交通事故の被害者・加害者それぞれの責任の程度を決める「過失割合」は、一定の割合(パーセント)であらわされ、被害者の過失割合が小さいほど、高額の賠償金を払ってもらうことができます。なかでも、被害者に最も有利なのが「10:0(10対0)」の交通事故、つまり、被害者側の過失が一切ない事故です。
被害者に有利な「10:0(10対0)」の交通事故ですが、対処をあやまると適正な賠償額をもらえないおそれがあります。
加害者は、少しでも支払額を下げるため、過失割合について徹底して争ってくると予想されるため、しっかり準備しなければ「9:1(9対1)」、「8:2(8対2)」とあなたの過失が認められ、賠償額が目減りするおそれもあります。
今回は、過失割合「10:0(10対0)」の交通事故の対応方法について、交通事故被害にくわしい弁護士が解説します。
- 過失割合「10:0(10対0)」の交通事故は、被害者にまったく過失のない事故のこと
- 過失割合「10:0(10対0)」だったとしても、加害者の反論により不利な過失割合を主張されることも
- 過失割合で損をしてしまわないよう、示談交渉を弁護士に依頼するのがおすすめ
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過失割合が「10:0(10対0)」の交通事故とは
過失割合とは
過失割合とは、交通事故の結果をまねいた責任の割合のことです。「過失」とは、いわゆるミスのことで、例えば、信号を確認しなかった、歩行者を見逃したといった本来しておくべき注意義務に違反があったことを意味します。
加害者から受けとれる賠償額は「損害」と「責任」のかけ算で決まります。そのため、どれほど損害額が大きくても、自分側の過失割合が大きいと、受けとれる賠償額は低くなってしまいます。
例えば、どちらが悪いともいえない、過失割合「5:5(5対5)」の事故では、得られる賠償額は、実際に負った損害の50%になってしまいます。この点、過失割合「10:0(10対0)」の事故であれば、100%の賠償を得ることができます。
過失割合の決め方
過失割合は、被害者と加害者との示談交渉であれば、合意によって決められます。ただ、賠償額に大きく影響するため争いとなることが多く、当事者間で合意できないときは、裁判で決めてもらうこととなります。
裁判所では証拠を調べ、交通事故の態様や事故原因などから過失割合についての判断を下します。
このとき、交通事故の裁判例が多くあることから、事故態様によってある程度類型的に過失割合が決まっています。過去の裁判例における過失割合の類型は、いわゆる「緑の本」(正式名称「別冊 判例タイムズ38号(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)」)にまとめられており、裁判所でも参考にされています。
過失割合「10:0(10対0)」の意味
過失割合は、被害者と加害者の責任の割合によって定められており、「10:0(10対0)」、「9:1(9対1)」のように定められます。このうち、事故態様からして被害者の過失がまったくない場合(つまり、加害者側が一方的に悪い場合)が、「10:0(10対0)の交通事故です。「じゅうぜろの事故」、「もらい事故」と呼ぶこともあります。
このとき、被害者にはまったく過失がないわけですから、賠償額は減額されることはありません。
自動車同士の事故のとき、被害者側も走行中だったとすると過失が少しは認められてしまうことが多く、「10:0(10対0)」の事故となるケースは決して多くはありません。お互いが走行中のとき、交通事故が起きる確率は一定程度はあり、「被害者側も少しは責任がある」とされることが多いからです。
そのため、「10:0(10対0)」の事故となるのは、被害者側が完全に停止している「追突事故」や、加害者側の違反が著しい「センターオーバー」などが典型例です。
過失割合が「10:0(10対0)」となるケース
過失割合が「10:0(10対0)」となる交通事故のケースに、どんな事故態様があるかについて解説します。
過失割合は裁判例によってある程度類型化されているため、まずはこれらの事故態様にあてはまるかどうかを見ることで、一般的な過失割合について、ある程度は判断できます。
以下では、事故の主体ごとに、次の2つの場合に分けて、あてはまるケースを解説していきます。
自動車と歩行者の事故で「10:0(10対0)」となるケース
自動車と歩行者の交通事故では、弱者である歩行者が保護されます(専門用語で「優者危険負担の原則」という)。そのため、自動車と歩行者の事故では、自動車側の過失が大きいと判断されるのが原則となります。
自動車と歩行者の事故で過失割合「10:0(10対0)」となるケースは、次のとおりです。
歩行者が青信号で横断開始後の事故
信号のついている交差点での事故では、「歩行者が青信号で横断を開始した場合」に車両と衝突したとき、過失割合「10:0(10対0)」の事故となります。歩行者側が青信号であれば、自動車側が赤信号を直進した場合と、自動車側も青信号で、交差点に進入した後で右折・左折した場合のどちらでも「10:0(10対0)の事故となります。
歩行者が青信号で横断を開始した後であれば、その後に黄信号、赤信号に変わったとしても歩行者側の過失は認められません。なお、歩行者が黄信号、赤信号で横断を開始したときは過失割合が修正され「9:1(9対1)」となります。
横断歩道上の事故
信号のない交差点での事故では「横断歩道上」の事故は、「10:0(10対0)」の事故となります。
なお、横断歩道近辺でも、1〜2m以上離れた場所で衝突したときは、歩行者側にも一定の過失が認められ「7:3(7対3)」に修正されます。
歩道上に車両が侵入してきた事故
歩道のある道路で、歩行者が歩道を歩いていたにもかかわらず車両が侵入してきて事故になったとき、歩行者側の過失はなく「10:0(10対0)」の事故となります。
歩道のない道路でも、歩行者が道路の端を正常に歩行していたときには、同様に歩行者に過失はありませんが、突然の飛び出しやふらふら歩きをしたときは、過失割合が修正されます。
自動車と歩行者の事故の過失割合の修正要素
上記のような類型にあてはまり基本的に「10:0(10対0)」の事故であっても、具体的な事故状況によって修正要素が考慮され、過失割合は増減します。
自動車と歩行者の事故の過失割合の修正要素には、次のものがあります。
自動車の過失を重くする要素 | ・歩行者が児童・高齢者、幼児・身体障碍者 ・著しい過失、重過失 |
歩行者の過失を重くする要素 | ・幹線道路上の事故 (横断歩道上の事故では+5、その他の事故では+10) ・歩行者の横断禁止の規制あり ・車両の直前・直後に道路を横断したこと ・急な飛び出し、ふらふら歩き |
自動車同士の事故で「10:0(10対0)」となるケース
自動車同士の事故では、どちらかに有利不利はなく、注意義務違反の程度に応じて過失割合が決められます。どちらも走行していたときには一定の過失が認められることが多いですが、片方の過失が著しいとき、過失割合「10:0(10対0)」の事故となります。
自動車同士の事故で、「10:0(10対0)」となるケースは次のものです。
なお、単車(バイク)同士の事故や、単車と自動車との事故も、自動車同士の事故と同様の判断がなされています。
追突事故
停車中の被害者車両に対して、加害者車両が後ろから衝突した「追突事故」は、過失割合「10:0(10対0)」の事故となります。加害者車両に、前方不注視、車両距離不保持などの注意義務違反があるからです。
追突事故では、被害者車両は交通事故を避けようがないため、「不適切な急ブレーキを踏んだ」などの特別な事情のない限り、被害者の過失はありません。
センターラインオーバーの事故
センターラインの引いてある幅広の道路で、センターラインをオーバーして対抗車両と接触した事故は、「10:0(10対0)」の事故となります。
センターラインオーバーの理由には、酔っぱらい運転、居眠り運転などの例が多いですが、これに限らず、追い越しのためにセンターラインをオーバーして対向車とぶつかってしまったときも「10:0(10対0)」の事故に含まれます。
赤信号無視による事故
赤信号を無視して突っ切った結果交通事故になってしまったケースは、「10:0(10対0)」の事故となります。
自動車同士の事故の過失割合の修正要素
追突事故、センターラインオーバー、赤信号無視と、自動車同士で「10:0(10対0)」の事故になるケースは加害者側の悪質性が相当高いですが、被害者も注意して運転しなければ、修正要素によって一定の過失が認められてしまうことがあります。
追突事故では、被害車両が理由のない急ブレーキをかけると「7:3(7対3)」の事故となるほか、次の修正要素があります。
被害者の過失を重くする要素 | ・住宅街・商店街等での事故(+10) ・被害者車両が15kmの速度違反(+10)、30kmの速度違反(+20) ・被害者側の著しい過失(+10)、重過失(+20) |
加害者の過失を重くする要素 | ・幹線道路を走行線上での停止(-10) ・制動灯の故障(-10〜20) ・加害者側の著しい過失(-10)、重過失(-20) |
センターオーバーの事故における過失割合の修正要素には、次のものがあります。
被害者の過失を重くする要素 | ・加害者車両が15kmの速度違反(+10)、30kmの速度違反(+20) ・被害者側の著しい過失(+10)、重過失(+20) |
加害者の過失を重くする要素 | ・加害者車両の速度違反(-10〜20) ・追越禁止場所での追い越し(-10) ・加害者側の著しい過失(-10)、重過失(-20) |
著しい過失とは、脇見運転など著しい前方不注視、著しいハンドル・ブレーキ捜査の不適切、携帯電話で通話しながらの運転、15km以上30km未満の速度違反、酒気帯び運転が挙げられます。
重過失の例には、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、30km以上の速度違反、過労・病気や薬物の影響により正常な運転ができないおそれがある場合などがあります。
過失割合「10:0(10対0)」の事故を有利に進めるための注意点
過失割合「10:0(10対0)」の交通事故では、被害者の過失は全くなく、被害者は損害額を満額受けとれます。
一見して被害者側に有利なのは明らかですが、示談交渉を有利に進め、適正な賠償金を受けとるためには、注意しておいていただきたいポイントがあります。
保険会社の示談代行サービスが使えない
過失割合「10:0(10対0)」の事故では、保険会社の示談代行サービスが使えません。
交通事故被害にあったとき、保険会社が示談の窓口となってくれる示談代行サービスは、被害者側の過失がまったくないときは利用できません。というのも、保険会社が示談交渉をしてくれるのは、弁護士のように「代理人」となるわけではなく、「(保険金を支払わなければならない)当事者」として交渉窓口となっているに過ぎないからです。
そのため、被害者の過失割合が0となる「10:0(10対0)」の事故では、被害者は賠償金を受けとる立場であり、払う立場にはありません。そのため、保険会社は示談交渉の窓口になれません。
加害者側の保険会社は、事故態様について争ったり、あなたにとって不利な過失割合を提案したりして、支払う賠償額を下げようと交渉してきますが、弁護士を頼まない場合、これらの対応はあなた自身で行わなければなりません。
物損で先に示談しない
交通事故の損害には人損(人身に対する損害)と物損(車両や携行品など物に対する損害)があります。人損は治療終了後に交渉するため、通常は物損のほうを先に交渉し、示談します。
注意したいのは、過失割合について物損で示談が成立しているとき、人損の示談でも、物損で合意した過失割合を流用する例が多いという点です。
そのため、物損で安易に「9:1(9対1)」など、譲歩した過失割合で合意してしまうと、人損でもその過失割合を主張され、得られる賠償金が減ってしまうおそれがあります。
そのため、「10:0(10対0)」の事故と主張したいのであれば、物損の示談でも徹底して過失がないことを主張し、加害者が過失割合について争うときは決して譲歩してはいけません。人損には後遺障害慰謝料、後遺障害の逸失利益など高額化しやすい項目が多いため、物損が安価だからといって不用意に譲歩してしまうと、後悔することとなります。
加害者側の主張する過失割合を争う
過失割合が争いになるとき、保険会社は、加害者側の主張する過失割合を提案してきます。このとき、いわゆる「緑の本」(別冊判例タイムズ)の図を持ち出し、過失割合に関する専門的な知識に基づいて解説してくることがあります。
加害者側から「10:0(10対0)」の事故だと認めることは、よほど明らかなケースでない限りありません。多くのケースでは「9:1(9対1)」、「8:2(8対2)」など、早期解決のためと称して被害者にも一定の譲歩を求めてきます。
しかし、過失割合は、争いになるときには裁判所が決めるもので、そのとき参考となるのは過去の裁判例の蓄積であり、決して、保険会社が決めるものではありません。
実際の事故では、具体的な事故状況によって過失割合は様々に変化するため、すべて書籍の図のとおりに進むわけではありません。「緑の本」では各類型の修正要素が定められていますが、保険会社の主張は、加害者にとって有利な事情を最大限考慮し、被害者に有利な事情を無視しているおそれもあります。
過失割合の証拠を収集する
過失割合が「10:0(10対0)」だと主張するとき、事故態様を証明するための証拠を収集することが重要です。
前章でも述べたとおり、「10:0(10対0)」事故を起こしてしまった加害者側では少しでも支払う賠償金を減らそうと、「緑の本」(別冊判例タイムズ)の図で「10:0(10対0)」の類型に含まれる事故態様だったとしても、その図にあてはまらない理由や修正要素などの理由付けをして、過失割合を下げようとしてきます。
例えば、「10:0(10対0)」の典型例である追突事故でも、「停車位置が悪かった」などの個別事情が被害者側の過失となり、「9:1(9対1)」となることがあります。「被害者側の車両も動いていた」と反論されることもあります。
過失割合について被害者と加害者の主張が異なるときには、客観的に事故態様を証明するため、次のような証拠が大切です。
- ドライブレコーダーの映像
- 実況見分調書
- 衝突部分の写真
- 現場写真
弁護士に「10:0(10対0)」の事故を依頼するメリット
過失割合「10:0(10対0)」の事故について、被害者側が弁護士を依頼しておくべき多くのメリットがあります。
「10:0(10対0)」だと、弁護士に依頼しなくても解決できると考える方もいますが、実際には加害者は「10:0(10対0)」だとは認めてこず、自分側の保険会社も示談代行をしてくれず、納得いかない解決となってしまう例は少なくありません。
正しい過失割合を主張できる
過失割合は、まずは話し合いで決め、合意できないときは裁判で決めてもらいます。
加害者側の保険会社は、交通事故トラブルを多く扱っているため、適切な過失割合をある程度理解していますが、支払いを減らすために、多少なりとも無理のある反論をしてくるケースもあります。
弁護士が交渉窓口となることで、過失割合の類型、考慮すべき修正要素をきちんと反映し、正しい過失割合を主張できます。保険会社もまた、弁護士がついて裁判をされてしまうリスクがあると知ると、「10:0(10対0)」であると認めてくれるケースも多いです。
なお、そもそも加害者の主張する事故態様がまったく異なるケースや、過失割合「10:0(10対0)」を加害者側が認めてもなお、治療の必要性、後遺障害等級認定や損害額などに争いがあるときには、過失割合が「10:0(10対0)」のケースであれば裁判に移行したほうが有利になる場合も多いです。
示談金を増額できる
弁護士に依頼すると、被害者にとって有利な過失割合を主張し、裁判にそなえて証拠収集からサポートしてもらえます。
交通事故の賠償金の基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、弁護士基準(裁判基準)が最も高額です。弁護士に依頼して裁判をすれば、弁護士基準(裁判基準)の賠償金を得られますが、示談交渉の際には、それより低い保険会社の基準によって提案されることが通常です。
素人である被害者が、交通事故トラブルを多く扱う保険会社と交渉するとき、専門知識が乏しいため、保険会社からの提案を妥当と勘違いして示談してしまうおそれがあります。
以上のことから、損害額の満額を受けとることができる「10:0(10対0)」の事故では、弁護士に示談交渉を依頼し、裁判をする可能性を示す方法によって、弁護士基準(裁判基準)の賠償金を獲得することが特に有効です。
精神的ストレスを軽減できる
「10:0(10対0)」の事故では、保険会社の示談代行サービスが利用できませんが、弁護士を窓口とすれば加害者側との直接のやりとりはいりません。「10:0(10対0)」の加害者側であるにもかかわらず不誠実で心無い発言をする保険会社をブロックし、精神的ストレスを軽減できます。
なお、弁護士費用特約に加入していれば、弁護士費用の負担は実質0です。
まとめ
今回は、交通事故の過失割合が「10:0(10対0)」の事故のケース、つまり、被害者側にまったく責任のない交通事故の被害にあってしまったときでも注意してほしいポイントを解説しました。
過失割合が「10:0(10対0)」の交通事故では、加害者が一方的に悪く、いわばとぱっちりで巻き込まれた事故です。にもかかわらず、保険会社に窓口となって交渉してもらえず、加害者からは「少しは過失があったはずだ」と主張され、とても嫌な思いをすることでしょう。
注意事項をよく理解し、示談金が減って損をしてしまわないよう注意してください。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、交通事故について多くの解決実績を積み重ねております。
加害者側が過失割合について徹底して争い、裁判になるなど紛争が長期化するおそれのあるときは、ぜひお早めに、当事務所にご相談ください。
過失割合についてよくある質問
- 過失割合が10:0(10対0)の交通事故とは、どんなケースですか?
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過失割合が10:0(10対0)となるのは、被害者側にまったく過失のないケースです。信号無視やセンターオーバー、追突のように、加害者にとても大きな過失が認められる事故があてはまります。もっと詳しく知りたい方は「過失割合が10:0(10対0)の交通事故とは」をご覧ください。
- 過失割合が10:0(10対0)の交通事故で注意点はありますか?
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過失割合が10:0(10対0)であれば、交通事故の賠償金が減額されることはありませんが、実際には加害者からはまったく違った事故態様が主張されたり、被害者にも過失がある程度あったと反論されたりするため、証拠収集などの準備が欠かせません。詳しくは「過失割合が10:0(10対0)の事故を有利に進めるための注意点」をご覧ください。