捜査段階において、起訴前に行う弁護活動が「起訴前弁護」です。
刑事事件では、捜査が開始されてから逮捕・勾留といった身柄拘束を経て、起訴されると裁判になります(また、身柄拘束されなくても、在宅起訴されて裁判になるケースもあります)。起訴前弁護において目指すべき最大の目標が、「早期釈放」と「不起訴」です。
起訴前にスピーディに弁護士が動くことで、身柄拘束から早期に釈放され、そして不起訴処分によって裁判を回避できれば、被疑者の権利を最大限守ることができます。裁判にならず処罰もされなければ、前科を付けないようにすることができます。
今回は、起訴前に行うべき弁護活動のポイントと、早期釈放、不起訴を目指すための注意点について弁護士が詳しく解説します。
- 起訴前弁護は「早期釈放」と「不起訴」を目指して弁護士が行う
- 良い解決を目指すには、できるだけ早く弁護士に依頼し、接見を要請すべき
- 弁護士が起訴前弁護を行えば、不当な捜査を抑止し、被疑者の権利を守れる
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起訴前弁護とは

起訴前弁護とは、捜査段階において行われる刑事弁護活動です。
起訴される前の犯人を「被疑者」と呼びます。被疑者段階から弁護人の助言や支援を受け、被害者と示談したり、捜査機関に働きかけたりして有利な解決を目指すのが重要です。その名の通り「起訴される前」のタイミングで行う起訴前弁護ですが、被疑者の権利を保護し、不利益を最小化するには、できるだけ早期に着手する必要があります。
起訴前と起訴後の違い
刑事事件の流れは、起訴される前と後で大きく異なります。
起訴前弁護は、まだ正式な起訴が行われる前に弁護士が介入できるので、そもそも「起訴すべきかどうか」も含めた捜査の過程について、働きかけを行うことができます。これに対して、起訴後の弁護活動の時点では捜査は終了しており、裁判における弁論や証拠の提出を通じて「有罪か無罪か」を争うしかありません。
日本の刑事司法では、有罪率が99.9%とも言われます。起訴されると有罪となる確率が高く、処罰が確定すると前科になってしまいます。起訴前弁護をしっかりと行い、起訴を回避することができれば、処罰されず、前科にもなりません。
なお、起訴後の弁護は、無罪、もしくは執行猶予などの軽い判決を勝ち取ることを目的とします。また、起訴後は、保釈を請求することで、保釈金と引き換えに釈放を早めることができます。
起訴前弁護の目的
起訴前弁護の目的は、「早期釈放」と「不起訴」の獲得にあります。
早期釈放を目指す
捜査段階では、被疑者は逮捕・勾留によって身柄を拘束されることが多いです。
逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されると拘束されやすくなります。長期間にわたって身柄拘束を受けると、精神的なストレスが増大するのは当然ですし、社会的な影響も大きく、職場や家庭に発覚すれば社会復帰の支障となってしまいます。
逮捕・勾留された場合、起訴前弁護は「早期釈放」が第一目標となります。現在捕まっていなくても後日逮捕のおそれがあるなら、起訴前弁護によりその可能性を減らせます。
不起訴を目指す
起訴される前であれば、検察官に働きかけ、不起訴を目指すことができます。
検察官は、捜査の過程で得た証拠をもとに「起訴するかどうか」を判断しますが、示談をはじめとした被疑者にとって有利な証拠を考慮して、起訴しないことを決断するケースもあります(不起訴処分)。不起訴処分には、証拠が不十分で起訴できない場合のほか、罪を犯した証拠はあるものの情状を考慮して起訴しない「起訴猶予」もあります。
いずれの場合も、起訴されると法廷での争いに対応しなければならないだけでなく、前科が付く可能性が高く、社会的な信用が失墜してしまいます。したがって、起訴前に弁護活動を徹底し、不起訴を目指すことが重要です。
起訴前にすべき具体的な弁護活動

次に、起訴前弁護の具体例について解説します。
被疑者の権利を守りながら不利益な結果を回避するために、起訴前にすべき具体的な弁護活動がどのようなものか理解しておいてください。
弁護士による緊急接見
起訴前弁護で最優先とされるのが、弁護士による緊急接見です。
逮捕されて身柄を拘束されてしまったら、速やかに弁護士に接見を依頼し、法的なアドバイスを受ける必要があります。逮捕直後に接見できるのは弁護士のみとされ、一般人の面会は制限されています。初回の接見は特に重要なので、警察の取調べを中断してでも実施すべきです。
はじめての逮捕だと、何をしてよいか(してはいけないか)全くわからないでしょうが、そのまま警察の取調べに応じると、不利な証拠を取られたり、自白を強要されたりする危険もあります。逮捕後の警察による取調べは、密室の取調べ室で行われ、孤立状態に置かれてしまいます。弁護士から正しい法律知識を得ることで、不利益を回避しなければなりません。
緊急接見では、特に次のような重要なポイントを被疑者に伝えています。
- いつでも弁護士を呼ぶ権利があること。
- 黙秘権があること。
- 記憶にないことは安易に同意しないこと。
- 作成された調書に誤りがあるときは修正を依頼すること。
- 誤りが訂正されなければ指印(拇印)を拒否すること。
- 被疑者ノートを差し入れ、取調べ状況を記録すべきこと。
- 脅迫的、威圧的な取調べに屈してはならないこと。
初回に限り無料で、弁護士会から派遣される「当番弁護士」の接見を受けることができます。
後述の通り、「身柄拘束には時間制限がある」ため、捜査機関も取調べを迅速に進めてきます。そのため、逮捕直後に犯罪の中核部分についての取調べが行われ、取り返しのつかない不利益な供述が調書に残されてしまうことも珍しくありません。
最悪の事態を避けるためにも、初回接見をできる限り早く実施し、弁護士から法的なアドバイスを受けるようにしてください。
家族や友人が身柄拘束されたときは、刑事事件に精通した弁護士に速やかに接見してもらい、起訴前弁護を依頼すべきです。
事実関係の把握と証拠収集
突然逮捕されると「なぜ逮捕されたのか」「今後どうなるのか」など多くの疑問が生じるでしょう。そのため、起訴前弁護では、事実関係を把握し、証拠を集めることが重要となります。
起訴前弁護を行う弁護士は、初回接見で被疑者から事情聴取したり、捜査機関(警察・検察)に被疑事実の内容を聞いたりして事案の把握に努めます。その上で、捜査の過程に不備があったり、否認して無罪を目指したりするケースでは特に、速やかに証拠を集めます。
不当な捜査の抑止
不当な捜査が行われると、被疑者の権利が侵害されてしまいます。
起訴前弁護では、不当捜査を抑止する弁護活動を行います。例えば、「逮捕要件を満たすか」「自白の強要がないか」といった点を弁護士がチェックすることで、捜査機関が法令を遵守し、公正な捜査を実施するよう監視できます。不当な捜査をそのまま放置すると、結果的に、本来あるべき罪よりも重い刑罰を科されるおそれがあるため、注意しなければなりません。
起訴後になって初めて弁護活動を開始すると、虚偽の供述、強要された自白が発見され、それからでは覆すことができず不利に扱われてしまうケースもあります。
身柄拘束を受けなくても、警察署や検察庁に呼び出された際に弁護士と打ち合わせし、取調べ当日に同行してもらうなどの起訴前弁護は、不利な状況を避けるために有効です。
身柄拘束からの解放
身柄拘束されると、起訴までの流れは次のように進みます。身柄拘束後、最大23日間のうちに、検察官は起訴するかどうかを判断します。

- 逮捕後:最長48時間は警察に身柄を拘束される。
- 送検後:検察が最長24時間、身柄を拘束できる。
- 勾留請求後:裁判所が勾留を決定すると、最大10日間の勾留が認められる
- 勾留延長:更に最大10日間延長される。
身柄拘束が長引けば、心身に大きな負担となるだけでなく、社会的な不利益を負います。長期間不在となれば家族や職場に知られ、解雇や退学、離婚といった危機に陥ることもあります。起訴前弁護では、拘束ができるだけ短くなるよう、早期釈放を目指した弁護活動を行います。
弁護士は、逮捕・勾留の要件である「逃亡のおそれ」「証拠隠滅のおそれ」がないことを主張し、捜査機関や裁判所に働きかけて釈放を求めます。具体的には、次のような弁護活動があります。
- 弁護士の意見書を提出する
- 勾留執行停止の申立て
- 勾留理由開示請求
- 勾留決定に対する準抗告
- 特別抗告
- 勾留取消請求
被害者との示談交渉
暴行・傷害や痴漢など、被害者のいる犯罪で重要な起訴前弁護が、示談交渉です。
起訴前の段階で示談が成立すれば、初犯であれば不起訴処分となる可能性が高まります。不起訴であれば処罰を受けず、前科もつきません。身柄拘束中に被害者に反省や謝罪を伝え、示談をするためには弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士が示談交渉を行うことで、被害者やその家族との感情的対立を防ぐと共に、再犯の危険がないことをアピールし、示談を迅速に進めることができます。
対外的な対応や情報発信
身柄拘束を受けると、外部の情報は遮断され、連絡を取るのが困難になります。
逮捕直後に、職場や学校に連絡したり、家族に伝言をしたりすることも、重要な起訴前弁護の一環となります。弁護士は、定期的に接見を行って情報を共有したり、身柄を拘束された被疑者が外部に伝えたい内容を伝言したりすることで、社会復帰の支障を少なくします。
起訴前弁護を弁護士に依頼するメリット

最後に、起訴前弁護を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
起訴前弁護を弁護士に任せ、逮捕・勾留の段階から早期にアドバイスを受けることには、多くのメリットがあります。自身が身柄を拘束された方だけでなく、「家族が突然逮捕されてしまった」という場合も、以下のメリットを考慮し、速やかに弁護士に接見を要請してください。
いつでもすぐに接見できる
身柄を拘束された被疑者は、連日、警察や検察の厳しい取り調べを受けます。
先の見えない不安感から、やっていないことを認めたり、「話せば終わる」と言われて不利な供述をしてしまったりするケースも少なくありません。取調べは、捜査機関のストーリーが正しいかどうかの確認であり、被疑者の主張を公平に聞く場ではないのが現実です。
このような場合、被疑者の精神的な支えになるため、起訴前から弁護士が定期的に接見することが重要です。弁護士なら、逮捕直後や接見禁止が付されたケースなど、一般の人が面会できない場面でも接見することができます。また、時間制限などもなく、早朝や深夜、土日でも接見可能です。
不利な証拠の作成を防ぐ
弁護士が起訴前弁護をすることで、被疑者にとって不利な証拠の作成を防げます。
取調べを受けると、供述内容をもとに調書が作成され、署名や指印(拇印)を求められます。しかし、調書の内容が捜査機関によって作為的なものであるケースも少なくありません。被疑者の記憶や真実とは異なる内容であることもあります。取調べの経験が少ない被疑者は、百戦錬磨の警察官や検察官のペースに飲まれ、捜査側のストーリーに誘導される危険もあります。
弁護士が起訴前弁護を行えば、このような不利な証拠の作成を防いだり、初回接見にて「署名を拒否できる」という事実を伝えたりすることができます。
自白の強要を回避できる
起訴前から弁護士が介入することで、捜査機関に適度なプレッシャーを与えられます。
起訴前弁護を正しく行うことは、捜査機関による違法な「自白強要」を防ぐ効果があります。暴力や脅迫で自白を強要するといった明らかに問題あるケースは減っていますが、それでもなお、怒鳴られる、馬鹿にされる、人格否定される、将来の悲観的な見通しを伝えられるといった不適切な取調べの例も見受けられます。
身柄拘束中は正常な精神状態を保つのが難しく、違法捜査に屈して自白してしまうリスクがあります。起訴前から弁護士がついていれば、違法な取調べに抗議したり、内容証明で警告を発したりといった対応が可能です。
捜査機関の狙いを把握できる
弁護士が起訴前弁護を行う際は、警察や検察と連絡を取り、捜査の進捗状況を確認します。
「捜査上の秘密」と言われることも多く、捜査機関から全ての情報が開示されるわけではありませんが、弁護士なら、以下のような一定の情報を得られるケースが多いです。
- 事件の概要
- 被疑事実(警察や検察が捜査の対象としている罪の種類)
- 被害の程度
- 被害者に示談の意思があるかどうか
- 将来の処分の見込み
刑事事件を多く扱う弁護士であれば、捜査機関とのやり取りを通じて今後の見通しを把握し、適切な弁護方針を立てることができます。
前科を回避できる
適切な起訴前弁護を行えば、不起訴処分を獲得し、前科がつくのを防ぐことが可能です。
日本の刑事司法では、起訴された事件の99.9%は有罪になっていると言われています。有罪だと、たとえ執行猶予付きの判決や略式命令による罰金だとしても、いずれにせよ「前科」となり、一生消えない不利益がつきまといます。
したがって、前科とならずに解決するには、起訴される前の段階で不起訴処分を目指すことが極めて重要です。不起訴になれば前科はつかず、将来の生活や社会的信用を守ることができます。
まとめ

今回は、刑事弁護の中でも特に重要な「起訴前弁護」について解説しました。
適切な弁護活動を「起訴前に」行うことで、早期の釈放や前科を回避するための重要なポイントを押さえ、有利な解決につなげることができます。
「刑事弁護」というと、法廷での弁護活動を想像する方も多いかも知れません。しかし実際は、起訴されてしまう前の段階で十分な弁護活動をすることで、逮捕勾留による精神的、社会的な負担を軽減したり、前科を防いだりすることが非常に重要です。
刑事事件に迅速に対応するには、起訴前から弁護士に相談するのが重要です。もし、自身や家族が逮捕されたときは、一刻も早く弁護士に相談してください。
- 起訴前弁護は「早期釈放」と「不起訴」を目指して弁護士が行う
- 良い解決を目指すには、できるだけ早く弁護士に依頼し、接見を要請すべき
- 弁護士が起訴前弁護を行えば、不当な捜査を抑止し、被疑者の権利を守れる
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