
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
契約書や利用規約に「当社の定型約款が適用される」と記載されることがあります。
定型約款とは、不特定多数の相手と大量の取引や契約を行う際に用いる、あらかじめ準備した画一的な契約条件のことです。目的は、同種の取引を迅速かつ効率的に行うことにあります。例えば、電車やバスの運送約款、電気やガスの供給約款、保険約款、ECサイトやサブスクリプションサービスの利用規約などで活用されており、現代の取引実務に不可欠な存在となっています。
定型約款について「一方的に不利な条件を押し付けられるのではないか」との懸念もあり、2020年4月施行の民法改正で、その定義や効力、変更のルールが明文化されました。
今回は、定型約款の法的な意味、契約書や利用規約との違い、そして2020年4月施行の改正民法で定められた要件について、弁護士が解説します。
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定型約款とは、事業者が不特定多数の者との間で、反復継続的に行う取引に備えてあらかじめ用意した契約条項の総体のことです(民法548条の2)。
定型約款は、一般にいう「約款」の中でも、民法上の要件を満たすものであり、「定型取引」における画一的なルールを意味します。定型取引とは、以下の3つの要件を満たす取引です。
したがって、以上の要件を満たす取引に用いられる約款は、「定型約款」に該当します。
定型約款は、取引相手の属性や状況に応じて都度内容を変更するのではなく、同一の条項を多数の相手方に一律に適用することを前提とします。定型約款に該当する場合、契約ごとの個別交渉を経ることなく、「当社の利用規約が適用される」といった形で、事前に作成した条項を契約の一部に組み入れることが可能です。もっとも、そのためには、画一的な運用が利用者にとっても合理的であることが前提となります。
定型約款についての民法の条文は、次の通りです。
民法548条の2(定型約款の合意)
1. 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。2. 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
民法548条の3(定型約款の内容の表示)
1. 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2. 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
民法548条の4(定型約款の変更)
1. 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。2. 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3. 第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4. 第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。
民法(e-Gov法令検索)
定型約款が活用される具体例としては、次のようなものがあります。
これらの定型約款の例はいずれも、契約内容が事前に一律に定められており、個別の契約書を取り交わす必要性は乏しいといえます。また、利用者にとっても、規約に同意することで契約を成立させられる点にメリットがあります。
定型約款は、民法における要件を満たす特別なものであり、一般の契約書や利用規約とは異なります。その違いは、以下の通りです。
契約書は、当事者間で個別に協議、交渉し、合意に至った事項を書面化したものです。売買契約書、不動産賃貸借契約書、M&A契約書、業務委託契約書など様々な種類がありますが、いずれも当事者間で個別に取り交わし、署名押印することで成立します。
一方、定型約款では、契約締結時点で内容が事業者側により既に定められており、利用者側は交渉できず、「同意するかどうか」が問われます。契約内容の決定に利用者が関与しない点が、契約書とは異なります。
なお、実務では、契約書と定型約款を組み合わせる例もあります。例えば、申込書では個別条件を約束し、規約で一般条項を補完するという方式です。
「利用規約」と「定型約款」はしばしば混同されますが、全ての利用規約が民法上の定型約款の定義にあてはあるわけではありません。定型約款とみなされるのは、あくまで民法上の要件を満たすものに限られます(要件は「定型約款とは」で前述)。
したがって、利用規約の中でも、不特定多数の者との定型的な取引を反復して締結するにあたり、同一内容で処理する方が当事者双方にとって合理的なものが「定型約款」となります。そのため、「利用規約」と題する文書も、次の場合は定型約款になりません。
したがって、自社の規約が形式上「利用規約」「約款」などの名称でも、それが民法にいう「定型約款」に該当するかどうかは、よく検討しなければなりません。
定型約款に該当する場合は、契約内容とする旨の合意があるか、または相手にその旨を表示していれば、個別の合意がなくても契約内容となります。一方、定型約款と認められない利用規約を契約内容とするには、あらかじめ相手方に内容を確認させ、同意を取得する必要があります。
定型約款は、2020年4月1日に施行された民法改正で新たに導入されました。そのため、法改正が行われた経緯や、民法上の要件について理解しておく必要があります。なお、民法改正の全体像は「民法改正(2020年4月施行)」で解説しています。
2020年4月以前も、約款による契約は、金融や運送、保険、通信サービスなどの幅広い分野で行われてきましたが、定型約款についての法律の規定は存在しませんでした。
そのため、事業者の作成した約款が、どのような条件で契約内容になるか、利用者の許可なく変更が可能かといった点について法律上のルールが曖昧であるという問題点がありました。
この状況下では、次のようなトラブルが頻発していました。
特に、インターネット上の取引では、ワンクリックで契約が成立してしまうため、利用規約を読まずに契約を締結し、後でトラブルになるケースが増えていました。裁判例では「利用者に周知されており、内容に同意したとみなされる合理的な状況にあるなら、約款は契約の内容となる」という解釈(いわゆる「約款法理」)が形成されていました。しかし、事案ごとに裁判所の判断が分かれ、事業者・利用者の双方にとって予見可能性が乏しく、法的安定性を欠くという問題がありました。
こうした背景から、2020年4月施行の民法改正で、定型約款についての法律上のルールが明文化されました。今後は、契約実務における透明性と予見可能性が確保されることが期待されます。
改正民法では、一定の要件を満たす場合、相手方が定型約款の個々の条項を認識していなくても、各条項に合意したものとみなされます。これを「みなし合意」といい、多数を相手に画一的な取引を行う際、個別の条項ごとに同意を得ることなく、定型約款を契約内容とするための仕組みです。
ただし、定型約款を用意しただけで、当然に契約内容となるわけではありません。みなし合意が成立し、定型約款が契約内容となるには、次の要件を満たす必要があります。
まず、定型約款が契約内容として効力を持つには、次のいずれかの方法で、契約の一部として組み入れられる必要があります。
表示方法には、次のような例があります。
【Webサービスの場合】
【店頭契約・書面契約の場合】
これらの要件を満たせば、事業者は、定型約款について利用者の個別の同意を得ることなく、約款を契約の内容とすることができます。
定型約款の条項が、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」である場合、合意しなかったものとみなされます。
したがって、定型取引の性質に照らし、相手の利益を一方的に害する契約条項で、信義則に反する条項は、契約内容になりません。約款の定めは「契約自由の原則」によりますが、弱者である利用者を保護するためにバランスを取る必要があるからです。また、利用者に著しく不利な約款は、消費者契約法に基づき無効となることもあります。
例えば、事業者の責任を過度に免除する条項、利用者に不当に重い違約金や損害賠償義務を課す条項、事業者に合理的な理由なく一方的な解除権を認める条項などは、相手方の利益を一方的に害するものとして、民法548条の2第2項に該当する可能性があります。
ただし、同項に該当するかは、条項の内容だけでなく、定型取引の態様や実情、取引上の社会通念などを踏まえて個別に判断されます。
定型約款を準備しても、開示義務違反があると契約内容にならないことがあります。
定型取引合意の前に、相手から定型約款の内容を示すよう請求があったにもかかわらず、定型約款準備者が正当な理由なくこれを拒んだ場合、民法548条の2に定める「みなし合意」の規定が適用されなくなります。その結果、約款が自動的に契約内容になることはなく、契約内容とするには個別の合意が必要となります。
したがって、個別の説明義務はないものの、定型約款を開示するよう請求されたら、遅滞なく、相当な方法で約款内容を示さなければなりません。

定型約款は、一定の要件を満たす場合、相手の同意なく変更することができます。
具体的には、①顧客の一般の利益に適合する場合、②契約の目的に反せず、変更の必要性や変更後の内容の相当性、定型約款を変更することがある旨の定めの有無、その他の事情に照らして合理的だと認められる場合です(民法548条の4第1項)。
定型約款の変更の合理性が認められ得るのは、例えば次のケースです。
これに対し、事業者の一方的な都合で約款を不利益に変更したり、顧客の権利を制限したり、義務を加重したりすることに合理性はなく、変更の効力が否定されます。
変更にあたっては、効力発生時期を定めた上で、定型約款を変更する旨、変更後の定型約款の内容、効力発生時期を、インターネットの利用などの適切な方法で周知する必要があります(民法548条の4第2項)。この要件を満たさない場合、変更後の約款は契約内容として有効にならず、旧約款が引き続き契約条件となります。
周知の方法には、例えば次のような運用が考えられます。
告知期間は、取引の重要性によって検討すべきですが、少なくとも2週間~1か月程度が目安となります。企業側は、顧客にとって不利益な変更を行う際は特に注意しなければなりません。形式的に告知するだけでなく、「いつから・何が・なぜ変わるのか」を明確に伝えておけば、後のトラブルを防ぐことができます。
最後に、定型約款に関するよくある質問に回答しておきます。
多くのサービスは、定型約款となる利用規約への同意が利用条件とされます。
そのため、サービス利用者に一律に適用される約款に同意しなければ、契約を成立させることができません。例えば、「利用規約に同意する」ボタンにチェックを入れなければ申込が完了できないWebサービスが典型例です。
この場合、約款に同意できないなら、サービス利用は避けるしかありません。
定型約款の要件を満たす場合、同意すれば契約内容に組み入れられます。特に、インターネット上のクリック操作によって同意したものとみなされることがあるため、注意が必要です。
定型約款が、民法548条の4に定める手続きに従って変更された場合、改定後の約款は、将来にわたって契約内容の一部となります。そのため、変更後の約款の効力が発生した後は、新しいものが適用されます。
ただし、変更が合理的でなかったり、周知が適切になされていなかったりする場合は、変更が無効となり、古いものが引き続き適用されます。
定型約款は、その全体が包括的に契約内容となるのが原則です。
利用者から一方的に特定の条項の適用を拒否することはできず、どうしても承諾できないのであれば、サービス利用を避けるしかありません。
ただし、次のケースでは、その約款の一部が無効になることがあります。
このような条項は、契約に含まれなかったものとして扱われ、その部分だけが無効となり、約款の他の条項は有効となります。

今回は、2020年の改正民法で新たに導入された「定型約款」について解説しました。
定型約款は、現代の商取引に欠かせない存在です。不特定多数の顧客と反復継続して契約を締結する事業者にとって、業務の効率化、リスク回避の両面で大きな意義があります。一方で、事業者が定める約款は、利用者との情報格差が生じてトラブルに発展するおそれもあります。
こうした背景から、2020年4月施行の民法改正で、定型約款に関するルールが整備されました。特に、「周知による合意」「変更の合理性」「不当な条項の排除」といった利用者を保護するためのルールは、企業が定型約款を適正に運用する上で必ず理解しなければなりません。
事業者側では、自社の利用規約や約款が「定型約款」に該当するかどうかを把握し、法律に沿った運用を徹底することが求められます。また、利用者の理解と納得を得るための丁寧な説明や情報提供が、信頼構築のポイントとなります。
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