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経済的全損といわれた時の対応と、賠償額をできるだけ増額する方法

交通事故被害のうち、物損でよく争いとなるのが車両の修理費用です。

被害者としては「かかった修理費用をすべて賠償してほしい」と考えるのが当然ですが、加害者(その保険会社)から「経済的全損」なので交通事故当時の車両の時価額までしか賠償できないと通告を受けてしまうことがあります。

加害者側から「修理費用が高すぎる」と反論されたとき、妥当な修理費用がどの程度の金額なのか、争いが激化し裁判になってしまうこともあります。裁判では、どれほど大切な車であっても、時価相当額を超える修理費用は「経済的全損」の考え方によって否定されるのが実務です。

今回は、「経済的全損」の基本的な考え方と、「経済的全損」となったときの損害額の計算方法を解説します。

この解説でわかること
  • 経済的全損は、公平の観点から、賠償額を低く抑えられてしまう考え方
  • 保険会社から経済的全損といわれても、あきらめず争う
  • 修理費用、車両の見積もりを正確にとることが、賠償額アップのポイント

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

豊富な知識・経験に基づき、戦略的なリーガルサービスを提供するため、専門分野の異なる弁護士がチームを組んで対応できるのが当事務所の強みです。

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経済的全損の基本的な考え方

はてな

経済的全損とは

経済的全損とは、修理費用などの、交通事故による車両の損害については、その車両の事故時の時価相当額までしか賠償されないという考え方です。

車種や年式などによっては修理費用が相当高額となることがありますが、そのすべてを上限なく加害者に請求できるとすると、公平を欠くために生まれた考え方が、経済的全損です。高額すぎる修理費用の賠償を認めて、交通事故の被害者側に不当な利益を与えてしまわないよう、裁判の実務でも採用されています。

経済的全損の考え方
経済的全損の考え方

実際には修理して乗り続けることはできるけれども、修理費用がかかりすぎるため、物理的に全損したのと同様に考えて、賠償額を低く抑えようという意味です。

なお、経済的全損に対して、物理的全損とは、車両のフレームなど基幹部分に損傷が生じるなど修理不能、もしくは、修理しても車両の安全性を確保できない状態のことをいいます。

物理的全損のときも、事故当時の時価相当額が物損の賠償金となります。

経済的全損だと、修理費用全額を請求できない理由

交通事故の損害賠償請求は、民法の不法行為(民法709条)を理由としています。不法行為の損害は、原則として「通常生ずべき損害」であるとされ、これを超える特別な損害については賠償の対象とはなりません。

修理費用が高すぎて経済的全損となってしまうときは、事故当時の車両の時価相当額が賠償されれば、同種・同等の車を再取得できることから、通常損害の賠償としては十分だと考えられています。むしろ、これを超えて賠償させることは加害者に酷であり、被害者に不当な利得を得させることとなり、公平に欠けるわけです。

通常損害と特別損害
通常損害と特別損害

ただし、経済的全損と評価されても、時価相当額以上の修理費用を払ってでもその車両に乗り続けることは、実際よくあります。経済的全損であれば修理するより中古車を再購入したほうが安いわけですが、希少な車種や思い出や愛着のある車など、様々な理由で再購入が難しいケースがあるからです。

このように、被害者が、その車両に対して抱いている主観的価値は、残念ながら加害者に対して賠償請求することができません。

経済的全損となるケース

かかった修理費と、車両の再取得費(事故当時の時価相当額+買い替え諸費用)を比較して、修理費が上回っているときには、経済的全損の状態であるといえます。経済的全損となったときに請求すべき損害額の考え方は、次章で詳しく解説します。

  • 修理費>車両の再取得費用
    →車両の再取得費用を加害者に請求できる
  • 修理費<車両の再取得費用
    →修理費を加害者に請求できる

なお、時価相当額よりも修理費のほうが安い場合には、必要な限度において修理費の実費全額を請求すべきです。

経済的全損のときの損害額の計算方法

次に、経済的全損と評価されるときの、物損の損害額の計算方法は次のとおりです。

損害額=車両の時価相当額買い替え諸費用

経済的全損と評価される可能性のあるとき、損害額を正しく計算しなければ十分な被害回復が得られないおそれがあります。

経済的全損のときの賠償額
経済的全損のときの賠償額

そこで、経済的全損となるときの計算方法についてわかりやすく解説していきます。

事故当時の車両の時価相当額

まず、経済的全損のときには、事故当時の車両の時価相当額が、請求すべき損害額となります。

裁判例では、「自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するに要する価額によって定めるべき」(東京地裁平成29年10月3日判決など)と示されています。

時価相当額の見積もりは、いわゆる「レッドブック」(有限会社オートガイド「オートガイド自動車価格月報」)が広く参考資料として用いられています。その他、被害車両の価値について、より正確に導き出すため、インターネットの中古車販売サイトの取引事例、オークションの販売情報、中古車専門誌上の取引情報などを参考にして算出することもあります。

これらの資料をもとに、同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離といった情報をもとに検索し、その平均値などを参考にして評価します。

車両の買い替え諸費用

経済的全損のときには、同種・同等の車両を再取得するためのすべての費用が損害となるため、買い替えにかかる諸費用もまた加害者に請求できます。

買い替え諸費用には、次のものが含まれます。

  • 車両登録、車庫証明にかかる費用
  • 廃車手数料
  • 納車手数料
  • ディーラーに支払う報酬
  • 自動車取得税
  • 自動車重量税
  • ナンバープレートの取得にかかる費用
  • 自動車代金にかかる消費税

買い替え諸費用の賠償が認められるのは、時価相当額だけ賠償されても車両を再取得できるわけではなく、これらの諸費用の賠償なくしては十分な被害回復ができないからです。

買い替え諸費用はディーラーから見積もりを取得することで算出できます。

保険会社から経済的全損といわれたときの対応方法

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

加害者の保険会社に、実際にかかった修理費用を請求したとき、

  • 「経済的全損だから修理費用は払えない」
  • 「中古車価格の賠償が限度となる」

といった経済的全損の通告を受けることがあります。経済的全損のほうが賠償額が低くなることが多く、加害者側の保険会社は積極的に経済的全損を主張してきます。

経済的全損といわれてしまったとき、修理費用の実費全額を払ってほしいのであればしっかり反論することが大切です。

保険会社から経済的全損といわれたとき、被害者が実際どう対処したらよいのか、被害者側の適切な対応について弁護士が解説します。

適正な修理費用の見積もりを出す

修理費用を抑えれば経済的全損にならない
修理費用を抑えれば経済的全損にならない

不要な修理が含まれていたり、高すぎる修理をしたりするとき、加害者側から経済的全損だという反論を受けやすくなってしまいます。そのため、経済的全損にならないようにするには、被害車両の修理費用について適正な見積もりをすることが大切です。

修理費用について、必要な範囲でできるだけ具体的に算出してもらう必要があります。複数の修理工場の見積もりをとる方法も有効です。

加害者の保険会社のアジャスターが車両を確認し、修理費用を見積もるときには、修理工場などの見積もりよりも低い場合が多いため、見積書を出してもらって修理内容とかかる費用について精査する必要があります。

時価相当額を正確に算出する

時価相当額が高ければ経済的全損にならない
時価相当額が高ければ経済的全損にならない

被害者車両の事故当時の時価相当額が高いほど、経済的全損にはなりづらくなります。時価相当額は、レッドブックやインターネット上の取引事例を参考に、同種・同等の車両の価値を評価しますが、このとき、時価相当額を正確に算出することがポイントです。

中古車価格は、車種・年式・型、使用状態・走行距離だけでなく、その他にもオプションの有無、装備の違い、車両の色や人気、限定販売など、様々な要素によって変動します。

ネット上や中古車業者から多くの取引事例を入手することで、より正確な時価相当額を出せば、経済的全損とはならない可能性もあります。車両時価額を、保険会社が提示するよりも高く見積もれることを証明すれば、「経済的全損ではない」と反論し、かかった修理費用を請求することができます。

同じく、買い替え諸費用が高いほど経済的全損とは認められづらくなります。税金や手数料額は変わりませんが、ディーラーの手数料は業者によって異なることがあり、複数の業者に見積もりを出し正確な額を把握しておきましょう。

弁護士に依頼して裁判で争う

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

交通事故トラブルにおいて、経済的全損なのかどうかを決めるのは保険会社ではなく裁判所です。保険会社が、経済的全損を主張してくるのは、思いのほかふくらんでしまった修理費用を支払いたくないからです。

交通事故の争いで、当事者間では示談ができないときは、裁判で争い、裁判所の判断を受けることとなります。このとき、経済的全損かどうか、適正な損害額はいくらかといった点について、裁判所が証拠に基づいて判断してくれます。

物損のみの争いしかなく(人損がなく)、請求額が少額なときには、

  • 少額訴訟(請求額60万円まで)
  • 簡易裁判所の訴訟(請求額140万円まで)
  • ADR

といった通常訴訟よりも簡易な制度を利用して争うことがおすすめです。これらの法的手続きは、交通事故に精通した弁護士に依頼することが有効です。

経済的全損となったときの注意点

最後に、ここまでの対応を終えても、なお経済的全損となってしまったときに注意しておきたいポイントとと、被害者に有利な損害賠償を得るための方法について解説しておきます。

修理して乗り続けてもよい

経済的全損はあくまでも、交通事故の被害者、加害者の公平のため、損害額に一定の限度を設ける考え方であり、実際に修理するか買い換えるかはあなた自身で判断することができます。

物損の損害額を増額する

経済的全損となったときは、請求できる損害額は、車両の時価相当額と買い替え諸費用です。

前章で解説したとおり、事故当時の車両の時価相当額、買い替え諸費用をできるだけ正確に見積もり、保険会社が提案してくる低額なものよりも高いことを証明することは、これにより経済的全損と評価されるのを避けることにつながります。

そして、これらの準備は、経済的全損となってしまったときの損害額を増額するのにも役立ちます。

車両保険を利用する

経済的全損と評価されてもなお修理して乗り続けたいときには、被害者が車両にかけている保険(車両保険)を活用することが考えられます。経済的全損となったときには保険内容を確認するようにしてください。

車両保険は、被害者にも過失があり、加害者から受けられる賠償額では被害回復に不足してしまうとき保険金を受けとれるものです。

損保のなかには、車両の再取得額を超えて補償してくれる特約もあります。例えば、加害者側の場合は対物超過特約、被害者側の場合は車両超過修理費用特約、新車特約、車両全損時諸費用特約などと呼ばれるサービスです。

まとめ

今回は、交通事故の物損でよく問題となる「経済的全損」について、法的に注意すべきポイントを弁護士が解説しました。

車両の時価相当額は、購入から5年も経過すれば新車価格の2割ほどまで低下してしまうといわれています。その結果、比較的軽微な修理で直るにもかかわらず、保険会社から経済的全損を主張され、低い賠償額を提案されてしまうケースが多く見受けられます。

加害者側からの経済的全損を理由とした不当に低い賠償額の提案に対して、安易に示談に応じてはなりません。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所
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弁護士法人浅野総合法律事務所では、交通事故被害に注力しています。

客観的な資料を収集し、これに基づいて丁寧に反論することで経済的全損と評価されず、もしくは、経済的全損と評価されても損害額を増額させることに成功した例があります。お困りの際は、ぜひご相談ください。

交通事故のよくある質問

経済的全損とはどのような考え方ですか?

経済的全損は、交通事故の物損被害で、車両時価額に対して修理費用が高くついてしまうとき、被害者と加害者の公平を保つために賠償額を抑える考え方です。もっと詳しく知りたい方は「経済的全損の基本的な考え方」をご覧ください。

保険会社から経済的全損といわれたとき、賠償額を増額することはできますか?

経済的全損だと、賠償額が低く抑えられてしまうため、修理費用や車両の評価を見直し、経済的全損を回避することが賠償額アップに重要です。話し合いで解決できないとき、弁護士に依頼して訴訟することも検討してください。詳しく知りたい方は「保険会社から経済的全損といわれたときの対応方法」をご覧ください。

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