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損害賠償命令制度とは?利用方法と犯罪被害者のメリットを解説

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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犯罪の被害に遭うと、加害者に損害賠償を請求したいと考える方は少なくありません。

このとき、犯罪被害者の負担を軽減するために設けられたのが「損害賠償命令制度」です。この制度を利用すれば、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪などの一定の犯罪について、刑事裁判の結果を利用して、通常の民事訴訟よりも簡易かつ迅速に損害賠償請求を進めることができます。

被害者保護を目的とした制度で、被害者またはその相続人は、刑事手続きが係属する地方裁判所に対し、弁論終結までに損害賠償命令制度の申立てを行うことができます。審理は刑事裁判の有罪判決後に開始され、原則4回以内の期日で終了します。

今回は、犯罪被害者やその遺族に向けて、損害賠償命令制度の概要や対象となる罪名、申立ての流れ、利用するメリットや注意点を弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

損害賠償命令制度とは

はじめに、損害賠償命令制度とはどのようなものか、基本的な知識を解説します。

損害賠償命令制度とは、特定の重大犯罪の被害者が、刑事事件の審理を担当した裁判所に対し、刑事判決の言渡し後に損害賠償請求(民事事件)の審理を求めることのできる手続きです。「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」(犯罪被害者等保護法)によって、犯罪被害者の被害回復を容易にするために創設された制度です。

以下では、損害賠償命令の具体的な要件について解説します。

損害賠償命令制度の目的

損害賠償命令制度では、刑事事件を担当した裁判所が、引き続き民事の損害賠償について審理します。最大4回の期日で裁判所の判断を得られるため、迅速な被害回復が可能です。

従来、犯罪被害者の被害回復のためには別途の民事訴訟が必要であり、多大な労力、費用、時間を要するために、結果的に泣き寝入りになってしまうおそれがありました。そこで、犯罪の被害者が、余計な手間をかけず、有利に損害回復を実現できるようにすることを目的に、救済手段として整備されたのが損害賠償命令制度です。

通常の民事訴訟では、被害者が改めて訴訟を提起し、証拠を提出して事実関係を立証しなければなりません。一方、損害賠償命令制度では、刑事裁判で取り調べられた証拠や認定された事実を前提に審理を行うため、負担を大幅に軽減し、簡易かつ迅速に解決できます。

損害賠償命令制度の対象となる罪名

損害賠償命令制度を利用できるのは、対象となる特定の罪名に限られます。

そのため、全ての犯罪被害者が利用できるわけではありません。対象となるのは、主として生命や身体に重大な損害を与える以下のような犯罪です(犯罪被害者保護法24条1項。「被害者参加制度」の対象犯罪と概ね共通しますが、過失犯は対象外です)。

  1. 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(殺人、傷害、傷害致死、強盗致死傷、危険運転致死傷など)、及びその未遂罪
  2. 性犯罪(不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ・性交等)、及びその未遂罪
  3. 逮捕及び監禁の罪、及びその未遂罪
  4. 略取、誘拐、人身売買の罪、及びその未遂罪
  5. 上記の犯罪行為をその行為の中に含む他の罪

損害賠償命令制度の対象が重大犯罪に限られるのは、「有罪判決が下れば、被害者に損害が生じる」と考えられる犯罪に限定する趣旨です。4回以内の審理で責任について判断しなければならないため、過失の態様や程度などが争いになって審理が長期化しやすい交通事故などの過失犯(業務上過失致死傷、自動車運転過失致死傷など)は対象から除外されています。また、窃盗や詐欺などの純粋な財産犯も含まれていません。

なお、損害賠償命令の申立ては、刑事裁判の公訴提起後に行う必要があるため、検察官が不起訴処分とした場合や少年審判など、刑事裁判が開かれないケースでは利用できません。

損害賠償命令制度の申立人

損害賠償命令制度を利用できるのは、対象となる犯罪によって被害を受けた本人や、その遺族などの一般承継人に限られています。被害者が殺人や傷害致死などで死亡した場合、その相続人も制度を利用できる点に注意してください。

損害賠償命令を利用する流れは?申立てから解決まで

計算

次に、損害賠償命令制度を利用する流れについて、具体的に解説します。

損害賠償命令制度は、通常の民事訴訟とは異なり、刑事裁判の手続きに続いて利用する制度です。そのため、利用できるタイミングや申立方法には一定のルールがあります。以下では、申立てから損害賠償命令が確定するまでの流れを解説します。

STEP

損害賠償命令の申立て

損害賠償命令の申立てを、刑事被告事件の係属する裁判所に対して行います。

損害賠償命令制度は、対象犯罪の刑事事件が起訴されてから、弁論が終結するまでに申し立てる必要があります。通常、論告求刑(検察官の最終意見)と最終弁論(弁護側の最終意見)を行う期日に弁論終結となるため、それまでに申立書を裁判所に提出しましょう。申立期間を過ぎるとこの制度は利用できません。

申立手数料は2,000円と低額に設定されており、経済的負担の軽減が図られています。なお、弁護士費用の支払いが困難な場合は、法テラスの民事法律扶助により立替え制度を利用することも検討してください。

STEP

審尋手続(審理の進行)

申立て後、有罪判決が下されると、刑事事件を担当した裁判官がそのまま損害賠償命令の審理を行います。一方、無罪判決となった場合は、損害賠償命令の申立てが却下されます。この場合も、通常の民事訴訟で損害賠償を請求することが可能です。

損害賠償命令の申立てがされていると、刑事裁判で有罪判決が言い渡された法廷で、そのまま損害賠償の第1回期日が継続して行われます。刑事裁判は公開の法廷で行われますが、損害賠償命令の審理は非公開であるため、傍聴人は退廷を命じられます。

損害賠償命令の審尋手続きには、次の特徴があります。

  • 原則として4回以内の期日で審理が終結する。
  • 最初の審理期日で、裁判所が刑事被告事件の訴訟記録(検察官が提出し、採用された証拠など)の取調べを行う。
  • 裁判官から和解を提案されることもある。
  • 口頭弁論を経ずに、当事者を審尋することもできる。

刑事事件の記録が利用できるため、被害者は一から証拠を収集・提出する負担を省くことができます。

STEP

裁判所の決定

損害賠償命令の審理が終了すると、裁判所は申立てに対する決定を下します。

この決定には民事訴訟における判決と同じ効力があり、確定すれば強制執行による財産の差押えが可能です。裁判所が必要と認めるときは、仮執行宣言を付すこともできます。決定は、決定書の交付または口頭での告知によって行われます。

STEP

異議申立てと民事訴訟への移行

損害賠償命令の決定に不服がある場合、2週間以内に異議申立てをして、民事訴訟に移行させることができます。民事訴訟に移行するのは次の場合です。

  • 決定から2週間以内に異議申立てがあった場合
  • 4回以内の審理で終結の見込みがない場合
  • 被害者側が民事訴訟への移行を希望した場合
  • 加害者側が民事訴訟への移行を申し立て、被害者側が同意した場合

損害賠償命令から民事訴訟へ移行した場合、被害者の負担を減らすため、刑事裁判で提出された証拠をそのまま利用することができます。

刑事事件と民事事件とで証拠が共有されるので、被害者や関係者のプライバシーが侵害されないよう注意が必要です。

刑事事件や、それに続いて行われる損害賠償命令制度では、当事者または利害関係人しか事件記録の閲覧・謄写ができないのに対し、民事訴訟は原則として誰でも記録を見ることができるからです。

特に、性犯罪などのプライバシーに深く関わる事件では、二次被害を防ぐため、事件記録の閲覧制限の申立てをするなどの対策が必要です。

損害賠償命令制度を利用するメリット

損害賠償命令制度は、犯罪被害者の救済を目的として設けられた制度であり、多くのメリットがあります。以下では、制度を活用することで得られる主なメリットについて解説します。

通常の民事訴訟よりも迅速に解決できる

損害賠償命令制度では、通常の民事訴訟よりも迅速に解決できるメリットがあります。

通常の民事訴訟では、主張の整理や証拠調べに時間がかかり、判決までには半年から1年以上の期間を要するのが通常です。複雑な事件や当事者の対応の遅いケースでは、さらに長期化します。民事訴訟の期日が1ヶ月に1回程度のペースで進行することも、裁判が長期化する要因となっています。

これに対し、損害賠償命令制度では原則として4回以内の審理で決定が下されることとなっており、刑事裁判で提出された証拠を活用し、口頭弁論を経ずに判断することも可能といった特徴から、民事訴訟による損害賠償請求よりも早期解決を図ることができます。

刑事裁判の証拠や有利な結果を引き継げる

損害賠償命令制度では、刑事事件で有罪判決を下した裁判官が、その証拠を用いて損害賠償の審理を担当します。刑事裁判で有罪の心証を持った裁判官が審理するため、犯罪被害者に有利な判断が下される可能性が高まるというメリットがあります。

一方で、通常の民事訴訟を起こす場合、たとえ刑事事件で有罪判決が確定していても、別の裁判官が一から審理を行うこととなり、証拠や心証はリセットされます。したがって、損害賠償命令制度を利用することで、被害者に有利な条件で賠償請求を進めることができます。

犯罪被害者の費用負担を抑えられる

損害賠償命令制度では、犯罪被害者の費用負担を抑えられるメリットがあります。

損害賠償命令の申立費用は、請求金額に関わらず2,000円です。一方、民事訴訟で損害賠償請求を提起する場合、請求額に応じた申立手数料(収入印紙代)がかかります(手数料額早見表)。損害賠償命令制度の対象となるような被害者の生命に関わる犯罪では、死亡などの重大な結果によって損害賠償額が高額となると、申立手数料だけで数十万円かかることも珍しくありません。

損害賠償命令制度を利用すれば、「費用負担のために請求をあきらめる」という泣き寝入りの事態を避け、低コストで被害回復を進められるメリットがあります。

なお、損害賠償命令の決定に異議を申し立て、民事訴訟に移行する場合は、通常の民事訴訟の申立手数料(収入印紙代)との差額を追加で支払う必要があります。

時効を中断できる

損害賠償命令制度を利用すると、損害賠償請求の時効を中断することができます。

犯罪の被害回復は、不法行為(民法709条)による損害賠償請求によって行いますが、不法行為には以下の消滅時効が定められています(民法724条)。

  • 損害及び加害者を知った時から3年(生命・身体に関する損害の場合は5年)
  • 不法行為の時から20年

損害賠償命令制度の対象となるような重大犯罪では、生命や身体に関する損害が発生していると考えられるため、時効期間は5年間となります。損害賠償命令の申立てには民事訴訟の提起と同じ効力があり、「裁判上の請求」として時効の完成猶予の事由に該当します(民法147条1項1号)。そして、決定が出たときは、民事訴訟の判決と同じく、新たに10年間の時効が進行します。

損害賠償命令制度を利用する時の注意点

次に、損害賠償命令制度を利用する際の注意点について解説します。

損害賠償命令制度は、犯罪被害者の負担を軽減し、迅速な被害回復を実現するための制度ですが、有効活用するためには注意すべきポイントがあります。

対象事件が限定されている

損害賠償命令制度の対象となる罪名」で前述した通り、損害賠償命令制度を利用できるのは、法律の定める一定の犯罪に限られます。主に、故意に生命・身体へ重大な被害を与えた犯罪が対象であり、窃盗や詐欺などの財産犯、過失犯などは対象外です。利用を検討する際は、自身の事件が制度の対象となっているかをあらかじめ確認してください。

申立期間を過ぎると利用できない

損害賠償命令の申立て」で前述した通り、損害賠償命令制度には申立てが可能な期間が定められており、刑事事件の弁論終結までに申し立てる必要があります。対象事件であっても、この期間を経過すると制度が利用できないため、速やかに手続きを進めることが大切です。

命令だけでは回収できない場合がある

損害賠償命令が確定しても、それだけで賠償金が支払われるとは限りません。

加害者が任意に支払えば被害を回復できますが、支払いを拒否された場合には被害者側で強制執行などの法的手続きを行う必要があります。また、加害者に十分な財産や収入がない場合、強制執行を行っても差し押さえる財産がなく、回収が見込めないケースもあります。

複雑な事案では通常の民事訴訟へ移行することもある

損害賠償命令制度では、迅速な解決を図るため、原則として限られた期日で審理が行われます。しかし、損害や責任に関する対立が大きい場合や、多数の証拠が必要となる場合など、審理が複雑になるケースで、4回以内の期日での終結が困難であると認めるときは、裁判所の職権もしくは当事者の申立てにより、通常の民事訴訟へ移行させる決定が可能です。

民事訴訟へ移行した場合でも、それまでの手続きが無駄になるわけではないものの、解決までに予想外の時間を要する可能性があります。そのため、当初から弁護士へ相談し、適切な手続きの進め方を検討することが望ましいです。

控訴審では申立てできない

損害賠償命令の申立ては、刑事裁判の第一審の弁論終結時までに行う必要があります。

そのため、刑事事件が確定しないまま被告人が控訴した場合、控訴審(高等裁判所)の段階で新たに損害賠償命令の申立てを行うことはできません。この制度では、刑事被告事件が地方裁判所に係属している間に申し立てる必要があり、第一審の有罪判決後に地方裁判所が審理を行います。なお、後述する「刑事和解」は、第一審だけでなく控訴審でも申立てが可能です。

損害賠償命令制度以外の被害回復方法

損害賠償命令制度の対象外となる犯罪被害に遭った場合や、他の手段で解決を図りたい場合、主に3つの手段があります。状況に合わせて活用するため、違いを理解してください。

加害者との示談交渉

加害者側と直接交渉をして、慰謝料や賠償金の額を決める方法です。

当事者同士で示談できれば、裁判を経ずに早期の被害回復が実現できます。特に、身柄が拘束されていて相手が早期の示談を希望する場合、裁判の相場よりも多くの示談金を目指せます。一方で、示談が成立すると、加害者の反省や被害弁償があったと評価され、処罰が軽くなる傾向にある点がデメリットであり、処罰感情が強い場合にはおすすめできないこともあります。

刑事和解制度の利用

示談交渉でまとまった合意内容を、刑事裁判の公判調書に記載してもらう制度です。被告人と被害者が共同で裁判所に申し立てることで利用できます。合意内容は裁判上の和解と同一の効力を持ち、支払われなかった場合には強制執行が可能です。

民事訴訟の提起

損害賠償命令制度の対象外である窃盗や詐欺などの財産犯、交通事故のような過失犯の場合、刑事裁判とは別に民事訴訟を起こす必要があります。民事訴訟として損害賠償請求をするなら、対象犯罪に制限はなく、犯罪被害によって被った損害を請求することができます。

ただし、損害賠償命令制度とは異なり、訴状と証拠を提出し、一から主張立証を行わなければならず、解決までには相当な時間がかかることが多いです。そのため、訴訟提起を検討している場合は、弁護士のサポートを受けることが有効です。

損害賠償命令制度を弁護士に相談・依頼すべき理由

弁護士法人浅野総合法律事務所

損害賠償命令制度の利用を検討する犯罪被害者の方は、弁護士への相談がおすすめです。

損害賠償命令制度は、通常の民事訴訟よりも迅速に損害賠償を請求できる制度ですが、利用できる罪名や申立人、期間などにルールがあり、専門的な知識を求められます。また、民事訴訟で損害賠償請求する場合と同じく、損害の範囲や額、証拠の準備についても検討が必要です。

さらに、損害賠償命令が確定しても加害者が任意に支払わない場合、強制執行の手続きが必要となります。被害者や遺族がこれらの手続きを一人で進めるのは、手間や労力はもちろん、精神的な負担も相当に大きいことでしょう。弁護士に相談・依頼すれば、損害賠償命令制度の利用が可能かの判断から、申立手続き、証拠収集、命令確定後の回収まで一貫してサポートできます。

当事務所では、犯罪被害者の方からの損害賠償命令制度に関する依頼に対応してきた実績があります。事件の内容を丁寧にお伺いし、制度を利用すべきかも含め、最適な解決方法を提案します。犯罪被害を受けてしまった場合、一人で悩まず、ぜひ弁護士に相談してください。

【まとめ】損害賠償命令制度について

今回は、犯罪被害者やその遺族に向けて、損害賠償命令制度について解説しました。

損害賠償命令制度は、一定の重大犯罪の被害者が、刑事裁判の成果を利用することで、簡易かつ迅速に損害賠償を確保できる有用な手段です。原則として4回以内の審理で決定が出され、異議がなければ確定判決と同様の効力を有します。一方で、争点が複雑で審理が長引く場合や、当事者が不服を持つ場合、通常の民事訴訟へ移行する仕組みとなっています。

損害賠償命令制度は、犯罪被害者の保護を目的とした制度であり、通常の民事訴訟で損害賠償を請求することに比べ、メリットが数多く存在します。そのため、犯罪被害者の立場では、加害者への損害賠償請求を検討する際は、積極的に利用することをおすすめしています。

ただし、全ての事件で利用できるわけではなく、対象となる罪名や申立期間などが定められています。また、裁判手続きの一環であり、請求内容の検討や書類の作成など、専門的な判断が必要となるケースも少なくなく、弁護士のサポートを受けるのが賢明です。

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