人事労務

非正規社員の正社員転換措置の義務化と、運用時のポイント

2021年4月14日

2020年10月13日及び15日に、同一労働同一賃金に関する重要な最高裁判決が立て続けに言い渡されました。大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便・佐賀事件、日本郵便・東京事件、日本郵便・大阪事件の5判決です。

同一労働同一賃金の中では、契約社員やパートタイマーなどの非正規社員と、正社員との格差是正が課題となっています。その中で、上記判決においては、同一労働同一賃金について定めた労働契約法20条に定める「その他の事情」として、正社員転換措置が評価され、注目が集まっています。

正社員転換措置は、非正規社員の待遇改善を目指して、パートタイム・有期雇用労働法において一定の制度を設けることが義務化されました。

そこで今回は、正社員転換措置の義務化に対して、会社側がどのように対応していけばよいのかについて、弁護士が解説します。

「人事労務」弁護士解説まとめ

正社員転換措置の義務化とは

正社員転換措置の義務化とは、パートタイム・有期雇用労働法において定められた、短時間労働者(アルバイト、パートタイマ^-など)や有期雇用労働者(契約社員など)に対して、正社員へ転換する措置を設けることを義務付ける制度のことをいいます。

会社と労働者が結ぶ雇用契約において、どのような形態で社員を雇うかということを「雇用形態」といいます。本来、雇用形態は、会社と労働者の合意で決まるものであり、どのような雇用形態を申し入れるかは会社側の自由です。

しかし、不安定な地位に置かれやすい非正規社員を保護する必要があるため、一定の場合には正社員に転換できる措置を設けることが、会社側の義務となりました。

正社員転換措置の内容

パートタイム・有期雇用労働法に定められた正社員転換措置の内容は、次の通りです。

パートタイム・有期雇用労働法13条(通常の労働者への転換)

事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。

一 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に周知すること。
二 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に対して与えること。
三 一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。

つまり、正社員を募集する場合には、その募集内容を非正規社員に周知したり、正社員ポストを社内公募する場合には非正規社員に応募の機会を与えたり、試験制度を設けたりといった方法の中から、いずれかを実施することが必要となります。

ただし、法律上の義務として求められているのは、正社員転換措置を講ずることまでであり、結果として正社員へ転換することまで求めているわけではありません。そのため、転換措置を設けたけれども、結果的に正社員へ転換することがなかったとしても、その制度の実質を損なうような運用でない限り、必ずしも義務違反となるわけではありません。

正社員転換措置を定めたパートタイム・有期雇用労働法は、大企業については2020年(令和2年)4月1日、中小企業については2021年(令和3年)4月1日に施行されましたが、施行日前であっても、パートタイム労働法による短時間労働者についての転換措置が適用されます。

正社員転換措置を設置し、正しく運用するためには、就業規則、賃金規程の見直し、社内の労務管理の見直しや労使間の話し合いといったプロセスを踏む必要があるため、準備には早めに着手する必要があります。

正社員転換措置の周知方法

パートタイム・有期雇用労働法に定められた正社員転換措置の義務を果たすためには、会社が講じている措置の内容を、非正規社員に対してあらかじめ周知することが求められます。

折角も受けた正社員転換措置も、非正規社員にその存在が知られておらず、利用がなされていないのであれば意味がないからです。

周知方法としては、次のようなものがあります。

  • 就業規則などの社内規程に明記し、事業場に備え置く方法
  • 雇用契約書、労働条件通知書などに明記し、入社時に交付する方法
  • 事業場内の掲示板、社内イントラネット上の掲示板などに記載する方法
  • 社内メールや回覧板などで周知する方法
  • 給与明細に資料を同封する方法

その他の方法として、上記のように全社に統一的に告知する方法のほか、人事考課面談などの際に個別に希望聴取をする方法も可能です。

いずれの方法によるとしても、制度を設けたもののその内容が周知されていないと、非正規社員から「うちの会社は法律を守っているのだろうか」「どういった条件を満たせば正社員になるのかの基準がわからない」「一生正社員になれないのであれば仕事のやる気がわかない」といった不平不満が生じることが予想されます。

正社員転換措置を運用するときの注意点

正社員転換措置は、パートタイム・有期雇用労働法という法律上の義務であるため、運用するときには細心の注意が必要です。パートタイム・有期雇用労働法13条の正社員転換措置義務については、違反の際の罰則などは定められていません。

しかし、罰則がないとしても、違反に対しては様々なデメリットがあります。

パートタイム・有期雇用労働法18条にしたがって、上記義務に違反した事業者に対して、厚生労働大臣は勧告をすることができ、この勧告に従わない事業者名を公表することができます。加えて、法律上の義務に違反するコンプライアンス意識の低い会社であると判明してしまうことにより、社員のモチベーションが低下したり、有能な新規人材の獲得が難しくなってしまったりといったデメリットがあります。

設置した正社員転換措置を正しく運用するため、次の注意点を十分に理解して進めてください。

応募者を限定するときの注意

正社員転換措置への応募に条件をつける場合があります。しかし、この場合には、その制度の実質を損なってしまい、措置義務を果たす制度になっていないと評価されないよう注意が必要です。

正社員資格を新規学卒者にしか与えないなど、そもそも非正規社員の一部の人にはどれほど努力をしても応募することができないような制度である場合、正社員転換措置を講じているとはいえません。正社員転換措置が名ばかりで形骸化してしまわないよう注意が必要です。

また、本人の努力や経験によって満たすことのできる条件をつける場合(例えば、正社員への登用試験について、勤続期間などで応募資格を限定する例)、会社の実態に応じていれば全く不適切な制度とまではいえないものの、必要以上に厳しい条件をつけた正社員転換措置制度の場合には、措置義務を満たしていないと評価されてしまうおそれがあります。

実態に応じた制度を設ける

法律上の義務履行とは評価できないほど限定的な制度にしない限り、どのような制度設計とするかについては、ある程度会社側の裁量に任されています。そのため、会社の実態に応じた正社員転換措置を設けることが、長く運用していくポイントとなります。

例えば、パートタイマーから登用試験を経て契約社員とし、一定の勤続年数を経た後で正社員に登用するとか、契約社員から正社員へ登用するにあたり、フルタイムの正社員となるか短時間労働のいわゆる「限定正社員」となるかを選択させる、といった柔軟な制度設計が考えられます。

現在では、多様な働き方を推奨するため、一言で「正社員」といっても、必ずしもフルタイムばかりでなく、労働時間や働く場所、業務について一定の限定を付した「限定正社員」の制度を導入する会社も増加しています。このようなことは、会社の実態に合わせた活躍を実現するだけでなく、育児や介護に従事している者や高齢者など、幅広い人材を活躍させ人材不足を解消することにもつながります。

「同一労働同一賃金」との関係

冒頭で解説した通り、2020年10月に、同一労働同一賃金に関する重要な最高裁判決が複数言い渡されました。同一労働同一賃金とは、同じ価値の労働を提供する社員に対して、賃金処遇で差別することを禁止するルールであり、非正規社員の保護に関する文脈で使われます。

同一労働同一賃金のルールを定める条文もまた、パートタイム・有期雇用労働法に次のとおり定められています。

パートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

同じ価値の労働を提供する社員については均等・均衡を保たなければならない反面、「業務の内容」「責任の程度」「職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」が異なる場合には、これらに照らして適切な処遇であればよいこととされています。

そして、このうち「その他の事情」として、正社員転換措置が設けられているかどうか重要な要素となることが、裁判例でも指摘されており、この点からも、正社員転換措置義務を果たすことの重要性が増しています。

つまり、必ずしも同一の賃金ではなかったとしても、正社員転換措置が定められている場合には、この措置を利用して正社員になるかどうかは社員側も選択することができるため、同一労働同一賃金に関する裁判例でも、ある程度均衡な処遇であると認めてもらいやすくなるのではないかということです。

「有期雇用社員の無期転換権」との関係

今回解説した正社員転換措置義務と似た法制度に、有期雇用社員の「無期転換権」があります。

これは、労働契約法18条に定められた制度であり、有期雇用社員が、契約を更新されて5年以上勤務をする場合には、労働者側の権利行使によって期間の定めのない労働契約に転換することができるというルールです。「無期転換ルール」と呼ばれることがあります。

労働契約法18条1項

1. 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

2. (略)

したがって、非正規社員の中でも、有期雇用社員の場合には、一定の期間だけ継続して働くと、無期社員へと転換する権利を得ることとなります。

不安定な地位に置かれやすい非正規社員を保護するという必要性のもと、長期的に働けば働くほど、正社員と似た処遇をしなければならないこととなります。そのため、正社員転換措置によって、むしろ会社側の主導により、一定の条件を備えた人について積極的に正社員へと登用していく制度がますます望まれます。

「人事労務」は浅野総合法律事務所にお任せください!

今回は、パートタイム・有期雇用労働法によって会社の義務とされている、正社員転換措置について、その内容及び運用上の注意点を弁護士が解説しました。

同一労働同一賃金、有期雇用社員の無期転換権など、最近の重要な法改正、重要な裁判例では、非正規社員の保護という方向性が示されています。正社員転換措置をやむを得ず設置し、周知せずにこっそり隠しておくようでは義務を果たしているとはいえません。

むしろ、このような流れの中で、正社員転換措置を積極的に労務管理の手段として利用することにより、よりやる気のある人材に会社内での活躍の機会を与え、社内の活性化につなげることができます。

社内の労務管理、その他人事労務についてお悩みの会社は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談ください。

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