人事労務

就業規則により労働条件を不利益変更する方法と、適法に行うポイント

2020年6月30日

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就業規則労働条件不利益変更

企業の人事労務において、労働者の待遇を変更したり、賃金体系を変更したりする必要があるときがあります。労働者の労働条件を、労働者自身の同意なく不利益に変更することを、「労働条件の不利益変更」といいます。

本来、労働条件は、会社と労働者との合意、すなわち、労働契約によって決められており、会社側から一方的に変更することはできません。労働者側にとって不利益が大きく、会社の安易な人件費カットを許さないためです。

ただし、企業経営のためには、一定の場合には労働者の同意がとれずとも、統一的に労働条件を切り下げざるを得ないことがあります。このようなときに活用されるのが、就業規則を合理的に変更することで、適法に不利益変更を進める方法です。

そこで今回は、就業規則によって労働条件を不利益変更するとき、会社側の立場において、適法に行うためのポイントについて弁護士が解説します。

「人事労務」弁護士解説まとめ

就業規則とは

就業規則労働条件不利益変更

就業規則は、会社が作成する規程類の1つであり、最も重要なものです。就業規則には、一定の社員に対して集団的に適用される企業のルールや取り決め、労働条件などを記載します。

個別の労働者ごとの労働条件は、それぞれの労働者が会社と締結する雇用契約書に記載することが通常ですが、勤務時間や解雇、企業秩序維持や懲戒処分のルールなど、多くの労働者に共通に適用されるルールは、就業規則にまとめて記載しておいたほうが便宜です。

そこで初めに、不利益変更を行う際に必要となる、就業規則に関する基礎知識について弁護士が解説します。

就業規則の作成

就業規則は、会社において統一的に適用されるルールであり、労働基準法などに定められた一定の要件に従う限り、会社側がある程度自由に定めることができます。経営理念や行動規範などを書いておくことも可能です。

労働審判や訴訟などで、会社側の重要な武器となることも多いため、会社にとって不利な内容とならないよう、作成の際には十分な検討を要します。

就業規則には、次のとおり、必ず記載しておかなければならない「絶対的必要記載事項」と、定めをする場合においては必ず記載しておかなければならない「相対的必要記載事項」があります。例えば、「退職金」については「相対的必要記載事項」ですので、就業規則に定めずに退職金の定めを置くことはできません。

絶対的必要記載事項(労働基準法89条1号~3号)

  • 一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  • 二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

相対的必要記載事項(労働基準法89条3号の2~10号)

  • 三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  • 四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
  • 五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
  • 六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  • 七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  • 八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  • 九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
  • 十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

就業規則は労働契約の内容となる

就業規則には、法的な専門用語でいう「法的規範性」、「直律的効力」が認められます。

つまり、会社も労働者も、就業規則に拘束され、かつ、就業規則に達しない個別労働契約はその部分について無効とされ、就業規則に定められた取り決めに従うという意味です。したがって、就業規則は、適用される労働者の最低限の労働条件を定める機能をもっています。

就業規則の適用は、就業規則に、労働者が個別に同意しているかどうかにかかわらず及びます。

ただし、就業規則といえども、労働基準法をはじめとする法律に違反することはできず、法律違反の就業規則は、その違反部分について違法、無効となります。また、労働組合や労働者過半数代表者との間で会社が締結する労働協約に違反することもできません。

就業規則の届出義務

就業規則を作成する際には、労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聴取することが必要です。また、10人以上の労働者のいる事業場では、その意見書を添付して労働基準監督署へ届出をする義務があります。

なお、就業規則の届出義務に違反をした場合には、労働基準法120条により「30万円以下の罰金」に処せられますが、そのことだけで就業規則が無効とはなりません。つまり、就業規則の届出は、就業規則の有効要件ではないということです。

10人未満の労働者しかいない事業場では就業規則の届出義務はありませんが、それでもなお、会社側の立場からすれば就業規則を定めておくことをお勧めします。

就業規則を定めない場合には、本来であれば就業規則に書いておくべきであった事項についても全て雇用契約書に記載しておかなければならず、雇用契約書が複雑でわかりづらいものとなってしまうおそれがあります。

就業規則の周知義務

作成した就業規則を有効なものとするためには、労働者に周知させなければなりません。労働者が同意していなくても就業規則の効力には影響しませんが、周知すらされていない就業規則は無効となります。

周知させしていれば、個々の労働者が就業規則の内容を確認していなかったり、内容を全く知らなかったりといった場合でも、就業規則は適用されます。就業規則を作成したものの、社長のデスクや金庫にしまい込まれていて労働者がおよそ見ることができないような場合、周知されていなかったものとして就業規則は適用されません。

就業規則の周知方法は、労働基準法において、①掲示または備え付け、②書面交付、③磁気テープまたは磁気ディスクにより常時労働者が確認できる機器に設置する方法などがあげられていますが、その他の方法でも、労働者の求めに応じて確認できる状態にあれば、周知されていたものと評価されます。

なお、周知義務を怠った場合にも、労働基準法120条により「30万円以下の罰金」に処せられます。

就業規則による労働条件の不利益変更

就業規則労働条件不利益変更

就業規則は、その内容が合理的である限りにおいて効力が認められます。そして、就業規則の不利益変更によって、労働条件を不利益変更する場合には、その変更にも合理性が求められます。

ただ、会社側としては、必要性のある限り、できる限りの配慮をしながら、最終的にはその必要性が強い場合には労働条件の不利益変更は進めざるを得ません。もちろん、何ら理由なく給与を半減させるような明らかに不当な場合は許されませんが、合理性が認められる可能性があるときは、労働者と協議をしながら変更を進めていくこととなります。

そこで、不利益変更のリスクを少しでも減らすために、就業規則による労働条件の不利益変更について、適法性の判断基準を理解する必要があります。

不利益変更の適法性の判断基準

第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日判決)などの裁判例によって示され、労働契約法10条において定められたところによれば、判断基準のポイントは次の5点です。

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
  • その他の就業規則の変更に係る事情

給与の切下げ、退職金の減額、各種手当の廃止や賃金体系の変更など、労働者に不利益な変更が行われたとき、最終的には、裁判例ではこれらの事情について総合的に考慮した上で、不利益変更が合理的であるかどうかを判断します。

しかし、会社側においても、就業規則の変更により労働条件を不利益変更せざるを得ない場合には、5つのポイントをどれだけクリアしているか、そのポイントごとに検討、判断した上で進めることが重要です。

合理性を認められやすくするためのポイントは?【会社側】

就業規則の変更による労働条件の不利益変更が適法であるかどうかは、最終的には裁判所の判断に委ねざるを得ない難しい問題です。しかし、実際に不利益変更を進める際には、少しでも違法、無効となるリスクを回避するため、会社側は計画的に検討を進めなければなりません。

合理性を認められやすくなるための就業規則変更の際に行うべきポイントについて、順に解説します。

  • 変更の必要性、変更後の就業規則の合理性について検討する

    第一に、就業規則を変更し、労働条件を不利益に変更する必要性があるかどうかは、会社側の事情だけで判断することができます。少なくとも、会社の利益が増大しており十分な余裕があるときに、会社全体の人件費を削減するような労働条件の不利益変更を行う必要性は見出しがたいことが多いでしょう。

    同様に、変更後の就業規則の合理性についても、会社側の事情だけで判断可能です。というのも、変更後の就業規則は、会社側が不利益変更を計画した時点で、既に完成していると考えられるからです。少なくとも、労働基準法を始めとする労働法に違反する条項がないかどうかチェックが必要です。

    変更後の就業規則が、一部の労働者だけに不利益を課す不公平な内容とならないよう注意してください。

  • 労働者の受ける不利益の大きさを洗い出し、労働者に誠意をもって説明する

    次に、労働条件を不利益変更する会社側の必要性がある場合には、労働者がこれによって受ける不利益の大きさを洗い出します。給与の半減など、労働者の不利益が大きすぎる場合には、仮に会社の業績が悪化していても、不利益変更が行き過ぎていると判断されるおそれが強いです。

    また、労働者との協議を一切行わない一方的な不利益変更は無効となりやすいため、誠意をもって労使間協議を行います。今回の解説は、労働者の同意をとらずに行う不利益変更に関するものですが、粘り強い説明と説得の結果、労働者全員の合意がとれることに越したことはありません。

  • 労働者の受ける不利益が許容範囲内となるよう代償措置を検討する

    最後に、不利益変更しなければ会社が倒産するような非常事態においてもなお、労働者の受ける不利益が許容範囲を超えることのないよう、代償措置を考慮できないかを検討してください。

    給与を削減する代わりに労働時間を減少させるなど、労働者にメリットのある代償措置を講じたり、不利益変更を徐々に適用して急な影響を避ける経過措置を適用したりすることにより、労働者の不利益を減らすことができます。これらの代償措置などの組み合わせにより不利益を緩和できれば、不利益変更が認められる余地が広がります。

不利益変更のデメリット

以上のような適切な進め方を経ることなく、一方的かつ突然に不利益変更を断行してしまったときには、労働者との間でトラブルが生じ、労働審判や訴訟などの法的紛争に発展してしまう危険があります。

また、労働者があきらめて不利益変更に従ったとしても、労働者のモチベーションを下げ、業務効率を下げるなどの悪影響が懸念され、結果的に、納得感のない不利益変更はデメリットがとても大きいものです。また、ブラック企業との悪評を招き、企業イメージを低下させるおそれもあります。

このような点からも、労働者全員の合意による労働条件の不利益変更が実現できないと想定される場合であっても、労働者に対して正直な説明をし、真摯に向き合うことが重要となります。

就業規則による労働条件の不利益変更の裁判例

就業規則労働条件不利益変更

就業規則による労働条件の不利益変更は、平成20年3月1日に施行された労働契約法10条において判断基準がまとめられる前から裁判例で何度も争点となり、その際に一定の判断基準が形成されてきました。その結論は、不利益変更を認めたものもあれば、無効としたものもあります。

そのため、今回解説した判断基準をもとに、実際に不利益変更が可能かは、状況に応じてケースバイケースの検討をしなければなりません。

そこで最後に、就業規則による労働条件の不利益変更について判断した主要な裁判例について弁護士が解説します。

第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日判決)

地方銀行のY銀行において、55歳定年(定年後3年間の継続雇用)から60歳定年制に変更し、これに際して年間賃金を引き下げる就業規則変更を行ったことに対して、労働者Xが就業規則の不利益変更の無効を主張して、差額賃金を請求した事件です。

この事件で、最高裁は、「合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべき」という一般的な判断基準を示しました。

その上で、60歳定年制が国家的政策課題とされ、定年延長の高度の必要性があったこと、これに伴う人件費の増大、人事の停滞を抑える経営上の必要性があったことなどを指摘し、福利厚生拡充などの不利益緩和措置がとられていることなどもふまえ、この不利益変更を合理的なものであると認めました。

みちのく銀行事件(最高裁平成12年2月28日判決)

みちのく銀行事件では、第四銀行事件とは逆に、就業規則変更による労働条件の不利益変更の合理性を否定しました。

この事件では、従前から60歳定年制、年功序列型賃金であった地方銀行Y銀行が、55歳での給与凍結や業績給の50%減額、手当廃止、賞与支給率変更などの就業規則変更を実施したケースです。

最高裁は、「賃金が減額されても、これに応じて労働の減少が認められれば実質的な不利益は小さいこととなるが、33%~46%の賃金減額を正当化できる水準の職務軽減は図られていない」「特定の行員に大幅な不利益を負わせ、これを緩和する経過措置等が十分に図られていない」「就業規則変更に同意しない原告らに対し、法的に受任させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容とはいえない」と指摘しており、不利益変更の合理性が認められなかった理由は、労働者の受ける不利益が大きすぎたことにあると理解できます。

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就業規則労働条件不利益変更

今回は、就業規則の変更による、労働条件の不利益変更について、就業規則の効果に関する基礎知識とともに解説しました。

給与を減らし人件費を削減しなければ会社が破綻してしまうなど、不利益変更の必要性、緊急性が高い場合には、いずれにせよ不利益変更を進めなければならない場合があります。しかし、会社側としては、その不利益変更が無効となってしまう可能性も見据え、リスク軽減のために不利益変更の適切な進め方を理解する必要があります。

人事労務問題についてお困りの会社は、ぜひ一度、当事務所の法律相談をご依頼ください。

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