じる「損害」とは、貸主が現実に被った損害のことです。そのため、将来発生するであろう「約束した利息」などの得べかりし利益が「損害」に含まれるわけではない点は注意が必要です。
例えば、「損害」にあたる例としては、ローンの繰り上げ返済の際に生じる事務手数料などが念頭に置かれています。
「使用貸借契約」の改正内容
使用貸借契約とは、無償で物を借りる契約のことをいいます。
法律的にいうと、「当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすことを約して相手方から目的物を受けることを内容とする契約」です。
【改正①】使用貸借契約の「諾成化」
改正前の民法では、使用貸借契約もまた、消費貸借契約と同じく「要物契約」とされていました。つまり、使用貸借契約もた、貸す物を交付するのと同時にでなければ契約が成立しないということです。
しかし、改正後の民法では、使用貸借契約もまた「諾成契約」であると明記されました。そのため、使用貸借契約も、消費貸借契約と同じく、当事者間の合意のみで契約成立となります(民法593条)。
使用貸借が経済的な取引の一環として行われることも多く、目的物が引き渡されるまで契約上の義務が生じないとすれば取引の安全を害するおそれがあるというのが改正の理由です。
また、諾成契約となったことから、借主が目的物を受け取っていない段階での貸主の解除権を認めています(民法593条の2)。もっとも、書面による使用貸借では、この解除権は認められません(同条但書き)。
【改正②】使用貸借終了後の収去義務及び原状回復義務
借主は、使用貸借が終了した時には、その付属させた物を収去する義務を負いますし、借主の責に帰すべき事由があり、借用物等に損傷があれば原状に復する義務を負います(民法599条1項、3項)。
貸主としては、借主の帰責事由の有無にかかわらず借用物の損傷についての原状回復義務が生じると契約書等に記載しておく必要があります。
まとめ
2020年4月に施行された改正民法によって、法定利息・法定利率に関する大幅な変更がされました。今後は、年3%からはじまり、状況に応じて見直される変動性となります。特に、商事法定利率については、民法改正と同時に撤廃されることによって、従来の「年6%」から「年3%」へと大きな変更となります。
法定利率が下がることによって、思わぬ損害をこうむる可能性のある企業などは、しっかりと事前に契約書を作り、利率を定めておくことが、これまで以上に大切になります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業法務に精通しており、民法改正に対応した契約書の修正・変更について多数の取扱実績があります。
改正民法の施行前に作った契約書が、改正に対応しているか不安なときは、ぜひ一度当事務所にご相談ください。