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歯医者での治療を中途解約するときのトラブル回避の注意点

歯医者での治療をめぐるトラブルでよくあるご相談が、歯科治療を中途解約するときのトラブルです。

歯科治療では、虫歯治療、矯正治療やインプラント治療など、1回の通院だけでは完治せず、何度も継続的に通院しなければならないことが多いです。

そのため、たとえ医療過誤の問題が起こらなかったとしても、歯科医院との相性が悪かったり、治療方針についての考え方が合わなかったり、当初予定していた予算を超えてしまったり、転居により通院が困難となったり、などの事情の変化により、途中で歯科治療を中途解約したいことがあります。

今回の解説では、歯科治療を巡るトラブルのなかでも、歯医者での治療を中途解約するときに、トラブル回避のために注意しておきたい点を弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 歯医者と患者の間には(契約書がなくても)準委任契約がある
  • 中途解約したいときは、民法の準委任契約のルールにしたがう
  • 「一切返金しない」などの定めは、消費者保護の点から無効となる可能性あり
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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歯医者で起こる法律問題

歯科診療をめぐるトラブルのなかで、もっとも深刻なのが「医療過誤トラブルによる損害賠償請求」です。しかし、明確な医療過誤がなかったとしても、継続的な治療契約を終了したいと希望するときがあります。

歯科医院で歯科治療を受けるときには、歯科医と患者とは「治療契約」を結びます。契約書を締結したときはもちろん、契約書を締結しなかったとしても、歯医者での治療を依頼することによって、口頭で治療契約を締結していることを意味します。

この治療契約は、民法で定められた準委任契約にあたります。準委任契約は、法律行為以外の事務を人に依頼することを内容とする契約です。

歯医者との治療契約
歯医者との治療契約

つまり、今回解説する歯科治療の中途解約をめぐるトラブルでも、歯科医と患者との間の法律関係を規律するルールとして、民法を参考にする必要があります。

なお、民法の契約法(債権法)についてのルールは、2020年4月1日に施行された改正民法で大幅に変更されたため注意が必要です。

歯科治療を中途解約したときの治療費の支払いについて

考える女性

歯医者で行っていた虫歯治療、歯列矯正、マウスピース制作、口腔内手術、インプラント治療などの治療を中途で解約しようと考えたとき、もっとも不安・疑問を感じるのが「治療費の支払いが必要なのかどうか」という点でしょう。

すでに一定の治療費をまとめて払っていたとき、「前払いした治療費を返してもらえるのか」という問題もあります。

原則としては、先ほど解説したとおり、歯医者における治療契約は民法の準委任契約なので、中途終了すれば割合的に報酬請求することができます。しかし、治療契約の内容は当事者間の合意で決まりますから、契約書などがあるときはその書面の記載が重要となります。そのなかには、患者側に不利な内容が含まれているおそれがあります。

そこで次に、歯科治療を中途解約したときの治療費の支払いについて弁護士が解説します。

準委任契約の解約と報酬支払

歯科医での治療契約は準委任契約であると解説しました。準委任契約の中途解約と報酬の支払いについて、2020年4月1日に施行された改正民法では、「既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる」ことを定めています。

民法648条3項

3. 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
⑴ 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
⑵ 委任が履行の中途で終了したとき。

民法(e-Gov法令検索)

つまり、歯科治療が途中で終了したとき、その責任が歯医者と患者のどちらにある場合であれ、治療が一定程度進んでいたときには、治療費の一部または全部を払わなければならない可能性があるということです。

中途解約では割合的に報酬支払
中途解約では割合的に報酬支払

このことは、患者側から解約するケースだけでなく、歯医者側から解約をする場合も同じです。ただし、歯医者側から解約をして、さらに治療費を請求されるようなときは、そもそも歯科医として負う「応召義務(正当な理由のない限り、求められた治療に応ずべき義務)」に違反している可能性があります。

準委任契約の解約と報酬支払のルールに照らして考えれば、歯医者での治療を中途解約するときには、そのときまでに治療がどれほどの割合進んでいるかを確認する必要があります。

治療費を返還しない特約があるケース

患者側で、歯科治療の中途解約を検討しているとき、治療開始時に交わした契約書に、「中途解約の場合であっても前払いした治療費は返金しない」という定めがあるとき、治療費を返してもらえないのではないかと不安に思うことでしょう。

実際、高額かつ長期の治療になるほど、治療開始時に契約を交わし、治療費を返金しない特約を結ぶケースは多いです。

しかし、歯医者と患者の関係は、歯医者が「事業者」で患者は「消費者」です。そのため、中途解約の場合に、治療の進行の程度によらずまったく治療費を返還しない旨の特約は、消費者が不当に害されないように定められている消費者契約法の不当条項規制に違反しているおそれがあります。

返金しない特約がある場合
返金しない特約がある場合

消費者契約法の不当条項規制とは、消費者の利益を一方的に害する契約条項を無効とするルールです。返金しない特約が無効となると、原則に戻って、治療が進んでいた割合に応じて返金を求めることができます。

既に外注費が生じているケース

歯医者の治療契約を中途解約すると、そのときまでに進行していた治療の程度に応じた治療費が生じると解説しました。これに対して、歯科治療では、歯医者に支払う治療費以外に、外注費などの費用が発生することがあります。

例えば、義歯やインプラントの作成、歯型の作成、専門的な画像診断や補綴物の制作など、歯科技工士やその他の専門家の助力を得る必要があります。

返金されない外注費の例
返金されない外注費の例

たとえ中途解約時にそれほど治療が進んでいなかったとしても、すでに依頼し、支払い済の外注費を返金してもらうのは難しい場合が多いです。

この点は民法でも「委任事務を処理するについて費用を要するとき」は、前払いさせることができると定められています。

民法649条(受任者による費用の前払請求)

委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

民法(e-Gov法令検索)

デンタルローンを利用して治療を受けているときの注意点

歯科治療は、高額になりがちであり、治療費の支払いについてデンタルローンを利用することがあります。

デンタルローンは、歯科治療のために使われる信販会社のサービスであり、信販会社が一括して歯科医に対して治療費を支払い、患者は信販会社に対して、立替て支払われた治療費を分割返済するというものです。

デンタルローンとは
デンタルローンとは

デンタルローンを利用して受けている歯科治療を中途解約する場合には、既に治療開始時に、信販会社から治療費がすべて支払われています。そのため、歯科治療を中途終了することによって治療費の返還が発生するときには、歯科医と患者、信販会社を含めた三者の調整をおこなう必要があります。

実務的には、患者の同意書をもって、歯科医が信販会社に対して残債務を払って清算するという方法が多く利用されます。

中途解約の合意書を作成する

ペン

以上で解説したとおり歯科治療を中途解約するときは、治療費の支払いをはじめ、多くの法律トラブルが生じるおそれがあります。

患者側として、歯医者に文句があったり医療過誤があったりして解約するのではない場合でも、一旦はじめたサービスを解約するとき、気持ちよくお別れしなければ後に禍根を残します。もし、将来追加で治療をしてもらったり、修正してもらったりしたいときにも、中途解約にまつわる法律問題がきちんと解決している必要があります。

歯医者での治療を中途解約するときは、将来のトラブルを避けるためにも、合意書を作成して証拠化しておいてください。

中途解約の合意書に記載しておくべき内容は、次のとおりです。

  • 解約条項
    歯科治療を中途で解約することと、その解約日
  • 治療費の返金条項
    治療費の返金義務が生じていることと、返金されるべき治療費の金額
  • 口外禁止条項、守秘義務条項
    本件について正当な理由なく第三者に漏洩、口外しないこと。患者にとって歯科治療に関する事項が重大なプライバシーにかかわる事実であり、一方、歯科医にとっても業務上のことについて口外されたくないことがあるでしょう。
  • 清算条項
    歯科医と患者との間に、合意書に定める以外の債権債務が存在しないことを確認し、将来の紛争を回避するための条項

まとめ

今回は、歯科治療を中途解約するときのトラブルへの適切な対応方法と、治療費の支払について弁護士が解説しました。

歯の病気は、他のからだの病気に比べて軽く見られがちです。しかし、歯科治療に支払う治療費は決して安いものではなく、また、万が一医療事故が起こってしまったときには、患者側の被害は甚大です。

歯科治療をめぐる法律トラブルにお困りの方は、ぜひ一度当事務所へ法律相談ください。

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