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eスポーツのゲーム大会の賞金と日本の法律(賭博罪・景品表示法など)

ゲーム大会で勝敗を競う「eスポーツ」の社会的な認知は広がり、近年では大会が頻繁に開催されています。海外では、高額の賞金が出る大会も多く、注目を集めています。

注目度が増す一方で、高額の賞金などの金銭が絡むことで、eスポーツは単なる「遊び」の域を越え、法律問題についての検討が必須となっています。eスポーツは比較的新しい分野であり、現行の法律では十分に対応できない部分もあるため、類似の法律問題の解釈を参考にしながら、法的リスクを検討しなければなりません。

今回は、eスポーツの法律問題でも特に相談が多い「高額賞金や景品に関する法規制」について、賭博罪や景品表示法違反といった観点から、弁護士が詳しく解説します。

この解説のポイント
  • eスポーツのゲーム大会で賞金を払うときは、法規制に注意を要する
  • 参加費を原資とした賞金は「賭博」と判断される可能性がある
  • 賞金が「景品類」に該当するとき、景品表示法の規制を受ける

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

「迅速対応、確かな解決」を理念として、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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eスポーツ大会の賞金に関する法律問題

本

eスポーツは、世界的に急速な発展を遂げている分野です。

インターネットの普及により、国境を越えて世界中のプレイヤーと対戦できる環境が整ったことで、国内の市場規模を超え、大きく成長する可能性を秘めています。

eスポーツが盛んな海外では、高額な賞金の出る大会も数多く開催されています。賞金の高額化は、プレイヤーの大会参加の動機となり、競技人口を拡大すると共に、eスポーツそのものの社会的な注目度を高める要因にもなっています。

しかし、日本国内で高額賞金付きのeスポーツのゲーム大会を開催する場合、「刑法」「景品表示法」「風営法」という3つの法律が関わるため、慎重に検討する必要があります。日本における法的規制を十分に理解し、適切に対応しなければ、円滑な大会運営は困難となります。

本解説では、以下の3つの法律について順に解説します。

  • 刑法における賭博罪の適用
  • 景品表示法による景品規制
  • 風営法によるゲームセンター規制

それぞれの法規制がeスポーツのゲーム大会にどのような影響を及ぼすのか、どのような点を遵守すればよいのかについて、具体的に説明していきます。

刑法における賭博罪の適用

はてな

eスポーツ大会と、刑法の賭博罪との関係について解説します。

eスポーツ大会において、参加者から徴収した参加費を原資として、勝者に賞金を支払う形式を取る場合、刑法で禁止される「賭博」に該当するおそれがあります。刑法の賭博罪に該当する場合、以下の刑事罰が科されるおそれがあります。

  • 大会参加者(賭博罪)
  • 大会主催者(賭博場開張図利罪)

このように、eスポーツ大会の運営方法によっては、プレイヤーや主催者が刑事責任を問われる可能性があるため、慎重な対応が求められます。

eスポーツ大会が「賭博」とみなされる理由

刑法における「賭博」とは、「偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うこと」を指します。eスポーツ大会の運営方法によっては、以下の要素が賭博に該当する可能性があります。

  1. 参加費を徴収していること
    参加者が賞金を得るために金銭を支払っており、その金銭が賞金の原資となっている場合、賭博とみなされる可能性があります(「優勝者総取り」など)。
  2. ゲームの勝敗に運の要素が含まれること
    eスポーツはプレイヤーの技術が勝敗を左右する側面が強いものの、ゲームの種類によっては運の要素も関与し、完全に実力のみで決まるとは言い切れません(例:クリティカルヒットやアイテムのドロップなど、ランダム要素が大きな影響を及ぼす場合)

以上の要素を満たす場合、eスポーツ大会は選手に対して賭博罪(刑法185条)、大会主催者に対して賭博場開張図利罪(刑法186条2項)に該当するリスクがあります。

eスポーツ大会が「賭博」にならないための対策

eスポーツ大会の賞金が「賭博」に該当しないようにするには、以下のような運営方法を採用することが有効です。

  • 参加費を徴収しない大会
    参加者から一切の金銭を徴収しなければ、賭博の要件を満たしません。
  • 賞金や商品を第三者が提供する大会
    賞金や賞品が、参加者や主催者以外の第三者(スポンサーや自治体など)から提供される場合、参加者が自己資金を賭けているわけではないので、賭博に該当しません。
  • 参加費を徴収する場合、賞金とは別管理にする
    参加費が賞金の原資にならないよう、大会の運営費(会場費・スタッフ費)にのみ使用する、賞金や賞品は第三者から提供されるものに限り、参加費と賞金を分別して別口座で管理するといった方法により、賭博とみなされるリスクを低減できます。

これらの対策を講じることで、「参加者が自らの資金を賭けて、賞金を獲得する」という賭博と似た状況を回避し、刑法による賭博罪のリスクを減らすことができます。

景品表示法による景品規制

eスポーツ大会と景品表示法の景品規制との関係について解説します。

景品表示法(正式名称:「不当景品類及び不当表示防止法」)は、不当な景品類の提供による顧客誘引を防ぐため、景品類の付与に関する一定のルールを定めています。

eスポーツ大会に参加するには、対象となるビデオゲームを購入する必要があり、更にゲーム内で課金しなければ有利にプレイできないケースも多いです。このような状況について「ビデオゲームの購入や課金といった取引に付随して、大会の勝者に賞金が提供されている」と捉えた場合、景品表示法の景品規制が適用されるおそれがあります。

eスポーツ大会の賞金が景品規制の対象となる理由

景品表示法では、景品規制の対象となる「景品類」について、次のように定めています(景品表示法2条3項)。

景品表示法2条3項(抜粋)

この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

景品表示法(e-Gov法令検索)

上記の条文では、「景品類」に該当するための要件として、以下の2つが挙げられます。

  • 顧客誘引性:「顧客を誘引するための手段」であること
  • 取引付随性:「商品又は役務の取引に付随」して提供されること

この要件を、eスポーツ大会に当てはめると、以下のように解釈できます。

  • 「顧客誘引性」の要件を満たす
    高額賞金の存在は、プレイヤーを大会に参加させる動機となります。賞金目当てに練習してゲーム大会に参加するプレイヤーも多いでしょう。中には、それで生計を立てるプロeスポーツ選手(プロゲーマー)も存在します。
  • 「取引付随性」の要件を満たす
    大会参加者が、ゲームを購入したり課金したりすることで、ゲームメーカーは利益を上げることができます。eスポーツの多くは、実際にゲームを購入し、課金しなければ上達が難しいでしょう。そして、多くのゲーム大会は、販売するメーカー主催で行われます。

このように、eスポーツ大会の賞金・賞品が「景品類」に該当すると判断されると、景品表示法の規制を受けることになります。

景品規制を受ける場合の賞金の限度額

次に、eスポーツ大会の賞金が景品規制の対象となる場合、「いくらの賞金額まで認められるのか」、賞金の限度額が問題になります。景品表示法は、景品の提供に関する規制として、「総付景品」と「懸賞」の2種類の規制を定めています。

  • 総付景品
    商品・サービスの購入者全員に提供される景品に関する規制(例:来場者全員にプレゼントされるノベルティなど)。
  • 懸賞
    「ⅰくじその他偶然性を利用して定める方法、又はⅱ特定の行為の優劣又は正誤によって定める方法によって景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めること」の規制(例:eスポーツ大会の賞金・賞品)。

したがって、eスポーツ大会の賞金・賞品は、ゲームという競技の結果によって提供されるため、「懸賞」に関する規制を受けます。「懸賞」に該当する場合、提供することのできる景品類について、最高額と総額の規制があります。

スクロールできます
取引価額景品類の最高額の限度景品類の総額の限度
5,000円未満取引価額の20倍懸賞に係る売上予定総額の2%
5,000円以上10万円懸賞に係る売上予定総額の2%

この規制により、たとえ取引価額が高額でも、賞金の最高額は10万円が限度となります。これでは、eスポーツ大会の賞金だけで生活するプロプレイヤーを多く輩出したり、高額賞金によってeスポーツ大会を活性化させたりするには不十分と言わざるを得ません。

eスポーツ大会が景品規制を受けないための対策

以上のことから、eスポーツ大会の賞金が「景品類」に該当しなければ、景品表示法の規制を受けることはなく、自由に賞金額を設定できます。

この点について、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が消費者庁に対してノーアクションレター(法令適用事前確認手続)を提出した結果、消費者庁は、以下の場合には景品規制の潜脱と認められる事情がない限り「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、「景品類」には該当しないとの判断を示しました。

  • JeSUが実施するプロライセンス制度によりライセンスを付与した選手のみに賞金を提供する場合
  • 賞金の提供先に資格制限を設けないが一定の方法(審査・資格承認などによる資質の保証)で参加者を限定した上で、成績に応じて賞金を提供する場合

つまり、プロライセンスを有するプレイヤーや、ライセンス選手でなくても大会の競技性、興行性の向上に資する一定の資質を有することを条件とすれば、景品規制を超えた賞金・賞品を提供しても「仕事の報酬等」と位置付け、規制を回避できるわけです。

ただし、この対策を講じるには、プロとアマを区別する基準、高いスキルや資質をどのように担保すか、という難しい課題が残ります。

なお、これらの規制は、あくまでゲームメーカーなど、販売・課金により利益を享受する企業が主催するeスポーツ大会の問題です。

ビデオゲームの販売やゲーム内の課金で収益を得ていない第三者が賞金付きの大会を開催する場合、景品表示法の景品規制は問題になりません。

風営法によるゲームセンター規制

eスポーツ関連の施設運営者は、風営法の規制に注意が必要です。

風営法(正式名称:「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」)により、ゲーム機が設置されている施設は、ゲームセンターとしての規制を受ける可能性があります。必ずしも従来の「ゲームセンター(アミューズメント施設)」として営業していなくても、店舗などにゲーム機(家庭用ゲーム機を含む)が備え付けられているだけでも、法規制の対象となる可能性があります。

風営法は、ゲームセンターを次のように定義し、風俗営業としての規制を受けると定めます。

風営法2条

この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。

一~四 (略)

五 スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る。)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く。)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業(前号に該当する営業を除く。)

風営法(e-Gov法令検索)

つまり、ゲーム機を設置した施設で、利用者に遊技を提供する営業を行う場合、風営法の適用を受ける可能性があるということです。この場合、次の規制が適用されます。

ゲームの結果に応じた賞品の提供は禁止

風営法23条2項では、ゲームセンターを営む者は「遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない」と規定されています。そのため、eスポーツカフェやeスポーツバーなど、継続的に営業する施設では、ゲームの結果に応じて賞品を提供することはできません。

営業には公安委員会の許可が必要

風俗営業に該当する施設を運営する場合、都道府県公安委員会の許可を取得する必要があります。無許可で営業を行った場合には、「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金」またはその両方という刑事罰を科されるおそれがあります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、eスポーツの大会の賞金に関する法律問題について解説しました。

この問題は、eスポーツ大会を主催する企業・団体だけでなく、大会に参加するプレイヤーにとっても注意すべき重要なポイントです。

eスポーツ業界の発展には、プロ選手の活躍や高額賞金を掲げた大会の開催が大きな役割を果たします。これにより競技の魅力が増し、スポンサーの関心を引き、市場拡大に繋がるでしょう。しかし、法律への配慮を怠ると、賭博罪や景品表示法違反といったリスクを招き、大会主催者や参加者は思わぬ不利益を被ることとなります。eスポーツがビジネスとして確立されるほど、法令遵守(コンプライアンス)への意識がより一層求められます。

新規性の高い事業分野では、法的リスクの事前検討が不可欠です。eスポーツ関連の法務や大会運営に関するお悩みは、ぜひ一度弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • eスポーツのゲーム大会で賞金を払うときは、法規制に注意を要する
  • 参加費を原資とした賞金は「賭博」と判断される可能性がある
  • 賞金が「景品類」に該当するとき、景品表示法の規制を受ける

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