労働問題

賃金引き下げを伴う異動・配転の命令は違法・無効?【弁護士解説】

2020年7月1日

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賃金引き下げ異動配転違法

正社員として会社に雇用されると、異動、配置転換などの命令をされることがあります。人員の有効活用、多様な経験の蓄積など、異動、配置転換にはメリットもあることから、雇用契約の内容となっている場合にはこれにしたがうこととなります。

しかし、異動、配置転換などの命令にともなって、賃金を大幅に切り下げる効力が生じてしまうときには、労働者側としては不利益がとても大きく、直ちに応じることができないのは当然です。

異動、配置転換などの命令は、会社の人事権に属する問題であり、会社に幅広い裁量が与えられているものですが、賃金の大幅な引き下げをともなう場合、労働者保護の観点から、会社側の裁量は制限されるべきです。

そこで今回は、賃金引き下げをともうなう異動・配転などの命令が、どのような場合に違法、無効となるのかについて、弁護士が解説します。

「労働問題」弁護士解説まとめ

異動命令・配転命令とは?

賃金引き下げ異動配転違法

異動命令、配転命令とは、会社が、その雇用する労働者に対して、人事権の行使として配置の転換を命じる命令のことです。

異動命令、配転命令には、一般的に、就労場所の変更を伴う転勤、就労場所は変更せず部署や配属が変わる配置転換などがあります。また、類似の命令に、就労場所とともに就労する会社が変わる出向命令があります。

異動命令・配転命令の根拠

異動命令・配転命令は、会社の人事権の行使として認められており、会社側に一定の裁量があるとされています。

労働契約に基づいて認められるものであるため、その命令の内容や範囲は、労働契約によって定められます。一般的には、就業規則や労働協約といった、全社に統一的に適用される会社規程類にその定めが置かれることが多いです。

一方で、働き方の多様化にともない、雇用契約において職種や就労場所を限定する契約をしている人がいます。正社員でありながら、雇用契約において一定の制限を加えて合意している雇用類型を「限定正社員」といいます。職種や就労場所を限定することで、育児や介護の必要から転勤が困難である女性や、高齢者など、多様な労働力を活用することができます。

雇用契約において、職種や就労場所が限定されて雇用されている場合には、異動命令・配転命令もその範囲に限定されます。

異動命令・配転命令の限界

会社に一定の裁量が認められる人事権の行使といえども、その裁量の範囲を逸脱する場合には、異動命令・配転命令が、権利濫用として違法、無効となることがあります。

異動命令・配転命令の違法性について争われた有名な裁判例である東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)では、次のとおり、命令の必要性、相当性を加味し、命令自体が違法となる判断基準を示しています。

異動命令・配転命令が権利濫用となる基準

  • 業務上の必要性が存在しない場合
  • 業務上の必要性が存在しても、不当な動機、目的でなされた場合
  • 業務上の必要性が存在しても、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合
東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)

当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである時等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は権利の濫用になるものではないというべきである。→の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもって替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の効用、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

賃金の引き下げをともなう異動命令・配転命令の違法性

賃金引き下げ異動配転違法

異動命令、配転命令のうち一定のものが、人事権の行使として会社の裁量的判断に委ねられるとしても、労働者の不利益が大きいこととも合わせて考えると、その裁量権には限界があることを解説しました。

この点で賃金の引き下げをともなう配置転換命令については、賃金の変更は生じないその他の命令に比べて、より厳しくその違法性が判断されることとなります。

賃金引き下げをともなう典型例は、異動命令・配転命令とともに、合わせて降格命令を行うケースです。そこで、降格と移動・配転が同時に行われた場合の違法性の判断について弁護士が解説します。

降格の違法性の判断基準

配属部署や就労場所、地位や役職の変更によって、賃金の引き下げが行われることを一般的に「降格」といいます。

降格には、人事権の行使として行われるものと、懲戒権の行使として行われるものがありますが、今回解説するように異動命令・配転命令に伴って賃金引き下げの起こるパターンは、労働者の個別の問題行為を対象として行われるのでない限り、人事権の行使としてなされることが多いです。

降格にもまた、人事権に伴う一定の裁量があるものの、賃金の減少を伴うことから、その合理性は厳しく判断されます。裁判例などにおいて、降格の違法性を判断する基準とされるのは、次のような考慮要素です。

  • 労働者の適性・能力・実績など
  • 降格の動機、目的
  • 会社内における降格の業務上の必要性の有無と程度
  • 会社内における降格の運用状況

降格が無効となる場合、異動命令・配転命令も無効

異動命令・配転命令とともに降格命令が行われ、降格によって賃金が引き下げられる場合には、異動命令・配転命令の有効性が問題となるとともに降格の有効性が問題となります。そして、降格が違法、無効である場合には、配置転換もまた無効となります。

このことは、次の裁判例においても示されています。

日本ガイダント仙台営業所事件(仙台地裁平成14年11月14日決定)

従前の賃金を大幅に切り下げる場合の配転命令の効力を判断するにあたっては、賃金が労働条件中最も重要な要素であり、賃金減少が労働者の経済生活に直接かつ重大な影響を与えることから、配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできず、労働者の適性、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、降格の動機及び目的、使用者側の業務上の必要性の有無及びその程度、降格の運用状況等を総合考慮し、従前の賃金からの減少を相当とする客観的合理性がない限り、当該降格は無効と解すべきである。そして、本件において降格が無効となった場合には、本件配転命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるから、賃金減少の原因となった給与等級PIの営業事務職への配転自体も無効となり、本件配転命令全体を無効と解すべきである。

上記裁判例でも示されているとおり、賃金が重要な労働条件であることから、降格の違法性は、異動命令・配転命令の違法性よりも厳しく判断される可能性が高いといえます。

また、降格が無効な場合であっても、同時に行われた異動命令・配転命令のみ有効であるとすると、配転後の賃金体系について全社的な整合性がとれなくなるという不都合が生じてしまいます。したがって、片方が違法、無効な場合に双方を違法、無効とする判断は自然なものです。

賃金引き下げの不利益が小さいケース

降格と異動命令・配転命令が同時になされて、賃金の引き下げが行われる場合でも、その賃金の引き下げの不利益が小さい場合には、降格命令、異動命令、配転命令などがいずれも有効なものと評価される可能性があります。

例えば、降格により賃金が引き下げられるが、一方で追加の手当などが支給されて賃金総額はそれほど変化がないケース、賃金が引き下げられた分労働時間も減少して労働者の負担が減少しているケースなどがこれにあたります。

異動命令・配転命令の限界として「労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる」場合に命令が無効となると解説しました。労働者にとって多少なりとも不利益があったとしても、我慢すべき程度にとどまる場合にはそれだけで命令が違法、無効となるわけではありません。

賃金が変わらなくても、異動命令・配転命令が違法となるケース

賃金引き下げ異動配転違法

異動命令・配転命令の違法性は、大幅な賃金減額をともなうなど不利益が大きすぎる場合に違法と判断されることはここまで解説してきたとおりですが、それ以外にも、違法と評価される場合がありますので、最後に解説します。

まず、就業場所の変更を伴う異動命令・配転命令で、入社当時は予定されておらず、かつ、労働者にとって不利益が大きいケースでは、その命令が無効となる可能性が高まります。例えば、勤務地を限定していなかったものの当初は東京の本店のみしか存在していなかったところ、その後に大阪支店ができて転勤を命じられた、というケースです。

次に、労働者の家族の状況(子の育児、同居の親族の介護など)が転勤を障害となり、かつ、共働きなどの理由で配偶者がこれに協力することも困難な場合にも、その異動命令・配転命令が違法となる可能性があります。

最後に、異動命令・配転命令の理由を考慮し、不当な動機・目的でなされていることが明らかな場合、例えば、労働組合に加入した直後の転勤命令、退職勧奨直後の転勤命令など、労働者に対する嫌悪の情から行われていると推察される命令は、他に合理的な理由を会社が説得的に説明できない限り、権利濫用となります。

労働問題は浅野総合法律事務所にお任せください!

賃金引き下げ異動配転違法

今回は、労働者にとって不利益の大きい、賃金引き下げをともなう異動命令・配転命令について弁護士が解説しました。

働き方の多様化にともない、異動命令、配転命令を受け入れることの難しい労働者の中には、就労場所や職種を限定した雇用契約を締結している人もいます。また、終身雇用制が崩壊し、中途採用が増加していることから、地位や役職を特定されて入社している人もいます。

しかし、まだまだ多い一般的な正社員の場合、賃金引き下げをともなう異動命令・配転命令にも、会社に残り続けるためにやむなく従わざるを得ない状況の人も少なくありません。

違法、不当なのではないかと疑われる異動命令、配転命令の対象となってしまった方は、ぜひ一度当事務所へ法律相談をご依頼ください。

「労働問題」弁護士解説まとめ

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