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成果の上がらない社員の賃金を減額することは違法?【企業側】

「成果の上がらない社員がいるのですが、賃金を減額してもよいですか?」という相談を受けることがあります。今回はこのような会社側からの人事労務の相談への回答です。

結論から申し上げると、成果が上がらない社員の賃金を下げることは可能です。ただし、合理的な理由がなかったり、賃金カットの根拠がなかったり、あまりに大幅に下げてしまったりしたとき、違法となるおそれがあります。違法な賃金減額は、労働者側から労働審判・訴訟などで争われた結果、減額分の給与をまとめて請求されてしまうおそれがあります。

成果の上がらない社員の賃金を減額したいときは、就業規則に定められた手続きを踏むなどの事前準備が必須です。

今回は、成果の上がらない社員への対応方法と、賃金減額するときに行うべき手続き、許される賃金の減額の範囲などの法律知識について、人事労務にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 対象社員の同意があれば、成果が上がらないことを理由に賃金減額できる
  • 就業規則に基づいて賃金減額するときは、合理性があり、相当な幅にとどまる減額でなければならない
  • 辞めさせたいなど、不当な動機・目的のある賃金減額は違法となる
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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成果の上がらない社員とは

問題社員

会社組織では、成果を上げて活躍する社員もいれば、残念ながら成果の上がらない社員も一定数います。

「成果を上げない社員がいると、他の社員の士気が下がるので、賃金を減額したい」と考える経営者の方も多いのではないでしょうか。実際、年功序列・長期雇用という日本的な慣習が薄れ、成果主義が浸透しつつあるなか、「成果を上げないのであれば、賃金を下げるのは当然」という考え自体は理解できます。

問題となるのは、「成果の上がらない程度」に対して、「減給額」が大きすぎたり、根拠もなく社長の気分によって給与を上げ下げしていたりといったケースです。このような問題が起こると社員からも「ワンマン」、「理不尽」といったイメージを抱かれ、士気の低下につながります。

成果の上がらない社員への対応
成果の上がらない社員への対応

むしろ、成果の上がらない問題社員の給与をすぐに下げるのではなく、はじめに考えておくべきは「成果の上がらない理由」を特定することです。例えば、次のような理由が考えられます。

  • なんとなくやる気が出ない
  • 会社の制度や上司が、成果が上がるのを邪魔している
  • 外的な要因(景気後退、業種の流行が去ったなど)で成果があがりづらい
  • 能力が不足している
  • 会社に対して敵対的な感情を抱いている

ある社員の成果が出ないときでも、理由を細かく分析してから、対応を考えなければなりません。理由ごとに、それに合った対応を検討すべきであり、かならずしもすべてのケースで、賃金減額が有効とはかぎらないからです。

能力は十分あるのにやる気を出さない社員には、少しばかり賃金を減額することが起爆剤としてはたらく可能性はあります。しかし、成果が上がらない理由が外的な環境要因にあったり、上司が邪魔していたり、そもそも能力が不足していたりといった場合、その責任を社員に押し付けるような賃金減額は、成果が上がらない状況をますます後押しすることになります。

成果の上がらない社員の賃金を減額する方法

ポイント

次に、賃金を減額するための適切な方法について、社員の同意があるかどうかで場合分けし、3つに分けて解説します。

前章で分析した「成果の上がらない理由」が、やる気の不足、勤務態度の不良といった社員自身に原因のあるときには、ある程度は、賃金を減額して奮起をうながす手法が効果的です。

ただしこの場合にも、賃金の減額は社員側にはメリットはなく、不利益しかないため、合理的な手続きを踏んで行わなければかえって反発を招くこととなります。

社員の同意をとって賃金減額する方法

成果を上げない社員がいるとき、まずは理由の分析が重要と解説しました。理由の分析をするときには、面談を行って本人にヒアリングして、その内容に応じて注意、指導をすることからはじめてください。

面談を丁寧にしていけば、成果を上げない社員の問題点が明らかになるとともに、社員自身にとっても問題点の自覚につながり、その結果、仮に賃金減額したとしても、本人もまた納得して同意してくれるケースもあります。自覚が芽生えた社員であれば、次回以降は自分で問題点を改善し、活躍してくれるとも見込めます。

成果が上がらないときの対応
成果が上がらないときの対応

賃金減額することについて社員の同意がとれたときには、そのことを「同意書」、「承諾書」などの書面にしておけば、のちのトラブルを回避できます。賃金を減額するときは、まずは社員個別の納得と、同意を得る努力をすべきです。

社員と面談するとき、できるだけ賃金減額に同意してもらうためには、次のことに注意して話すと効果的です。

  • 「成果が上がらない」という問題点だけでなく、良い点もあわせて伝える
  • 成果主義賃金体系をとっている場合、その賃金体系の趣旨を説明する
  • 理由を分析し、改善点を具体的に伝える
  • 成果主義賃金体系にしたがい、問題点が改善されたときの昇給について説明する

大切なことは、「嫌がらせや辞めてもらうことを目的として賃金減額するわけではない」と社員に理解してもらうことです。あくまでも、今回解説するような成果の上がらない社員の賃金減額は、社員の活力を引き出し、良い成果を上げてもらうことを目的にしなければなりません。

就業規則に基づいて賃金減額する方法

会社が就業規則に、「勤務成績に応じて給与を減額することがある」など、賃金の減額について定めているとき、就業規則の規定に基づいて、成果の上がらない社員の賃金を減額することができます。このことは、労働契約法でも次のとおり定められています。

労働契約法7条

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法(e-Gov法令検索)

ただし、社員の同意なく、一方的に賃金を減額するためには、賃金減額の規定が存在することに加えて、その内容と手続きが合理的なものであることが必要です。そのため、規定があるからといって、どんな減額をしてもよいわけではありません。

同意なく賃金を減額する要件
同意なく賃金を減額する要件

就業規則の定めだけでは、どんなときに、どれくらいの減額がゆるされるか不明確だと、会社が恣意的に賃金減額をしたのではないかと疑われてしまい、違法となるおそれがあります。また、あまりに大幅な賃金減額も違法の可能性があるため、徐々に下げるか、場合によっては激変緩和措置が必要となることがあります。

異動に際して賃金を減額する方法

役職や部署、支店などによって異なる賃金を設定しているとき、異動を命じることで賃金を減額する方法があります。

例えば、成果が上がらないため役職を降格とした結果として役職手当をカットする例、成果が上がらないために部署異動をして異なる職務に従事させた結果として基本給が変わる例などがこれにあたります。

このように異動に際して賃金を変更しようとするときには、そもそも、役職や部署、支店などによって異なる賃金を就業規則で定め、これを社員全体に周知しておかなければなりません。また、前章の解説と同様、あまりに大幅な賃金減額や、無関係な職種への異動は、違法となるおそれがあるため注意が必要です。

賃金減額が違法となるケース

バツ

次に、成果の上がらない社員に対する賃金減額が違法と判断されるおそれのあるケースと、その対策について解説します。

成果主義の考え方からすれば、「成果が上がらないなら、賃金を減額すべき」となりますが、一方で、雇用の安定への配慮も必要です。そのため、いかに成果の上がらない社員だったとしても、賃金減額が違法となるケースがあります。

減額手続きに合理性がない

成果の上がらない社員の賃金を減額するのは、あくまでも、成果を上げて活躍をうながすためです。そのため、なぜ減額されたのか、どのような場合にどれくらい減額されるのかが社員からはわからないという場合、減額手続きに合理性がなく、違法、無効と判断されるおそれがあります。

逆にいうと、適法に賃金を下げるには、なぜ減額されるのか、どうしたら再び増額されるのかを説明するといったプロセスを踏まなければなりません。

この点は、裁判例(東京地裁平成16年3月31日判決)にも次のように言及されています。

労働契約の内容として,成果主義による基本給の降給が定められていても,使用者が恣意的に基本給の降給を決することが許されないのであり,降給が許容されるのは,就業規則等による労働契約に,降給が規定されているだけでなく,降給が決定される過程に合理性があること,その過程が従業員に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続が存することが必要であり,降給の仕組み自体に合理性と公正さが認められ,その仕組みに沿った降給の措置が採られた場合には,個々の従業員の評価の過程に,特に不合理ないし不公正な事情が認められない限り,当該降給の措置は,当該仕組みに沿って行われたものとして許容されると解するのが相当である。

東京地裁平成16年3月31日判決

就業規則・賃金規程は社員に周知しなければなりません。そして、就業規則・賃金規程には「賃金を減額することがある」とだけ書かれていて、その基準や要件については内規やマニュアルに書いて社員には公開していないというときにも、賃金減額が無効となるおそれがあります。

減額をするときの手続きだけでなく、評価のしかたや評価される事情などについても定めておきます。

賃金の減額幅が大きすぎる

賃金の減額幅が大きすぎるときにも、その賃金減額は違法となるおそれがあります。

どの程度(何パーセント)の減額幅が妥当というきまりはありませんが、重要なことは、前章でも解説したとおり「成果が上がらない」ことの理由を分析した上で、その理由に対して妥当な減額幅を検討する必要があるということです。その内容や社員側の責任の程度にもよりますが、おおむね1%~7%程度で検討することが多いです。

一般論として、社員の生活を脅かすほどの賃金減額はすべきではありません。減額幅が大きいときは、1か月ごとに少しずつ減額するという「激変緩和措置」をとることも有効です。

不当な動機・目的がある

たとえ成果の上がらない社員がいたとしても、その賃金を減額するにあたり、不当な動機・目的があってはなりません。賃金減額が違法となってしまうような不当な動機・目的の典型例が、「社員を退職に追い込みたい」というものです。

  • 社員に嫌がらせをしたい
  • 自主的に会社を辞めてもらいたい
  • セクハラ・パワハラ目的

このような不当な動機・目的があるとき、賃金減額は違法、無効です。ただし、動機・目的を明示して賃金減額を行うことは少ないでしょうから、重要なことは、これらの「不当」といわれるようなものではない、正当な動機・目的をきちんと準備しておくことです。

そのためには、賃金減額の程度が、その目的を達成するにあたって相当な手段であるかどうかの検討が必要となります。

成果主義の導入は不利益変更となる可能性あり

冒頭で、「成果の上がらない社員の賃金を減額したい」という発想が、成果主義的な考え方に基づくことを解説しました。

日本の労働慣習の伝統的な考え方は、長期雇用・年功序列です。つまり、同じ会社で長期間働き、勤続年数が長くなればなるほど給与が上がる、というものです。この根底には「成果は、長期勤続すれば上がる」という発想があり、成果に応じて賃金を決めるという考え方ではありませんでした。

そのため、社歴の長い会社など、伝統的な価値観から、成果主義を取り入れた考え方に転換したいと考えている会社から相談を受けることがあります。

年功序列型から成果主義型への転換は、就業規則・賃金規程を変更することによって行うのが実務ですが、「成果の上がらない社員」にとっては賃金が下がることを意味するため、成果主義を導入するという変更は、就業規則の不利益変更としての適切な対応が必要となります。

成果主義型への変更
成果主義型への変更

日本の労働法では、労働者保護の観点から、就業規則を不利益に変更するときには、その内容及び変更の合理性が必要であるといった厳しい要件が課されているからです。

まとめ

成果主義的な考え方が浸透し、成果の上がらない社員に対しては、賃金の減額を含めた対処をする会社が増えています。

しかし、賃金減額は、たとえ成果の上がらないという問題を抱えた社員に対してでも、無制限には許されません。要件効果をきちんと定め、予測可能性を担保した上で、適正な手続きに基づいて行わなければ、労働者側から争われ、その賃金減額が違法、無効と判断されてしまうおそれがあります。

大切なことは、労働者ごと、会社ごとに問題点が異なることを理解し、成果の上がらない理由を分析し、賃金減額の手法をとるとしても、その問題点の解消にとって適切な範囲で行うことです。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

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人事労務のよくある質問

成果の上がらない社員の給与を下げることはできますか?

成果の上がらない社員がいるとき、まずはその原因を特定し、「能力はあるのにやる気が見られない」など、給与を下げることによって解決可能であるときは、賃金減額する手法が有効です。このときにも、まずはきちんと社員に説明し、納得と同意を得るといったプロセスを踏むのが大切です。詳しくは「成果の上がらない社員の賃金を減額する方法」をご覧ください。

賃金減額が違法となるのは、どのようなケースですか?

賃金減額は、社員側にとって不利益しかなく、違法となるおそれが十分にあります。まず、賃金減額について社員の同意があるときには違法とはなりませんが、同意がなく、かつ、就業規則にしたがった減額としても不相当に大幅な減額だと、違法と評価されてしまいます。もっと詳しく知りたい方は「賃金減額が違法となるケース」をご覧ください。

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