
担当弁護士
鰺坂和浩
- 相談者
女性・50代後半・営業職 - 事案の概要
大手企業で長年マネージャー職として勤務していた依頼者は、会社から「管理監督者に該当する」と扱われ、残業代が一切支払われていませんでした。退職後に請求を検討したものの、タイムカードなど労働時間を直接示す資料が手元になかったため、会社が保有するPCログなどの資料を取得し、残された記録から労働時間を合理的に推計するとともに、実際の職務内容や権限、勤務実態、待遇などから管理監督者に該当しないと主張しました。交渉の末、最終的に350万円の残業代を得ることができました。
- 本事例は、守秘義務およびプライバシー保護の観点から、個人を特定できる情報を削除するとともに、事案の本質を損なわない範囲で事実関係の一部を変更・抽象化しています。
ご依頼時の状況
依頼者は、大手企業の営業部門で、数名の部下を持つマネージャーでした。
会社では、マネージャー職は一律に労働基準法上の「管理監督者」に当たるとされ、日常的に長時間勤務があったにもかかわらず、時間外労働手当は一切支払われませんでした。
しかし、実際は、経営方針などに関与する権限はなく、部下の管理だけでなく自ら営業を行い、売上目標が設定された、いわゆる「プレイングマネージャー」として勤務していました。勤務時間が指定され、毎朝の営業ミーティングへの参加が求められ、遅刻や欠勤については上司への報告が必要とされていました。さらに、営業から戻った後、部下の報告を聞いた上で、自身の営業報告書の作成、顧客情報の入力なども義務付けられていました。
こうした勤務実態から、依頼者自身も、「マネージャーという肩書だけで、残業代を請求できないのだろうか」と疑問を持ち、退職を機に当事務所へ相談されました。
弁護士による対応と解決結果
弁護士による対応
依頼を受けた後、まず会社に対して受任通知を送付し、保有する資料の開示を求めました。
会社ではタイムカードによる勤怠管理を行っていなかったため、その開示は受けられませんでした。一方で、依頼者が勤務時に使用していたパソコンのログが会社側に残されていることが判明したため、当事務所から開示を求め、PCログを取得しました(なお、PCログも残業代の請求対象期間の全てについて保存されておらず、一定の期間しか残っていませんでした)。
そこで、残されていたPCログから始業・終業時刻の傾向や勤務実態を詳細に分析し、依頼者自身から聞き取った内容と照らし合わせ、記録が存在しない期間についても労働時間を推計し、これをもとに未払い残業代を算出して会社に請求しました。
また、会社から「管理監督者である」という反論が予想されたため、「マネージャー」という肩書きであっても、一般社員と同様に営業目標が設定されていたこと、出退勤時刻が、営業ミーティングや営業後の報告などによって事実上決まっていたことなどを指摘しました。
解決結果
交渉の結果、管理監督者に該当しないことを前提に、350万円の残業代を獲得しました。
本件では、タイムカードなどの勤務時間を直接証明する資料が手元になく、さらに会社から開示されたPCログも一部の期間に限られていたという難点があったものの、会社が保有する資料を取得し、残された客観的な記録と実際の勤務状況を組み合わせて労働時間を合理的に算定したことで、相当額の残業代を回収できました。
また、「マネージャー」という役職名を理由に残業代請求をあきらめるのではなく、実際の権限や働き方、待遇を具体的に検討したことが解決につながった事例です。
担当弁護士(鰺坂)のコメント

会社から「管理職だから残業代は支給されない」と説明されてもあきらめてはいけません。
労働基準法上、時間外・休日労働に関する規制の適用を受けない「管理監督者」に該当するかは、役職名や社内での呼称だけでは判断できません。実際にどの程度経営上重要な職務や権限があったか、出退勤の裁量があったか、給与その他の待遇が立場にふさわしいものかといった事情を、勤務実態に即して検討する必要があります。
特に、本件のようなプレイングマネージャーは、部下への指示・評価などの一定の管理業務を担当しても、自らも一般社員と同じく営業目標を負い、多くの時間を拘束されることが多いです。この場合、会社がタイムカードなどを記録していないこともあるため、労働時間を裏付けるその他の資料の収集も、工夫しながら進めなければなりません。
本件では、営業の前後で必ずデスクワークが発生する実態となっていたため、PCのログイン・ログアウト記録、業務メールやチャットの送受信履歴などが証拠として活用できました。会社が開示に消極的な場合、保有していると考えられる資料を特定し、強く請求すべきです。
全ての期間について完璧に記録が残っていなくても、残された資料や勤務実態、本人の具体的な説明などを総合考慮し、労働時間を合理的に推計することができます。会社の説明だけを鵜呑みにして泣き寝入りしないためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。
参考となる解説

