
担当弁護士
窪木稔
- 相談者
女性・30代後半・秘書 - 事案の概要
依頼者は、社長の秘書業務を担当していた方です。業務上、出張同行の機会が多く、取引先対応や会食の手配などのため、同じホテルに宿泊することもありました。その後、社長の妻に宿泊状況を知られ、社長との不倫を疑われ、慰謝料や調査費用などとして500万円を超える損害賠償を求める訴えを提起されました。当事務所では、出張への同行や宿泊はいずれも秘書業務の一環であり、その他に不貞行為を示す客観的証拠が存在しないことを主張した結果、裁判所は請求を全て棄却しました。
- 本事例は、守秘義務およびプライバシー保護の観点から、個人を特定できる情報を削除するとともに、事案の本質を損なわない範囲で事実関係の一部を変更・抽象化しています。
ご依頼時の状況
依頼者は、社長秘書として勤務し、出張がある場合には同行することがありました。
出張先では、依頼者と社長が同じホテルに宿泊することもありましたが、客室は別に予約されていました。また、会食が夜遅くまで続いた場合、その後に翌日の予定変更や資料確認を行うために、深夜まで社長と業務上のやり取りをすることはありました。こうした勤務状況から、社長の妻は、依頼者と不倫関係にあるのではないかと疑うようになりました。
社長の妻は、調査会社に依頼して、依頼者が社長とともに新幹線や飛行機を利用していること、同じホテルに宿泊したことがあること、出張先で食事をともにしていることなどを確認し、これらを根拠に、不貞慰謝料の支払いを請求してきました。
弁護士による対応と解決結果
弁護士による対応
当事務所では、交渉の段階から依頼を受けました。
依頼者は不倫を否定していたものの、紛争が長期化すれば仕事に影響が及ぶおそれがあったため、早期解決の観点から、責任を認める趣旨ではないことを前提に、50万円の解決金を提示しました。しかし、相手方が高額の慰謝料と謝罪を要求したため折り合いはつかず、訴訟が提起されました。
確かに、依頼者と社長が出張をともにし、同じホテルに宿泊した事実は否定できませんでした。
そのため、単に「不貞行為はなかった」と否定するだけではなく、秘書業務として合理的な理由があることを具体的に説明する必要がありました。
そこで当事務所は、担当業務や出張同行の必要性を詳細に整理しました。依頼者は実際に、取引先との連絡、訪問先への同行、会食場所や移動手段の調整、翌日の会議資料の確認といった秘書業務を真摯に担当していました。原告側が問題視した宿泊についても、別々の部屋で宿泊しており、同一の客室に出入りしたことを示す証拠はありませんでした。
さらに、出張の予定表、交通機関やホテルの予約状況、取引先とのメールなどを整理し、業務上予定されたものであり、不貞関係を前提とするものではないことを強く主張しました。メールやメッセージは全て開示し、業務上の内容のものしかないことを指摘しました。
原告側から本人尋問が申請されたものの、不貞行為を裏付ける客観的な証拠がそもそも存在せず、提出済みの証拠で判断可能であるとし、尋問実施の必要性がないことを主張しました。
解決結果
裁判所は、原告の請求を棄却する判決を下しました。
原告側は、同じホテルに宿泊していた点を再三指摘したものの、あくまで職務上の必要性に基づくものであり、同一の客室に宿泊していたことや、不貞行為があったことを示す証拠がないことなどが判決文に明記され、「不貞行為があったと認めるに足りる証拠はない」と判断されました。
これにより、原告が請求していた慰謝料をはじめ、調査費用や弁護士費用を含む損害賠償請求は一切認められないという結論となりました。
担当弁護士(窪木)のコメント

不貞慰謝料請求の事案では、不貞行為を立証する証拠が必要となります。
不貞そのものを直接示す証拠を入手することは難しいため、旅行したこと、同じホテルで一夜を過ごしたことといった事情が、不貞行為を推認するものと主張されることが多いです。しかし、外形的にそのような事情が存在するだけで、必ず不貞行為が認められるわけではありません。
本事案のように、仕事上の関係があり、出張への同行や宿泊について合理的な理由がある場合、その背景も含めて判断する必要があります。「社長と秘書の関係だから」というだけで不倫を疑うのは適切でなく、実際に業務を担当しており、別室での予約があったことなどが重視されました。
勝因は、「一緒にいた」という事実だけではなく、なぜ一緒にいたかを客観的な資料に基づいて説明できた点にあります。また、不貞慰謝料の裁判では、探偵や調査会社の報告書が重視されることが多いものの、単に「同じ場所にいた」ことを示すに過ぎないことも少なくありません。そのため、不貞を否定する側からは、本事案で出張の予定表、交通機関やホテルの予約記録、取引先とのメールなどを証拠としたように、様々な証拠を検討する必要があります。
外形的に疑われやすい立場にある場合ほど、証拠集めを丁寧に行わなければなりません。高額な慰謝料を請求されてもあきらめず、反論がある場合は弁護士に相談してください。
参考となる解説

