
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
正社員転換とは、非正規を正社員へと転換する措置を設けることを指します。
パートタイム・有期雇用労働法によって、企業には、正社員転換措置を講じる義務が定められています。具体的には、正社員募集の社内周知、登用試験の機会提供といった方法が考えられます。
「同一労働同一賃金」の考え方が広まり、非正規と正社員の待遇格差の是正が社会課題となっています。2020年10月13日及び15日に重要な最高裁判決が立て続けに下されました(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便・佐賀事件、日本郵便・東京事件、日本郵便・大阪事件の5判決)。これらの判決において、労働契約法20条(現パートタイム・有期雇用労働法8条)の「その他の事情」として、企業が講じる正社員転換措置が考慮された点が注目されています。
こうした背景から、パートタイム・有期雇用労働法における正社員転換措置により、非正規社員の待遇の改善を目指した一定の制度を設けることが重要なポイントとなります。
今回は、正社員転換の義務化の具体的な内容と、実務上の注意点について弁護士が解説します。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

非正規社員の正社員転換措置の義務化とは、短時間労働者(アルバイト、パートタイマーなど)や有期雇用労働者(契約社員など)に対し、正社員への転換を推進するための措置を企業が講じることを義務付ける制度です。
この制度は、パートタイム・有期雇用労働法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)において、以下のように定められています。
パートタイム・有期雇用労働法13条(通常の労働者への転換)
事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
一 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に周知すること。
パートタイム・有期雇用労働法(e-Gov法令検索)
二 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に対して与えること。
三 一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。
どのような形態で社員を雇用するかは、本来、労使の合意によって決められます。
しかし、企業が利益を追求し、コスト削減を目的として非正規社員に不当な処遇を押し付けることのないよう、不安定な地位に置かれやすい非正規社員を保護する必要があります。
そのため、一定の要件を満たす非正規社員の地位を向上させ、安定した雇用を目指せる制度を整備することが企業に義務付けられました。以下では、非正規社員の正社員転換措置の義務化がどのような制度なのか、わかりやすく解説します。
パートタイム・有期雇用労働法13条に基づき、企業は次の3つのうちいずれかの措置を講じる必要があります。
つまり、正社員の募集や登用に関し、非正規社員にも平等に情報や機会を提供し、能力や意欲のある労働者が正社員として働けるような制度を整えることが求められます。
なお、法律上の義務は「転換措置の導入」までであり、実際に非正規社員を正社員へ転換させることまでは求められていません。そのため、結果的に転換措置に基づいて正社員になれなかったとしても、それ自体は違法ではありません。ただし、制度が形骸化している場合、義務を果たしていないと評価される可能性があります。
正社員転換措置を実効性あるものとするには、非正規社員に対し、その内容を事前に周知することが重要です。周知が不十分だと、制度を設けても活用されず、形だけになってしまいます。
周知の方法としては、以下のようなものが考えられます。
いずれの方法を取るにせよ、制度内容がわかりやすく周知されていなければ、非正規社員から「制度があるのか分からない」「どうすれば正社員になれるのか基準が不明」といった不平不満が生じ、職場の士気低下につながるおそれがあります。
パートタイム・有期雇用労働法に基づく正社員転換措置の義務に違反しても、刑事罰などの直接的な罰則は設けられていません。ただし、義務違反には様々なリスクがあります。
具体的には、厚生労働大臣は、義務に違反した事業主に報告を求めたり、助言、指導、勧告といった行政処分を行ったりすることができます(同法18条1項)。また、勧告に従わない場合、企業名を公表することができます(同条第2項)。
法令違反があったという事実を知られると、コンプライアンス意識に疑問を生じさせ、企業イメージや社員のモチベーションの低下、新規人材の採用難など、経営上のリスクにつながります。
パートタイム・有期雇用労働法の正社員転換措置の義務化の施行日は、大企業については2020年4月1日、中小企業については2021年4月1日でした。
法律によって義務付けられた正社員転換措置を正しく準備し、運用するためには、就業規則や賃金規程の見直し、社内の労務管理の整備や労使の話し合いなど、多くのプロセスを踏まなければなりません。したがって、未対応の企業は、速やかに着手する必要があります。

次に、非正規社員の正社員転換措置を適切に制度化し、実効性のある運用を行うために、特に注意すべきポイントを解説します。パートタイム・有期雇用労働法に基づく法的義務なので、制度を導入・運用するにあたっては細心の注意が必要です。
正社員転換措置を導入する際は、法律に定められた範囲内で、どのような制度とするかについて企業側に一定の裁量が認められます。そのため、自社の業種や規模、雇用形態など、実態に即した制度設計となるよう工夫することが、長く運用していくための重要なポイントです。
例えば、次のような制度設計が考えられます。
昨今では、多様な働き方を尊重する観点から、一口に「正社員」と言っても、必ずしもフルタイムばかりではなく、働く時間や場所、業務内容に制限を設けた「限定正社員」の制度を導入する企業も増加しています。
こうした柔軟な制度設計により、育児や介護を担う労働者、高齢者なども含めた多様な労働者が活躍できる環境を整備すれば、優秀な人材の確保や人手不足の解消といった効果が期待できます。
正社員転換措置では、応募に一定の条件を付けることも可能です。例えば「勤続年数3年以上のパートタイマーに登用試験の受験資格を与える」といったケースです。
ただし、応募者を限定することで正社員転換措置の実効性を損なわないよう注意が必要です。実際に転換の機会がほとんど与えられないなど、名ばかりで形骸化してしまうと、法律上の義務を果たしていないと判断されるおそれがあるからです。
例えば、以下の制度設計は、正社員転換措置の義務に違反しているおそれがあります。
正社員転換措置に応募するための要件として、勤続年数や職務経験など、本人の努力や実績によっては達成できない基準を設けるのは不適切です。あまりに厳しい条件を課す場合、実効性のある制度とは認められず、法的義務を果たしていないと評価されます。
制度を設計する際には、自社の実情に即した条件を検討し、全ての対象者にとって公平で透明性のあるものとする努力が不可欠です。
最後に、非正規雇用の保護という観点から、正社員転換措置の義務化と関連するその他の法制度について解説します。
また、正社員転換に活用できる公的支援として、キャリアアップ助成金についても解説しておきます。正社員化には人件費の増加といった課題が伴いますが、助成金の活用によってコスト負担を抑えつつ、優秀な人材の確保や職場への定着率向上を図ることができます。
同一労働同一賃金とは、同じ価値の労働を提供する社員に対し、賃金や処遇などで差別することを禁止するルールであり、非正規社員の保護を目的としたものです。この原則は、パートタイム・有期雇用労働法8条で、次のように定められています。
パートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
パートタイム・有期雇用労働法(e-Gov法令検索)
同一労働同一賃金は、2020年10月に言い渡された一連の最高裁判決(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便の各事件)により、さらに注目を集めました。
同じ価値の労働を提供する社員の均等・均衡を保つべきとする反面、「業務の内容」「責任の程度」「職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」が異なるときは、これに応じた処遇差を設けてよいこととされます。このうち、上記最高裁判決において、「その他の事情」として「正社員転換措置が設けられているかどうか」が重要な要素となることが指摘されたため、正社員転換措置義務を果たすことの重要性は増しています。
したがって、正社員転換措置を制度として整え、その利用が非正規社員にとっても現実的なものである場合、同一労働同一賃金の観点からも「均衡ある処遇」と評価されやすくなります。
正社員転換措置と似た法制度に、「有期雇用社員の無期転換権」があります。
これは、いわゆる「無期転換ルール」と呼ばれるもので、有期契約の更新を繰り返して5年を超えて勤務した労働者が、本人の申出によって期間の定めのない契約に転換できる制度です。この無期転換ルールは、労働契約法18条で、次のように定められています。
労働契約法18条
1. 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2. (略)
労働契約法(e-Gov法令検索)
したがって、非正規社員であっても、一定の期間だけ継続して働くと、無期社員へと転換する権利を得ることができます。不安定な地位に置かれやすい非正規社員を保護するという必要性のもと、長期的に働くほど、正社員と似た処遇をしなければならないこととなります。
無期転換ルールにより、長期間勤続すれば正社員と同等の処遇を要するので、むしろ正社員転換措置を定めることで、企業主導で一定の条件を備えた人を積極的に正社員に登用する方が、社員が活躍しやすい職場にすることができます。
非正規社員を正社員へ転換させた場合、企業はキャリアアップ助成金の正社員化コースを利用できます。支給額は対象者の区分により異なりますが、例えば、中小企業が有期雇用労働者を正社員へ転換した場合、1人あたり80万円が支給され、人件費負担を軽減することができます。
受給にあたっては、キャリアアップ計画書を事前に提出し、就業規則などに転換制度を明文化しておかなければなりません。そして、転換後6ヶ月間の賃金を、転換前より3%以上増額させるなどの要件を満たした上で、支給申請を行う流れとなります。

今回は、企業に義務付けられた正社員転換措置について解説しました。
正社員転換は、パートタイム・有期雇用労働法によって企業に義務付けられており、その具体的な内容や周知方法、注意点を理解して適切な対応をする必要があります。
近年、正社員転換措置の義務化に加え、同一労働同一賃金に関する一連の判例、有期雇用社員の無期転換権など、重要な法改正や裁判例を通じ、非正規の保護が強化される方向性が示されています。企業にとって法令遵守(コンプライアンス)は当然のことですが、社会的責任を果たし、企業イメージや社会的信用を向上させるためにも、適切な対応が望まれます。
正社員転換措置を積極的に活用すれば、単なる義務の遵守だけでなく、意欲ある人材に成長機会を提供し、組織全体を活性化させる労務管理にもつながります。
人事・労務管理に関してご不安やご相談がある場合は、お気軽に弁護士に相談してください。専門家が状況に応じた的確なアドバイスを提供します。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/