【金融機関向け】預貯金の仮払い制度と実務上のポイント・留意点

2018年(平成30年)に改正された相続法の原則的な施行日は、2019年7月1日とされています。

改正項目のうち、家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻し(いわゆる仮払い制度)も、2019年7月1日からスタートします。この制度は、預貯金債権のうち一定割合について、相続人単独で、払戻しを受けられるようにするというものです。

各金融機関では、仮払い制度に対応するためのシステム改修や、マニュアル類の改定作業が進められているものと思います。

今回は、この、家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻しの制度について、改正の背景や制度の内容、実務上のポイントや留意点を、弁護士がわかりやすく解説します。

なお、実際に制度設計や案件対応をする場合には、個別に弁護士に相談して対応して下さい。

1. 改正の背景(改正前における問題点)

1.1. 平成28年最高裁大法廷決定の影響

平成28年の最高裁判所大法廷決定で、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれると判断されました。

それ以降は、相続人は、預貯金債権については、遺産分割までの間は単独で行使することができず、共同相続人が全員で行使しなければ、払戻しを受けられなくなりました。

被相続人が生前に負っていた債務の弁済や、相続人の生活費の支弁のために、被相続人の預貯金の払戻しを受ける必要があるにもかかわらず、他の共同相続人の協力が得られないため、払戻しを受けることができないおそれがありました。

1.2. 家庭裁判所における預貯金債権の仮分割の仮処分

以上の問題点に対応するため、2018年7月の相続法改正では、2点の改正が行われました。

1つは、特定の相続人が、家庭裁判所に申立てをして、被相続人の預貯金債権を暫定的に取得できるための要件を緩和したことです。

この家庭裁判所の処分は「仮分割の仮処分」と呼ばれ、改正後の家事事件手続法200条3項に定めが置かれています。

 家事事件手続法200条3項 

・・・家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権・・・を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

これまでの家事事件手続法にも、預貯金債権の「仮分割の仮処分」の制度は存在しましたが(家事事件手続法200条2項)、要件が厳格であったため、利用されていませんでした。改正法は、これを活用しやすいように、要件を緩和したものです。

1.3. 家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻し

もう1つの改正点が、家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻しの制度です。

さきほど解説した家事事件手続法に基づく仮分割の仮処分は、改正法により確かに要件が緩和されましたが、裁判所に保全処分の申立てをしなければなりません。そのため、相続人にとっては負担となるおそれもあります。

そこで、相続開始後の小口の資金需要にこたえるため、裁判所の判断を経ることなく、被相続人の遺産に含まれる預貯金債権を行使することができるという制度も、あわせて導入されたのです。

2. 仮払い制度の内容

以下では、家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻しの制度(仮払い制度)の内容について、解説していきます。

2.1. 条文と概要

仮払い制度は、改正民法909条の2に、以下のとおり定められています。

 改正民法909条の2 

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

条文に出てくる、金融機関ごとの仮払いの限度額として「法務省令で定める額」は、150万円とされています(民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令)。

相続人が仮払い制度に基づいて金融機関で払戻しを受ける場合、その資金使途は問われません。したがって、金融機関としては、仮払いの請求があった場合に、その資金使途について確認する必要はありません。

2.2. 払戻しを受けられる金額の計算方法

仮払い制度に基づいて払戻しを受けられる金額は、それぞれの預貯金債権の額の3分の1に、払戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額で計算します(改正民法909条の2前段)。

例えば、普通預金の残高が600万円で、共同相続人がA、Bという2人の子であれば、A、Bの法定相続分はそれぞれ2分の1ですから、600万円×1/3×1/2=100万円で、共同相続人Aが払戻しを受けられる金額は、100万円となります。

また、普通預金が300万円、定期預金が150万円であれば、上記Aが払戻しを受けられる金額は、普通預金から50万円、定期預金から25万円という計算になります。払戻可能額は、預金の契約単位ごと、つまり、普通預金であれば口座ごと、定期預金であれば明細1本ごとに計算するというのがポイントです。

払戻可能な額は、相続開始時を基準として計算します。つまり、被相続人の死亡時点で普通預金が300万円であれば、その後、誰かがATMなどで払戻しを受け、預金額が減少したとしても、共同相続人は、300万円を基準として計算した金額の仮払いを受けることができます。

もっとも、仮払いの請求を受けた時点で預貯金が存在しなければ、仮払いに応じる必要はありません。

2.3. 仮払い可能な金額は金融機関ごとに限度額がある

仮払い制度に基づいて払戻しを受けられる金額は、「預貯金債権の債務者ごと」、つまり、金融機関ごとに、150万円が限度額とされています(改正民法909条の2前段、民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令)。

例えば、P銀行に預金残高が1200万円ある場合、それに3分の1を乗じた金額は400万円であり、法定相続分が2分の1であれば200万円を請求できそうですが、上記の上限があるため、P銀行からは、150万円の払戻ししか受けることができません。

他方で、この150万円という限度額は、金融機関ごとの限度額であるため、別のQ銀行にも預金があれば、そちらからも払戻しを受けることが可能です。

なお、この金額は、元本と利息をあわせた上限額と説明されています。つまり、150万円プラス利息の払戻しを受けられるわけではなく、利息も含めて150万円ちょうどまでが、仮払い可能な金額です。

この限度額は、金融機関ごとの限度額ですので、複数の金融機関に預貯金が存在する場合には、それぞれの金融機関において、150万円まで仮払いを受けることができます。

2.4. 仮払いの効果

民法909条の2に基づいて計算された金額の範囲内で払戻しが行われた場合には、当該払戻しは法律に基づいて行われたものであるため、有効な弁済として取り扱われます。

相続人の間では、仮払いを受けた当該共同相続人が、遺産の一部分割により取得したものとみなされ、後で清算されます(改正民法909条の2後段)。

2.5. 限度額を超える払戻しをした場合

民法909条の2に基づく仮払いとして取り扱われるのは、同条に基づいて計算された払戻可能金額の範囲内で仮払いが行われた場合、つまり、「預貯金債権の額×1/3×法定相続分」かつ「合計150万円」以内で払戻しが行われた場合です。

これを超過する金額を払い戻した場合は、仮払い制度に基づく弁済ではないため、便宜払いと同様の取扱いになるものと解されます。

3. 施行日と経過措置

仮払い制度の施行日は、改正相続法の原則的な施行日である、2019年7月1日です。

仮払い制度は、施行日前に開始した相続に関して、施行日以後に預貯金債権が行使される場合にも、適用されます(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律附則5条)。

つまり、2019年6月30日以前に亡くなった被相続人の預貯金債権に関しても、2019年7月1日以降であれば、仮払い制度を利用することができます。

4. 金融機関の実務対応におけるポイントと留意点

以下では、仮払い制度に関する金融機関の実務対応上のポイントと留意点について、解説します。

4.1. 満期前の定期預金についての払戻し

被相続人の預貯金債権が複数ある場合に、どの債権について仮払いを受けるかは、基本的に預貯金者が選択することができます。

ただ、定期預金について、契約(約款)上、金融機関が支払を拒絶できるのであれば、仮に定期預金の払戻請求をしてきた場合でも、これに応じないことは可能です。仮払いの制度は、預貯金者に払戻請求する権利がないときにまで払戻しを強制するものではないためです。

4.2.法定相続分の計算

仮払い可能額を計算するために、法定相続分を確認する必要があるため、仮払いの請求があった場合には、相続人の範囲の確認が必要となります。

金融機関としては、通常の相続手続と同様に、戸籍謄本や法定相続情報一覧図などによって、被相続人の死亡の事実と、相続人の範囲を確認します。

「法定相続分」と書きましたが、正確には、「第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分」を指します。

民法902条(遺言による相続分の指定)や903条(特別受益者の相続分)は参照されていないので、相続分の指定などは無視して、共同相続人の構成から、形式的に、法定相続分を計算します。

4.3. 仮払いした金額の管理

仮払いについては限度額が定められているため、金融機関は、いつ、誰に、いくら払い戻したかを、管理できるようにする必要があります。

前述したとおり、限度額を超過した払戻しは、909条の2による払戻しとしては有効ではありません。そのため、いわゆる便宜払いと同様に、払戻しの有効性は、民法478条(債権者の準占有者に対する弁済)の問題として解決されることになると考えられます。

なお、仮払い制度は、金融機関が行っている便宜払い制度と趣旨が重複するため、金融機関としては、既存の便宜払い制度との関係を検討する必要があります。

4.4. 預貯金債権が遺贈や「相続させる」旨の遺言の対象となった場合

預貯金債権が、遺贈や、いわゆる「相続させる」旨の遺言(改正後の民法では「特定財産承継遺言」と呼ばれます)の対象となった場合には、その預貯金債権については遺産の範囲から外れることになります。

仮払いは、「遺産に属する預貯金債権」について行われるものであるため、遺贈や「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)の対象となった預貯金債権については、仮払いの対象とはなりません。

ただし、改正後の民法では、遺贈・「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)ともに、対抗要件を具備しなければ、その効力を第三者に対して主張することができません。ここでいう「第三者」には、預貯金債権の債務者である金融機関も含まれます。

対抗要件の具備の方法は法律で定められています。したがって、仮に遺贈や特定財産承継遺言が実際に行われていたとしても、その対抗要件の具備がなされる前に行われた仮払いが無効となることはありません。

4.5. 相続開始後にATMでの引き出し等があった場合

立法担当者の解説によれば、共同相続人の1人が被相続人名義のキャッシュカードでATMから預金を引き出した場合などは、金融機関が、当該払戻しが909条の2に基づくものかを判断し得ないため、同条の規定は適用されないものと考えられる、としています。

この考え方に従えば、金融機関としては、かかる引き出しによる預金の減少は考慮せずに、相続開始時点の預金残高から仮払い可能額を計算して、仮払いの請求に対応すればよいこととなります。

もちろん、預金の引き出しの結果、残高が残っていなければ、仮払いに応じる必要はありません。

4.6. 仮払いに係る請求権の譲渡・差押え

仮払い制度は、大法廷決定以降、単独で預貯金債権を行使できなくなったことによって共同相続人に類型的に生じうる不都合(相続開始後の資金需要)を解消するための制度です。

そのため、立法担当者は、共同相続人がもつ預貯金債権の準共有持分の譲渡を受け、または差押えをした第三者が、当該共同相続人に代わって預貯金債権の仮払いを請求することはできないという見解を示しています。

5. お得な改正相続法対応プラン

2019年7月1日の改正法施行に向けて、各金融機関様においては、マニュアル類の見直し等が行われているかと思います。

当事務所では、金融機関様向けに、改正相続法対応に関するアドバイス、マニュアル類のチェック等のサービスをご提供するための、お得なプランをご用意しております。

プラン詳細

  • 料金:50,000円(税別)
  • 合計4時間まで、面談、メール、スカイプなどでご相談いただけます。
  • ご利用可能期間は2020年7月末日までといたします。
  • 改正相続法に関わるご相談であれば、マニュアル類のチェック、個別案件に関するご相談など、ご自由にお使いいただけます。
  • 4時間を超える作業についても、ご要望に応じて柔軟に対応いたしまのすので、お気軽にご相談ください。

6. 改正相続法対応セミナー

当事務所では、改正相続法の内容と、金融機関が留意すべき点についてお伝えするセミナーも受け付けております。

セミナー講師は、改正相続法に関する金融機関向け書籍の編集・執筆やセミナー実績のある弁護士が担当いたします。

法務担当者、営業店の責任者の皆さま向けの研修などに、ご活用をご検討ください。

セミナー費用詳細

  • 料金:2時間で100,000円(税別)~
  • 地方出張などもお請けいたします。

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