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2021年4月〜、36協定届の新様式への変更について【弁護士解説】

2021年4月1日より、36協定届が新様式に変更されました。36協定は、会社が労働者に残業を命じるときには、かならず作成しなければならない重要な労使協定です。

ほとんどの会社では残業が発生しているでしょうから、36協定が当然に必要となります。36協定を作成していないのに残業させると、労働基準法違反となり「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。

36協定に、1年間の有効期間を設定している会社が多いため、新たに36協定を作成する場合はもちろん、今後36協定を再締結したり修正したりするときにも、新様式への理解が大切になります。

今回は、2021年4月より変更された36協定届の新様式について、人事労務にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 2021年4月より、36協定届の様式が変更され、押印・署名が廃止された
  • 36協定の協定当事者に関するチェックボックスが新設された
  • 36協定届の新様式は、2021年4月1日以降に届け出るものに適用される
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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36協定とは

本

時間外労働、休日労働など、いわゆる「残業」をさせるためには、労使協定を締結し、労働基準監督署に届出た上で、その協定を周知しなければなりません。この協定には、残業の上限時間を定めることになっており、企業側にきちんと協定を届け出させることにより、長時間労働を抑止することとなっているのです。

この労使協定は、労働基準法36条に定められているため「36協定(サブロク協定)」と呼び、その届出を「36協定届」といいます。

なお、36協定を締結して行う時間外労働には、長時間労働を抑止するため、次のとおりの割増賃金(いわゆる「残業代」)を支払うことが、労働基準法37条で義務付けられています。

  • 時間外労働
    「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超える残業について、25%の割増率をかけた時間外割増賃金
    (月60時間を超える残業については、50%の割増率が適用される)
  • 休日労働
    「1週1日もしくは4週4日」の法定休日の労働について、35%の割増率をかけた休日割増賃金
  • 深夜労働
    「午後10時〜午前5時」までの深夜労働について、25%をかけた深夜割増賃金
残業代の割増率
残業代の割増率

36協定締結の流れ

36協定の締結から、36協定届の届出までの流れは、次のとおりです。

協定届の流れ
「2021年4月~36協定届が新しくなります」(厚生労働省)

手続に違反があって36協定届が正しく届出されていないと、労働基準法違反となり「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。

2021年4月より新たに導入されたチェックボックスで注意喚起されたとおり、「労働者側の協定当事者が正しく選定されているかどうか」は特に違反が多く、注意が必要です。

36協定の締結当事者は、労働者の過半数代表者(もしくは事業場の労働者の過半数で組織する労働組合)とされていますが、過半数代表者となることのできる労働者には、次のような要件があります。

  • 管理監督者(労働基準法41条2号)でないこと
  • 選出にあたっては、投票、挙手、労働者の話合い等労働者の過半数がその人の選任を支持していることが明確になる民主的な手続が取られていること
  • 使用者の意向によって選出された者ではないこと

会社側が、過半数代表者の意見を操作しようと、会社に都合のよい人を選任して36協定の締結を進めても、上記の要件を満たさないため、その協定自体が無効となります。

なお、過半数の判断は、全労働者の過半数を意味するため、正社員だけでなく、パート、アルバイトや管理監督者、休職中の社員なども分母に含みます。

36協定の上限規制

36協定には、命令できる時間外労働の上限を記載しますが、この時間外労働の上限は、原則として「月45時間、年360時間」とされています。

ただし、臨時的な特別の事情がある場合には、36協定の特別条項というものを結ぶことで、例外的にこの上限規制を超えることができます。ただし、特別条項を結ぶ場合でも、次の要件を遵守しなければなりません。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
  • 時間外労働と休⽇労働の合計について「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」が全て1か月あたり80時間以内
  • 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉が限度

これらの上限規制に違反した場合にも、労働基準法違反として「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の刑罰」刑事罰が科されることとなります。

36協定届の新様式の変更点【2021年4月~】

36協定届は、2021年4月より新様式に変更されました。

新様式の変更点は、次の2点です。

厚生労働省のホームページから、36協定届の新様式とその記載例をダウンロードできます。

協定届の書式・記載例
「2021年4月~36協定届が新しくなります」(厚生労働省)

その他の詳細情報は、以下の厚生労働省発表の資料を参考にしてください。

【変更点1】押印・署名の廃止

変更点1つ目は、36協定届の押印・署名が廃止されたことです。

行政手続における印鑑の廃止が進められている流れの一貫として、36協定届の手続きでも、押印・署名が廃止されました。ただし、記名の必要はあります。

しかし、手続きが簡素化されたかのようにみえますが、実際には、36協定の締結から36協定届の届出までの過程で、結局一度は押印が必要となります。「『36協定書』と『36協定届』の違い」というややこしい話を含むので、興味のある方は下記の詳細解説をご覧ください。

厳密にいうと、「36協定」と「36協定届」は別のものです。

「36協定」は労使間で締結する書面そのものですが、「36協定届」は労働基準監督署に届け出るときの書式です。今回新様式に変更され、押印が不要となったのは「36協定届」のほうです。

従前から、「36協定」を別の書式で締結し、「36協定届」に転記して届け出るというのは面倒なので、従前より、「36協定」を労働基準法施行規則に定められた様式9号によって締結し、これを届け出て「36協定届」に転用するというのが実務でした。

今回、「36協定届」が新様式に変更された後も、「36協定」については従来どおり労働者代表の押印が必要です(労使の合意を示す重要な書類だからです)。そのため、従来の実務どおり「36協定」を「36協定届」に転用しようとすれば、結局それには労働者代表の押印がされていることとなるのです。

【変更点2】協定当事者に関するチェックボックスの新設

36協定届の新様式では、協定当事者に関するチェックボックスが新設されました。

36協定届を適切に届け出ていない会社は、残念ながら少なくありません。なかでも、36協定の協定当事者について問題点があることが多いことから、これを防ぐために行われたのがチェックボックスの新設です。チェックボックスにチェックさせることにより、労働者の過半数代表者が正しく選任されているかどうかを確認させるためです。

具体的には、36協定の協定当事者が「事業場のすべての労働者の過半数の労働者を代表する者であること」、「管理監督者ではなく使用者の意向に基づき選任された者ではないこと」という2点についてチェックボックスが設けられました。

このチェックボックスは、前章で解説したとおり、会社が36協定を締結するとき、「過半数代表者」を会社に都合のよい人にかってに決め、労働者に不利な36協定を締結してしまうことを防止するためです。「過半数代表者」は、正社員はもちろん、契約社員、嘱託社員、パート、アルバイトを含めた全労働者の過半数の意向に沿って選出する必要があります。

チェックのない36協定届は、労働基準監督署で受け付けてもらうことができません。この場合、36協定届が提出されていないことになるため、会社は労働者に対して、有効に残業命令をすることができません。

36協定届の新様式は、2021年4月以降に締結されるものに適用される

36協定届の旧様式、新様式のどちらを使用すればよいかは、36協定届の届出日が、2021年4月1日(改正後の労働基準法施行規則の施行日)より前か後かで判断されます。つまり、協定の届出日が基準です。

「2021年4月~36協定届が新しくなります」(厚生労働省)

ただし、2021年3月31日以前であっても、新様式で届け出ることは妨げるものではありません。

なお、36協定届は、「e-Gov(イーガブ)」から電子申請できます。電子申請の場合は、次のメリットがあります。

  • 電子署名・電子証明書が不要となる
  • 事業場ごとに労働者代表が異なる場合でも36協定の本社一括届出が可能となる

まとめ

今回は、2021年4月1日以降に適用される36協定届の新様式について、その変更点、締結の注意点などを弁護士が解説しました。36協定届は、有効に残業を命じるために必須のものなので、漏れのないよう新様式についても正しく理解しておいてください。

36協定は、労働者の長時間労働を回避するため限度基準について厳しい制限が設けられており、違反については刑事罰が科されることもある重要な書類です。そのため、作成に十分な注意が必要です。新たな36協定の締結とともに、再度その内容を見直し、自社に合った労働時間管理、ルールとなっているかどうか省みるのも有益です。

当事務所のサポート

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弁護士法人浅野総合法律事務所では、人事労務について注力し、多くの企業の顧問弁護士としてサポートを提供しています。

36協定の締結、労働時間の管理、残業代、その他人事労務についてお悩みの会社は、お気軽に当事務所へ法律相談ください。

人事労務のよくある質問

36協定とはどのようなものですか?

36協定は、労働基準法36条で定められた、残業(時間外労働)をさせるために労使間で締結が必要となる労使協定のことです。その定められた条文をとって、36協定(サブロク協定)と呼ばれています。36協定なしに残業させることは違法です。もっと詳しく知りたい方は「36協定とは」をご覧ください。

最新の36協定の変更点は、どのような点ですか?

最新の36協定は、2021年4月1日以降の届出に適用されます。署名・押印が廃止されたほか、36協定で違法が生じやすい「協定当事者が過半数代表者であること」などといった点について、注意喚起のためのチェックボックスが設けられました。詳しくは「36協定届の新様式の変更点【2021年4月~】」をご覧ください。

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