
担当弁護士
水野博文
- 相談者
30代後半・男性・営業職 - 事案の概要
不正発注など、会社の財産を毀損する行為を理由として、会社から懲戒解雇を含めた処分を検討されている段階で相談を受けました。当初は、不正の事実を否定していたため、調査の影響で体調が悪化し、うつ病を発症したことを理由に早期退職をする方針で進めました。しかしその後、会社から不正の証拠が開示されて懲戒解雇とされたため、不正を行ったことを認めるとともに解雇の相当性を争い、撤回を求める方針へ切り替えました。また、当時の年収からして管理監督者性は否定される可能性が高いと考えられたため、残業代の請求を行い、交渉材料とすることができました。
- 本事例は、守秘義務およびプライバシー保護の観点から、個人を特定できる情報を削除するとともに、事案の本質を損なわない範囲で事実関係の一部を変更・抽象化しています。
ご依頼時の状況
本事案は、不正発注など、会社の財産を毀損する行為を理由とした懲戒解雇のケースです。
当事務所への相談は、懲戒解雇を検討している自宅待機中に行われました。相談当初、依頼者は不正の事実を否定していました。また、会社による厳しい調査の影響で体調が悪化し、うつ病を発症したという診断書も入手していました。そのため、民法628条に基づいて、「やむを得ない事由」があることを理由とした即時退職の意思表示を行い、速やかに雇用関係を終了させ、懲戒解雇を免れることを最優先として交渉を進める方針としました。
一方、依頼者の勤務状況は、過労死ラインを大幅に超えるほどの長時間労働であったため、懲戒解雇への対応とあわせて、未払い残業代の請求についても依頼を受けました。管理職扱いであったため、管理監督者性が争点となると予想されましたが、相談時の年収が500万円程度であり、業務内容などもヒアリングした結果、会社の主張は認められない可能性が高いと判断されました。
弁護士による対応と解決結果
弁護士による対応
交渉中、会社から懲戒解雇処分が下されることとなりました。
当事務所から、直ちに解雇理由証明書を要求したところ、会社から不正行為を裏付ける詳細な証拠が開示されました。そこで改めて依頼者に事実関係を確認したところ、会社から指摘された不正行為について概ね認めるに至りました。不正の内容は、刑事事件になり得るものであったため、懲戒解雇の有効性を争うことには相応のリスクがあることを説明し、対応を検討しました。
懲戒解雇は、会社が下す処分の中でも重いものなので、その処分には「相当性」が求められます。そのため、不正を認める方針に転換した後は、不正の態様が比較的軽微であったこと、会社に具体的な損害が生じていないことを指摘し、これまで十分な監督が行われなかったこと、配転や降格といった懲戒解雇以外の手段も取り得たことなどを主張しました。
また、前述の通り、相談時のヒアリングにより、相当な長時間労働があることを把握していたため、残業代の請求を行い、交渉材料とすることを検討しました。
依頼者は、会社から管理職扱いされていたため、管理監督者性が主な争点となることが予想されました。そこで、組織図や権限分掌規程などを収集し、依頼者が使用者と一体的な立場にあったとはいえないことを主張しました。また、給与などの待遇面においても、年収500万円程度と、管理職として決して十分とは言えないこと、実際の業務内容が一般社員の頃と変わっていないことなどの事情を示し、管理監督者に該当しないことを主張・立証しました。
交渉では双方の条件が折り合わず、労働審判を申し立てることとなりました。労働審判では、会社から、依頼者が午後休や欠勤の際に申請書を提出していたものの、その場合にも欠勤控除をしていないことなどを理由に、労働時間について広い裁量を有していたとの主張がなされました。これに対し、依頼者は継続的にタイムカードを打刻しており、休暇や欠勤の際にも申請書を提出しなければならない環境にあったため、実際には労働時間についての裁量は大きくなかったと反論しました。
解決結果
労働審判では、懲戒解雇が無効であることを前提に、約550万円の解決金を支払う内容で調停が成立しました。懲戒解雇は撤回され、解雇日をもって合意退職するという形となりました。
担当弁護士(水野)のコメント

会社側としては、社会保険などの手続きや事務処理の関係から、会社が設定した退職日と異なる日付で雇用関係を終了させることに難色を示していたと考えられます。
また、不正の態様、会社に損害が生じていないこと、注意・指導や監督の欠如、配転や降格といった他の処分を検討していないことといった様々な事情から、裁判所から、懲戒解雇の有効性には大いに疑問があるとの心証が示されたことも後押しになりました。
また、組織図や権限分掌規程、年収や権限などの事情から、管理監督者性が完全に否定されるとすれば、相当高額な未払い残業代が発生しかねないことも、会社側が約550万円の解決金の支払ってリスクを軽減した方が合理的であると判断する理由となったと考えられます。
本件では、相談当初に依頼者から聞いた内容と、その後に会社から開示された証拠により明らかになった事実との間に大きな差がありました。そのため、会社から証拠が示されるたびに事実関係を確認し、どのように反論するべきかを丁寧に検討する必要がありました。本来であれば、早い段階で、正直に事情を打ち明けてもらえれば、より良い対策が取れた可能性は否定できません。
