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民法改正で代理のルールはどう変わる?【民法改正と契約書 第11回】

2020年4月1日より施行された改正民法では、「代理」に関するルールについても、重要な変更がなされました。

特に、代理人が「制限行為能力者」である場合の規定が新設されて、行為能力を制限された人の保護が、より一層図られることとなりました。

今回は、民法改正によって変わる「代理」のルールと、その影響について、企業法務にくわしい弁護士が解説します。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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そもそも「代理」とは?

「代理」とは、本人以外の人が、本人の代わりになって意思表示をすることです。有効な代理権があるときには、代理人による意思表示の法律効果は、本人に生じさせることができます。

例えば、土地の売買契約をするにあたり、買主から土地の売買に関する基本代理権を与えられた者が、買主の代理人であることを名乗り、売主と売買契約を締結する行為が、「代理」の典型例として挙げられます。

この場合、意思表示をするのは代理人ですが、売買契約の効果(所有権の移転など)は、代理人ではなく買主本人に帰属することとなっています。

代理と使者の違い
代理と使者の違い

「代理」に似た考え方に「使者」がありますが、区別されています。「使者」の場合には、意思表示をするのはあくまでも本人であり、その表示内容を相手に伝達する役割のみを行います。

「代理」についての法改正のポイント

ポイント

「代理」について、2020年4月1日に施行された改正民法で、新たに改正されたポイントを、弁護士が解説します。

代理人が制限行為能力者である場合の規定

法律行為を、1人で有効に行う能力のことを「行為能力」といいます。そして、この「行為能力」を制限された人のことを「制限行為能力者」といいます。つまり、制限行為能力者とは、1人では有効に法律行為をすることができない人のことです。

代理人が有効に法律行為をしたときは、その効果は本人に生じるのであって、代理人には生じません。そのため、制限行為能力者が代理人になったとしても、それによって不利益を受けはしないため、改正前の民法では、制限行為能力者でも代理人になることができました。また、制限行為能力者が、法定代理人の同意を得ずにした法律行為は取り消すことができますが、代理人として行った法律行為については、制限行為能力であることを理由に取り消すことはできません。

以上のことは、改正後の民法でも変更されていません。

これに対して、改正前の民法は「制限行為能力者でも代理人になることができる」と規定していたのに対し、改正後の民法は「制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない」と定め、一定の場合には取消しを認めています(民法102条)。

「他の制限行為能力者」という表現がわかりにくいかもしれませんが、代理人だけではなく、本人も制限行為能力者である場合を指しています(同条ただし書き)。取消しが許されるのは、他の制限行為能力者の「法定代理人」として行った法律行為に限定されている点には注意が必要です。

復代理人を選任した任意代理人の責任

「復代理人」とは、代理人から選任された代理人のことです。

改正前の民法では、復代理人を選任する要件として、本人の許諾か、やむを得ない事由がなければならないとされていました。そのため、復代理人を選任した代理人の責任は、軽減されていました。具体的には、復代理人の不注意などによって本人に損害を与えた場合でも、任意代理人は「復代理人の選任、監督に関する責任」を負うにすぎませんでした。

また、本人の指名にしたがって復代理人を選任したときは、「不適任・不誠実であることを知りながら、本人にその旨を通知すること、復代理人を解任することを怠った場合」にのみ責任を負います。

しかし、債務者が履行補助者を使用したときは、債務不履行一般の規定で処理されることと比較して、本人の同意や指名があれば、任意代理人の本人に対する債務不履行責任を一律に軽減する合理的な理由はありません。

このことから、改正後の民法では、復代理人を選任した任意代理人の責任は、軽減されないこととなりました。任意代理人となる場合には、代理権授与を定める契約書で、復代理人を選任したときの責任範囲について明確に規定し、責任の制限も検討すべきです。

自己契約・双方代理

自己契約とは、自分が当事者となる契約について、その相手方の代理人となることであり、双方代理とは、当事者双方の代理人となることです。

改正前の民法には自己契約及び双方代理をした場合の効果に関する規定がありませんでしたが、改正民法ではその効果を明記しました。つまり、自己契約、双方代理の場合、改正民法のルールに従えば、その代理行為は「無権代理」として無効となることとされています。

加えて、改正民法では、判例の明文化として、形式的に自己契約や双方代理を禁止するのみならず、実質的な利益相反も禁止されました(民法108条2項)。

経過措置

以上の代理についての新しい規定は、改正民法の施行日より後に、「代理権の発生原因」が生じた代理行為について適用されます(改正民法附則7条1項)。

つまり、新民法、旧民法のいずれが適用されるかの基準は、「代理行為の発生時」ではなく、「代理権の発生時点」(すなわち、代理権授与行為があった時点)を基準にして判断されるということです。

代理権をそもそも与えられていない「無権代理」の場合には、代理権授与行為が存在しないため、この場合には「代理行為の発生時」を基準として、適用される法律を判断します。

つまり、無権代理の場合には、改正民法の施行日前に無権代理行為があった時は改正前の民法、施行日以後に無権代理行為があった時は改正民法が適用されます(すなわち、無権代理行為を基準に判断されます)。

まとめ

今回は、2020年4月1日より施行された改正民法における、「代理」についての改正の具体的な内容を、弁護士が解説しました。

代理権を本人から授与され、代理人として代理行為を行うとき、自分の想定している以上の責任を負ってしまわないよう、民法上のルールの理解はもちろんのこと、契約書の文面にも十分な注意が必要です。

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弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業法務に精通しており、多数の契約書チェックの実績をつみ重ねてまいりました。

代理人となる立場の方はもちろんのこと、代理人を使って契約をしたり、代理人との間で契約をしたりする方も、ぜひ一度、弁護士に契約書のチェックをお任せくださいませ。

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