
担当弁護士
水野博文
- 相談者
男性・50代前半・医師 - 事案の概要
依頼者は、退職勧奨を受けた後、感情的なやり取りの中で退職を示唆する発言をしたことなどを理由に、病院から退職扱いとされました。しかし、退職する意思はなく、未払いの残業代もありました。病院側が、退職合意が有効であることを前提とした対応に終始したため、労働審判を申し立て、その後訴訟へ移行しました。その結果、退職合意は否定され、総額約2,600万円の支払いを命じる判決を獲得しました。
ご依頼時の状況
依頼者は医師として勤務していましたが、病院から退職勧奨を受けていました。
「私は来ません」「今日で荷物を引き上げます」など、退職を示唆する発言があったこと、私物を持ち帰り、職務上必要な免許を返納したことといった事情はあったものの、十分な説明や補償もないまま退職する意思はありませんでした。
また、長時間労働が常態化しており、多額の未払い残業代が発生している可能性がありました。依頼者は当初、早期解決を希望していましたが、病院とのやり取りの多くが口頭で行われていたため、退職意思がなかったこと(就労意思が継続していたこと)をどう立証するかが課題でした。
まず任意交渉から始めましたが、病院が退職合意の成立を前提とした提案しか行わなかったため、労働審判を申し立て、その後訴訟へ移行しました。
弁護士による対応と解決結果
弁護士による対応
労働審判までの段階では、依頼者の手元に十分な証拠がありませんでした。
そのため、まずは事実関係を裏付ける資料の収集に注力しました。病院側から録音が提出されたため、反訳を作成し、発言の趣旨や前後の文脈を分析しました。
訴訟では、退職合意の成否が争点となりました。病院は、依頼者の言動から退職意思があったと主張しましたが、当方はその経緯や背景を詳細に分析し、発言のみを切り取って評価すべきではないと主張しました。また、依頼者には介護が必要な家族がおり、多額の支出が継続的に発生していたことから、経済的な補償なしに退職する合理性がないことも立証しました。
その結果、当該発言は退職の意思表示とは評価できないこと、仮に退職の意思表示と評価できるとしても、真意に基づくものではないことを説得的に示すことができました。
本件では、残業代の未払いも存在していたため、これほどの未払い額を抱えて退職することの不自然さも、裁判所に分かりやすく伝えることができたと考えています。
解決結果
労働審判では、和解的な審判が下され、1,580万円の請求が認容されました。
病院側が異議申立てをして訴訟へ移行しましたが、第一審でも、各争点について当方の主張が認められ、残業代も含めて2,300万円の認容判決となり、一審判決後、残業代として240万円が支払われました。その後、病院側が控訴したものの、控訴審でも第一審の判断が維持され、約2,600万円の認容判決となりました。
また、未払い賃金(バックペイ)の対象期間について、就労意思の有無が争点となりました。転職先の給与水準が高く、役職も上位であったものの、地方の病院への単身赴任であった事実、介護を要する家族の健康状況や必要な経済的負担などについて主張した結果、裁判所は特に「単身赴任」の事実を重視し、依頼者には、復職の意思が継続していたと認定しました。
担当弁護士のコメント

本件は、退職合意の成立や就労意思の有無が大きな争点となりました。
退職合意の成立については、合意と評価されるような発言の前後の経緯、労働者が置かれている立場、発言がなされた環境などを証拠に基づいて詳細に主張書面で記載できたことが判決につながったと考えています。就労意思の争点に関しては、過去の裁判例を参照しつつ、本件の特殊性をどのように評価するかを心掛けて進めました。
退職合意に関する事案では、過去の裁判例も重要ですが、本件のように不利なケースほど、個別の事情に基づいた丁寧な主張が重要となります。特に、発言の内容だけでなく、文脈やその前後の対応、家族の状況なども含め、相談時に正確に聞き取ることが大切です。
就労意思に関しても、未払い賃金(バックペイ)の認められる期間に影響するため、転職したという事実だけでなく、前の会社と転職先の労働条件を比較することが重要です。
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