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中途採用比率の公表義務化と、企業側の対応【2021年4月施行】

解説の執筆者:弁護士 浅野 英之

中途採用比率の公表義務化

政府の雇用制度改革の一環として、労働政策総合推進法(正式名称「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)が改正され、2021年4月1日から正社員に占める中途採用の比率を公表することが義務付けられました。

これが、中途採用比率の公表義務化です。現在のところ、義務の対象は従業員数301人以上の大企業です。

中途採用比率の公表が義務化されたことで、中途採用比率を高めようとする企業が増加し、企業間で優秀な人材を確保するための競争が、より激化することが予想されます。

近年、雇用に関する情報公開を義務化する流れが強まっており、企業側で適切に対応するためには、制度の概要や義務付けの内容について理解しなければなりません。

今回の解説では、

  • 中途採用比率の公表義務化の具体的な内容
  • 中途採用比率の公表義務化の背景・目的
  • 公表の義務化にともなって、企業側が行うべき対応のポイント

といった点について、企業側の立場から弁護士が解説します。

なお、公表義務化に適切に対応するために、行政が発表する正確な情報を入手することが大切です。より詳しい情報は、厚生労働省のホームページや省令・ガイドラインなどで収集することができます。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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中途採用比率の公表義務化とは

中途採用比率の公表義務化とは、労働施策総合推進法(正式名称「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の改正によって新設された法的義務であり、正社員に占める中途採用者の割合を公表することを企業に対して義務付けるものです。

企業の中途採用比率を公表されることで、転職者は、その企業内でどれくらい中途採用者が活躍しているかを知ることができ、転職先の選択のときに参考にすることができます。一方、企業側にとっても、中途採用者の活躍をアピールし、優秀な転職者の応募を増やし、人材を確保するきっかけとすることができます。

以下では、この中途採用比率の公表義務化がどのような制度なのかについて、わかりやすく解説します。

公表すべき情報

中途採用比率の公表義務化で、対象企業が具体的に公表すべき情報は、「直近の3事業年度の各年度について、採用した正規雇用労働者の中途採用比率」です。

大企業では年度ごとに採用活動をすることが多いため、公表された情報から中途採用者の割合がわかりやすいよう、直近3事業年度の割合を公表するように定められています。

「直近の3事業年度」の考え方は、次の図をご覧ください。

「中途採用者」とは、新規学卒等採用者以外のことをいいます。これには、大卒者以外に、専門学校卒業者や職業能力開発促進施設などから雇い入れた者を指します。公表すべき中途採用比率の算出方法は、次の図をご覧ください。

公表の方法

中途採用比率の公表義務化に対応するための、公表の方法は、おおむね1年に1回、公表日を明らかにして、インターネットなどの方法で行うこととされています。企業のホームページに公表する方法など、求職者にとって容易に閲覧することができる方法で行うことが必要です。

同制度では、原則として企業の自社サイトでの公表が想定されていますが、厚生労働省がインターネット上に開設する職場情報総合サイト「しょくらぼ」を利用することも可能です。

公表義務化の対象企業:従業員数301人以上の大企業

中途採用比率の公表義務化を定める労働施策総合推進法では、次のとおり、公表義務化の対象を、常時雇用する従業員数301人以上の大企業と定めています(労働施策総合推進法27条の2第1項)。

労働施策総合推進法27条の1第1項

常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の職業選択に資するよう、雇い入れた通常の労働者及びこれに準ずる者として厚生労働省令で定める者の数に占める中途採用(…(略)…)により雇い入れられた者の数の割合を定期的に公表しなければならない。

「常時雇用する労働者」とは、雇用契約の形態を問わず、

  • ①期間の定めなく雇用されている者
  • ②過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者または雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者

のいずれかを満たす労働者のことをいうとされています。

なお、中小企業については、中途採用が既に活発に行われていることや、中小企業に公表義務を課すと事務的負担が大きいことなどを考慮し、公表義務化の対象とすることは見送られたという経緯があります(厚生労働省労働政策審議会職業安定分科会【高年齢者の雇用・就業機会の確保及び中途採用に関する情報公表について】)。

これに対して、大企業では新卒一括採用の文化があり、中途採用が、中小企業ほどには行われてこなかったことから、中途採用を活性化する目的で、公表義務が課されました。

公表義務化の施行日:2021年4月1日

中途採用比率の公表義務化を定める改正労働施策総合推進法の施行日は、2021年4月1日です。

公表義務に違反したときの制裁

中途採用比率の公表義務に違反したとしても、法律上罰則は規定されていません。ただし、違反した企業に対する指導・勧告について、詳しくは労働政策審議会が省令・ガイドラインを定め、企業に周知することが予定されています。

なお、大企業を対象としていることから、法令遵守(コンプライアンス)が重要であり、法的な義務である公表義務に違反したり、公表内容や公表方法に誤りがあったりするときには、企業イメージの低下につながるおそれがあります。

中途採用比率の公表義務化の目的・背景

中途採用比率の公表義務化

中途採用比率の公表義務化に至った背景や、その目的について解説していきます。

多様な働き方の促進

少子高齢化が進むとともに、個人のライフスタイルが多様化する現代社会では、職業生活の長期化が見込まれます。より長く働く必要があることから、意欲ある人たちの能力を存分に発揮できる社会を実現しなければなりません。

公表義務化の背景には、多様な働き方を社会全体で促進し、中途採用を含めた雇用の選択肢を広げる必要性が高まったという情勢があります。中途採用の活性化などにつなげることで、個々人が自己のライフスタイルにあわせて自由に働くことができるようになります。

働き方改革でも多様な働き方が重要なテーマとされたように、新卒一括採用・長期雇用を軸とする日本的な雇用慣行は崩されつつあり、転職があたりまえのものとなった現在、中途採用をはじめとした、成果主義、能力主義的な考え方に移行しつつあります。

中途採用者と企業のマッチング

中途採用比率の公表義務化によって、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングを促進することにつながります。

旧来の新卒一括採用が大企業ほど根強く残っていますが、このような仕組みをなくすことによって、中途採用を希望する人にも就労する機会を広く提供することができます。

一般に、採用に占める中途採用・経験者採用の比率は、企業規模が大きくなるほど減少する傾向にありますので、大企業に対して中途採用比率の公表を義務化すれば、企業間で中途採用比率を競わせることができ、中置採用の動きを活性化させることができます。

中途採用者を希望する企業のニーズ

一方で、中途採用比率の公表義務化によって、中途採用者の雇用を求める企業側のニーズを満たすこともできます。

AIなどの技術革新が急速に進展している現代社会では、企業内部の教育や能力開発を通じた人材の確保にはもはや限界があります。そのため、中途採用を通じて、外部から高度な専門的技術や豊富な経験を持つ人材を確保するという企業側のニーズが高まっています。

中途採用率を公表することで、自社に中途採用者を受け入れる余地があることを示すことができます。そのため、公表義務化には、このような企業側のニーズに応える目的もあります。

高年齢者の就業機会の確保

中途採用比率の公表を義務化することは、高年齢者の雇用・就業機会の確保にもつながります。

いわゆる「人生100年時代」において、高年齢者雇用の必要性が高まっています。働く意欲がある人たちの能力を存分に発揮できる社会に転換することが必要であり、中途採用率の公表義務化によって、高年齢者雇用を活性化させることも同制度の目的です。

中途採用比率の公表を義務化することで、大企業を中心として中途採用者の活躍の場を提供することは、年齢が高くなっても新しい挑戦をしやすい社会をつくることにつながります。

中途採用比率の公表義務化に対応する企業側のメリット・デメリット

中途採用比率の公表義務化は、法的な義務であるため、対象となる企業としては対応しなければならないものですが、一方で、対応することには大きなメリットがあります。

公表義務化のメリット

中途採用比率の公表が義務化されることで、少子高齢化によって人手不足が進む中で、中途採用者の活躍をアピールし、優秀な人材を確保することができるというメリットが企業側にはあります。

中途採用者が転職先を選択するにあたって、中途採用比率、ひいては、中途採用者がどれくらい活躍しているかを参考にすることが予想されるため、中途採用比率の高い企業ほど、優秀な人材を確保できる可能性が上がります。

このメリットを享受するためには、中途採用者の活躍が見込める職場づくりをあわせて行う必要があり、公表される中途採用比率を増加していく努力が必要となります。この努力によって、新卒一括採用中心で中途採用者の少ない職場から、中途採用比率が高く、成果主義的な職場に転換することもできます。

求職者もまた、企業の内部事情を把握することができ、企業と求職者のマッチングの精度を上げることも期待できます。企業と求職者のマッチングの精度が上がることは、早期退職や採用辞退を未然に防止することにつながり、ひいては、採用コストの軽減という企業側のメリットにつながります。

公表義務化のデメリット

一方で、企業側のデメリットとしては、公表義務化による上記のような良い効果がどれほど生じるかは未知数であるにもかかわらず、これに対して、中途採用比率の公表義務化に対応するためには、そのための人員とコストが一定程度必要であるという点が挙げられます。

また、中途採用比率がそもそも低いとき、公表義務化に対応することにより、さらに転職者から敬遠され、優秀な人材からの応募が減少してしまうおそれがあるというデメリットもあります。

とはいえ、これらのデメリットがあるとしても、法的義務である公表義務化に対応する必要があることは当然ですから、デメリットができるだけ小さくなるよう、他企業の動向や弁護士のアドバイスなども聞きながら、慎重に対応していく必要があります。

企業側で行っておくべき対応と注意点

中途採用比率の公表義務化

中途採用比率の公表義務化は、法的な義務であることから、対象となる会社は、必ずこの義務を果たさなければなりません。

一方で、中途採用比率の公表義務化は、日本的雇用慣行である年功序列から、中途採用中心の成果主義型への、働き方の大きな転換を促進するものです。そのため、単に義務に対応するというだけでなく、あわせて適切な人事労務管理を行わなければ、中途採用比率を公表したことによるデメリットやリスクを被ってしまうおそれがあります。

そこで、企業側が、この度の公表義務化に際して行っておくべき対応と注意点について弁護士が解説します。

対応する人員と担当者を決める

2021年4月1日より施行された中途採用比率の公表義務化について、今後は、直近3年分の情報を速やかに整理し、まとめなければなりません。これらのデータの精査や比率の算出にあたる人員を確保しておく必要があります。

効率よく対応するため、担当する部署と責任者を決め、役割分担をしておくことがおすすめです。

制度についての最新情報を収集し、公表義務化に適切に対応するためには、企業法務を得意とする弁護士のアドバイスを受けて進めることがおすすめです。

中途採用の社内基準を整備する

中途採用比率の公表が義務化されると、企業間で中途採用の比率を上昇するために、競争が激化することが予想されます。中途採用比率を上げれば、これを公表したとき、中途採用者が活躍できる職場だと示すことができ、優秀な人材の確保につながりやすいからです。

そのため、特にこれまで中途採用をそれほど積極的に行っていなかった企業では、中途採用の書類審査、採用面接が増加することを見越して、中途採用の基準や内部制度などをあらためて確認することが必要となります。

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中途採用比率の公表義務化

今回は、中途採用比率の公表義務化について、その具体的な内容とともに、企業側で対応するときのポイントについて解説しました。社員数301人を超える大企業では、2021年4月1日の施行日より中途採用比率の公表義務化の対象となっているため、早急に対応する必要があります。

法的な義務であることから、正確な情報を適切に公表しなければ、企業イメージにも影響するおそれがあります。具体的な対応や公表の方法については、専門家である弁護士のアドバイスを聞いていただくことをおすすめしています。

中途採用比率の公表義務化への対応をはじめ、企業法務にお悩みの会社や、顧問弁護士をお探しの会社は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

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