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違法な偽装請負とならないための、業務委託契約の締結時の注意点

偽装請負とは、契約書上は請負(業務委託)としながら、実質的には派遣の形態で労働者を働かせる違法行為のことです。

偽装請負が違法とされるのは、派遣で労働者を働かせるためには、労働者派遣法の厳しい制約を守らなければならないにもかかわらず、形式的には請負(業務委託)とすることで規制を回避しようとする行為だからです。

特に近年は、IT技術の進歩にともない、システムエンジニア(SE)や保守管理などを行うIT系の職種では、かならずしも会社や就労場所が一定である必要はなくなってきており、請負(業務委託)や派遣による就労が一般的となっています。

今回は、偽装請負の問題点について解説し、違法な偽装請負を行ってしまわないよう業務委託契約の締結時に注意しておきたいポイントについて、人事労務に詳しい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 偽装請負は、派遣法の規制を回避するために請負を偽装するという違法行為
  • 偽装請負となってしまうと、派遣法違反、職業安定法違反のリスクあり
  • 偽装請負とならないよう、適切な内容の業務委託契約書を結ぶのが大切
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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偽装請負とは

偽装請負とは、形式的には請負(業務委託)の名目で、請負事業者が自身で雇用する労働者を注文者の発注にしたがって働かせているものの、実際には、請負事業者が自ら指揮命令をすることなくこれを注文者に任せ、実質的には注文者が具体的な指揮命令をしながら労働に従事する労働者派遣の形態にあたるもののことです。

偽装請負とは
偽装請負とは

つまり、その名の通り「請負を偽装してなされる違法派遣」という意味です。形式的には請負でありながら、その実質は派遣だということです。

偽装請負の形式と実質
偽装請負の形式と実質

本来、請負(業務委託)であれば、請負事業者が自身の雇用する労働者を指揮命令しなければなりませんから、注文者が指揮命令をしたいのであれば、労働者派遣契約を締結しなければなりません。

しかし、労働者派遣には労働者派遣法によって、派遣元責任者・派遣先責任者の選任義務、派遣元管理台帳・派遣先管理台帳の作成義務などの義務が課されたり、違反に対して厳しい責任追及がなされたりするため、「派遣は避けたい」という考えが生まれ、偽装請負という違法行為に走るのです。

働き方の多様化が進み、必ずしも正社員ばかりが活躍する世の中ではなくなりました。そのなかで、専門性を生かして高収入を得たり、自由な時間を大切にしてワークライフバランスを重視したりする人は、請負(業務委託)としてで働く人が増えています。しかし、これにともない企業のコストカットの要請などから、残念ながら偽装請負となるケースも増加しています。

労働者派遣とは

労働者派遣は、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」と労働者派遣法に定義されています。

職業安定法は、中間搾取の温床となりうる労働者供給事業を禁止していますが、労働者派遣法の定める要件を満たして適切に行うことを条件に、労働者派遣は労働者供給事業から除外され、適法に行うことが認められています。

その分、労働者派遣は、弱い立場の派遣労働者が搾取されないよう、業種や期間について厳しい制限があります。

派遣と請負(業務委託)の区別

請負は、請負事業者が発注者に対して一定の業務処理を請け負い、その請負業務の遂行のために請負事業者が雇用する労働者をして、発痛者の事業場などにおいて労務に従事させることをいいます。請負は、「業務処理請負」あるいは「業務委託」などと呼ばれることもあります。

民法では、請負について、次のように定められています。

民法632条(請負)

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法(e-Gov法令検索)

つまり、請負では、発注者が請負事業者に依頼するのは「仕事の完成」であり、「仕事の過程」ではありません。そのため、発注者が行えるのは発注時の注文や指示であり、仕事の過程における細かな指揮命令を発注者がするのは許されません。

派遣と請負の区別
派遣と請負の区別

請負の場合にも、他社の事業所内で仕事をさせることがあるものの、請負と派遣の最大の違いは、その指揮命令権がいずれの企業に所在するかという点です。つまり、請負は、請負事業者の雇用する労働者に対する指揮命令は請負事業者自身が行うのに対して、派遣では、派遣先企業(請負でいう発注者にあたる)が派遣労働者に対する指揮命令を行います。

偽装請負が禁止される理由

偽装請負が違法とされ、禁止されている理由は「労働者保護」です。

偽装請負は、形式的には請負(業務委託)ですが、本来であれば、労働者派遣として取り扱われるべきでした。労働者派遣法で、派遣契約に厳しい制約が課されているのは、中間搾取を禁じるなどの労働者保護への配慮を十分に行うためであり、この規制を回避してしまう偽装請負は、労働者に大きな不利益を与えるおそれがあります。

加えて、偽装請負の場合、雇用の責任を誰が負うのかが不明確となってしまうといった不利益もあります。

社会保険、雇用保険の負担をどの会社が負うのか、残業代(時間外割増賃金)をどの会社が支払うのか、業務中や通勤時の傷病(労災・安全配慮義務違反)の責任をどの会社が負うのかといった雇用責任が、偽装請負では曖昧になりがちです。

結果として、人件費カット、労働者派遣契約を行う手間の回避といった会社のメリットを、労働者の被害のもとに実現することとなるため、偽装請負は禁止されるのです。

偽装請負となったときのリスクと責任

偽装請負は、労働者派遣法の要件を満たし、規制を遵守しなければならなかったにもかかわらずこれを行わず、請負(業務委託)として労働者を就労させることを意味するため、労働者派遣法及び職業安定法に違反する違法行為です。

偽装請負は、違法行為だと知って行う場合だけでなく、労務管理が不十分であったことにより、結果的に違法状態となってしまっていることもあるため、注意が必要です。

偽装請負となったときのリスクと責任について、弁護士が解説します。

請負事業者の法的責任

まず、偽装請負となってしまったとき、その責任を負うのは、請負をした側(請負事業者)です。請負事業者が負う偽装請負の責任は、具体的には次のとおりです。

派遣法違反

許可を受けないで労働者派遣事業を行った点について、派遣法違反の責任を負い、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられます。

職業安定法違反

職業安定法では、労働者派遣事業を除く労働者供給事業が禁止されています。

そのため、派遣の要件を満たしていない場合には、違法な労働者供給事業を行った点について、職業安定法違反の責任を負い、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられます。

発注者の法的責任

偽装請負となったときのリスクと責任は、請負事業者だけでなく、発注者にも存在します。

職業安定法違反の責任は、受託者だけでなく供給者にも及びます。また、労働者派遣の許可を受けない事業者から労働者派遣を受けてはならず、万が一受け入れてしまった場合、受け入れた会社もまた、行政指導、改善命令、勧告、企業名公表などの制裁の対象となりうることが、労働者派遣法に規定されています。

労働者派遣の許可を受けていないにもかかわらず、指揮命令系統が曖昧なままに雇用する労働者を送り込んでくる会社から、社員を受け入れることはリスクがとても高いと理解してください。

企業イメージの低下

IT企業の派遣、請負、SESなどが一般的に浸透するにつれて、偽装請負が違法行為であることも社会的によく知られるようになってきました。

しかも、偽装請負は、労働者派遣の許可を得たり労働者派遣法の規制を遵守したりすることが手間であるという会社の都合を理由にして、労働者保護をないがしろにする、ブラック企業の典型であることも、ニュース報道などで知らされています。

そのため、偽装請負を行っていた企業であることが明らかとなると、ブラック企業などの悪評を招くこととなり、企業イメージが低下するおそれがあります。企業イメージの低下は、取引先の離脱や、優秀な労働者の離職、採用人気の低下などの深刻な問題につながります。

黙示の雇用契約の成立

偽装請負をはじめとする違法な労働者派遣が行われたことを理由に、労働者と受け入れ先との間で黙示の労働契約が成立していると労働者が主張して争った裁判例があります。

主要な裁判例であるパナソニックプラズマディスプレイ事件(最高裁平成21年12月18日判決)、伊予銀行いよぎんスタッフサービス事件(高松高裁平成18年5月18日判決)などでは、裁判所は黙示の労働契約の成立について否定しましたが、個別具体的な事情によってはこの主張が認められる可能性も十分にあります。

実際、上記のパナソニックプラズマディスプレイ事件の高裁判決では、黙示の労働契約の成立が認められており、労働者と受け入れ先の関係性によっては十分認められ得る主張であることを示しています。

また、黙示の雇用契約の成立までは認められなくても、発注者が、労働組合法にいう「使用者」として労働者からの団体交渉に応諾する義務を負うこととなるリスクもあります。

偽装請負の判断基準

ポイント

「派遣となるか、請負となるか」の判断基準は、前述したとおり、対象となる労働者に対する指揮命令を、発注者が行うのか、それとも請負事業者が行うのかによって区別されます。実質は派遣であるにもかかわらず、請負(業務委託)の形式をとって働かせることは、「偽装請負」となり、労働者派遣法及び職業安定法違反となります。

この「派遣となるか、請負となるか」、すなわち、「偽装請負であるかどうか」の判断基準は、厚生労働省の発出する「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)にくわしく定められています。

厚生労働省の指針によれば、偽装請負とはならず、適法な請負と評価することができるケースとは、以下の2つのいずれにも該当する場合であるとされています。

  1. 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること
  2. 請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理していること

そして、例えば、以下のような事情があるときには、適法な請負と評価することはできず、実質は労働者派遣となる違法な偽装請負であると判断される可能性が高まります。

  • 労働者の業務遂行に関する細かい指示や管理を、発注者がすべて行っている
  • 労働時間の管理(始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇の指示など)を、発注者がすべて行っている
  • 時間外労働、休日労働、深夜労働などの指示を、発注者がすべて行っている
  • 労働者の配置の決定、変更を、発注者がすべて行っている
  • 労働者が業務を遂行するのに必要となる資金、機材、設備などを、発注者がすべて用意している

これらの判断基準を、例えば、違法な偽装請負が起こりやすいシステムエンジニアの常駐のケースにあてはめて考えてみましょう。

クライアント先に常駐させたエンジニアに対して、クライアントが業務遂行、労働時間管理その他の細かい指示を逐一行うようなケースでは、契約書の形式を請負契約(業務委託契約)としておいたとしても、違法な偽装請負となってしまいやすいということになります。

偽装請負にならないための注意点と対策

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

最後に、偽装請負にならないために、請負(業務委託)や派遣を行うすべての会社に気を付けておいてほしい注意点と対策について、弁護士が解説します。

偽装請負となってしまうと、請負事業者はもちろん、発注者もまた、法的責任や企業イメージの低下などのデメリットを受けてしまいます。そのため、偽装請負とならないための事前対策が重要です。

業務委託契約書を正しく作成する

偽装請負にならないための注意点と対策の1つ目は、業務委託契約書を正しく作成することです。

偽装請負は、形式が請負なににもかかわらず、その実質が労働者派遣というケースであり、契約書の形式を「請負(業務委託)」と記載しただけでは十分ではないのは当然です。しかし、まずは請負(業務委託)を開始するにあたって、適切な契約書を作成、締結することが重要です。

業務委託契約書のポイント
業務委託契約書のポイント

業務委託契約書には、労働者の指揮命令権が請負事業者にあり、発注者はこれを行うことができないことを明記しておきます。あわせて、その都度の指揮命令を行わなくても発注の目的を達せられるよう、契約書に仕様書を添付し、発注内容を詳細に合意しておくことが必要です。

発注時に、仕様を詳細に定めておけば、発注者が労働者に対して指揮命令をしているとは評価されません。

就業中の指揮命令系統を明確にする

弁護士浅野英之
弁護士浅野英之

請負の形式をとりながら、発注者が具体的かつ細かい指示を労働者に逐一行うといった典型的な偽装請負のケースはもちろんのこと、偽装請負を行おうという悪意がなくても、指揮命令系統が不明確であると、結果的に偽装請負と疑われてしまうおそれがあります。

業務委託契約書を作成するだけで安心せず、実際の就業中においても、発注者からの指揮命令が行われないよう注視が必要となります。

特に、就業場所において、発注者から直接雇用されている労働者と、請負事業者の雇用する労働者とが混在していると、発注者が指揮命令を行っていないことを客観的に証明することが難しくなるおそれがあります。

信頼のある派遣会社を利用する

偽装請負という違法行為となってしまわないよう、それでもなお、発注者が労働者に対して逐一指揮命令をしたいという場合には、労働者派遣契約を締結することとなります。

労働者派遣契約は、派遣先会社と派遣元会社との間の契約で、派遣労働者は、派遣先会社に雇用されながら、派遣元会社の指揮命令を受けることとなります。

偽装請負が、労働者保護の観点から禁止されているとおり、労働者派遣法は、度重なる改正によりとても複雑な法律となっています。発注者側としては請負(業務委託)としたほうが気楽なことも多いでしょうが、指揮命令をしたいのであれば、違法な偽装請負とするのではなく、きちんと労働者派遣法を守って進めなければなりません。

その場合には、信頼ある派遣会社を利用することが安心です。

まとめ

今回は、偽装請負についての基礎知識と、偽装請負にならないための注意点、対策などについて弁護士が解説しました。

特に、IT企業などでは、システムエンジニアの派遣や請負、SESなど、多様な働き方が常態となっています。しかし、派遣と請負の区別をよく理解せずに進めてしまって、違法な偽装請負となってしまったケースが少なくありません。

偽装請負になってしまっている場合、派遣法違反、職業安定法違反などの法的責任を負うことはもちろん、労働者から残業代などを請求される労働問題に発展したり、悪質な会社であるとの評判を招き企業イメージを低下させてしまったりといったデメリットも想定しておかなければなりません。

当事務所のサポート

弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所では、人事労務分野に強みをもち、多くの顧問先企業の労務に関するご相談をお受けしています。

偽装請負の問題をはじめ、人事労務についてご不安のある方は、ぜひ一度、当事務所へ法律相談をご依頼ください。

偽装請負についてよくある質問

偽装請負とはどのような行為ですか?

偽装請負は、本来であれば「派遣」として派遣法のルールを守らなければならないのに、「請負」を偽装することで規制を回避しようとする違法行為であり、許されません。もっと詳しく知りたい方は「偽装請負とは」をご覧ください。

偽装請負とならないためにはどうしたらよいですか?

偽装請負とならないようにするためには、まず、適切な内容の業務委託契約書を結ぶのが大切です。契約書を結んだだけで安心せず、その後も、発注者から労働者に対し、具体的な指揮命令がされないように注意しておかなければなりません。もっと詳しく知りたい方は「偽装請負にならないための注意点と対策」をご覧ください。

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