業績悪化を理由にして、会社の一方的な意思表示で、雇用契約を解約することを「整理解雇」といいます。いわゆる「リストラ」のことです。本来、日本では、解雇は厳しく制限されており、会社の勝手な都合で解雇することは許されてはいません。
しかし、経営状況が悪化し、「整理解雇しなければ、これ以上会社を続けていくのは早晩にも困難となってしまうと予想される」という切羽詰まったケースでは、やむをえず、整理解雇に進めていかなければならないこともあります。
労働者側からすれば、経営状況の悪化は会社の責任なのに、それによって突然生活の糧を失うことになるわけです。「できれば自分は対象になりたくない」と思うのは当然であって、整理解雇は労使対立が非常に先鋭化する困難なケースの1つです。
今回は、業績悪化による整理解雇の違法性の判断基準と、やむをえず整理解雇するとき、どのような方法で進めていくべきかについて、人事労務にくわしい弁護士が解説します。
- 整理解雇は、労働者に責任がないため、整理解雇の4要件にしたがい厳しく判断される
- 整理解雇がやむをえないときも、まずは希望退職を募るなど、解雇回避の努力が必要
- 一度に多数の社員を整理解雇するときは、ハローワークへの届出が必要となるs
整理解雇とは
会社側から一方的に労働契約を解約する「解雇」には、次の3種類があります。
- 普通解雇
労働契約の不履行を理由とする解雇。能力不足、勤怠不良、勤務態度の不良を理由とする場合が典型例。 - 懲戒解雇
労働者側の問題行為を理由とする解雇。悪質なセクハラ・パワハラや業務上横領を理由とする場合が典型例。 - 整理解雇
会社側の理由による解雇。経営状況の悪化、拠点閉鎖などを理由とする場合が典型例。
整理解雇は、これらの解雇のなかでも、労働者側には特段の理由がなく、会社側の一方的な都合によって解雇をする程度が、とても高いことを意味しています。
整理解雇が有効となる要件
いずれの解雇も、「労働者の生活基盤を企業が一方的に奪う」という意味では、労働者にとってのとても深刻な不利益を与えます。そのため、「解雇権濫用法理」のルールにより厳しく制限されています。具体的には、このルールの適用によって、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当でなければ、解雇権の濫用として違法、無効となります。
そして、解雇のなかでも、その理由が会社側の理由しかない整理解雇では、特に厳しい制限が課せられます。
整理解雇に対する制限は、「整理解雇の四要件」と呼ばれていて、以下の4つの要件によって「解雇権濫用法理」をより具体化した基準によって判断されます。つまり、これらの要件を満たさない整理解雇は、違法、無効となる可能性が高まります。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避の努力
- 解雇者選定の合理性
- 解雇手続きの相当性
そのため、整理解雇をするときには、この「整理解雇の四要件」を理解して適切に進めていかなければ、労働者側から労働審判、訴訟などの争いを起こされるおそれがあります。このとき、解雇前の十分な検討を行っていないと、解雇が無効となったり、慰謝料や解決金の支払いを余儀なくされてしまったりといった、会社側にとっても不利益が生じてしまいます。
そこで、整理解雇の4要件について、順に詳しく説明します。
人員整理の必要性
第一に、整理解雇を行うためには、人員整理の高度の必要性が要件となります。人員整理する必要性がそれほど高くないにもかかわらず整理解雇をしてしまうと、違法、無効です。
そのため、整理解雇する前に、経営指標の適切な把握が必要となります。
例えば、次のような指標の検討なしに、整理解雇の要否を見極めることはできません。
- 直近の売上高、利益の低下がどの程度見込まれるのか
- その原因によって、今後どの程度厳しい状況が継続する可能性があるのか
- 自社の人件費の割合がどの程度で、整理解雇によって経営状況の改善がどれほど見込めるか
解雇回避の努力
第二に、整理解雇を行うためには、解雇回避の努力を会社側が尽くしていることが要件となります。労働者にとても大きな不利益を与える整理解雇は、会社にとっても乱発すべきものではなく「最終手段」である必要があるからです。
「整理解雇を避ける努力を十分に行ったが、それでもなお、整理解雇なしには、これ以上経営状況を改善できない」という事態となってはじめて、整理解雇が可能となります。
例えば、次のような措置は、解雇回避努力の1つとして、検討しておかなければなりません。
- 経費の削減を行ったかどうか
- 役員報酬の削減を検討したかどうか
- 希望退職の募集を行っているか
- 社員の異動、配置転換を検討したか
また、整理解雇の対象となってしまう労働者に対して、再就職先をあっせんしたり、子会社や関連会社で再雇用したりといった措置をとることも、広い意味では解雇回避努力の一態様です。
解雇者選定の合理性
第三に、解雇者の選定は、合理性をもって行わなければなりません。つまり、ここまでの2つの基準をもとに「整理解雇はやむをえない」と判断されるケースでも、社員の一部を解雇するというときに「どの社員を解雇するか」について、合理的で、客観的な基準をもとに判断しなければなりません。
このことは、解雇の対象となる社員に適切な処遇をするという点ではもちろんのこと、社員間の公平性を保ち、会社に残る社員のモチベーションを下げないという点でも重要です。
具体的には、一定の基準を設けて解雇対象者を選定する必要がありますが、この際、従業員の年齢、勤続年数、勤怠、個人の業績といった客観的な指標を基準とすべきです。定性的かつ抽象的な基準で選定すると、会社の恣意的な判断を招くこととなり、ハラスメントとの疑いを抱かれるおそれもあるため注意が必要です。
例えば、業務とは全く関係のない「身長と体重」などを基準とするとか、定性的で判断の難しい「やる気の有無」を基準とするといった方法は、わかりづらく納得感もなく、労働問題の火種となる可能性が高いです。これに対して、正社員よりも、まずは雇用の調整弁的な意味合いのある契約社員、アルバイト社員を整理解雇の対象とすることには、一応の合理性があります。
解雇手続きの相当性
第四に、解雇手続きを相当な方法で行うことが必要となります。実際に整理解雇を行うとき、ここまでの3つの基準をもとに「整理解雇はやむを得ない」と判断される場合でも、誠意をもって説明を尽くすことが重要です。
解雇の手順、手続は、会社の就業規則に定めたものに従うほか、労働基準法に従い、30日前に予告を行うか、もしくは、30日分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う必要があります。合わせて、労働組合との間で労働協約を締結している場合には、そちらに記載された解雇手続きを履践しなければなりません。
たとえ整理解雇を取りやめられないとしても、たとえ労働者の反発が十分に予想されるとしても、協議や説明会を省略してよい理由とはなりません。社員全員を集めた説明会を開催するほか、整理解雇の対象となる社員とは個別面談を行い、充実した説明を徹底する必要があります。
交渉回数や時間だけで決まるわけではないものの、少なくとも複数回の説明の機会を持つことが重要となります。
整理解雇の有効性が認められた裁判例
これまで解説した「整理解雇の四要件」について、どんな事情が存在するときに要件を充足すると判断できるのかは、裁判例の積み重ねから判断するしかありません。そのため、整理解雇の有効性を判断するため、過去の裁判例の理解が重要です。
そこで、整理解雇について判断をした裁判例を紹介し、整理解雇が有効となるためにどのような事情が重要となるかについて弁護士が解説します。
東京酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)
東京酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)は、特定事業部門の閉鎖を理由に、同部門所属の従業員(課長職1名を除く)全員に対して「やむを得ない事業の都合によるとき」は解雇できるという就業規則に基づいて同部門閉鎖日付で解雇通告をした事案です。
裁判所は、特定事業部門の閉鎖自体は、企業の経営判断として自由に行うことができるとしながら、それでもなお、解雇の有効性は別に判断をしなければならないとしました。
その上で、解雇の有効性について、①事業部門閉鎖の必要性があること、②同部門に勤務する従業員の配置転換をおこなっても企業全体で見ても余剰人員の発生が避けられないこと、③解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくことを理由に、整理解雇を有効と判断しました。
淀川海運事件(東京高裁平成25年4月25日判決)
淀川海運事件(東京高裁平成25年4月25日判決)は、海運業を営む会社が、不況による売上の大幅な減少、財務内容の悪化を理由に、会社再生計画として人員整理を行ったことの有効性が争われた事案です。
第一審では、経営改善努力を行うことにより人員削減の高度の必要性は認められないと判断して整理解雇を無効と判断しましたが、控訴審では、整理解雇を有効であると判断しました。
控訴審では、経営改善努力によって1億円の経常利益を計上したとしてもなお、10億円の借入金を負担しており、人員削減の必要性が認められること、会社(被告)が従業員(原告)に対して有利な加算金を与える内容の退職勧奨を繰り返していたこと、原告が二度にわたって残業代請求訴訟を提起しており、他の従業員から協調性に欠けると受け止められ、業務の円滑な遂行に支障を及ぼしかねなかったことなどを理由としています。
日本航空事件(東京高裁平成26年6月3日判決)
日本航空事件(東京高裁平成26年6月3日判決)では、航空運送事業を業とする会社との間で、期間の定めのない労働契約を締結した客室乗務員が、会社更生手続に伴い解雇予告通知を受けた事案です。
裁判所は、会社更生手続の中で更生管財人が行った整理解雇についても整理解雇の制限法理が適用されることを判示しました。
その上で、解雇の有効性について、更生会社を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められること、希望退職措置など十分な解雇回避努力を行ったこと、解雇手続についても労働組合との十分な協議を行い、手続的な相当性を備えていることなどを理由に、整理解雇を有効と判断しました。
この判決は大手航空会社の事案であり、人員削減の必要性が肯定されたのは政府の介入による再建という本件の特殊性が影響しているとみることもできます。なお、この判決は、上告棄却により確定しています。
整理解雇を行う際の手順【会社側】
以上の要件を検討し、整理解雇せざるをえないと判断したときにも、適切な手順を守る必要があります。
単に「経営が苦しいから許される」といった安直な考えで整理解雇を進めると、深刻なトラブルに陥る危険があり、企業側にとっても大きなデメリットがあると理解しなければなりません。また、一旦解雇をしてしまった場合に、後から理由付けを変えたり、事前準備をやり直したりはできません。
将来の労働トラブルを回避するためにも、労働者の解雇を検討している場合、かならず解雇前に弁護士にご相談ください。
整理解雇の基準を決める
はじめに、経営が苦しく、整理解雇が必要だと感じたときは、会計帳簿など客観的なデータをもとに、整理解雇をする人数を検討します。整理解雇をする人数を正しく判断するためには、どれくらいの従業員が過剰になっているかの判断が必要であり、かつ、人件費がどれほど経営を圧迫しているかどうかを調べる必要があります。
その上で、整理解雇の人数を満たすよう、対象者を決めます。
解雇による影響が少なく、かつ、会社への貢献度の低い社員を対象とするのが原則ですが、「影響が少ない」「貢献度が低い」といった定性的な基準を、より客観的かつ具体的な基準に落とし込む必要があります。
年齢が若く、扶養家族が少ない社員ほど解雇による影響が少ないことが多く、合わせて、勤続年数が短く、役職や地位のない人のほうが会社への貢献度は低いと考えられます。ただし、このような一般論だけに固執することなく、会社の状況に応じてケースバイケースの検討が必要です。
希望退職を募集する
整理解雇を検討する一方で、解雇が必要な人数に達するほどの希望退職者が申し出てくれるのであれば、整理解雇は必須とはなりません。そこで、大規模な整理解雇を行う際には、その前に希望退職を募るのがおすすめです。希望退職を募集することは、「整理解雇の四要件」のうち「解雇回避の努力」を尽くす一環としても評価されます。
ただし、整理解雇を行うのは、決して会社をつぶすためではなく、人件費のコストカットをして会社を生き延びさせることが目的です。そのため、会社の再建に必要な人材を失わないよう、希望退職を募る際には対象者に一定の条件を設けた上で、会社の許可を要することとすべきです。
あわせて、希望退職に応じてくれた場合に削減できる人件費の幅に合わせて、希望退職に応じる社員に対する優遇措置を決めておきます。退職金の増額という優遇措置を与えることが広く行われています。
解雇の予告を通知する
整理解雇を行うこととその対象者が決まったら、まずは、会社全体に対して、整理解雇の必要があることを発表します。そのうえで、決定した解雇基準をもとに決定した対象者に対して、個別に通知を行います。
解雇予告については、労働基準法20条に従って、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなえればならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」とされていることから、予告通知、もしくは、予告手当を支払います。
業績悪化による整理解雇の場合、30日前に予告することが不可能な場合もありますが、その場合には、予告通知の日数と予告手当の金額を合わせて30日分とすることも可能です。
解雇通知書を交付する
最後に、解雇日当日となったら、解雇通知書を交付し、退職手続きを行います。解雇通知書のほかは、その他の退職手続きと同様、離職票の交付、社会保険の資格喪失手続き、源泉徴収票の交付などを進めます。
整理解雇を行うとき、経営上の情報は会社側にはよく理解できていても、労働者側には十分な情報がなく、また、情報を公開されても自分にとってデメリットの大きい情報を信用できず疑心暗鬼になることが多いことを理解する必要があります。
どれほど会社が危機的で、整理解雇は必須の状況であることが明らかだったとしても、労働者側から解雇の違法性を争われる可能性があることから、解雇通知書にはできるだけ具体的で詳細な説明を書くことがお勧めです。
多くの社員を解雇するときに必要な届出
整理解雇では、会社の経営状況の悪化によって、多くの社員を解雇することが想定されます。雇用の維持が困難となり、事業継続のために一定数以上の人員削減を行わざるを得ないとき、公共職業安定所(ハローワーク)への届出が必要となる場合があります。
① 再就職援助計画の作成
事業規模の縮小等に伴い、1か月以内に30人以上の労働者が離職を余儀なくされることが見込まれる場合には、事業主は、最初の離職が発生する1か月前までに再就職援助計画を作成し、公共職業安定所(ハローワーク)に提出し、認定を受ける必要があります。
整理解雇がやむを得ないとしても、会社は、離職する社員に対して再就職活動の援助を行う責務を果たす必要があると考えられるからです。
② 大量雇用変動届の提出
自己都合または事故の責に帰すべき理由ではなく、1か月以内に30人以上の離職者が発生する場合、事業主は最後の離職者が発生する1か月前までに、公共職業安定所(ハローワーク)に大量雇用変動届を提出し、離職者数を報告する必要があります。
地域の雇用状況を揺るがすような大人数の雇用変動に対して、職業安定機関等が迅速かつ的確に対応を行えるようにするのが目的です。
③ 多数離職届の提出
雇用する高年齢者等(2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、45歳以上70歳未満が対象)のうち、1か月以内に5人以上が解雇等により離職する場合には、事業主は、多数離職届を公共職業安定所(ハローワーク)に提出する必要があります。
あわせて、その高年齢者等が再就職の支援を希望する場合には、求職活動支援書を事業主が作成し、高年齢者等に交付する必要があります。
まとめ
今回は、景気の減退期に起こりやすい、企業による整理解雇について、安易な解雇に走ることのないよう、認められる要件や実際に進める際の方法を弁護士が解説しました。
不況の際には、業績が悪化し、人件費を削減せざるを得ないことがあります。しかし、それは労働者の責任ではありません。「経営状態が悪化しているから仕方ない」と開き直ることなく、できるだけ、労働者の不利益を小さく抑え、労働問題を未然に防止する方法をとる必要があります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、人事労務に精通しており、数多くの企業の整理解雇をサポートしてきました。
整理解雇を検討している会社は、リスクの高い解雇を実行に移してしまう前に、ぜひ当事務所へご相談ください。
整理解雇のよくある質問
- 整理解雇の違法性は、どのように判断されますか?
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整理解雇の違法性は、解雇権濫用法理をより具体化した、整理解雇の4要件で判断されます。整理解雇の4要件のうち、業務上の必要性はある程度のものがあれば認められる可能性がありますが、解雇回避の努力義務、人選の合理性については、厳しく判断されます。もっと詳しく知りたい方は「整理解雇が有効となる要件」をご覧ください。
- 整理解雇が違法と判断されると、どうなりますか?
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整理解雇が違法と判断されてしまうと、不当解雇として無効になります。その結果、その解雇がなかったこととなり、解雇した労働者が、会社に復職することとなります。このとき、不当解雇が行われたときから復職するまでの間に、未払いとなっていた賃金を払わなければなりません。