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残業許可制により残業代を削減しようとする企業が注意すべきポイント

残業が長時間になってしまっている会社では、残業代が人件費を圧迫していることが多く、さまざまな工夫をこらして、少しでも残業代を減らそうと考える企業は少なくありません。

そのなかで、よく利用されるのが、残業を許可制とし、許可のない残業を認めないとする方法、つまり、「残業許可制」です。残業許可制をとることによって、残業代が無駄にかかるわりに成果の発生しないような、不必要な残業を抑制し、残業代を減らすことができます。このことは、同時に、社員の健康を守ることにもつながります。

しかし、残業の許可制を適切に運用しなければ、違法な長時間労働によって社員の心身を傷つけてしまうのはもちろん、せっかく残業代を減らすためにした努力も、労働審判や訴訟で無効と判断される事態となってしまい、かえって高額の残業代請求を受けてしまうリスクがあります。

今回は、残業許可制によって残業代を削減しようと考えている企業が注意すべきぽいとと、残業許可制の正しい運用について、人事労務にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 残業許可制は、許可していない残業から発生する残業代を、抑制するメリットあり
  • 残業許可制としながら、実際は残業を放置していると、未払い残業代を請求されるおそれあり
  • 残業許可制を正しく導入するには、許可申請の手続きを整備し、社員教育を徹底する
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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労働時間の把握義務

時計

2019年4月1日より施行された働き方改革関連法により、労働安全衛生法が改正され、使用者(会社)に、労働時間の把握が義務付けられました。使用者(会社)が把握すべき「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。

以前から、労働時間の把握義務について、厚生労働省の通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日基発339号、いわゆる「46通達」)により、労働者の始業時刻、終業時刻を、タイムカードや現認などの方法で正確に把握すべきと定められていましたが、働き方改革のなかで、法律上の義務に格上げされた形となります。

労働時間とは
労働時間とは

企業側に課される労働時間の把握義務は、残業代の正確な支払いはもちろんですが、長時間労働を抑制し、安全配慮義務を守るという意味もあります。労働時間の把握方法は、原則として、タイムカードなどの客観的方法により行うものとされており、その他、自己申告や現認による方法も認められてはいるものの、その場合は、自己申告が適正に行われるよう十分な配慮が必要とされます。

把握すべき労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、始業時刻・終業時刻の間(休憩時間を除く)が基本となります。ただし、それ以外でも、始業前の準備作業、終業後の片付け作業、手待ち時間や仮眠時間についても、使用者からの拘束を受け、労働から解放されていないと評価できるときは、労働基準法にいう「労働時間」となり残業代請求の対象となることがあります。

業務時間の前後で「労働時間」となるケース
業務時間の前後で「労働時間」となるケース

企業が、残業許可制の導入によって残業代の抑制しようとするとき、どのような時間が「労働時間」になるかをきちんと理解し、正確に把握する義務を怠らないようにしなければなりません。労働時間を適正に把握しなかった結果、本来払うべき残業代を払っていないと、刑事罰による制裁を受けるおそれもあります。

残業許可制の基本と、企業側のメリット・デメリット

はてな

次に、残業許可制を導入するにあたって企業側に生じるメリット、デメリットについて弁護士が解説します。

企業には、労働時間を正確に把握する義務があり、把握した労働時間に応じた、正しい残業代を払わなければなりません。加えて、残業代をきちんと払っているというだけでは足りず、労働者の心身を壊してしまうような違法な長時間労働は、安全配慮義務違反となり、慰謝料請求などの対象となります。

そのため、残業許可制を導入するとき、注意点をきちんと守って行わなければ、デメリット、リスクも多く存在します。

一方で、すべての労働者が、誠実で、勤勉に働いてくれるとはかぎりません。そのため、残業許可制をはじめ、適切な人事労務の施策を講じず、社員任せにしていては、無駄な居残り残業、上司への付き合い残業、生活残業が増えて、人件費を無用に圧迫してしまうおそれもあり、残業許可制を導入するメリットも多くあります。

残業許可制とは

残業許可制とは、その名のとおり、残業を行うことについて、企業側の「許可」や「承認」を要することと定める会社内のルールのことです。

残業許可制のルールの下では、残業申請書、残業承認書など、会社が定めた書式にしたがって、残業を行うこと、残業中に行う業務、必要となる残業時間などを会社に申請し、許可・承認を得られた場合のみ、労働者は残業することができます。

残業の許可が下りないとき、労働者は残業を行えず、許可が下りなかったにもかかわらず行った労働は、残業代が支払われず、労働時間としてもカウントされません。

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残業許可制のメリット

企業側にとって、残業許可制の最大のメリットは、残業代の抑制です。

残業許可制のメリット
残業許可制のメリット

特に、従業員が生活のために給与を増やそうとして行う、いわゆる「生活残業」など、企業にとって価値のない残業がなくならない場合、残業許可制を正しく運用することによって、有用な残業と無用な残業の仕分けすることができます。

また、残業許可制のメリットは、企業側にとっての金銭的なメリットだけではありません。労働者の心身の健康を保ち、安全配慮義務に違反しないようにすることができるとともに、限られた時間で業務を終了させ、成果をあげようと工夫をくり返すことで業務の効率化、生産性の向上につながるメリットもあります。

残業許可制のデメリット

残業許可制のデメリットは、今回解説するとおり、注意点を守って正しく運用しなければ、本来払わなければならなかった残業代が、未払いの状態となってしまうおそれがあることです。このような残業許可制の誤った運用があると、労使対立が深まり、労働者から多額の残業代請求をされるおそれがあります。

残業許可制のデメリット
残業許可制のデメリット

また、残業を許可制にして、労働時間を短くする一方で、業務量は一向に減らず、業務の効率化もなされず、結局は持ち帰り残業、サービス残業などの違法な残業を招いてしまうと、社員の労働意欲を減退させてしまいます。

したがって、残業許可制のデメリットを理解し、残業許可制が正しく運用されず、企業にとってのリスクとなっている場合には、次に解説する注意点を理解し、正しい残業許可制の手続、進め方をとることが重要です。

残業許可制の導入時の4つの注意点

時間

残業許可制の基本を理解していただいたところで、残業許可制のデメリット、リスクを顕在化してしまわないよう、制度導入にあたって企業側で注意しておくべきポイントについて、主に4つに分けて弁護士が解説します。

残業申請の手続きを整備する

残業許可制を正しく運用するためには、会社側で、残業申請の手続きをきちんと整備しておかなければなりません。具体的には、タイムカードを正しく打刻させるのはもちろんのこと、残業申請書、残業承認書を準備し、承認手続きについてマニュアルなどにまとめ、社員に周知する必要があります。

残業を許可制にすると決めておきながら、申請手続きが整備されておらず、残業の申請と許可が正しく行われていないと、結局は、許可していない時間についても「残業」と評価されるリスクがあるからです。

残業申請書には、残業をする日時、残業中に遂行する業務、残業を必要とする時間などを詳しく記載させ、必要と考える残業のみに許可を与えるようにします。また、実際には、急遽残業が必要となり、事前申請ができない場合もあり、このような場合に備え、やむをえずした残業についての事後申請の手続きも整備しておかなければなりません。

管理職の教育研修を行う

残業申請の手続きを整備したら、実際に現場で残業初認を行う管理職に対して、教育研修を行わなければなりません。

どのような基準で残業を承認するのか、残業を承認しない場合にどのようにして社員を帰宅させなければならないのかといったことについて、実際に残業許可制を運用する管理職が、正しく理解している必要があるからです。この点で、残業許可制をとることで、管理職の仕事を増やしてしまうかもしれません。

部署ごと、事業所ごとなどで不公平感の出ないよう、残業許可制が社員のモチベーションの足を引っ張ることのないように、どのような基準で残業を承認するのかには統一的な基準を作り、管理職に徹底しておくのがおすすめです。

残業許可制を実際に運用する管理職が、労働法に関する正しい知識を理解しておらず、会社として決めた残業許可制が実際には正しく運用されていなかったという場合、結果として、労働者から残業代請求をされてしまうリスクが残ることとなります。

タイムカードを正しく活用する

残業許可制を運用するにあたって、実労働時間を正確に把握するためには、タイムカードを正しく活用するのが重要なポイントです。というのも、残業代を支払うべき「労働時間」とは、実労働時間(実際に使用者の指揮命令下に置かれていた時間)であり、在社時間(労働者が会社に滞在していた時間)とは異なるからです。

この点で、タイムカードや入退出のセキュリティ記録などは、労働者が会社施設内にいる時間を把握することはできるもののの、正確な労働時間をあらわしていない場合もあることを理解しなければなりません。

しかし、その上でもなお、会社側には労働時間の正確な把握義務があり、その手段としてタイムカードを利用している場合、タイムカードの記録は労働審判、訴訟などの法的手続きにおいて、とても重視される証拠となります。

そのため、残業許可制とタイムカードを併用する場合に、タイムカードに記録された打刻が実労働時間を指し示していない場合には、会社側において、残業申請書、残業承認書、パソコンのログ履歴、遂行した業務の進捗状況など、タイムカード以外の証拠を用いて反証できるよう準備しておく必要があります。

労働時間を証明する証拠
労働時間を証明する証拠

違法な残業代未払を放置しない

残業許可制を正しく運用してもなお、労働時間の正確な把握、管理は困難な課題であり、残念ながら違法な残業代未払が生じてしまうおそれがあります。

例えば、業務時間終了後は、仕事がなく、残業の許可もされていない従業員は速やかに退社すべきであるにもかかわらず、現場の人事労務管理が徹底されていなかった結果、従業員が社内に残って仕事を続けてしまっていたという場合、会社の意図に反して、未払の残業代が生じてしまっているおそれがあります。

労働者側から残業代請求を受けたとき、労働審判や訴訟などによって残業代の支払を命じられると、制度的な問題は全社的に波及するおそれがあります。つまり、1人の労働者に対して未払の残業代がある場合、他の社員もまた残業代を請求できる結果、会社全体で相当高額な残業代を支払わなければならなくなってしまう可能性があるということです。

そのため、違法な残業代未払は放置せず、労働者からの請求を慎重に吟味し、適時適切に改善を積み重ねていかなければなりません。

まとめ

今回は、残業許可制を導入して、残業代を削減し、人件費を抑制しようと考えている企業が注意しておくべきポイントについて、弁護士が解説しました。

たしかに、残業代許可制を正しく運用すれば、無許可の残業については残業代を払う必要がなくなり、無駄な残業が減り、人件費を節約できます。しかし、許可のない残業を放置しつづけていることは、残業許可制の正しい運用とはいえず、労働者側から残業代請求をされたときには、敗訴するおそれがあります。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業内の残業代問題について、豊富な相談事例に対応した経験があります。

企業内の残業代問題をはじめ、人事労務問題についてお悩みの会社は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。

人事労務のよくある質問

残業許可制には、デメリットがありますか?

残業許可制は、残業代を減らす施策として導入されることが多いですが、デメリットもあります。残業許可制としながら、実際には許可なく残業している社員を放置していたり、そもそも許可の手続きが明確になっていなかったりすると、無許可で居残っていた時間も「労働時間」と評価されてしまう可能性が高いです。詳しくは「残業許可制の基本と、企業側のメリット・デメリット」をご覧ください。

残業許可制を導入するとき、注意すべき点はありますか?

残業許可制を導入するときには、残業申請の手続きをきちんと整備し、社員に周知し、ルールを守らない社員には即座に注意指導を行い改善を求めるなど、運用を徹底しなければなりません。これによって、無許可でする残業を許さず、残業代を減らす効果が期待できます。もっと詳しく知りたい方は「残業許可制の導入時の4つの注意点」をご覧ください。

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