
弁護士法人浅野総合法律事務所
代表弁護士
浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。

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浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。
「迅速対応、確かな解決」を理念とし、依頼者が正しいサポートを選ぶための知識を与えることを心がけています。
歯科治療を途中でやめたいと考える方から、解約や返金をめぐる相談例が多くあります。
「途中でやめる場合、支払った治療費は返金されるのか」「高額な自由診療の契約をしたものの、治療内容に不満があって解約したい」といったケースは、トラブルになりやすいです。
インプラントや矯正治療、セラミック治療などの自由診療では特に、通院の継続を要し、数十万円から数百万円の費用がかかることもあります。そのため、中途解約時の返金額をめぐって歯科医師と患者の争いが起こる例も少なくありません。実際に、契約内容や解約のタイミングによっては返金を請求できることもあり、消費者としての保護を受けられる可能性もあります。
今回は、歯科治療を中途解約した場合に返金請求が認められるケースや返金額の考え方、トラブルを回避するための注意点を、弁護士が解説します。
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はじめに、そもそも歯科治療契約を中途解約できるかについて解説します。
中途解約について、歯科治療契約がどのような法的性質を有するかによって扱いが異なります。歯科治療と一口に言っても、虫歯治療、歯列矯正、インプラント治療、口腔内手術などの様々な種類があるため、その性質ごとに判断する必要があります。
一般的な歯科治療のために歯科医師と結ぶ「治療契約」は、準委任契約の性質を有します。
準委任契約は、法律行為以外の事務を委託する契約であり、委任に関する規定が準用されます(民法656条)。その結果、委任契約の当事者は、いつでも解除が可能です(民法651条1項)。
一方で、相手方に不利な時期に解除した場合や、受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)を目的とする場合、相手に生じた損害を賠償する必要があります。ただし、歯科治療において、歯科医師側に報酬以上の損害が生じることは稀でしょうから、賠償責任が生じるのは、不利な時期に解除した場合に限られます(例:高価な部材を購入した後など)。
一方で、請負契約としての性質を有すると考えられる歯科治療もあります。
例えば、歯列矯正のように一定の結果を約束するものは、請負契約の性質を有すると評価できます。そのため、提供された医療行為が債務の本旨に従わず、無意味・無価値であると考えられる場合には、債務不履行として解除し、支払済みの治療費の返還を求めることができます。
また、歯科医師は、民法上の善管注意義務に加え、歯科医師法によって適切な治療を提供する義務を負い、治療方針やリスク、料金の説明などもその義務の一部となります。したがって、歯科医師が治療の目的や必要性について十分な説明を怠り、説明を受けていれば治療を受けなかったと考えられる場合、債務不履行として解除し、治療費の返還が認められる可能性があります。
歯科治療のうち、美容医療などの特定の役務で、期間が1ヶ月を超え、かつ金額が5万円を超えるものは、特定商取引法上の「特定継続的役務提供」に該当します。
この場合、患者は、消費者としての次のような権利を有します。

歯科治療を中途解約する場合、最大の懸念点が「費用」でしょう。
以下では、中途解約に伴って、支払い済みの治療費の返金を求めることができるか、損害賠償や違約金、キャンセル料などの追加の支払いが生じるかといった点を解説します。
中途解約の場合の精算は、履行割合に応じることが原則となります。
これは、準委任契約に準用される委任契約の定めに従ったものであり、民法648条3項にも、委任が中途で終了したときに、「既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる」旨が定められています。したがって、次のように整理できます。
したがって、歯科治療を中途で解約しようと考えている方は、その時点で治療が全体のどの程度の割合進んでいるかを把握しておく必要があります。
歯科治療契約では、患者は消費者としての保護を受けられます。「事業者」である歯科医師と、「消費者」である患者との契約であるため、消費者契約法が適用されるからです。
その結果、「患者都合の中断の場合、返還には一切応じない」といった条項は、患者側(消費者側)の利益を一方的に害するため、消費者契約法10条に基づき無効となります。また、こうした不当な条項を強いる歯科医師での治療はトラブルの元であり、慎重になるべきです。
同様に、不当に高額な損害賠償やキャンセル料の請求にも応じる必要はありません。
委任契約を相手の不利な時期に解約した場合、生じた損害を賠償する必要があると解説しましたが、あくまで実際に生じた損害に限られます。歯科治療に関するクレームが生じるなど、感情的に対立すると、高額な賠償を請求される例もありますが、安易に応じてはなりません。
一方で、中途解約の際に、患者側からの追加の支払いが必要となるケースがあります。
例えば、歯科治療に伴ってすでに部材購入費、外注費などの実費が生じており、歯科医師が支払いを行っていた場合、請求に応じる必要があるケースがあります。歯科治療では、義歯やインプラント、歯型、補綴物の作成、画像診断などで外注を要することがあります。
法律上も、民法649条において「委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない」と定められています。
高額になりやすい歯科治療では、治療費の支払いにデンタルローンを利用することがあります。
デンタルローンは、歯科治療のための信販会社のサービスです。信販会社が一括して歯科医師に対して治療費を立て替え、患者は信販会社に対して分割返済することを内容とします。デンタルローンを利用した歯科治療の中途解約では、治療開始時に、信販会社から治療費が全て支払われているため、「返金は可能か」「将来の分割支払いは必要か」といった点が問題になります。
結論として、デンタルローンを利用した歯科治療でも、中途終了する場合には返金を求めることができます。ただし、歯科医師と患者だけでなく、信販会社を含めた三者間での調整が必要です。
実務的には、患者の同意書を取り付けることで、歯科医が信販会社に対して残債務を払って精算するという方法が多く利用されています。

最後に、歯科治療契約の中途解約時に、トラブルを回避するための注意点を解説します。
日常的に行う「歯医者に通う」という行為も、歯科医との契約であるため、法的な観点から検討し、証拠を意識して行動する必要があります。
歯科治療を途中で止めることを考える場合、まずは契約内容を確認しましょう。
歯科医師は、患者に治療内容を説明する義務があるため、契約内容が確認できない場合は説明が不十分とも考えられます。手元の契約書を確認し、書面がない場合でも、契約時の説明の録音、メールやメッセージのやり取りなどを見返し、証拠となるものがないかを精査してください。
特に、中途解約、料金の精算方法やキャンセル料・違約金の有無といった条項を確認し、不明点がある場合は、解約前に必ず医院に問い合わせ、説明を求めるべきです。
解約の意思表示の方法に決まりはなく、電話やメールでも構いません。
ただし、将来トラブルとなる可能性のあるケースでは、書面で伝えるのがおすすめです。特に、医療ミスの疑いがある場合などは、内容証明の方法で証拠に残して進めるべきです。

前述の通り、準委任契約の性質であれば、中途解約は任意の時期に可能ですが、医療ミスに対するクレーム、説明義務違反などを理由として解約する場合には、あわせて損害賠償請求などの責任追及を行うことも検討してください。
歯科治療を中途解約するときは、必ず合意書を作成しましょう。
合意書を作成して証拠を残すことで、治療費の支払いをはじめとした将来のトラブルを未然に防止できます。追加で治療が必要となったり、別の歯科医師に引き継ぐための協力を求めたりする際にも、中途解約時の問題が整理されていることが大切です。まして、不具合が出て責任追及を検討する際には、終了時にどのように話し合いが行われたかの証拠が重要な役割を果たします。
中途解約の合意書では、次のような内容を記載しておいてください。

今回は、歯科治療の中途解約と返金請求について解説しました。
歯科治療を中途解約するにあたり、患者側の懸念点となるのが、支払った治療費の返金でしょう。既に支払っている治療費の返金だけでなく、分割払いとした将来の支払いや、デンタルローンを利用している場合の解約なども、法的な観点から検討する必要があります。
歯科治療に支払う治療費は、決して安いものではありません。小さなミスやクレームでも、我慢していると医療事故に発展するおそれもあります。また、そうでなくても、相性の合わない歯医者に「費用を支払ってしまったから」というだけの理由で通い続けるのはストレスでしょう。
歯科治療は、歯医者と患者との間の契約であるため、トラブルについても法律知識をもとに検討する必要があります。歯科治療のトラブルで悩む方は、ぜひ弁護士に相談してください。
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