
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
健康志向や環境意識の高まりを背景に、自転車で通勤する社員が増えています。
自転車通勤には、職場近くへの転居を促したり、通勤ラッシュのストレスを回避できたりといったメリットがありますが、その一方で、通勤中の事故による賠償責任や通勤災害のリスクがあることを理由に、「自転車通勤を禁止したい」と考える企業も少なくありません。
では、会社は自転車通勤を一律に禁止できるのでしょうか。また、禁止や制限が認められる場合、どのようなルール作りが必要でしょうか。通勤方法は本来労働者の自由ですが、安全配慮やリスク管理の観点から、会社による一定の制限が可能です。
今回は、会社が自転車通勤を禁止したり制限したりできる理由と、その際の注意点について、弁護士が解説します。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

結論として、会社は、社員の自転車通勤を禁止することが可能です。
一律禁止はもちろん、許可制とすることも可能です。公共交通機関が充実した都市部など、他に移動手段がある場合、自転車通勤を認めないというだけで違法とはなりません。
従業員が禁止命令や許可制のルールに違反して自転車通勤を行った場合、懲戒処分の対象とすることも可能です。ただし、就業規則の懲戒事由として定めて労働者に周知しておく必要があります。さらに、処分の内容が、行為の性質や態様に照らして「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を欠く場合、懲戒権の濫用として無効となる点には注意が必要です(労働契約法15条)。
なお、法的に可能でも、社員に説明し、理解と納得を得ることも重要です。というのも、厳しく禁止したことで反発が生まれると、無断の自転車通勤が行われ、会社のコントロール下にない自転車利用によって思わぬ危険やリスクを招きないからです。
自転車通勤には、企業側にとって、メリットとデメリットがあります。
会社として、社員の自転車通勤を認めるか、それとも禁止するかを判断するにあたり、労務管理の観点からメリットとデメリットを比較しましょう。なお、企業の所在地(都市部かどうか)や利用可能な移動手段、周辺の環境にも左右されるため、実情に合わせた判断が必要です。
まず、自転車通勤を導入する企業側のメリットについて解説します。
通勤が「運動」となることで、社員の健康増進につながることは、自転車通勤の大きなメリットです。デスクワーク中心の社員ほど運動不足に陥りやすく、有効な対策となります。また、環境負荷を軽減できるほか、満員電車を避けることで感染症対策にもなります。
さらに、通勤ラッシュのストレスが軽減されることで、生産性の向上も期待できます。自転車通勤と合わせ、フレックスタイム制や裁量労働制といった柔軟な労働時間制度を導入すれば、より効率的な働き方を実現することができます。
一方で、企業が留意すべき自転車通勤のデメリットやリスクもあります。
自転車を利用した通勤には、事故のリスクが伴います。従業員が交通事故の被害者となるおそれがあるのはもちろんのこと、加害者となって相手から損害賠償請求を受ける危険もあります。特に、スピードの出やすいロードバイクなどでは、この危険は増します。
また、通勤中の事故によって従業員が負傷した場合、労災(通勤災害)となります。加えて、自転車通勤を導入したにもかかわらず安全対策を怠れば、安全配慮義務違反として会社の法的責任を追及され、社会的な信用も低下してしまいます。

「自転車通勤を導入する企業側のメリット・デメリット」を踏まえ、自転車通勤を禁止するにせよ、制限的に導入するにせよ、企業としては事前準備が欠かせません。
自転車通勤に関する社内ルールは、就業規則や自転車通勤に関する社内規程を整備し、従業員に周知しておくことが重要なポイントです。この際、想定されるリスクやデメリットを軽減できるよう、細部まで配慮した仕組み作りが求められます。
以下では、会社が行うべきルール作りのポイントについて解説します。
自転車通勤を許可制とする場合、その基準を設けることが必要です。
確かに、事故などのリスクを伴う一方で、自転車で通勤する方が利便性が増し、通勤ラッシュのストレスを回避して生産性が向上するなど、メリットもあります。許可制とすれば、危険運転の懸念がある社員や高齢者などの自転車通勤を制限することができます。
運用面で不公平感を抱かせないよう、客観的な許可基準を設け、それに基づいて運用することが重要となります。例えば、次のような基準を設けることが考えられます。
大切なポイントは、会社が恣意的に基準を定めているという不満を抱かせないよう、「自転車通勤に伴うリスクを最小限に抑える」という観点で判断することです。
次に、自転車通勤をする従業員に関する通勤費のルールを整備する必要があります。
途中から自転車通勤に変更したのに通勤手当を支給し続けると、従業員間に不公平感が生じます。また、届出をせずに隠れて自転車通勤に切り替えることは、通勤手当の不正受給となります。自転車通勤をしていない社員との公平性を保つために、次のような対応を検討してください。
自転車通勤にも一定の費用(例:自転車の購入費、メンテナンス代など)がかかるため、公平性の観点から「自転車通勤手当」などを支給するケースもあります。なお、1ヶ月の通勤手当の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて定められているため、支給額を設定するときは国税庁の定める基準に注意してください。
特に都市部では、自転車の駐輪場所の確保が課題となります。
自転車通勤を許可したとしても、違法駐輪や放置自転車によって他人に迷惑をかければ、企業イメージや社会的信用の低下につながるおそれがあります。したがって、企業としても駐輪場所について、次のような配慮を検討しなければなりません。
必ず、どこに駐輪しているかを会社側で把握できるようにし、変更する際は届出をさせることを怠らないようにしてください。
会社が定めたルールについては、規程や書式を作成し、周知する必要があります。
就業規則そのものに定める例のほか、多くの社員に共通して適用する場合、「自転車通勤規程」などの特別な規程を作成し、就業規則の付属規程として運用するのが適切です。あわせて、次のような書式も準備しておいてください。
許可制としながら手続きが不明確であったり、書式が用意されていなかったりすると、ルール違反の不適切な自転車使用を促す原因となりかねません。
就業規則や自転車通勤規程には、ルール違反の制裁も明記しましょう。特に、懲戒処分は、その事由と処分内容が規程に明記されていない限り、下すことができません。ルール違反の制裁としては、次のような措置が考えられます。
制裁を下す前提として、会社としても届出内容を定期的にチェックし、住所や通勤ルートに変更がないか、安全基準に沿った通勤が継続されているかといった点を把握・管理する必要があります。
最後に、社員が安全に自転車通勤を行えるよう、企業側の啓発や教育が重要となります。例えば、安全運転の指導のため、次の対策を講じてください。
また、どれほど気をつけても事故をゼロにはできないため、万が一の場合に備え、損害保険への加入を義務付けるべきです。加害者となって高額な賠償請求をされるリスクもあるため、企業としても保険加入状況を把握し、必要に応じて金銭的な補助をすることも検討してください。
なお、近年では、自転車保険への加入を条例で義務付ける自治体も増えており、地域の動向も踏まえた対応が求められます。

最後に、自転車通勤について、企業が注意すべき労務管理上のポイントを解説します。
自転車通勤には多くのメリットがある一方で、リスクやデメリットも存在するため、導入する際は企業として慎重に対応し、十分な準備と管理が求められます。
自転車通勤中の事故は、労災保険における「通勤災害」に該当する可能性があります。労災保険法では、「通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(労災保険法7条1項3号)について、一定の要件を満たせば労災保険給付の対象となることが定められています。
通勤災害と認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
会社が許可していない、あるいは禁止している方法や経路でも、通常用いられるものであれば合理性が認められ、通勤災害の対象となります。そのため、自転車通勤が禁止されていても、通勤災害となる可能性があります。一方で、泥酔しての運転や著しく遠回りな経路、私的な目的で経路を逸脱した場合などは合理性が認められず、労災の対象外となります。
自転車通勤中の事故では、被害者となる場合だけでなく、加害者となるケースもあります。
自転車事故で他人にケガを負わせたり死亡させたりしたとき、その責任が従業員自身にあるのは当然ですが、場合によっては企業にも法的責任が生じるおそれがあります。社員を雇用している使用者は、「事業の執行について」第三者に損害を与えたときは、賠償する責任を負うからです(民法715条)。これを「使用者責任」といいます。
ただし、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」には免責されます。
裁判例では、自転車通勤を許可せず、容認もしていなかった場合に会社の責任を否定した事例があります(神戸地裁令和4年4月22日判決)。そのため、会社として自転車通勤を禁止・制限するのか、認めるのかを明らかにし、労務管理を徹底することが重要となります。

今回は、企業が自転車通勤を禁止・制限する際に注意すべきポイントを解説しました。
会社は、業務上の必要性や安全配慮の観点から、社員の自転車通勤を禁止したり、制限したりすることができます。とはいえ、全面禁止とする場合、隠れて自転車を利用する労働者により、さらに深刻な事故が引き起こされる危険もあり、適切な労務管理が求められます。
企業としては、就業規則を整備し、どのような場合に自転車通勤が認められるのか(認められないのか)、その際に守るべき社内ルールなどについて明確にし、社員に説明すべきです。交通事故や通勤災害といったリスクがある一方で、健康増進や環境負荷の軽減といったメリットがあることも理解し、自転車保険への加入などを条件に、許可制とする運用を検討するのがよいでしょう。
合理性のあるルールを定めるため、自転車通勤に関する社内規程の見直しや運用に不安がある場合は、ぜひ一度弁護士に相談してください。
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/