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条件付きの解雇予告は無効!解雇予告手当の支払いが必要です

遅刻や無断欠勤をくり返したり、何度注意しても同じミスをする問題社員に、「次に無断欠勤したらクビ」、「次に同じミスをしたら解雇」などのように、将来の解雇をほのめかすことがあります。

日本の解雇ルールでは、解雇予告が必要であり、30日前に解雇予告をするか、不足する日数分の解雇予告手当を払わなければなりません(労働基準法20条)が、このように「条件付きで将来解雇する可能性がある」とつたえる発言は、残念ながら法的に「解雇予告」とは認められていません。

そのため、将来、条件付きで解雇するとつたえていたとしても、あらためて予告期間を置いて解雇するか、もしくは、即時解雇したいときには解雇予告手当を支払う必要があります。

今回は、条件付きの解雇予告が無効となる理由と、条件付きの解雇予告後に解雇するときの対応や注意点について、人事労務にくわしい弁護士が解説します。

この解説でわかること
  • 条件付きで、将来解雇するとつたえたとしても、解雇予告にはあたらない
  • 条件付きで解雇をつたえ、実際に条件を満たしたとき、改めて解雇予告もしくは解雇予告手当が必要
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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所 代表弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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条件付きの解雇予告は無効

✕を出す女性

条件付き解雇予告とは、冒頭のとおり「次に同じミスをしたらクビ」、「次に無断欠勤したら解雇」というように、将来一定の条件が満たされたときには、自動的に解雇処分となると、社員に対して通告、警告することです。

条件付き解雇予告は無効です。その理由は、労働者の立場を不安定にしてしまうからです。

条件付き解雇予告を受けると、会社に残りたいと考える社員は「頑張れば雇用継続してもらえるのではないか」と考え、条件を満たしてしまわないよう努力するでしょう。しかし、いざ解雇になってしまうとき、転職先を探すなど本来であれば予告期間中にしておくべきだった解雇の不利益を少なくするための努力を、することができなくなってしまいます。

このことは、労働基準法が労働者保護のために解雇予告のルールを定めた意味がなくなってしまいます。そのため、条件付き解雇予告は、労働基準法20条の「解雇予告」とは認められないのです。

上記のような条件付きで解雇するという発言は、あくまで「次に同じミスをしたとき、解雇も含めた厳しい処分とする可能性がある」という将来の可能性をつたえ、注意指導し、改善を求めるといった程度の意味しかありません。そして、労働基準法20条の「解雇予告」の意味は持ちません。

条件付き解雇予告の後に解雇するときの正しい対応

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次に、条件付き解雇予告しかしていないとき、その後に解雇するときの正しい対応について解説します。

解雇予告・解雇予告手当とは

労働基準法20条では、解雇するときは、30日前に解雇予告をするか、もしくは、不足する日数分の解雇予告手当を支払うことを義務付けています(そのため、即日解雇のときは、30日分の解雇予告手当が必要となります)。

解雇予告のルール
解雇予告のルール

労働基準法20条(解雇の予告)

1. 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2. 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3. 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

労働基準法(e-Gov法令検索)

解雇予告手当の計算方法は次のとおりです。

解雇予告手当=平均賃金×解雇までに30日に不足する日数

つまり、解雇予告が、解雇日の10日前になされれば予告手当は20日分、20日前になされれば予告手当は10日分となります。平均賃金は「直近3ヶ月に支払われた賃金総額/3ヶ月の暦日数」で算出します。

なお、日々雇い入れられる者、2ヶ月以内の期間を定めて使用される者、季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者、試用期間中(14日以内)は解雇予告手当が不要です(労働基準法21条)。

解雇が決定してから、あらためて解雇予告・解雇予告手当の支払いが必要

前章で解説したとおり、条件付き解雇予告は、労働基準法にいう「解雇予告」としての効力を有しません。そのため、事前に条件付き解雇予告をつたえていても、その条件を満たした日にすぐに解雇すると、「即日解雇」と判断され、30日分の解雇予告手当を要します。

つまり、「次に同じミスをしたらクビ」、「次に遅刻したら解雇」のように条件付き解雇予告をしていたとしても、いざその条件を満たして解雇することが正式に決定したら、その後にあらためて解雇予告をする(もしくは解雇予告手当を払う)必要があります。

そのため、どうしても解雇予告手当を支払いたくない会社では、条件付き解雇予告しかしていないと、実際に条件を満たすようなミスや問題行為があったときに即解雇することができず、更に解雇予告し、あと1ヶ月間待たなければならないということになります。

解雇予告手当を払わなくてよいケース

懲戒解雇をするケースのように、労働者側に重い責任のあるとき、労働基準監督署の除外認定を得られれば、解雇予告手当を払わなくてもよいとされています(労働基準法20条但書)。

そのため、「次に無断欠勤したら解雇」というような条件付き解雇予告しかしていない状態で、いざ無断欠勤が起こったなど条件を満たしたときでも、労働基準監督署の除外認定を得て懲戒解雇するのであれば、解雇予告手当の支払いは不要です。

除外認定を得られるのは、窃盗や横領、2週間以上の長期の無断欠勤など労働者の責任が重大な場合に限られ、容易に認められるわけではありませんが、条件付き解雇予告をせざるをえないほどの問題点が労働者にあるケースでは利用を検討してみてもよいでしょう。

条件付き解雇予告に関する法的な注意点

注意点

最後に、条件付き解雇予告について、法的な注意点を解説します。

解雇が確定している時は、「条件付き」と受けとられないように予告する

すでに解雇すると確定しているときには、その解雇を予告するときに、条件付き解雇予告だと受けとられてしまわないよう、伝え方には注意が必要です。

条件付き解雇予告が無効となる理由が、労働者の地位が不安定になってしまうことを防止する点にあることから、「○月○日付けで解雇する」というように解雇日を示して明確に伝えるのではなく、将来の雇用継続の期待を少しでももたせるような発言をしてしまったとき、条件付き解雇予告であると受け取られてしまうおそれがあります。

例えば、次のような解雇の伝え方が、条件付き解雇予告と受け取られてしまい、無効となってしまうおそれがあります。

  • ○月○日付で解雇をする「予定」だと伝える
  • ○月○日付で解雇する、ただし、それまでの努力によっては検討すると伝える
  • 解雇以外にとれる選択肢を、あわせて社員に提案する

解雇すると決まっているのであれば、将来の解雇について、断定的な表現でつたえるようにしてください。誤解が生じるのを防ぐためにも、「解雇予告通知書」を作成して交付する方法がおすすめです。解雇予告通知書を交付することで、解雇理由や予告日などを証拠化することができます。

試用期間中の解雇予告の注意点

条件付き解雇予告が「解雇予告」(労働基準法20条)にならないと解説しましたが、この点が特に問題となるのが、試用期間中に「次に同じミスをしたら本採用はできない」というように、条件付きで本採用拒否を予告してしまうケースです。

試用期間は、採用時には把握しきれない能力や適正を図る期間で、期間中もしくは満了時における本採用拒否は、本採用後の解雇よりは企業側の裁量が認められるものの、法的には「解雇」の性質を持ちます。そのため、本採用拒否にも解雇予告(もしくは解雇予告手当の支払い)が必要です(なお、試用期間開始14日以内の解雇では不要。労働基準法21条)。

したがって、本採用拒否の予告を適切に行うためには、試用期間満了時の30日前までには本採用の有無を決定して、予告をする必要があります。

そうすると、会社が試用期間中の社員に対して、条件付きの本採用拒否の通知しかしていないとき、これが試用期間中の注意指導として、奮起をうながすなどの目的でなされているのであればよいのですが、試用期間満了30日前に、「予告」だと思って行われてしまうと、いざ本採用拒否をするときには予告手当の支払いが必要となってしまいます。

まとめ

今回の解説では、「次に同じミスをしたらクビ」、「次に無断欠勤したら解雇する」というように伝える、条件付き解雇予告が無効であることと、その際の注意点について解説しました。

条件付き解雇予告は、労働者の地位を不安定にしてしまうため無効とされますから、実際に解雇する際には、再度解雇予告(もしくは解雇予告手当の支払い)が必要となります。また、解雇が確定しているときには、条件付き解雇予告と評価されないよう断定的に伝えることがポイントです。

実際に解雇予告をするときには、解雇理由を記載した解雇予告通知書を交付するようにしてください。

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