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残業許可制により残業代を削減しようとする企業が注意すべきポイント

働き方改革では、企業に労働時間の適正な把握が強く求められます。その一環として、社員が残業する際に事前の許可を要する「残業許可制」を導入する企業が増えています。

残業許可制では、無許可の残業を認めないことで、残業代を節約することを主目的とするケースがあります。正しく運用できれば、不必要な残業を抑制し、社員の健康を守ることにも繋がりますが、制度の運用を誤ると違法なサービス残業の温床となるおそれがあります。残業代を減らす努力も、不適切な形で悪用すると、裁判所に無効と判断され、高額な残業代請求が認められてしまいます。

今回は、残業許可制によって残業代を削減しようと考えている企業が注意すべきポイントと、残業許可制の正しい運用について弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 残業許可制は、無許可の残業を禁止し、残業代を抑制できるメリットがある
  • 許可制としながら実態として残業を放置すると、残業代請求が認められやすい
  • 残業許可制を正しく運用するには、許可手続きを整備し、社員に周知する

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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残業許可制とは

時計

残業許可制とは、社員が所定労働時間を越えて業務を行う際、事前に上司や管理者の許可を得ることを条件とする制度です。例えば、次のような運用例があります。

  • 残業の必要を感じた時点で、残業申請書などの書式で上司に申請する。
  • 上司が内容を確認、承認した場合に残業が可能となる(事前承認制)。
  • 事前許可が難しく、やむを得ず発生した残業は事後承認制とする。
  • 許可が下りなかった場合は残業を行えず、残業代も払われない。

残業許可制の特徴は、企業があらかじめ、残業で行う業務内容と必要性を把握し、事前に管理する点にあります。残業許可制を導入するには、残業申請書、承認書などの書式を用意したり、許可の手続きや提出先を定めたりといった準備が必要です。

残業許可制を導入する企業側の目的は、次のようなものです。

  • 不要な残業の抑制
    社員が惰性で長時間労働するのを防ぎ、業務効率を向上できます。
  • 労働時間の適正化
    労働時間の実態を把握しやすくなり、長時間労働による健康被害を防いだり、働き方改革への対応に役立てたりすることができます。
  • 残業代の削減
    事前の許可を必要とすることで、業務の優先順位や効率を見直し、結果として人件費の抑制に繋がります。

残業許可制は、法律で定められた制度ではなく、企業が任意に導入するものです。そのため、制度設計は、法違反とならない限りある程度柔軟に決められます。重要なのは、導入する制度や実際の運用が法令に抵触しないようにすることです。残業許可制だとしても、36協定を締結し、労働時間を正確に把握し、必要に応じて残業代を払うことが大切なポイントです。

また、制度に対する従業員の理解を深めることも大切なので、導入時には丁寧に説明し、その後もルールを周知徹底しておかなければなりません。

残業許可制の企業側のメリット・デメリット

はてな

次に、残業許可制のメリット・デメリットについて、企業側の立場で解説します。

「残業代が無くせるから」といった軽い気持ちで導入すると、かえってデメリットやリスクが顕在化します。残業許可制を導入しても、労働時間を正確に把握する義務はなくならず、残業代を支払うべきケースもあります。

法令を遵守して、適切な制度設計とするためにも、導入を考える会社は、以下のメリット・デメリットを比較して検討するようにしてください。

残業許可制のメリット

残業許可制の企業側のメリットは、次の通りです。

不要な残業を抑制できる

企業側にとって、残業許可制の最大のメリットは、残業を抑制できることです。

残業には、通常賃金の25%以上の割増賃金(残業代)を支払う必要があるので、業務内容を精査せず、漫然と働いている状態を放置し続けると、人件費負担が増大してしまいます。残業許可制を導入すれば、残業の必要性を事前にチェックでき、無駄な残業を抑制して、残業代を減らすことができます。

社員の健康を守ることができる

残業を抑制することは金銭的なメリットだけでなく、労働者の心身の健康を守り、安全配慮義務に違反しないようにできる利点もあります。

会社は、雇用する労働者の健康と安全を守る義務がありますが、長時間労働が続くと、うつ病や適応障害といったメンタルヘルスになるおそれがあります。残業許可制により、労働時間が長すぎないよう管理できれば、安全配慮義務を果たすことに繋がります。

業務効率を向上することができる

残業許可制にすると、どの労働者が残業しているのか、可視化できます。労働時間を見える化すれば、各部門の業務量や人員配置を適正化し、業務効率を上げることができます。また、社員側でも、残業が許可されない可能性があるため、限られた時間で業務を終了させ、成果を上げようと工夫し、生産性が向上することが期待できます。

残業許可制のデメリット

残業許可制の企業側のデメリットは、次の通りです。残業許可制は、企業にとって有効な労務管理の手段である一方で、法令を遵守し、実態に沿った運用をしなければリスクもあります。

実態との乖離が生じるおそれがある

制度上は「許可制」でも、実際には申請せずに残業している社員がいると、その労働時間も残業にカウントされ、残業代の支払い義務が生じるおそれがあります。「許可していない」という理由だけで残業代の支払いを怠ると、違法なサービス残業となり、法的責任を追及される危険があります。

制度の運用が煩雑になり負担が増す

必ず一定程度の残業が生じる企業だと、許可制はかえって煩雑です。

申請・承認のフローを整備しても、毎日それを行うのは相当な手間でしょう。一方で、手間だからといって手続きをせずに残業しても注意しなかったり、残業の内容をチェックしなかったりすれば、制度が形骸化し、現場の混乱や不満を招くこととなります。

労働者からの不満が生じる

残業を許可制にし、労働時間の短縮を求める一方で、業務量は減らず、効率化も図られないとすれば、結局は労働者にしわよせが来ます。持ち帰り残業やサービス残業が常態化するなど、違法な労働実態となれば、社員の不満を招くことになります。

その結果、残業許可制を導入したことで、かえって労使の関係が悪化したり、社員のモチベーションや士気を低下したりするおそれがあります。

残業許可制を導入する際の企業側の注意点

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最後に、残業許可制のデメリットやリスクを顕在化させないよう、制度導入時に企業が注意しておくべきポイントについて解説します。

残業申請の手続きを整備する

残業許可制を適切に運用するには、企業側で、残業申請の手続きを整備しなければなりません。具体的には、次のような準備が必要です。

  • タイムカードの正確な打刻を徹底する。
  • 残業申請書、承認書の様式を準備する。
  • 承認手続きの流れをマニュアルにまとめ、社員に周知徹底する。

残業申請書には、残業の日時、業務内容、見込まれる時間を具体的に記載させ、必要性が認められる場合にのみ承認する運用とすべきです。また、急な業務対応など、事前申請が難しい残業に備えて、事後申請の手続きも整えておくことが重要です。

制度として残業を「許可制」にしながら、実際の申請・承認手続きが曖昧なままだと、許可していない時間にも「残業」が発生するおそれがあり、かえってリスクを高めてしまいます。

管理職への教育・研修を実施する

実際に残業を承認する立場の管理職の教育・研修も不可欠です。残業を承認する際の判断基準や、承認しない場合に社員をどのように帰宅させるべきか、といった対応について、管理職が正しく理解している必要があるからです。

残業許可制の導入により、管理職の業務負担が増えることも想定されますが、部署や事業所ごとに運用に差が出ないよう、承認基準を社内で統一し、周知することが望ましいです。残業許可制について統一的な運用がなされていないと、社員間に不公平感が生まれ、モチベーションの低下につながるおそれがあります。

また、管理職が労働法の知識を理解しておらず、制度が適切に運用されていない場合、結果として残業代請求のリスクが残る点にも注意が必要です。

タイムカードを正確に活用する

残業許可制を導入する場合でも、実労働時間を正確に把握するために、タイムカードの正しい活用が不可欠です。というのも、残業代の支払い義務が発生する「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれた時間を指し、単なる「在社時間」とは異なるからです。

タイムカードや入退室のセキュリティ記録などは、労働者が社内にいた時間は把握できますが、必ずしも実労働時間を正確に反映しているとは限りません。その上でなお、企業には労働時間を適切に把握する義務があるため、タイムカードの記録は、労働審判や訴訟でも重要な証拠として取り扱われます。

そのため、残業許可制とタイムカードを併用する際は、打刻と実労働時間が乖離している場合には、残業申請書や承認書、PCのログ履歴、業務日報など、他の証拠によって労働時間を立証できるように備えておく必要があります。

違法な残業代の未払いを放置しない

残業許可制を正しく運用しても、労働時間の正確な把握と管理は依然として難しい課題です。その結果、違法な残業代の未払いが発生する可能性も否定できません。

例えば、業務終了後に仕事がないのに、残業の許可がないまま従業員が社内に残り続けていた場合、速やかに退社を指示すべきです。しかし、労務管理が徹底されていないと、企業の意図に反して未払い残業代が発生するリスクがあります。

労働者から残業代を請求され、労働審判や訴訟で支払いが命じられた場合、制度上の不備は全社に波及するおそれもあります。

1人の未払い残業代が認定されると、他の社員からも同様の請求がなされ、結果として企業全体で多額の残業代を支払わざるを得なくなるからです。

このようなリスクを回避するためにも、違法な未払いを放置せず、労働者からの請求内容を慎重に確認したうえで、必要な是正措置を適切に講じていくことが重要です。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、残業許可制を導入して、残業代を削減しようと考える企業の注意点を解説しました。

残業許可制を正しく運用すれば、労働時間の適正な管理や人件費の抑制にとって有効な手段となります。しかし、制度の導入や運用を誤ると、かえって法的リスクが高まります。許可制にしたにもかかわらず無許可の残業を放置すると、「残業を黙認していた」と主張され、未払いの残業代を請求されるおそれがあるので注意しなければなりません。

また、「許可がなければ残業代を払う必要はない」という誤解に基づく運用だと、労働審判や訴訟で敗訴するおそれがあります。制度を正しく運用するには、許可手続きを就業規則に明文化し、社内への周知を徹底すること、無許可の残業を注意し、許さないことなどが重要です。

コスト削減のみを目的とした不適切な残業許可制は、企業にとって大きなリスクとなります。弁護士のアドバイスを受けながら、慎重に制度設計を行うことをお勧めします。

この解説のポイント
  • 残業許可制は、無許可の残業を禁止し、残業代を抑制できるメリットがある
  • 許可制としながら実態として残業を放置すると、残業代請求が認められやすい
  • 残業許可制を正しく運用するには、許可手続きを整備し、社員に周知する

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