起訴される前に弁護士が行う弁護活動が、「起訴前弁護」です。
刑事事件の流れは、逮捕・勾留といった身柄拘束のあと、起訴されて裁判になります。また、身柄拘束を受けなくても、在宅のまま起訴されて裁判となることもあります。
起訴前弁護の最大の目的は、次の2点です。
- 早期釈放
逮捕・勾留により身柄拘束が長引くと、会社をクビになったり、学校や家族にバレたりなどの社会的不利益を負います - 起訴の回避
有罪率99.9%といわれるとおり、起訴後に無罪を勝ちとるのはとても厳しいです。前科をつけないためには、起訴を回避することが有効です
起訴前弁護をスピ―ディかつ的確に行えば、刑事被疑者の不利益を回避し、刑事事件化を防ぎ、ひいては、前科をつけないようにすることができます。
今回は、起訴前に行っておくべき弁護活動のポイントと、前科をつけないための注意点について、刑事事件にくわしい弁護士が解説します。
起訴前弁護で弁護士が行う弁護活動
起訴前弁護とは、刑事弁護のうち、起訴される前に弁護士が行う弁護活動です。起訴前に逮捕・勾留されて身柄拘束を受けてしまったときや、身柄拘束されていなくても在宅で捜査を受けているとき、起訴前弁護が必要です。
ここでは、起訴前に不利益を受けてしまわないよう、弁護士が行うべき起訴前弁護を知っておいてください。
速やかな「接見」が最重要!
起訴前弁護のうち、特に身柄拘束を受けてしまったときには、すみやかな接見が最重要です。接見とは、身柄拘束を受けてしまった被疑者が、弁護士と面会することです。
はじめて逮捕・勾留されてしまった被疑者は、右も左もわからない状況に置かれます。取調べによって不利な証拠をとられたり、漫然と起訴までに時間を過ごしてしまったりしないよう、弁護士から正しい法律知識を得る必要があります。
身柄拘束されてしまったときには、次のように法律上の時間制限があります。
逮捕は、警察官が行います。警察官は、逮捕すると48時間以内に検察官送致の手続きをとることが必要となります。
検察官に送致されると、そこから24時間以内に、検察官は勾留請求をするかどうかを決めなければなりません。勾留請求しないときは、釈放されます。
勾留請求が裁判所に認められると、10日の勾留を受けます。検察官は、この期間内に、起訴するかどうかを決めます。起訴しないときは、釈放されます。
勾留の期間は、最大10日まで延長することができます(最初の勾留とあわせて最大20日の身柄拘束となります)。この期間内に起訴しないときは、やはり釈放しなければなりません。
最大で合計23日間(逮捕48時間+24時間、勾留10日+10日)の身柄拘束は、被疑者にとって非常に長く感じることでしょう。この期間に、捜査機関からの不当な取り調べを受けたり、不利益な供述をしてしまったりしないよう、逮捕直後に弁護士と接見し、アドバイスを受ける必要があります。そのため、起訴前弁護で最も大切な活動が、「すみやかな接見」なのです。
「身柄拘束には時間制限があるから、しばらく待てば釈放されるのではないか」という対応では、対応を誤るおそれがあります。
時間制限があるからこそ、捜査機関(警察・検察)も取り調べをすみやかに進めます。そのため、逮捕直後にこそ、犯罪の中核的部分の取り調べが行われたり、取り返しのかない調書が作成されてしまったりします。初回接見でできる限り早く弁護士と会って、助けを求めることが重要です。
家族や友人が身柄拘束をされてしまったときにも、刑事事件を得意とする弁護士による速やかな接見を実現し、起訴前弁護を進めてもらうようにしてください。
被害者との示談交渉
暴行・傷害や痴漢のケースなど、被害者のいる犯罪では、起訴前弁護で重要となるのが被害者との示談交渉です。起訴前のタイミングで示談に成功すれば、不起訴処分としてもらえる可能性が高いからです。不起訴処分となれば、前科がつくことはありません。
起訴前に示談交渉をするとき、弁護士に依頼することには3つのメリットがあります。
- 身柄拘束中でも示談できる
被疑者が身柄拘束を受けているとき、自分から被害者に謝罪しにいくことは物理的に不可能です。弁護士に依頼し、謝罪の意思を伝えてもらうなどして示談することが有効です。 - 感情的対立を防げる
家族が被害者と会って示談交渉をしようとしても、被害者は、加害者の家族というだけで感情的な対立があり、スムーズに示談交渉が進まないことが多いです。 - 再犯の危険がないことをアピールできる
加害者やその家族が、無理に被害者に接触しようとすると、再犯の危険があるのではないかという印象を捜査機関や裁判所に与えるおそれがあります。
弁護士が、起訴前弁護として示談交渉を行うときは、まずは捜査機関に連絡して被害者の連絡先を教えてもらい、被害感情を刺激しないようにしながら示談を進められます。
弁護士が示談交渉を行うことにより、被害者側からも、相場とかけはなれた大金をふっかけられる可能性が少なくなり、妥当な範囲の示談金でまとめられる可能性が高くなります。
拘束から解放するための弁護活動
逮捕・勾留による身柄拘束は、前章のとおり、最大23日間も続きます。身柄拘束が長引けば、社会的不利益を負うことは明らかです。そのため、起訴前弁護活動では、身柄拘束を少しでも短くするよう、拘束から開放するための弁護活動を行います。
法律に定められた勾留の要件は「逃亡のおそれ」、「罪証隠滅のおそれ」、「勾留の必要性」の3点ですが、弁護士は、これらの要件を満たさないことを主張して、勾留決定を行う裁判官を説得することができます。裁判官に意見書を提出する方法によってはたらきかけることが有効です。
身柄拘束からの解放のため、行っておくべき弁護活動には次のものがあります。
- 意見書提出
- 勾留執行停止の申立て
- 勾留理由開示請求
- 勾留決定に対する準抗告
- 特別抗告
- 勾留取消請求
不当捜査を抑止するための弁護活動
起訴前弁護では、不当捜査を抑止するための弁護活動も重要です。不当な捜査が行われてしまうと、実際よりも重い罪の責任を負わされてしまい、重い刑罰となってしまうおそれがあります。
起訴後の弁護活動から依頼を受けたとき、「なぜこのような供述をしてしまったのだろう」と驚くような調書が出てくることがあり、当然ながらそのような証拠は、被疑者・被告人側にとって不利に扱われます。
起訴前弁護によって、不利な証拠作成を防止するためにも、まずは接見が欠かせません。初回接見時に、「調書に指印を押したら証拠になってしまう」という重要なアドバイスを行い、調書に間違いがあったときにどのように訂正したり、指印を拒否したりすればよいか、具体的な方法をわかりやすく説明します。
あわせて、「被疑者ノート」という、取り調べ状況を記録するためのノートを差し入れ、身柄拘束中の被疑者が、脅迫的、威圧的な取り調べを受けたときに、これを証拠として記録しておけるように準備します。
被疑者ノートには、次のようなことを記載できます。
- 取調べ日
- 開始時刻・終了時刻
- 取調べ内容
- 調書作成の有無、署名の有無
- 黙秘権告知の有無
- 暴行脅迫の有無
身柄拘束を受けていないときでも、何度も警察署・検察庁に呼び出され、取り調べを受けていると、思いもよらない不当捜査の犠牲になることがあります。取り調べがあるごとに、その前後で入念に弁護士と打ち合わせをし、当日同行してもらうといった起訴前弁護を行ってもらうことで、このような不利な状況を避けられます。
起訴前弁護を弁護士に依頼するメリット
起訴前弁護を弁護士に依頼し、逮捕・勾留段階で早めに弁護士のアドバイスを受けることのメリットについて解説します。
特に、自身が逮捕、勾留されてしまう可能性がある方だけでなく、「家族が逮捕されてしまった」という方は、次の解説をよく理解いただき、速やかな接見を依頼いただくことが有益です。可能であれば、逮捕された当日に接見するのが理想です。
逮捕期間中でも接見できる
逮捕・勾留によって身柄拘束された被疑者は、連日のように捜査機関(警察・検察)から厳しい取り調べを受けます。
先の見えない不安感におそわれ、やってもいないことを認めてしまったり、「話せば終わるから」といわれ自分に不利な供述をしたりすることがあります。取調べは、捜査機関のストーリーが正しいかどうかの確認であり、被疑者の言いたいことを聞き取る場ではありません。
逮捕直後は、弁護士でなければ面会できないのが通常です。そのため、逮捕直後に、事件の核心部分についての重要な調書がとられてしまうのを、接見を行うことによって防ぐ必要があります。
接見禁止中でも接見できる
勾留後であれば、家族も面会できますが、そのころには、最重要の取り調べはすでに終了していることも少なくありません。
勾留後であっても、接見禁止が付されていると、家族であっても面会することができません。このようなとき、弁護士が精神的支柱となり、不安を取り除くのが重要なポイントです。
共犯がいるケースや組織犯罪、証拠隠滅の危険があると思われているケースでは、接見禁止がつけられやすいです。せめて家族にだけでも会いたいとき、家族に限定して接見禁止を解除してもらうという申請も、弁護士を通じて行うことができます。
不利な証拠を作成されない
取り調べを受けると、その後に調書を作成され、署名・指印をするよう求められます。調書の内容がまったく問題なければよいのですが、実際には捜査機関の作文にすぎないこともあります。
そのため、調書が、供述内容、記憶している事実とは、大きく異なった内容になっていることがあります。経験豊富で、百戦錬磨の検察官に対して、取り調べを受けるのがはじめての被疑者は、雰囲気に飲まれてしまい、検察官に丸め込まれ、いつのまにか捜査側のストーリーに沿った調書に指印してしまっていることがあります。
弁護士が起訴前弁護活動を行うことにより、被疑者にとって不利な証拠を作成されてしまうことを防ぐことができます。
自白の強要を回避できる
弁護士が起訴前弁護を行うことは、捜査機関にもプレッシャーを与えることができます。これにより、自白の強要という違法捜査を回避できます。
昔と比べれば、暴力によって自白を強要するといったケースは少なくはなりましたが、それでもなお、怒鳴られたり馬鹿にされたり、脅迫まがいなのではないかと疑われる捜査が行われていることを目にします。特に、身柄拘束されている最中だと通常の精神状態ではいられず、違法捜査に屈して自白してしまうおそれがあります。
自白強要のように問題ある違法捜査が行われたとき、弁護士がついていれば、抗議の電話を入れたり、内容証明で警告を発したりすることができます。
捜査機関の狙いを把握できる
弁護士が起訴前弁護を行うときには、捜査機関(警察・検察)と密に連絡をとり、捜査の進捗状況を逐一確認します。
捜査上の秘密についてすべて開示されるわけではないものの、弁護士に対してであれば、事案や捜査の概要、被害者の示談意思の有無、処分の見込みといった点について、捜査機関の意向をある程度開示してもらえることが実務ではよくあります。
多くの刑事事件を担当している弁護士であれば、捜査機関からの一定の情報開示を受けることによって、捜査機関の狙いをある程度は把握することができます。
前科がつかない
起訴前弁護を適切に行うことで、前科をつけずに刑事事件を解決することにつながります。
日本の刑事裁判では起訴された事件の99.9%以上は有罪になっているといわれています。有罪だと、たとえ執行猶予がついていても、略式裁判による罰金にすぎなくても、いずれにせよ「前科」となり、一生消えない不利益がつきまといます。
したがって、前科をつけずに解決するためには、起訴前弁護によって不起訴処分を目指すことが重要です。不起訴処分を勝ちとれば、前科がつくことはありません。
起訴後の弁護活動との違い
起訴前弁護と起訴後弁護の最大の違いは、その目的にあります。
起訴後弁護であっても、起訴前弁護と同じく、弁護士との接見が重要であることにかわりありませんが、起訴後弁護では、刑事裁判において無罪、もしくは、執行猶予などのより軽い判決を勝ちとることを目的としています。
起訴後弁護では、次のような裁判所における弁護活動の準備が中心となります。
- 検察官請求証拠の検討
- 弁護人請求証拠の整理
- 証拠意見の検討
- 被告人質問のリハーサル
- 最終弁論の作成
起訴をされると、検察官から証拠開示を受けたり、検察官に対して証拠開示請求をしたりして、起訴前の捜査段階に比べて、被告人側の入手できる情報も増えます。裁判所の心証を被告人に有利に導くため、これらの証拠を活用する弁護人の準備が重要となります。
また、起訴後は、保釈請求を行うことで、相当額の保釈金を条件に身柄拘束を早めることができます。
まとめ
今回は、刑事弁護のなかでも特に重要な、弁護士が起訴前に行うべき「起訴前弁護」について、早期釈放と前科回避につながるポイントを解説しました。
刑事弁護活動というと、裁判所の法廷で行うものを想像するかもしれません。しかし実際は、起訴されてしまう前に十分な弁護活動を行うことで、逮捕・勾留という身柄拘束から受けるダメージを減らしたり、前科をつけなくしたりできます。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、刑事事件についてスピーディな対応をこころがけ、起訴前の段階から、身柄拘束からの解放、不起訴に向けた多数の相談をいただいています。
刑事事件で、自分や大切な家族が、逮捕・勾留などの不利益を受けてしまったとき、一刻も早くご相談ください。
刑事弁護のよくある質問
- 起訴前弁護とは、どのようなものですか?
-
起訴前弁護は、刑事弁護活動のなかでも、起訴されるより前に行われる弁護です。起訴されるより前の段階では、逮捕されてしまっているケースでは早期に解放して社会的な不利益を軽減すること、起訴を回避して前科をつけないようにすることといった目的が大切になります。もっと詳しく知りたい方は「起訴前弁護で弁護士が行う弁護活動」をご覧ください。
- 起訴前弁護の注意点はありますか?
-
起訴前弁護では、特に逮捕・勾留されてしまっているケースでは、時間的な制限があります。この制限のなかで、捜査機関はすみやかに捜査を進め、罪となる事実を固めてきますから、起訴前弁護においては、できるだけ早めに弁護士が接見をして、大切な心構えをお伝えすることがポイントになります。詳しくは「起訴前弁護を弁護士に依頼するメリット」をご覧ください。