eスポーツは、アーケードゲーム、家庭用ゲーム機、PCゲーム、スマホゲームなどのビデオゲームで勝敗を競うという性質上、著作権、商標権などの知的財産権についての配慮を欠くことができません。ビデオゲームそれ自体が、知的財産権のかたまりだからです。
野球やサッカーなど、誰でも自由にルールを利用し、大会を開催できる従来のスポーツ大会とeスポーツとの大きな差です。
eスポーツ大会を開催する場合には、その大会で使用するゲームについて、著作権、商標権などの知的財産権の問題を解消しておかなければ、法違反となるおそれがあります。
今回の解説では、eスポーツ大会に関連する法律問題のうち、著作権・商標権などの知的財産権の注意点について、企業法務にくわしい弁護士が解説します。
eスポーツ大会と著作権の問題
まず、eスポーツ大会における、著作権法で注意すべき点を解説します。
eスポーツの大会は、オンライン開催の場合とオフライン開催の場合があります。いずれの場合でも、著作物であるビデオゲームをプレイしている様子を観客に見せたり、オンライン配信したりすることとなります。
ゲームは、著作権法上の「著作物」にあたるため、著作権法上の権利処理をしっかりとしておかなければ著作権侵害になってしまいます。このことはオフラインで大画面スクリーンに映し出すなどの方法でも、ネット配信する方法でも同じです。
ゲームが著作物となる理由
著作権法は、著作物についてその種類に応じてどのようなものが著作物になるかを例示しています。そのうち、eスポーツにおけるゲームが該当すると考えられるのが「映画の著作物」(著作権法10条1項7号)と「プログラムの著作物」(著作権法10条1項9号)です。
プログラムの著作物にあたる
ゲームソフトに利用されるプログラムが「プログラムの著作物」にあたることは、改造ゲームの違法性などが争いとなったときめきメモリアル事件(最高裁平成13年2月13日判決)、三國志Ⅲ事件(東京高裁平成11年3月18日判決)で認められた結論です。
映画の著作物にあたる
「映画の著作物」とは、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」(著作権法2条3項)と定められており、ビデオゲームの映像はこれに該当します。
そのため、eスポーツ大会を開催するとき著作権者となるゲームメーカーから著作権について許諾を受ける必要があります。
著作権侵害とそのリスク
eスポーツ大会をオフラインで開催しプレイ画像をスクリーンで鑑賞する場合だけでなく、ネット配信する場合やその録画を二次配信したりアーカイブしたりする場合にも、著作権侵害の問題が生じ得ます。
無許可でゲームを利用してeスポーツ大会を開催した結果、著作権侵害となってしまったとき、民事責任として差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、名誉回復措置を命じられるおそれがあり、刑事責任として「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」またはその双方を併科されるおそれがあります。
さらに、著作権侵害について配慮しなかった開催者、企業として、叩かれたり炎上してしまったりするリスクがあります。
なお、どの著作物にあたっても、eスポーツ大会での利用が著作権侵害にあたり得るのですが、どの著作物にあたるかによって認められる権利の範囲が異なる点に注意が必要です。
特に、映画の著作物であると認められるとき、「頒布権」(著作権法26条)が認められます。「上映権」(著作権法22条の2)は全ての著作物に認められています。
eスポーツ大会の開催は、著作権の利用許諾が必要
著作権を有するゲームメーカーが開催する場合などには、著作権法上の権利処理は必要ありませんが、それ以外の第三者がeスポーツ大会を開催する場合には、著作権の利用許諾が必要となります。
ゲームの著作権の利用許諾において、大会主催者と著作権者との間で、次のような条件が合意されることがあります。後からトラブルにならないよう、必ず契約書を作成しておくことが大切です。
- 著作物であるゲームの利用方法・配信方法
- 著作物の使用料
- 著作物の二次使用に関する方法
- 大会から利益が出た場合の利益分配
- 大会のプロモーションを行う際の広告素材の利用方法
- 大会の配信方法
- 録画映像の利用態様
こうした著作権利用に関する許諾について、合意形成に向けた交渉には時間と労力を要することが通常です。また、ゲームメーカー側としては、著作権の許諾を通じてeスポーツ大会の開催や内容について一定のコントロール力を得られます。
著作権の処理を煩雑化させず、中小規模のeスポーツ大会を活性化させることはゲームメーカー側にもメリットがあります。そのため「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」(任天堂)のように著作権利用のガイドラインを定め、権利処理の手間を軽減する工夫をしている企業もあります。
「eスポーツ産業に関する調査研究報告書」(総務省、2018年)では、統一的なガイドラインで権利処理を簡略化する方法や、JASRAC(ジャスラック)のような著作権の許諾を代行する団体を作る解決策も示唆されました。
eスポーツ大会と商標権の問題
eスポーツにおいて、ゲーム名やゲームメーカー名、ロゴマークなどは、商標登録されており、ゲームメーカーである企業が商標権を有していることが通常です。
商標とは、商品やサービスを他のものと区別するためのマークのことを意味しており、商標法にそのルールが定められています。商標登録をされている場合には、商標権者はその権利侵害に対して損害賠償請求、差止請求といった責任追及をすることができます。
eスポーツ大会を開催する場合、大会名にはゲームタイトルが含まれることが当然ですし、広告宣伝や大会の告知などの際にも、これらの商標を利用する必要が生じてきます。
そのため、eスポーツ大会を開催するためには必要不可欠と考えられるゲーム名、ゲームメーカー名やそのロゴマークなどを利用するためには、商標を使用することとなり、商標権に関する権利処理が必要となります。
まとめ
今回は、eスポーツ大会を開催する際に問題となる、知的財産権(著作権・商標権等)について弁護士が解説しました。
eスポーツが新しい分野だといっても、既存の法規制を無視してよいわけではありません。著作権法、商標法などの法律は、eスポーツでも当然に適用されますから、新しい事業に進出するときには十分注意しておかなければならない重要な法律です。
著作権・商標権には財産的な価値があるため、最悪のケースでは損害賠償請求、差止請求を受けて投下資本の回収ができなかったり、刑事罰による制裁を受けてしまったりするおそれがあるため、十分な準備が不可欠です。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業法務を得意としており、新しい事業分野の開拓を積極的にサポートしています。
eスポーツは、海外で盛り上がりを見せ、日本でも徐々に人気を拡大しています。しかし、新規の事業分野なため、法律の整備が追い付いていない部分があります。お悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。
eスポーツ法務でよくある質問
- eスポーツ大会を開催するとき、著作権について注意点はありますか?
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eスポーツ大会で利用するゲームは、著作物にあたりますので、許諾なく使用すると著作権侵害となります。著作権侵害は、損害賠償、差止請求の対象となるほか、刑事罰に科されるおそれのある犯罪行為ともなるため、必ず事前に権利処理をしておいてください。詳しくは「eスポーツ大会と著作権の問題」をご覧ください。
- eスポーツ大会を開催するとき、商標について注意すべき点はありますか?
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eスポーツ大会で利用するゲームの名称、ロゴ、制作会社名などには商標権登録されているものが多いです。これらを利用する場合には許諾が必要となります。もっと詳しく知りたい方は「eスポーツ大会と商標権の問題」をご覧ください。