障害者雇用納付金制度は、一定規模以上の企業に対し、法定雇用率を達成できなかった場合に納付金を求める仕組みであり、障害者の雇用を促進するために設けられた制度です。
法定雇用率を下回る企業には一定の納付金の支払いが義務付けられますが、法定雇用率は改正によって見直しを重ね、引き上げられています(2025年4月現在「2.5%」)。また、納付金の計算も複雑であり、よく理解しておかないと、思わぬ負担を強いられるおそれがあります。
徴収された納付金は、法定雇用率を満たす企業に調整金・報奨金として支給され、社会の公平な分担を目指しています。この点から、障害者雇用率を達成するための職場環境の整備など、企業の取り組みも欠かせません。
今回は、障害者雇用納付金制度の基本から法定雇用率の注意点、納付金の計算方法について、弁護士が解説します。
- 障害者雇用納付金制度は、障害者の雇用機会を確保することが目的
- 法定雇用率(常用労働者に対する障害者の割合)は、2025年4月現在「2.5%」
- 納付金の申告・納付に違反すると、企業名公表のリスクがある
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障害者雇用納付金制度とは

はじめに、障害者雇用納付金制度の概要と法的ポイントを解説します。
障害者雇用納付金制度とは、障害者の法定雇用率を達成していない企業から、国が一定の納付金を徴収する制度です。障害者の雇用促進と職業生活の安定を図ることなどを目的とし、障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)にに定められています。
障害者雇用納付金制度の目的
障害者雇用納付金制度は、障害者の雇用促進と企業間の負担調整を目的とした制度です。
企業が障害者を雇用することには、職場環境の整備や業務の調整など、健常者のみを雇用する場合に比べて追加のコストが発生しやすく、企業ごとの経済的負担の差異が生じます。障害者を雇用して社会に貢献する企業が、より多くの負担を負うこととなれば、障害者の雇用責任を果たさない企業との間で不公平が生じてしまいます。
障害者の雇用は、一企業のみで解決できる問題ではなく、社会全体の課題です。障害者雇用納付金制度では、障害者雇用の義務を果たしていない企業から納付金を徴収し、義務を達成している企業に、障害者雇用調整金、障害者雇用報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金などの金銭を支給して支援する制度設計です。
制度の法的根拠は、障害者雇用促進法43条及び53条であり、障害者雇用の達成状況を管理し、未達成企業から納付金を徴収し、その資金を障害者雇用を推進するための調整金・報奨金・助成金に充当します。同制度によって障害者の就業機会が確保される社会的意義があります。
納付義務が生じる企業規模(101人以上)と免除の仕組み
障害者雇用納付金が発生する企業規模は、常用労働者が101人以上の事業主です。「常用労働者」とは、次のいずれかに該当する社員のことです。
- 雇用期間の定めがない労働者
- 雇用期間の定めがある労働者であって、その雇用が更新され雇入れから1年を超えて引続き雇用されることが見込まれる労働者
- 過去1年を超える期間について引続き雇用されている労働者
週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者は、「常用労働者0.5人」として計算します。
したがって、上記の労働者の合計が100人を超えるとき、障害者雇用納付金の申告・納付が必要です。障害者雇用納付金制度は、企業による自主申告と納付を基本とするため、納付金の対象となる「常用労働者数が100人を超える企業」に該当するかは企業が自主的に判断しなければなりません(算定基礎日は毎月1日もしくは賃金締日)。
労働者数が変動する場合、一年度中に100人を超える月が5ヶ月以上あるなら、納付の対象となります。入退社が多く、労働者数が月ごとに変動する企業では、慎重に判断すべきです。
なお、以下の場合には、障害者雇用納付金の義務はありません。
- 従業員100人以下の企業
常用労働者が100人以下の場合、納付金を支払う義務はありません。ただし、障害者雇用の努力義務を負うことに変わりありません。 - 除外率制度の対象となる業種
障害者雇用が難しい一部の業種には、除外率制度が設けられています(例:林業25%、貨物運送取扱業15%、建設業・鉄鋼業:10%など)。この場合、除外率の割合の労働者数を控除し、その数に法定雇用率をかけて障害者雇用義務数を計算します。
納付金の使途(調整金・報奨金・助成金など)
徴収された障害者雇用納付金は、障害者の雇用促進と職場環境の整備を目的とした各種助成金や支援事業の財源として活用されます。
- 障害者雇用調整金
法定雇用率を上回っている企業に対して、超過1人あたり月額2万9,000円が支給されます。なお、令和6年4月1日以降は、支給対象人数が10人を超える場合、その超過分には月額2万3,000円が適用されます。 - 障害者雇用報奨金
常用労働者100人以下の企業で、一定以上の障害者を雇用している場合、超過1人あたり月額2万1,000円が支給されます。なお、令和6年4月1日以降は、支給対象人数が35人を超える場合、その超過分には月額1万6,000円が適用されます。 - 助成金の支給
- 障害者作業施設設置等助成金:バリアフリー化や設備改善の助成。
- 障害者福祉施設設置等助成金:障害者が利用しやすく配慮された福利厚生施設等の設置・整備を行う事業主に対する助成。
- 障害者介助等助成金:重度身体障害者のために障害の種類や程度に応じた介助者を配置するなど、特別な配慮を行う事業主に対する助成。
- 重度障害者通勤対策助成金:通勤が特に困難な身体障害者が通勤しやすくするための措置を行う事業主に対する助成。
- 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金:重度身体障がい者を多数継続して雇用し、障害者のために事業施設の整備等を行う事業主に対する助成。
納付金制度は、障害者雇用の促進と、それに伴う企業間の負担の調整を実現するために重要な役割を果たします。企業にとっては、法定雇用率を達成すれば納付金の支払いを回避できるだけでなく、超過雇用があれば調整金を受け取れるため、積極的に障害者を雇用することが、ひいては経済的なメリットに繋がる仕組みとなっています。
障害者の法定雇用率とその改正

次に、障害者の法定雇用率について解説します。
法定雇用率とは、障害者の雇用機会を確保するために、常用労働者の数に対して一定割合の障害者を雇用するよう企業に義務付けられた割合のことです。
現行の法定雇用率(2.5%)と変更への対応
現行の法定雇用率は、民間企業の場合には2.5%です(2025年4月現在)。これにより、従業員40人以上の企業は、1人以上の障害者雇用義務が発生する計算となります。なお、国・地方公共団体の法定雇用率は2.8%、都道府県教育委員会は2.7%と、民間企業より高く設定されています。
法定雇用率は、見直しが図られるごとに引き上げられており、2026年には2.7%に引き上げられる予定となっています。法定雇用率が引き上げられると、障害者を雇用する義務の数も増加します。
従業員200人の企業だと、2.5%の法定雇用率の場合、必要な障害者雇用は5人(=200×2.5%)です。2.7%に引き上げられた場合、6人(200人×2.7%)必要です。
企業としては、今後も、法定雇用率の引上げを見据えて、長期的な人員計画を立てなければなりません。特に、従業員数が40人〜50人程度の企業では、持続的な成長をするためには、人員配置や採用を戦略的に考えておかなければなりません。
雇用率の計算方法
上記の法定雇用率を満たすかを確認するため、雇用率の計算方法を理解しましょう。法定雇用率は、以下の計算式で求められます。
- 雇用率 = 障害者数/常用労働者数 × 100
前述の通り、常用労働者数は、週40時間以上の社員を1人、週20時間以上30時間未満の社員は0.5人として計上します。対象となる障害者数は、次のようにカウントします。
- 通常の障害者(身体、知的)
- 週30時間以上:1人
- 週20時間以上30時間未満:0.5人
- 重度障害者(身体、知的)
- 週30時間以上:2人
- 週20時間以上30時間未満:1人
- 週10時間以上20時間未満:0.5人
- 精神障害者
- 週30時間以上:2人
- 週20時間以上30時間未満:0.5人(ただし、当面は特例措置として1人とカウント)
- 週10時間以上20時間未満:0.5人
雇用率未達成の場合のリスク
法定雇用率を達成していない場合、後述の通り、不足1人あたり月額5万円の納付金が発生します。更に、それだけでなく、行政指導の対象となったり、長期間にわたって未達成だと、企業名公表の対象となったりするおそれがあります。
特に、障害者雇用納付金の対象となる企業の中には、上場企業をはじめとした社会的責任の大きい企業も存在します。未達成によって社会的信用が低下したり、企業イメージが毀損されたりすると、取引や採用人気にも悪影響が及ぶリスクも無視できません。
SDGs(持続可能な開発目標)やダイバーシティ推進が重視される昨今では、障害者雇用に取り組まない企業はCSR(企業の社会的責任)の観点からも低評価を受けてしまいます。
障害者雇用納付金の計算方法

障害者雇用納付金は、法定雇用率を達成していない場合に発生する経済的負担であり、不足している障害者1人につき月額5万円を納付しなければなりません。
納付金の具体的な計算方法
障害者雇用納付金の計算方法は、次の通りです(なお、前述の通り、納付義務の対象となるのは、常用労働者101人以上の企業です)。
- 年間納付金額 = 不足人数 × 月額5万円 × 12ヶ月
例えば、不足人数が2人なら年間120万円(=2人×5万円×12ヶ月)、不足人数が3人なら年間180万円(=3人×5万円×12ヶ月)です。このように、不足人数が1人増えるごとに、年間60万円の負担増となります。
常用労働者数が200人、法定雇用率が2.5%のとき、雇用を要する障害者数は5.0人(200×2.5%)、実際の雇用数が3人だとすると、不足人数は2人となります。
未申告・未納付のリスク
障害者の雇用機会の確保という障害者雇用納付金制度の目的を達成し、企業間の平等な負担を守るため、納付金の申告・納付を怠った企業には、制裁が下されます。
障害者雇用納付金制度は、前章の通り、事業主による自主申告制を基本としますが、障害者雇用促進法52条に基づいて訪問調査が実施されています。訪問調査で、納付金の申告・納付の誤りが判明したときは、ハローワークからの雇用率達成指導が行われ、それでも是正されないときは厚生労働省のホームページに企業名公表されることがあります。
その結果、障害者雇用に積極的でない会社は、社会的信用が低下するリスクもあります。
障害者雇用納付金の対象企業(常用労働者数101人以上)では、制裁を受けて社会的信用を低下させたり企業イメージを損ねてしまったりすることのないよう、慎重な対応が必要です。
まとめ

今回は、障害者雇用納付金制度について企業側のポイントを解説しました。
障害者雇用納付金制度は、障害者の雇用を促進し、企業が社会的責任を果たすために理解すべき制度です。法定雇用率を達成できない場合には納付金が発生する一方、障害者雇用に取り組む企業には、助成金を活用してコストを軽減できるメリットもあります。
法定雇用率の達成には、障害者でも働きやすい職場環境の整備は不可欠です。バリアフリー化や人事評価制度の整備など、準備は必須といえるでしょう。障害者雇用を単なる義務として捉えるのではなく、社会貢献や多様性の実現といった前向きな視点を持つことも重要です。
適切な知識を持って制度に対応すれば、法的リスクを回避するだけでなく、企業の信頼を高めることができます。障害者雇用に計画的に対応するには、ぜひ弁護士に相談してください。
- 障害者雇用納付金制度は、障害者の雇用機会を確保することが目的
- 法定雇用率(常用労働者に対する障害者の割合)は、2025年4月現在「2.5%」
- 納付金の申告・納付に違反すると、企業名公表のリスクがある
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