有期雇用労働者とは、「1年契約」、「6か月契約」のように、契約期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)を結んだ社員のことです。今回解説する有期雇用労働者の雇止めのルールは、有期雇用であれば、パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員など、職場での呼称にかかわらず適用されます。
雇止めは、有期雇用労働者を、その雇用契約期間の満了をもって更新をせずに契約を終了することをいいます。本来であれば、有期雇用労働者は臨時的、一時的な労働需要に対応する労働力であり、あらかじめ定められた雇用契約期間が満了すれば、契約が終了するのが原則です。
しかし、有期雇用でも、何度も更新され、恒常的に存在する業務を担当するなど、無期雇用とそん色ない扱いを受ける労働者もいます。また、働き方改革などで推奨される多様な労働力の活用の点から正社員の多様化が進み、正社員でも労働条件の一部に限定が付された「限定正社員」も増えています。
このような事情から、有期雇用労働者であっても雇用の継続への期待が生じる結果、雇止めは解雇と同じく制限的に理解されることとなっています。パートタイム労働法が改正され、2020年4月1日よりパートタイム・有期雇用労働法が施行されるなど、有期雇用労働者の保護はますます加速し、企業側でも準備が必須となります。
今回は、企業側が、有期雇用労働者の雇止めを検討する際の留意点について、人事労務にくわしい弁護士が解説します。
- 有期雇用労働者であっても、更新せずに契約を終了することが制限される場合がある
- 雇止めが無効と判断されると、契約が更新されたのと同じこととなり、社員でいつづけることになる
- 雇止めせざるをえないときは、契約時、更新時の説明が大切なポイント
有期雇用労働者の契約終了に関する制限
企業側の一方的な意思表示で、有期雇用労働者の契約を終了する方法には、契約期間中の解雇と、雇止めの2つがあります。
雇止めは、冒頭でも説明のとおり、有期雇用労働者を、その雇用契約期間の満了をもって更新をせずに契約を終了することですから、この2つの方法の違いは、有期雇用契約を解約するタイミングにあります。
契約期間中の解雇について、「やむを得ない事由」がある場合でなければ契約期間が満了するまでの間において解雇をすることができないとされています(民法628条、労働契約法17条1項)。この「やむを得ない事由」というのは、一般的に、雇止めや解雇に求められるハードルよりも高いものと考えられています。
雇止め、つまり、雇用契約期間の満了をもって更新せずに契約を終了する場合も、次の2つのいずれかに該当するときは、有期雇用労働者の雇用契約の継続への期待を保護するため、雇止めを制限するルールが適用されます(労働契約法19条)。
労働契約法19条
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
労働契約法(e-Gov法令検索)
つまり、労働者からの契約更新に関する申し込みがあったことを前提として、「申し込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は従前の有労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」(労働契約法19条)とされています。
このように、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を求める考え方は、無期雇用労働者の解雇を制限する労働契約法16条の規定(いわゆる「解雇権濫用法理」)と同じ内容です。一定の雇用期間が継続し、有期雇用労働者といえどもその雇用契約の継続への期待を保護すべき場合には、雇止めに一定の制限をかけ、有期雇用労働者を保護する必要があるというわけです。
雇止めを無効とした裁判例
以上の労働契約法19条による雇止めの制限は、下記表の最高裁判例によって示された法理が、明文化されたものです。いずれも、有期雇用労働者に生じた雇用契約の継続への期待を保護するため、企業側の雇止めが制限される可能性に言及したものです。
雇止めの適法性、有効性について判断した裁判例において、考慮要素となる事情には、次の点があります。
- 当該雇用の臨時性・常用性
- 更新の回数
- 当該雇用の通算期間
- 契約期間管理の状況
- 雇用継続の期待を持たせる言動・制度の有無
下記で解説している東芝柳町事件を「実質無期タイプ」といい、労働契約法19条1号の参考となる判断をしており、日立メディコ事件を「期待保護タイプ」といい、労働契約法19条2号の参考となる判断をしています。その他、実質無期とまではいえず、雇用契約の更新が長期に渡るものではないものの、雇用継続を期待させる企業側の言動などの存在を理由に有期雇用労働者を保護する判断をした龍神タクシー事件(大阪高裁平成3年1月16日判決)なども有名です。
東芝柳町事件(最高裁昭和49年7月22日判決)
1つ目の裁判例が、東芝柳町事件(最高裁昭和49年7月22日判決)です。労働契約法19条1号の「実質無期タイプ」の参考となる判示をした最高裁判例です。
この事件は、契約期間2か月の基幹的臨時工として採用したY会社では、その労働契約内容自体が継続雇用の期待を持たせる契約書であり、過去に多い者で23回の契約更新もあった事案です。
最高裁は、Y会社の有期労働契約書は、「Y会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたもの」と解され、その実質は期間定めのない契約であり、本件雇止めは解雇の意思表示と実質的に異ならないとしました。
日立メディコ事件(最高裁昭和61年12月4日判決)
2つ目の裁判例が、日立メディコ事件(最高裁昭和61年12月4日判決)です。労働契約法19条2号の「期待保護タイプ」のうち、更新を理由とする期待を保護する判示をした最高裁判例です。
この事件は、契約期間2か月のA工場の臨時工として採用されたXが、Y会社との間で5回の契約更新が行われた経緯があった中、経営不振を理由に雇止めがされた事案です。
最高裁は、「A工場の臨時員は、季節的労務や特定物の制作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待され…Xとの間においても5回にわたり契約が更新されている」ため、本件雇止めは解雇権の濫用法理が類推適用されるとしました。
龍神タクシー事件(大阪高裁平成3年1月16日判決)
3つ目の裁判例が、龍神タクシー事件(大阪高裁平成3年1月16日判決)です。労働契約法19条2号の「期待保護タイプ」のうち、雇用継続の期待を生じさせる行為を理由とする期待を保護する判示をした最高裁判例です。
この事件は、1年契約の臨時雇いのタクシー運転手として採用したY会社で、①臨時雇い運転手制度の導入以降例外なく雇用契約が更新されており、②本雇運転手への登用もあった事案です。
最高裁は、当該労働契約から期間の定めのない雇用契約であることは認められないが、本件「臨時運転手に係る雇用契約の実態に関する諸般の事情」(①、②の事情)から、従前の取扱いを変更して契約の更新拒絶には特段の事情が必要であるとして、初回更新を無効と判断しました。
企業側が雇止めを検討する際の留意点
次に、企業側として、有期雇用労働者の雇止めを行うにあたって、どのような点に注意すべきかについて解説します。
有期雇用労働者の雇用継続の期待を保護するため、雇止めには一定の制限があると説明してきました。そのため、企業側で雇止めを検討するときには、雇止めに関する法律、裁判例を理解し、リスクを未然に回避するための努力が必要です。
なお、雇止めを有効に行うためには、雇止めの直前に検討するだけでは足りず、採用時点からの注意が重要です。
採用選考時に明確な説明をする
採用面接は、口頭での会話が主となるため、その内容だけで、ただちに雇用契約期間の定めのない契約と同視されるケースは、さほど多くはありません。
しかし、労働者としては、面接時の印象で入社を決意する人も多いように、採用面接時の面接官の言動は心に残りやすく、入社後もずっと憶えていることが少なくありません。採用面接時の面接官の言動をメモに残していたり、人によっては録音していたりすることもあるため、採用面接時の言動には特に注意を払う必要があります。
採用面接時の言動によって、有期雇用を予定して採用する労働者に対して、雇用継続の期待を必要以上に持たせないようにする必要があります。すべての採用面接を社長自身が行うのでないかぎり、面接官となる社員の教育、指導も必要となります。そのため、次のようなチェックリストやマニュアルを用意するなどして、紛争予防を徹底しなければなりません。
- 雇用契約期間の定めがあることを、明確に説明する。
- 雇用契約期間が満了した際に、更新をする可能性があるかどうかを説明する。
- 更新の可能性がある場合には、更新をする際の判断基準を説明する。
- 雇用契約期間が更新されることを前提とした将来の話をしない。
適切な内容の雇用契約書を締結する
使用者は、労働者を採用するときには、労働条件を明示しなければなりません。そして、重要な労働条件については書面によって示さなければならないことが、労働基準法15条で義務付けられており、「雇用契約の期間」もそのような重要な労働条件の1つです。
そのため、雇用契約期間の定めのある有期雇用労働者の場合、採用時に必ず、労働条件通知書を作成し、雇用契約の期間を明示しなければなりません。この際、終了時期を明確にし、労働トラブルを回避するため「自動更新」とすることは避けるのがおすすめです。
労働条件通知書の記載は、雇用契約の更新の可能性が全くない場合には「更新しない」と記載し、労働力の調整などの必要から更新をする可能性を残しておきたい場合には「更新する場合があり得る」と記載します。その上で、「更新する場合があり得る」ときは、更新の判断をする際の考慮要素を列記しておきます。一般的には、次のような要素を記載しますが、企業ごとの状況に応じた検討が必要です。
- 契約期間満了時の業務量
- 当該労働者の業務成績、勤務態度
- 当該労働者の業務遂行能力
- 会社の経営状況
- 担当する職務の進捗状況
なお、今回のテーマとは離れますが、有期雇用労働者の労働条件を定めるにあたっては、近時の改正において導入された2点、すなわち、有期雇用労働者の雇用契約を更新して通算5年を超える場合には労働者側に無期転換権が生じること、同一労働同一賃金の観点から通常の労働者との不合理な待遇差、差別的取扱いが禁止さることにも注意が必要です(パートタイム・有期雇用労働法8条、9条)。
他の有期雇用労働者の取扱いに配慮する
有期雇用労働者に対して雇用継続の期待を生じさせないためには、当該労働者に対する取扱いだけでなく、他の有期雇用労働者の取扱いにも配慮が必要となります。
他の有期雇用労働者について、更新をすることが常態化している場合、自分も当然、雇用契約を更新してもらえるはずだと期待するのは無理もありません。
しかし、企業側としては、実際には、労働者ごとに個別の事情を検討する必要があるはずです。そのため、他の有期雇用労働者と異なって雇止めを行う場合には、その理由に合理性が必要となり、かつ、当該労働者に対して説得的な説明が必要となります。業績や勤務態度、職務遂行能力など有期雇用労働者側の事情による雇止めを検討する場合には、雇止めを実際に通知するよりも前に十分な注意指導を行い、改善を促すというプロセスを踏まなければなりません。
更新の期待を抱かせる言動を行わない
採用選考時はもちろんのこと、入社後就労する中でも、労働者にとって社長や上司から受ける言葉から、有期雇用労働者が雇用継続への期待を抱くことがあります。そのため、会社の代表者は当然のこと、有期雇用労働者を指導する上司にとっても、有期雇用労働者に対する更新の期待を抱かせるような言動を慎むよう注意しなければなりません。
更新の期待を抱かせる言動があった場合、必ずしも更新を反復継続していなくても、雇止めが無効と判断される危険があります。
合わせて、雇用継続を期待させるような社内の制度を、有期雇用労働者に適用しないことも重要です。例えば、試用期間は、入社後の一定期間、労働者の適性を測る制度であり、無期雇用に親和性の高い制度です。休職制度は、勤続の功労を考慮して、私傷病による長期の欠勤を理由とする解雇を留保する制度であり、これもまた無期雇用に親和性の高い制度です。
制度面において、有期雇用労働者に対する、長期雇用を前提とした制度を排除するためには、無期雇用社員とは別の就業規則などの会社規程類を作成することが有用です。
更新時に適切な手続きをとる
有期雇用労働者である場合には、契約期間の満了時に、契約更新手続きを行う必要があります。この契約更新手続きが全く行われていないと、実質的には無期雇用に等しいものと評価される危険があります。また、契約更新手続き自体は行われていても、期間満了時を過ぎて契約書の締結がなされていたり、更新時の面談などがきちんと行われていなかったりすると、有期雇用労働者の雇用継続の期待を高める結果となります。
そのため、今回は有期雇用契約を更新するという場合であっても、将来に雇止めをする際のリスクを軽減するために、毎回の更新時の手続きを適切に行わなければなりません。
更新時に妥協しない
有期雇用契約の更新時、当該労働者の業績、勤務態度、業務遂行能力などに不満が残るものの、当面の業務の多忙さや人員不足を理由に、妥協して更新をしてしまうことがあります。
しかし、当該労働者の業務に不満があったとしても、更新をしたという事実は変わらず、更新の回数を積み重ね、雇用契約の通算期間が伸長されるほど、雇用継続への期待はおのずと高まることとなります。
このような場合に、更新は行わざるを得ないという判断をするとしても、当該労働者の業績、勤務態度、業務遂行能力などに改善の必要がある場合には、更新時に面談を行って指摘し、注意指導、教育を行う必要があります。
将来、このように更新面談時に指摘した改善点について変化が見られないことを理由に雇止めをする場合に備えて、更新面談時に指摘した事項を証拠化しておくことが必要です。更新後の雇用契約書において、今後の更新の条件として特記しておく他、その問題点が看過できないものである場合には、注意指導書の交付なども検討されます。
まとめ
今回は、有期雇用労働者の雇止めを検討するときに、企業側が理解しておくべき留意点について弁護士が解説しました。
有期雇用契約は、短期的な繁閑に対応するために必要な労働力の確保をするには、とても有用な方法です。そして、労働者側にとっても、ワークライフバランスをきちんと調整してキャリア形成をするなど多様な働き方を進めたい人や、高度な専門技術を有する労働者にとって、活躍の幅を広げるメリットもあります。
しかし、労使間において、使用者側が、労働者側よりも優位な地位を利用して、人件費を抑制し、こき使って雇止めを行うようなことがあると、労働者側から紛争を起こされる原因ともなります。
当事務所のサポート
弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の顧問弁護士となり、労務管理について豊富な事例を蓄積しています。
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