MENU
弁護士 浅野英之
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題について、豊富な経験を有する。

→弁護士 浅野英之の詳細
ご相談予約をお待ちしております。

テレワークの労務管理の課題と、長時間労働を防止する対策

テレワークは、働き方改革による多様な働き方の推奨、新型コロナの蔓延等の様々な事情で、近年導入が進んでいます。

しかし、導入時に、注意すべき課題を理解しておかなければ、テレワークを導入したことでかえって労働問題が噴出し、トラブルの火種となってしまいます。テレワークの労務管理のなかでも、特に大きな課題が、社員の労働時間に関すること、つまり「長時間労働対策」と「残業代」です。

下記調査によれば、テレワークにおいて「通常の業務(出勤しての勤務)よりも長時間労働になることがあった」と回答する人が51.5%いて、更に「深夜の時間帯に仕事をすることがあった」と回答する人が32.4%いることがわかります。

引用元:テレワークに関する調査2020(日本労働組合総連合会)

今回は、テレワーク導入時に会社が知っておくべきトラブル回避のポイントを、弁護士視点から解説します。

この解説でわかること
  • テレワークでも労働時間を把握しなければならない
  • テレワークだからといって労務管理をおろそかにすると、残業代請求、安全配慮義務違反の慰謝料請求等のリスクを負う

↓↓ 動画解説(約9分) ↓↓

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所を経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を開業。
企業の労働問題に豊富な経験を有する。

\相談ご予約受付中です/

テレワークと労働時間の問題(長時間労働・残業代)

テレワークと労働時間の問題には、主に、長時間労働によってうつ病等のメンタルヘルスにかかったときの労災・安全配慮義務違反と、残業代の2つがあります。

テレワークを導入したとしても、会社が社員の労働時間を把握する義務を負うことに変わりはありません(2019年4月より、労働安全衛生法で、労働時間を把握・管理すべき会社の義務が明文化されました)。労働時間を適切に把握・管理することで、長時間労働を抑制し、労働者の健康と安全を守ることがその趣旨です。

労働時間の把握は、支払うべき残業代が生じているときは当然、そうでなくても、労働者の健康を保つために必要となります。このとき、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいい、テレワークで就労する時間も当然ながら労働時間にあたります。テレワークのとき、タイムカード打刻により管理することが難しいという課題があります。

テレワーク中の労働時間の把握のしかた

テレワークによる労働時間の問題を解消するために、テレワーク中の労働時間の把握をしっかりと行う必要があります。テレワークを導入しても、労働時間を把握しなければならないことは変わりません。出社させないために社長や管理職の目が届かず、管理がおろそかとなり、長時間労働になってしまったり、逆にサボりが増えてしまったりといった危険があります。

厚生労働省では、テレワークにおける労働時間の把握・管理に関する特有の問題について、ガイドラインを策定して注意を呼びかけています(厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)。

そこで次に、テレワーク中の労働時間の把握のしかたと注意点について解説します。

どの時間が「労働時間」かを理解する

上記ガイドラインにしたがって、テレワークにおけるどの時間が「労働時間」にあたるかを理解することが大切です。労働基準法で残業代の対象となる「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間とされています。テレワークで業務を実際に行っている時間だけでなく、その前後の時間も「労働時間」と評価され残業代が必要となってしまうことがあります。

「労働時間」かどうかが争いとなりやすいのは、次のような点です。

  • 中抜け時間
    業務時間中だが業務をしていない時間のこと。オフィスで働くときは休憩時間が明確に定められていますが、テレワークだと自由にとることができ、例えば子どもの送迎や家事等で業務をストップすることがあります。中抜け時間の労務管理を徹底するため、中抜けの開始・終了時に報告をもらう必要があります。
  • 移動時間
    テレワークでは、1ヶ所にとどまって仕事をする場合だけでなく、移動時間中もモバイル端末で業務を行うことがあります。通勤、出張等の移動時間は「労働時間」に含まないのが基本ですが、実際に移動中に業務を行っているとき、「労働時間」として把握、管理する必要があります。
  • ちょこっと残業
    テレワークだと、私生活の場と仕事の場が同じになるため、労働時間が終わっていても「ちょっとだけ残業しよう」と、思いついた仕事を少しだけする、というケースがあり、この場合、これが労働時間に含まれるか争いになります。「すぐ返せるからメールだけ返信しておこう」といった具合です。
  • テレワーク中の出社
    テレワークが導入されていても、どうしても出社が必要なときや、間引き出社をさせるとき、出社している時間も当然ながら「労働時間」となります。

客観的に記録する

会社が労働時間を把握するときには、タイムカード等の客観的な記録により行うことが原則です。

テレワークで出社しないとき、紙のタイムカードを打刻させることは物理的に困難ですが、現在では、リモートで勤怠管理できるクラウドサービスが多く登場しています。その中には、GPSで位置情報を取得し、労務管理に活かすことができるサービスもあります。

客観的に労働時間をきちんと記録しておけば、いざ未払残業代請求、長時間労働による過労死・過労自殺といった労働問題が発生するとき、会社にとって有益な証拠となります。

実際、多くの会社では、次のようにクラウドの出退勤管理システムやメール、パソコンのログ等を活用し、労働時間の把握を行っています。テレワークで、労働時間の記録を細かく行っておかないと、合間に育児や家事がはさまっていても、スタートから終了まで、すべての時間が労働時間と判断されてしまうおそれもあります。

引用元:テレワークに関する調査2020(日本労働組合総連合会)

自己申告制の注意点

労働時間はタイムカード等で客観的に記録することが基本ですが、社員に自主申告させて把握することでも足りるとされています。上記統計でもわかるとおり、少なくない割合の会社が、テレワーク中の労働時間の管理について「自己申告」と回答しています。

ただし、自己申告の場合には、申告された労働時間が正しいかどうか、長時間労働がなく適切な労務管理ができているか、といった点について十分な確認が必要です。自主申告にしたからといって社員任せでは、「隠れ残業」のリスクが増えてしまいます。

事業場外労働みなし労働時間制の注意点

オフィス外ではたらく社員について、労働時間の把握が難しいときには、事業場外労働みなし労働時間制(労働基準法38条の2)を利用することが検討されます。この制度は、事業場外における労働時間の把握が難しいとき、一定の時間だけ労働したものとみなす制度です。

ただし、事業場外労働みなし労働時間制を利用することができるのは、労働時間の把握が困難な場合だけです。次のような場合には、この制度を利用することはふさわしくないとされています。

これらの場合には、労働時間を把握できると判断される可能性があります。その場合、不適切な運用をすると、後から社員に多額の残業代を請求されかねないため注意が必要です。

テレワークでの長時間労働を防ぐ方法

次に、テレワークでの長時間労働を防ぐため、会社が行っておいたほうがよいことを解説します。テレワークを導入すると、社員の働きに目が届かない分だけ、むしろ長時間労働が増えてしまうおそれがあります。

前章で解説したような適切な労働時間の把握がされていないと、長時間労働が放置されてしまいがちです。テレワークの長時間労働が続くと、企業側にとって次のリスクがあります。

  • 未払残業代を請求されてしまう
  • 社員が健康を害したとき、労災・安全配慮義務違反となり、損害賠償請求を受ける

メール・チャットは業務時間内のみとする

メールやチャットの連絡はとても気軽であり、テレワーク導入時に重宝するツールです。しかし便利な半面、相手の都合に配慮せず、相手のプライベートを侵食してしまい、長時間労働を招くおそれがあります。

長時間労働を抑制するためには、時間外や休日・深夜にメールやチャットを送信することはひかえ、業務時間内のみとする必要があります。

特に、上司からのメールやチャットは強いプレッシャーとなりパワハラにもつながりやすいため、役員・管理職等の部下を持つ社員には厳しく教育指導しておく必要があります。

社内システムへのアクセスを制限する

メール・チャットを制限しても、どうしても緊急性を言い訳にして送ってしまいがちです。このようなとき、長時間労働を防ぐため、社内のシステムへのアクセスを制限し、物理的に労働できないようにしておく対策も検討してください。

時間外、休日・深夜にはアクセスできないようにしておくことで、問題社員からの不当な残業代請求を防ぐ効果も期待できます。残業の対象となる平社員と、残業の発生しない管理監督者とでアクセス権限を分ける方法も有効です。

残業は許可制とする

テレワークだと、目の届かないところでいつの間にか残業が増えてしまっているおそれがあります。このような事態を防止し、長時間労働をなくすために、残業を許可制とする運用が考えられます。残業を許可制とするときには、そのことを就業規則と雇用契約書に記載し、社員に周知します。

テレワークを導入するとき、基本的なルールを周知するため、テレワーク規程等の別規程を作成することが通例です。

残業の許可制は、無許可で残業する社員に残業代を払う必要がなくなるという効果が期待できる反面、無許可の残業を放っておくと、黙認していたこととなり、後に未払残業代を請求されて痛い目をみるおそれがあります。無許可残業によって長時間労働がかさんでいる社員がいることに気づいたら、厳しく注意しなければなりません。月60時間を超える残業がある社員、休日・深夜の労働が多い社員には、個別に注意喚起を行います。

自主的にはたらく社員は一見すると会社にとって有益に見えますが、いざ心身を壊したとき、安全配慮義務違反の責任を追及されるおそれがあります。

業務を効率化する

法律問題だけでなく、業務の効率化も忘れてはなりません。せっかくテレワークを導入したのですから、効率化を図るため、ペーパレス化、共有ストレージ・クラウドサービスの活用、郵便やFAXの排除、押印する書類を減らす、ネットバンキングの活用といった様々な技術を駆使しておきましょう。

パソコンやタブレット、スマホといった情報端末、ネット回線はテレワークに必須です。TV会議に使うマイクやカメラも必要です。業務に耐えられない脆弱な環境では、かえって業務スピードが遅くなってしまったりセキュリティに穴があったりするおそれもあります。自宅に幼い子どもがいるなど、ワーキングスペースの確保が難しい場合には、シェアオフィスを契約するといった対策も検討されます。

テレワークを効率よく行うための環境を整備するため投資を惜しんではなりません。会社として一定の費用支出を覚悟すべきです。テレワーク環境を整備する費用には、各種の助成金・補助金を活用できます。

テレワークの労務管理について、その他の課題

テレワークは、社員を自宅やカフェ、シェアオフィス等、会社のオフィス以外で働いてもらう就労形態です。リモートワークといったり、自宅ではたらくときには在宅ワーク、在宅勤務と呼んだりすることもあります。

ここまで解説した労働時間についての問題以外にも、テレワークを導入する際には注意したい多くの労務管理の問題があります。テレワーク導入に踏み切る前にしっかり対策しておきましょう。

コミュニケーションとハラスメント

まず、コミュニケーションの問題です。テレワークではオフィスに社員が集まることがなく、テレビ会議や電話、メール、チャット等のツールを介したやり取りとなります。業務命令、指示はもちろん、注意指導も直接行えないこともあります。

そのため、顔を合わせて会話をすれば生じなかったコミュニケーショントラブルが発生するおそれがあります。注意指導を伝える際の言葉が強くなることでハラスメントとなってしまうことも、直接対面するより多く発生します。

テレワークにおけるコミュニケーション課題の解決は、現在も進化しつづけるオンライン会議ツール、チャットツール等を使いこなすことである程度解決できます。

セキュリティと企業秘密

次に、セキュリティの課題です。テレワークではオフィス外に業務の資料を持ち出すことが当然の前提とされています。なかには、重要な企業秘密に関わる情報も多いことでしょう。加えて、社員自信のパソコンやスマホを業務に利用することが多いです。

そのため、ウイルス対策をきちんと行っておかなければ企業秘密の漏洩等の問題が生じてしまいます。

この課題は、ウイルス対策ソフトを会社負担で購入させ、必ずインストールするよう社員に指導することである程度解決できます。あわせて、企業秘密の考え方についてあらためて啓発するためセミナー等を受けさせることもおすすめです。

労働条件の変更

入社時にテレワークではなかったとき、途中からテレワークを導入することは労働条件の変更を意味しています。このとき、就業規則によって労働条件を不利益に変更するとき、社員の同意を得るか、もしくはその変更が合理的なものであることが必要となります。

会社は、社員の就業場所について雇用契約に明確に限定されているときを除き、ある程度の裁量を有しています。ただ、テレワークとなると、通勤手当を廃止したり、逆に、テレワークで利用するPCやネットワークにかかる費用負担をしたり等、様々な金銭の課題を解決しなければなりません。

在宅勤務手当(テレワーク手当)の導入、通勤手当の廃止、減額について、次の解説もご覧ください。

↓↓ 動画解説(約11分) ↓↓

テレワークを導入するメリット

テレワーク導入には課題・問題点が山積みな一方で、会社にとって多くのメリットがあります。

コミュニケーション不足等の見えづらい問題点を把握し、ツール導入で解決できれば、メリットを最大限活かすことができます。多くのハードルを乗り越えてもなおテレワークを導入すべき理由は十分あります。

人材不足の解消

少子高齢化によって労働力人口が減少しており、人材不足が多くの企業で課題となっています。テレワークの導入により、育児・介護を抱える優秀な人材を採用することが可能になります。また、遠隔地でも業務できるため、郊外に住む社員も雇用できます。

柔軟な働き方を許容することで、働き方がネックとなって入社できなかった優秀な人材を集めやすいという効果が期待できます。

生産性の向上

テレワーク導入によって業務効率を上げ、生産性を向上させることができます。テレワークであれば通勤時間を短縮できます。加えて、柔軟な働き方によって、育児・介護との両立も可能です。

特に、女性の就業促進、結婚・出産・育児を理由とする女性社員の離職率低下といった効果が望めます。

モチベーションの向上

テレワーク導入で、評価基準が成果主義的なものとなり、個人の能力・スキルに焦点があたるようになります。成果が重視されるため、目標を達成できる社員は、時間に余裕ができたり、副業ができたり、収入をさらに上げることができます。

その結果、モチベーションが向上し、自発的な努力によって能力を上げてくれ、会社にとっても大きなメリットとなります。

経済活動の分散

最後に、テレワークによって経済活動を分散させることができます。例えば、本社機能を都市部に残しながら、地方に社員を雇用することで、人件費を削減したり地方経済の活性化に貢献したりといった効果が期待できます。

出社の必要性がなくなり、顧客対応、対面会議が減少する結果、社員は必ずしも会社の近くに住まなくてもよくなり、物価の安い地方に住むことを選択できるようになります。

まとめ

今回は、テレワークを導入する企業が注意しておきたい課題と、なかでも特に問題となりやすい長時間労働の抑制について、弁護士の視点から法的な解説をしました。

テレワークを導入するとき、そもそもテレワークのメリットを活かせるか、本当に業務効率があがるのかといった経営視点も当然重要となりますが、これに加えて、コンプライアンス(法令遵守)の側面からも検討しておくことが大切です。

当事務所の労務管理サポート

弁護士法人浅野総合法律事務所では、企業の労働問題解決に強みをもち、紛争化する前から、予防法務の対応をすることができます。

テレワーク導入時のトラブルを避けるために、入念な検討を行い、テレワーク規程の作成、研修、社員教育等について弁護士のサポートを受けることが有益です。

テレワークの労務管理のよくある質問

テレワークでも労働時間を把握しなければなりませんか?

テレワークは、業務効率化等の観点から就労場所をオフィス以外としているだけで、労働時間を把握しなくてもよい制度ではありません。労務管理を適切に行わなければ、残業代の未払いや安全配慮義務違反等のリスクを負うこととなります。もっと詳しく知りたい方は「テレワークと労働時間の問題」をご覧ください。

テレワークの長時間労働を防ぐ方法はありますか?

テレワークの長時間労働を防ぐために、社員に業務負荷をかけすぎないようにしなければなりません。テレワークだからといって過剰な残業は許されないことを意識し、導入にはコストをかける覚悟が必要です。もっと詳しく知りたい方は「テレワークでの長時間労働を防ぐ方法」をご覧ください。

目次(クリックで移動)
閉じる